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次から次へ音も無く

 リネの背に腹這いにしがみついて天井に開いた小さな穴を進んでいく。

 きっと前から蜘蛛が来たらすれ違えない。挟み撃ちになる可能性まで考えてなかったから、そうならないことを祈るばかりだ。

 まるで蟻の巣のような細く枝分かれする道をリネは迷うことなく道を選んで進んでいき、広い部屋のような空間に降り立つ。

 蜘蛛の姿は無く、溶けて冷え固まった蝋の塊のような丸いものがいくつも地面に落ちている。

 これが魔石の原石なんだろうか。

 角灯を掲げながらゆっくりと近づくと半透明で乳白色でより一層蝋のように見える。

 そして中に何か入ってる?

 右手の刀で中央の何かを避けて丸い蝋の側面を真っ直ぐ斬り落とす。

 すると側面に回り込む暇もなく、どろりと中身が溢れ出て、べチャリと音を立てて中身が地面を滑る。

 蜘蛛の卵?出てきたのは蜘蛛の赤ちゃん?

 爛れた赤黒くい皮膚に手足を折り曲げて丸まる人型。

 心のどこかでは薄々気づいていた。

 まるで胎児のような肉の塊。

 リネはとても利口で意味の無い場所に案内するはずがない。

 剥き出しの目玉は虚ろでぴくりとも動かない。

 はじめからそうだとほんとは思っていたから、心は深く静かに淀み無く、蜘蛛に対する怒りもない。

 ただ運が悪かったのだと虚しさが溢れる。


「リネ、まだ無事な人はわかる?」


 リネが首を横に振る。

 獲物を仮死状態にするとか確か言っていたから、わからないのかもしれない。


「蜘蛛がいないうちに確かめよう」


 まだ無事な人がいないかすべて斬って中身を確かめる。

 二十二人の遺体と十一頭の動物の遺体、空だったものが五つ、そして衣服が無くなった男性四人と女性が一人。

 おそらく最後に捕らえれたレイゼリアさんの護衛の人達だ。

 息は無く、肌も赤く腫れていて痛々しい。

 元の大きさのリネなら五人まとめて運べるだろうけど、そうすると穴を通れなくなってしまう。

 選ばなきゃ…命の順番を…

 女性が優先?若い人が優先?それとも年上を優先?

 いや穴を抜けやすいように体格で決めよう。

 金髪の女性に青いケープをどうにか着せてあげて、全身に魔力を回してリネの背に乗せ、茶髪の男性も乗せる。


「よしリネ、まずは二人を外に。蜘蛛がいないうちに早く」


 首を縦に振ったリネが飛び上がって暗闇に消える。

 私は残った三人を一人ずつ寝かせた盾に乗せて端に寄せて寝かせておく。

 そしていつ蜘蛛が来てもいいように魔力は流したままに四つの鉄塊で周囲を警戒する。

 蜘蛛もリネも足音がない。

 先に静寂を破るのはどっち?

 暗闇から青い光が浮かび上がり、真っ直ぐに向かってくる。

 私はそれを鉄塊の一つで叩き潰し、次々に浮かび上がる青い光を四つの鉄塊で何度も何度も繰り返し叩き潰し続ける。

 向かってくる蜘蛛を横に斬り払い、斬り上げ、振りかぶった刀で両断する。

 倒した三匹をよじ登って来た新たな三匹がこれまでとは違った様子でお尻を高くして顎を大きく開くと、ビュッとどろりとした塊を放つ。

 私はそれを四つの鉄塊を束ねた盾で防ぐけど、魔法じゃないそれは盾にまとわりついてへばりつく。

 仕方なく盾を消して、左りに飛んで避けてそのまま走り回る。


「こっちだ!」


 あまり大声を出して蜘蛛を呼び寄せたくないけど、三人から引き剥がさないと。

 四つの鉄塊で殴り飛ばし、叩き潰し、刀を振るって蜘蛛の中に飛び込む。


「捕まえてみろ!」


 音にどれだけ効果があるかわからないけど、とりあえずは四方八方から群がってきてくれている。

 飛んでくるようになった粘液を避けて、蜘蛛の頭を斬って、叩き潰して数を減らしていく。

 捕獲なんて考える暇の無いほどの数の蜘蛛が何処に潜んでいたのか、餌が足りなくて共食いし始めているなら、相当な数の蜘蛛がいる。

 空だったものが食べた後のものだとしたら、溶かさないと食べられないのだろうか。

 だとしたら共食いはどうやって?

