アリシアさんとお買い物
楽しく仲良く三人で街を歩いていると、なんだか視線を感じる。
メイド服は目立っているだろうか。
「この街は主様が作ったので、長生きな魔族の方は私を見て緊張しているんですよ。視察とかではないと前にもお話したことがあるのですが、私に何かあれば街を消されるのではと不安みたいです」
「なるほどです」
「さあここですよ」
アリシアさんがそう言って店の扉を開けて待ってくれて早足で中に入ると、高そうな鞄が棚に並んでいる。革に毛皮に絹のような物までいろいろあって、カウンターの奥は工房になっているのかガコッガコと何かの音が聞こえてくる。
「鞄を買いに?」
「受け取りに来たんです。ロージさん、いらっしゃいますか?」
「はいはーい」
アリシアさんがカウンターの奥に声をかけると奥から男性の声が聞こえて物音が止み、代わりに足音が近づいてきて、もこもこの頭の魔族の男性がカウンターに立つ。
「アリシアさん!注文の品は出来てるよ。今持ってくる」
店主が奥に戻っていき、私はアリシアさんのスカートの裾を引く。
「何か注文していたんですか?」
「そうですよ」
「ちゃんとご注文通りになっているか確認をお願いします」
店主が大人一人は隠れられそうな大きなチェストを運んできて、カウンターから出て、私達の前に下ろす。
チェストの上には青い小さな長方形で細いベルト付きの鞄が乗っている。
「もしかして、そちらの子の?」
「はい。ナズナさん、手に取って確かめてみてください。リネさんはこちらへ」
アリシアさんがそう言って腕を広げるとリネが私の腕を抜け出てアリシアさんの方へ飛び移る。
私は恐る恐る青い小さな鞄を手に取ってみる。革のような丈夫そうな素材で出来ていて、しっかりとした作りで間違えて踏んでしまっても平気そう。
二つのベルトを外して鞄を開くと中は真っ暗で見えるはずの底が見えない。
「手を入れて、中から物を取ってみてください」
店主に言われて手袋した手を入れると固い物に指先がぶつかって、その棒のような形を掴んで引き抜くと、見た目には到底入り切らないような酒瓶が出てくる。
「これは…」
「魔法鞄だよ。その小さな鞄の中はこのチェストに繋がっているんだ。瓶を仕舞ってごらん」
言われるまま太さが入るようには見えない瓶を鞄に押しつけると、瓶が歪んで縮みながら中に入っていく。
「私でも使える…」
「ミトンの中にしている手袋のおかげですよ。素手では流石に駄目かと思います」
「すごい…」
「ベルトを長くすれば肩掛けに、短くすれば腰に、魔力遮断加工も注文通りに」
そう言いながらベルトの長さを調整して私の左肩から右の腰に合わせて掛けてくれる。
「うん。ずいぶん小さい鞄の注文だと思ったけど子供用なら納得」
「本当にもらってもいいんですか?」
「もちろんですよ。主様が帽子の代わりにと。よく似合っています」
アリシアさんが私の頭に手を置いて微笑む。
「自分で作ろうともしていたのですが帽子よりも複雑で、信頼出来る職人の方にお願いすることにしたと言っていました」
「そうですか…」
嬉しい。すごく嬉しくて胸がきゅっとなって、笑みが溢れる。
私は大師匠にアリシアさんに、みんなに何をどう返したらいいんだろう。
「気に入ってくれたみたいで僕も嬉しいよ。アリシアさんにはこちらを」
「はい。確かに」
アリシアさんが何か紙を受け取るとリネを私に返して手で大きな円を描いてチェストを空間に開けた穴に入れる。
あれ?チェストの中身は?
