お部屋でおしゃべり
ナズナとリネ様と別れ、レーシャと護衛の兵士二人を連れて待ち合わせ場所の村外れの小さな共同墓地に向かう。
「レイゼリア様、ナズナ様に見せないようにしているのはわざとですか?」
「…なんのことかしら」
流石レーシャ。勘がいい。いや私が露骨過ぎた可能性もあるけど。
ナズナ本人にも怪しまれているんだろうか。
「ご遺族と接触しないようにしている気がして…」
「ナズナの見た目では危ない…あまりに幼すぎる」
「幼い?」
「レーシャ、もしも家族が拐われて傭兵ギルドに救助を依頼した数日後に、小さな子供が家族の遺体を連れ帰って来たらどう思う?」
「それは…」
後ろを歩くレーシャの顔を見なくても、どんな顔かわかるくらいにレーシャが言い淀む。
「やり場のない感情をぶつけられてしまうのが怖いの。村人達にはナズナの実力は知る由もないからね」
「私が軽率でした。でもナズナ様はいつかきっと…」
「そういう事に直面するでしょうね。でもアルセルではそんな目にあってほしくないから…まぁほとんど私のわがままよ」
「お友達には自分のおうちは居心地の良いところであってほしいですもんね。レイゼリア様のようにあまり外に出られないと特に」
「そういうこと。もし、レイゼリアさんに会いたいけどアルセルはちょっとなぁとか言われたら寝込むから」
「ふふふ…確かにそれは嫌ですね」
レーシャが納得してくれたところで、森の一部が拓かれた共同墓地に着く。
墓地には既に村長のホークさんや遺族の方々が集まっていて、兵士達も準備を終えているみたいだ。
「お越しいただき感謝いたしますレイゼリア様。それでは花を…」
遺族達がそれぞれの家族が眠る墓穴に花を供えていき、幾人かのすすり泣く声が聞こえる。
アルセルには国教が無く、一部の大きな都市を除いて昔ながらの土葬が一般的だ。
戦時では土地が足りなくなり疫病が流行って火葬をしていたそうだけど、故人にとってどちらがいいのかはよくわからない。統治者目線では火葬がいいだろうけど。
「レイゼリア様、こちらを…」
「ええ…」
ホークさんから花束を受け取り、一輪ずつ花を供えていく。
墓穴には顔もわからない遺体の眠るものと遺品だけが入れられたものがあり、これもまたどちらがましなのだろうと簡単には決められない疑問となって心に棘が刺さる。
まあ私はどんな死体になってもおそらく魔法で誤魔化されるのだろうけど。戦争で殺されたりしない限りは。
私が最後の一輪を墓穴に供えると、ホークさんが手に持った鐘を鳴らす。
カランカランと森に鐘の音が響く中、兵士達と村の男達が墓穴に掘り返した土を戻していく。
墓穴を埋め終わったところで鐘の音も止まり、すすり泣く声だけが残る。
私はそっと歩き出し、土の上に種を蒔いていく。一つ一つ、新しい墓に種を蒔き小さな小さな花畑を作っていく。
私にしてあげられるのはこれだけだ。
「ありがとうございました。あとはそっとしておいてあげましょう」
「そうですね。私達は駐屯所に戻ります」
「わかりました。どうかお気をつけて」
兵士達を引き連れて駐屯所に戻ると、レーシャは厨房に向かい、兵士達も宿舎に戻っていく。
私はフリルの案内でナズナの部屋だ。
ーーーーーーーーー
「はい、どなたで…レイゼリアさん?」
扉を叩く音に返事をすると、ゆっくりと開いた扉からレイゼリアさんが顔を出して中に入ってきて、扉が閉じる。
「なにしてたの?」
「なにも…ただリネとごろごろと。レイゼリアさんは?」
「実はお葬式に出てたの。村長さんに頼まれてね」
「お葬式…」
全然知らなかった。
私は膝の上で寝ているリネをそっと撫でる。
「…出たかった?」
「いえ…よくわからないです」
困ってしまってとりあえず笑っておく。
レイゼリアさんも笑って私の腰掛けるベッドの隣に座る。
