レイゼリアにちょっと似ている
とりあえず良さげな料理を見つけてはペーチャさんに取ってもらって美味しくいただく。
固い表情だったペーチャも徐々に笑うようになってきた気がする。
「このお肉美味しい。これならリネも食べられるんじゃない?」
「ん…そうですね。リネあーん」
切り分けられたステーキの中から一番大きい一切れをフォークに刺してリネに食べさせてあげると嬉しそうに尻尾を左右に振り回す。
「ふふっ可愛い…私のもあげるよ」
ペーチャさんもリネにお肉を分けてくれて、リネが喜んでお肉をぱくりと頬張る。
そんな光景を暖かい目で眺める、あまり食事をしていない師匠にも柔らかそうなところを選んでフォークに刺して差し出す。
「どうぞ!」
「ん?あーむ…うんおいひぃ」
受け取ってくれないかなとも思ったけど、すぐに食べてくれて口元を手で隠して微笑んでくれる。
フィシェルさんは難しい顔でゼリー状のものを食べている。レシピを把握しようとしているのかもしれない。
何か会場がざわざわとし出した気がすると、視線が一ヶ所に集まっている気がしてみんなが見ている先を見つめると、レイゼリアさんが王子様と共に歩いてくる。
庭園に咲くロークレルの花に合わせた黄色と白色のドレスに身を包み、王子様にエスコートされながら会場の奥に用意されていた席の前に立つ。
「皆様、今日はお越しいただきありがとうございます。ご用意したお食事は楽しんでいただいておられますか?」
会場となる庭園にレイゼリアさんの声が響き渡る。魔法だろうか。
「どうか引き続き、お食事とご歓談をお楽しみください。そしてお疲れになった時はこの庭園の景色を眺め心を癒していただきたく思います」
レイゼリアさんがお辞儀をするとぱちぱちと拍手が鳴り響いて、私も拍手をする。
そしてレイゼリアさんと王子様が席に座ると、人だかりがすぐに出来て二人の姿は見えなくなってしまう。
「しばらくは無理そうね」
「そうですね。近づくのも大変そう」
「うん…せっかく来たのに…」
「大丈夫よ。最悪夜にお邪魔すればいいし」
「まだまだ喰いまくらねーと」
「既に一番食べてると思うけど」
「まだまだだろ」
フィシェルさんが私とペーチャさんの頭をぽんぽんとする。
「もう大丈夫そうだなペーチャ。ウチらはあれの相手から逃げられなさそう」
フィシェルさんがまた親指で背後を指差すその向こうからガタイのいい男性達がこちらに視線を送ってきている。
「流石、賢者の杖。モテモテですね」
「あながち間違いじゃないけど、あいつらも軍の関係者よ。さっきの人とは違って話を聞きたいんでしょうけど」
「ペーチャとリネは大丈夫かもしんねーけどナズナは一緒にいると巻き込まれるぜ多分」
「そうね。質問攻めにされるかも」
「もしかして師匠はこうなることが?」
「そりゃあね。フィシェルもわかってたから急いで食べてたんでしょ?」
「いや全然?」
「あっそう…とりあえず三人で回ってなさい」
呆れた様子の師匠としれっとした感じのフィシェルさんが堂々と男性達の方に歩いていき、じろじろ見てんじゃねーよとフィシェルさんの罵声が聞こえる。
「フィシェルさんってすごい人だよね…年が近いとは思えないよ」
「王子様にもあのままなので誰に対してもあのままです」
「流石というかなんというか…あと言いにくいんだけどお手洗いどこかな?」
ペーチャさんが俯いてそっと私の耳元で呟くけど、私も場所はわからない。
辺りを急いで見渡し、メイド服の人に駆け寄る。
「どうかなさいましたか?」
子供だからかすぐに向こうから声をかけてくれた。
「お手洗いに行きたい方がいるんです。案内をお願い出来ますか?」
「もちろんですよ」
「ありがとうございます。こっちです」
メイドさんを連れてリネとペーチャさんの元に戻るペーチャさんが顔を上げて不安げな表情を見せる。