「さっきの瓶は…」
「あーいいのいいのあれはおまけってことで。妻の実家からたくさんワインが送られてくるんだよ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「では次のお店に参りましょう」
「はい」
「またどうぞー修理もやってるからー」
「わかりました」
街を歩きながら、アリシアさんを仰ぎ見る。
「あの…もしかして私の買い物何でしょうか?」
「バレてしまいましたか?隠していたわけではないですけどね。エリュさんからいろいろ買ってあげてくれと頼まれまして。食事会には貴族の方達もいらっしゃいますから最低限の身嗜みは必要です」
アリシアさんが私の左手を握って、私はリネを右手に抱く。
「特にこのミトンの中の手袋はしてはいられないですよ?」
「え…」
「食事会中は魔力を抑えておくか、ドレスに合った手袋じゃないといけません」
「思ったより大変そうです…」
「関係者以外の知らない方々も来るでしょうから正装じゃないとレイゼリアさんにご迷惑をかけてしまいます。そのために今度はこちらのお店です」
今度は服屋さんのようで、アリシアさんの顔を見てすぐに奥から平たい木箱を持ってきてくれる。
「アリシアさん、こちらを。試着はこちらでどうぞ」
「ありがとうございます。ナズナさんそちらで着けてみてください」
カウンター横の個室に通されて、店主が木箱から白い手袋を手渡してくれて、ミトンと手袋を脱いで着けてみる。
なんだかさらさらとした肌触りで手首辺りがフリルのようになっている。大きさもぴったりで、握ってみても障りない。
「試しに鞄から瓶を取ってみてください」
そういうことなんだろうとは思いつつも恐る恐るベルトを外して手を入れると、何事もなく瓶を取り出して中に仕舞える。
「壊れてないです」
「よかったー。じゃあこちら領収書です」
「はい」
アリシアさんが領収書を受け取っている間に手袋を脱ぐと、店主さんが脱いだ手袋を預かって木箱に丁寧に仕舞い直してくれて、何か布も一緒に入れている。
「おまけのハンカチも入れておいたからね」
「ありがとうございます」
アリシアさんが木箱を穴の向こうに送って、私を見る。
「では最後のお店に参りましょう」
「またのお越しをー」
「ありがとうございました」
そして最後はなんだろうかと考えながら連れて来られたのは、まさかのパン屋さんだった。
香ばしいくて甘い麦の香りが漂う店内の棚には様々な形のパンが並んでいる。
「お昼ご飯に食べて帰りましょう。お好きなものを好きなだけどうぞ」
アリシアさんがトレーとトングを持って微笑む。
「食べきれなくても持って帰ればいいですから」
「ありがとうございます!リネどれにしよっか?」
私は三角のパンと塩漬け肉とチーズのサンドイッチにもこもこに膨らんだパンを選び、リネには鳥肉のサンドイッチと燻製肉が巻かれたパンと普通の丸いパンを選んで、リネには水を私にはジュースを買ってくれて、飲食用の窓際の席に座ると、アリシアさんはたくさん買ったパンの半分を穴に入れてからお茶を飲む。
そしてすぐにカップをテーブルを置くと両手を合わせる。
「まずはいただきますでしたね」
「はい、いただきます!」
私も両手を合わせて元気に挨拶をして、サンドイッチを食べつつ、リネにもサンドイッチを食べさせてあげる。
美味しい。なんだかアリシアさんが作ってくれるサンドイッチに似てる気がする。
アリシアさんはなんだか真剣にパンを咀嚼していて、気がつけば店内はお客さんで溢れていてなんだか正面の情報量が多い気がする。
三角のパンはクリームが詰まっていて、もこもこのパンはふわふわもちもちで結局三つとも食べてしまった。ジュースも甘酸っぱくて美味しい。リネもぺろりと食べてしまって美味しかったみたいだ。
「ごちそうさまでした。アリシアさんの作ってくれるパンに似ていて美味しかったです」
私の言葉に、難しい顔でパンを食べていたアリシアさんが驚いた表情をしてからまた優しく微笑む。
「そうですか…研究の甲斐がありました」
アリシアさんがそう言って瞳を潤ませながらサンドイッチを食べるのを、私はどうしたらいいかわからずにただ見守るしかなかった。