「残された家族と友人達のためのものだからね。部外者は少ない方がいい、私は部外者だけどこの国のお姫様だから、一応ね。一人でも最後にお姫様に見送られるなんてーって喜んでくれた人がいたらいいけど」
なんとなくレイゼリアさんに寄りかかって、ぴたっとくっつく。
「きっとみんな嬉しかったはずです」
「そうだと嬉しいけど」
レイゼリアさんが腕を回して私の頭を撫でる。
「さらさらね」
「特別何かしているわけではないんですけどね」
「そうなの?」
「普通に洗ってるだけのはずですよ。アリシアさんのくれる石鹸で普通に」
「それでこのつやつやさらさら…」
「そういえば…私ってどんな匂いがしますか?臭くないですか?」
自分からくっついておいて我ながら酷い質問だ。
「匂い?」
レイゼリアさんが私の頭に鼻をつけて匂いを嗅ぐ。
ちょっとくすぐったい。
「赤ちゃんみたいないい匂い…」
レイゼリアさんがそう呟いて私の頭の匂いを嗅ぎ続ける。
師匠とリネに頼んで匂い袋をまた作ってもらおうかな。
「別に普通…いやお乳を飲んでる赤ちゃんじゃないのに赤ちゃんの匂いがするのも変ね」
「そう言われると確かに…よくミルクは飲みますけど」
「とりあえず臭くないから平気よ」
「それならよかったです」
「私はどんな匂い?」
「レイゼリアさんの匂い…爽やかな花のような……嗅いでいて飽きない匂い?」
「臭くなかったならそれでいいわ」
「香水の香りですか?」
「コースイ?」
するっと出てきたけど勇者の知識だったみたいだ。
「たまに勇者の記憶が出ちゃうんです…」
「勇者の?じゃあ五百年前のもの?」
「そうなるんでしょうか…強い香りを着けた水を身体に振りかけて、匂いを着けるみたいな…」
「そんなものがあったのね」
なんだか気まずくて会話が途切れてしまう。
「明日でお別れか…」
「遊べたらよかったんですけどね」
「そうね…そうだ。近々、お兄様にもナズナのことを話そうと思っているの」
「そうなんですか?」
「ええ、騎兵の魔物の件とナズナが金色の紐を受け取ったことを考えて、今後のためにね」
「金色の紐?」
「それを受け取って仕事をすれば、森の外への露出も増えるだろうし、いつか気づく人も出てくると思うからね」
「リネと行ける城の近くの依頼を受ける予定だったので、そこまで深く考えていませんでした…」
「今回は急だっただろうからナズナは何も悪くない」
こんこんと扉が叩かれ、間を空けて声が聞こえる。
「お食事のご用意が出来たので食堂にお越しくださいとレーシャさんからの伝言です」
「ありがとうフリル、今いくわ。ナズナもいきましょ?」
「はい。リネ起きて…ご飯の時間だよ」
もぞもぞして起きるリネを抱いて立ち上がり、レイゼリアさんと部屋を出てフリルさんに連れられて食堂に向かい、食事の置かれたテーブルに着くとレーシャさんが赤いものが注がれたコップをくれて、レイゼリアさんにも瓶から赤いものをコップに注ぎ入れる。
「これは葡萄酒です。ナズナ様の物は煮切っておいたので安心してください」
「お葬式の後は昔から食前に葡萄酒を飲む決まりなの。死者に惹かれないようにする魔除けみたいな感じ」
「そうなんですか…いただきます」
ぐいっとコップを傾けて恐る恐るワインを口の中に流し込む。
少し熱かったけど倒れるようなことはなさそうでよかった。
「少し不安でしたけど大丈夫だったみたいですね」
「はい。ありがとうございますレーシャさん」
「いいえ。さあどうぞ召し上がってください」
「はい」
「いただくわ」
そうして静かな夕食を過ごし、また部屋に戻ってベッドに寝転がる。
お葬式後の魔除けといわれると、ついつい不謹慎な気がしてなんだか話せなかった。
これも勇者の記憶からくる気持ちだったんだろうか。