 飛んできた粘液を盾で受け止め、四つに分けて粘液を纏った鉄塊を蜘蛛にぶつける。

 ジュシュっと焼けるような水が蒸発するような音がして蜘蛛の甲殻が溶けてのたうち回る。

 自分で出した物なのに不思議だ。

 私は急いで蜘蛛の死体の影に隠れて、鉄塊を高速回転させて粘液を振り撒き近くの蜘蛛に浴びせると、そこらじゅうでジュシュっと音がする。

 音が止んだところで死体の影から飛び出して、粘液を浴びて弱った蜘蛛に腰の紐に結んでおいた魔法薬を一匹に一瓶投げてぶつけて六匹の蜘蛛を眠らせる。

 そして残りを出し直した四つの鉄塊で叩き潰して刀で斬り伏せていく。

 頭が痛い。全身が軋むように痛む。

 背後から飛びかかって来た蜘蛛を盾で弾いて刀で袈裟斬りをしたのを最後に動く物がようやく見えなくなる。


「かかってこい!」


 動きはない。一度治まったみたいだ。

 とりあえず三人も他の遺体も無事なようだ。

 眠らせた六匹もとりあえず盾に乗せて端に運んでおき、流石に魔力を回すのを止めてその場にへたり込んでしまう。


「ごほっ…だれ、か、いる、のか…」

「はい!ここに!」


 急いで立ち上がり、左手の角灯を掲げると、一番年上らしき男性が震えている。


「大丈夫ですか?寒いですか?」


 角灯を側に置いてあげて、横に座る。


「こ、ども?」

「助けに来たんです。連れが戻って来たら外に運びますから」


 苦しそうに震えているけど、触っても大丈夫なのかわからない。


「寒いですか?」

「すこし…」

「ごめんなさい。暖められるようなものがなくて…あっとりあえずお水」


 腰の水筒を外して栓を抜き、飲み口をあてがいゆっくりと水筒を傾ける。

 ごくごくとゆっくりと五口くらい飲んだところで注ぐのを止める。


「あり、がと、う」

「いえ…」


 そっと手を握って放し、手袋が濡れたり溶けたりしないことを確かめて、そっと添い寝しておく。

 耳は地面につけて音に注意し、四つの鉄塊を旋回させて周囲を警戒する。


「あり、がとう、あたた、かい…から、だが、しびれ、ていて」

「仮死状態にする毒があるらしいのでそのせいかと」


 音というより微かな揺れのようなものを感じて飛び起き、角灯を掴んで掲げ、右手に刀を握る。

 わふっと元気な鳴き声が聞こえて、銀色の毛並みが暗闇から浮かび上がる。


「リネ!無事でよかった…」


 ぎゅっと抱き締めつつ怪我が無いことを確かめて、顔をわしゃわしゃする。


「リネ、早速で悪いけど次の人達をお願い」


 わふっと答えるリネに目覚めた男性を乗せようと屈むと男性の口元が動く。


「さい、ごで、いい…ぶ、かを、先に…」


 二人ずつしか運べないのは確かだし、一番体格のあるこの人は小さい私と一緒の方がいいかもしれない。


「わかりました」


 二人を先にリネの背に乗せてもう一度送り出し、私は男性を壁面に寄りかからせて上体を起こしてあげて、もう一度お水を飲ませてあげる。


「あり、がとう…すこし、らくに、なってきた…」

「よかったです。でもまだ全部倒したのかどうか…」

「この数を、一人で?」

「一応は…」

「おれたちは、ふいうちされて、このざまだ…」

「私もここに来る途中で不意討ちをされて、リネがいなかったらやられてました。来た方向から突然来るとは…」

「そうだな…」

「そうだ、お腹空いてますか?」


 腰の小袋からドライフルーツ握って取り出して手のひらに広げて男性に見えるように顔の前に手を出す。


「どれがいいですか?」

「すっぱいのが、あれば…」


 私は黄色の酸っぱい味の木の実を摘まんで口に運んであげる。


「ありが、とう…」

「いえ」


 私はブブの実らしきものを摘まんで口に運ぶ。

 暗くてブブの実じゃなかったみたいだけどこれも美味しい。

 ちゃんと酸っぱい味の木の実をあげれたのか不安になって黄色の木の実を今度は食べてみると、ちゃんと酸っぱくて一安心だ。

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