「こちらの女性です」
「どうぞお客様、こちらへ」
「ありがとうございます。ナズナは大丈夫?」
「今のところは。それとみんないなくなると師匠とフィシェルさんが探すかもしれないので。リネ、ペーチャさんについていってあげて」
リネが子犬大に縮んでペーチャさんの胸に飛び上がるとペーチャさんがぎゅっとリネを抱き止める。
「ではこちらへ」
「はい…ナズナ待っててね」
「はい。待ってます」
ペーチャさんの背中を見送り、会場を見渡す。
師匠とフィシェルさんがどこに行ってしまったかよくわからないけど、ペーチャさんにリネをつけておいたから向こうから見つけてくれるはずだ。
とりあえず飲み物でももらおうかなと目に入ったウェイターに声をかける。
「ジュースをいただいてもいいですか?」
「リンゴとブブのジュースがございますがどちらになさいますか?」
「ブブのジュースで」
「どうぞこちらです」
ウェイターが掴んだグラスが一瞬霜に包まれて私に差し出され、受け取った指先が手袋越しでもわかるほど冷たい。
「ありがとうございます」
「それでは引き続きお楽しみください」
颯爽と去っていくウェイターを眺めながらジュースを飲む。冷たくて美味しい。
会場から少し離れて、生垣に咲くロークレルの花を眺める。
黄色と白のグラデーションのある八つの花弁がとても綺麗で、王妃様のお部屋で嗅いだ上品な甘い香りが漂ってくる。
「花好きなの?」
声の方へ振り返ると、私はよりも頭一つ大きい男の子が立っている。
「そうですね。どちらかと言えば」
「ふーん」
何のようなのだろう。艶やかな赤髪と青い瞳がレイゼリアを思い起こす風貌で赤いジャケットに黒い蝶ネクタイをしている。
とりあえず気にしないで花を見ながらジュースを飲みきるけど、まだすぐ後ろにいる。
「何かようでしょうか?」
「お前どこの子だ?」
元々そういう顔なのか、私が何かしたのか、不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。
「賢者の城の子です」
「賢者?絵本に出てくる奴だろそれ」
「エルフなので今もお元気ですよ?」
「ふーん」
何なんだろうこの子。
「あなたはどこの子ですか?」
「シュリ領の領主の長男だ」
「そうですか。それでは」
会場の方に戻ろうと横を通ろうとしたところ、男の子が私の腕を掴んできて仕方なく立ち止まってあげる。
「マナーには疎いですけど領主の息子さんは人の腕を掴んでもかまわないのですか?」
「子供同士ならいいだろこのくらい」
「私に話でもあるんですか?」
「その黒い髪に茶色い目、トコヨから来たんだろ?」
「いいえ生まれた場所の話ならアルセルです」
「嘘つくなよ」
「トコヨの話がしたかったんですか?」
「勇者と同じ刀で戦うって有名だろ?」
「刀が好きなんですか?」
「うん!おこづかいで集めてるんだぜ」
私なら刀を持っているかもと思ったんだろうか。詳しそうだし勇者の刀を見せるのは不味そう。短刀なら見せてあげてもいいかな。
「あげないし売らないですけど短刀なら持ってますよ」
「ほんとか!見たい!見せてください!」
急に年相応な幼稚なはしゃぎ方に面を食らいつつ、青い鞄から短刀を取り出す。
「短刀?短くね?」
本当に刀に詳しいみたいだ。
「私に合わせて作ってくれたので」
「特注ってこと?こんな花柄が彫られた白鞘も初めて見た!」
「トコヨの方の作ったものではないので」
「へぇ…抜いていい?」
「気をつけてくださいね」
「うん!そこは任せてよ」
なんだか突然の無邪気な姿に毒気が抜かれる。
男の子は真剣どころか穴が空きそうなくらいの熱い眼差しで刀身を舐め回すように見て、しばらくして深呼吸しながら刀身を鞘に納める。
口にはしないけどちょっと興奮しているような気がしてちょっと怖い。




