机の上から紙が消えない
報告書に報告書に大量の報告書に囲まれて私は天井を仰ぐ。
埃もシミも一つも無く、真っ白な天井だ。いつもと変わらない。
蜘蛛の件、牧場の魔物の件、東の村の魔物の件、北の山で目撃されている大型の魔物の件、そして私を狙った暗殺者、至る所にカイラルの影がちらついている。
魔法ギルドに正式に所属している組織のようだけど、表向きなものだろう。活発な活動も無ければ、然したる研究報告もしていないようだ。
一応リーダーの名前はローンドネルド·カンガールバークというようだけど、お飾りか偽名の可能性のある。
「お茶をお淹れしました」
「ありがとう…レーシャ…」
レーシャの声で正面を向き直して姿勢を整えて座り直してカップのお茶を口に含む。
今日も美味しい。落ち着いてきた気がする。
「陛下よりお食事会は一月後に正式に決定したと連絡がありました」
「わかったわ。招待状を急いで用意しないとね」
「エリュ様、ナズナ様、フィシェル様、それとリネ様も?」
「そうね。リネ様にも一応書いておけば動物がーとか騒ぎにならなくていいわね。それとお医者様方にも招待状を出そうと思っているんだけどどう?」
「いい考えだと思いますよ」
「ありがとう。さて…失礼にならないように今日中に招待状を送らないと」
「エリュ様には既に報告をしているんですよね?」
「ええ、ナズナのことをお兄様に話す機会を作るとはね。日程はまだ知らないし、それと話をするのは食事会のあとになるし」
紙とペンを出して同じ内容の招待状をすらすらと四枚書いて、一枚ずつ封筒に入れてそれぞれに師匠、ナズナ、リネ様、フィシェルさんの名前を書いて、広げたスクロールの上に重ねて置き魔石から魔力を通してすぐに賢者の城に送ると、今回もすぐに水晶玉を送ってくれる。
「レイゼリア、聞こえるか?」
「はい。ガンドルヴァルガ様聞こえます」
「リネにまでとは何の招待状なのか聞きたくてな」
「アルセルの功労者の方々を集めてお食事会をと思いまして、リネ様にも招待状があった方が何かと都合がいいと思いまして」
「なるほど。そうだ、ちょっと待っててもらえるか?」
「はい。大丈夫です」
「ありがとう。では少し待っててくれ」
待っている間にお茶の残りを飲みきり、空のカップをレーシャが下げてくれて部屋を出たところでまた音が聞こえ始める。
「あーあー…レイゼリアさんですか?」
「そうよナズナ。久しぶり」
「お久しぶりです…」
ちょっと緊張してそうだけど元気そうだ。
「招待状ありがとうございます」
「いいのよ。そうだ、卵はどう?間に合った?」
「はい。お陰様で孵るところに立ち会えました」
「それはよかった。ナズナはまたどこかにリネ様とお仕事?」
「いいえ…しばらくはお休みです…」
露骨に声色が下がってしまった。何かまずかっただろうか。
「両手の指にひびが入りまして…」
「ひび?それは大変ね…」
「まだ中を見れていないんですけど、食事会は…」
「一月後よ。流石に治ってると思うけど、無理はしないでね」
「はい…あっ一つご相談があるんですけど」
「どうしたの?」
「ペーチャさんも一緒に連れていってもいいですか?」
「ペーチャを?もちろん!二、三人の同行者は居ても大丈夫よ」
「よかったです。師匠にも伝えておきます」
「ええ。楽しみにしてる」
「せっかくの機会だ。何か聞きたいことはあるか?」
「そうですね…ガンドルヴァルガ様は、ローンドネルド·カンガールバークという人物について何かご存知でしょうか?」
「カイラルのリーダーということになっている奴か。名のある魔法使いならと思ったのだろうが、残念じゃが知らん。わしの家族に手を出した奴だからな。こっちもいろいろ調べてはいるが、まだまだだ」
流石の賢者様も噂以上のことはまだわからないみたいだ。
「各地で非人道的な実験を繰り返しているのも本拠地を隠すためだろう。資料を押さえられれば或いは…」
「そうですね…こちらでも何かわかることがあればご報告いたします」
「助かる。こちらからもカイラルに関する事は惜しみ無く提供しよう」
賢者様も既に許す気はないみたいだ。
部屋に戻ってきたレーシャが、そろそろ約束のお時間ですとそっと耳打ちをしてくる。
「申し訳ございませんがそろそろ時間のようです」
「そうか。ほらナズナ…」
「レイゼリアさん、また」
「うんまたね。頑張ってお米も用意しておくから楽しみにしててね」
「はい!」
「ではな。レイゼリア」
光を失った水晶玉を送り返し、スクロールを巻き戻して引き出しにしまって、席を立つ。
今日は南側諸国からの使節団が来ることになっていて、私も謁見に同席することになっている。
挨拶程度で込み入った話はそれぞれ担当の側近達が進めるだろうに、なんで顔を出さないといけないのやら。
まあ南側で大きな影響力を持つラスカーノの第二王子が使節団を率いてるというからだろうけど、まさか結婚相手にとかお父様が考えていたらどうしよう。
そういう政略結婚になる覚悟はいつでも出来ているつもりでも、やっぱりいざ他国の王子がくるとなるとあることないこと考えて不安になってきてしまう。
「行きましょうかレーシャ」
「かしこまりました」
私はレーシャと一緒に部屋を出て、重たい足取りで謁見の間に向かった。
一切無い話で不安になるのもおかしい。さっさと済ませて書類を片付けないと。




