↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
372/470

作戦通りではないけど

 ゆっくりと鞄が開かれて、レイゼリアさんが驚いた顔をしたかと思ったら、すぐさま抱き上げられてぎゅっと抱き締められる。


「よかった…元気そうで…本当に、よかった」


 震えた声が耳に響いて、私もぎゅっと抱き締め返す。


「ご心配おかけしましたレイゼリアさん」

「お気持ちは痛いほどわかりますが、そろそろ」

「そうだったわね…」


 レーシャさんの声でレイゼリアさんが下ろしてくれて、周囲には兵士の方達がいたことに気がつく。

 ちょっと恥ずかしい。


「ナズナ、昨日の夜に賢者様から話は聞いてるわ」

「はい。行きは送ってくださるという話ですよね」

「ええ、帰りは飛んできてもらうことになるけどね。それと駐在所のみんなにこれを」


 レイゼリアさんから手紙を受け取って腰の紐にしっかり挟んでおく。


「心苦しいけど、ナズナが頼りよ。無茶だけはしないでね」

「はい。レイゼリアさんのためにがんばります」

「嬉しいけど、自分自身のために頑張るの。いい?」

「わかりました」


 言ってることが難しくて考えを巡らせるとレイゼリアさんに抱き上げられて鞄の中に寝かされる。


「ご馳走用意して待っているから、無事に帰ってきてね」

「はい。いってきます」


 にこっと笑うレイゼリアさんの姿を目に焼き付けたところで鞄が閉じられ、次に鞄が開かれると五人の兵士が私のことを見つめていた。


「子供?」

「魔族の方では?」

「生誕祭で見かけた子だわ」

「そういえばこの大きな変わった狼も」

「賢者の杖の方ですか?」

「正確には私は賢者の杖ではありません」


 上体を起こして袋からブーツを出して履いて鞄から出て立ち上がり、左腕に巻いておいた金色の紐を見せる。


「賢者のお城でお世話になっていて、お仕事を手伝っています」

「失礼します」


 兵士の一人が虫眼鏡のようなものを取り出して金色の紐を観察する。


「確認が取れました。疑ってしまい申し訳ありません」

「いいえ、この見た目で三角帽子もありませんから疑われても仕方ないです。早速ですが洞窟に案内していただいてもいいですか?」

「はっ!かしこまりました」

「鞄はお預かりしておきますね」

「ありがとうございます。こちらもご確認ください」


 女性の兵士の方が旅行鞄と手紙を預かってくれて男性の兵士の方が洞窟まで案内をしてくれ、村を抜け、森を抜け、洞窟の前まで連れていってくれる。

 私は早速腰から角灯を外して灯りを点けて左に持ち、右手に刀を握る。


「では行ってきます」

「どうかお気をつけて」

「はい。リネ行こう」


 洞窟の中を慎重に進んでいく。

 採掘の跡なのかぼこぼこの岩肌をしていてぶつかったり、転んだりしたら血だらけになりそう。


「リネ人の匂いはする?」


 首を縦に振ったリネが先行して真っ暗な洞窟を進んでいく。

 リネが立ち止まり、角灯を掲げて辺りを照らすとつるはしが地面に二つ落ちている。

 しかし鉱夫の姿はなく、争ったような様子もない。

 リネが私に身体を擦って前に歩いて振り返り、さらに洞窟の奥に進む。

 脇道には縄が張られていて、洞窟の中はくねくねとした一本道のようになっていてつるはしを見つけたきり、虫一匹見かけない。


「リネ蜘蛛の匂いとかしてる?あまりにも生き物の気配が無くて…」


 振り返ったリネが突然牙を剥き出しにして私に向かって飛びかかって来たかと思いきや、私を軽々と飛び越えて何かを捕らえて組伏せる。

 ガチガチと顎を鳴らしながら八つの鋭い針のような足をばたつかせる黒い蜘蛛。

 六つの宝石のような青く澄んだ綺麗な瞳に角灯の灯りが反射して、怪しくも煌々と輝いている。

 私は迷うことなく六つの青い目の中央に深く真っ直ぐ刀を突き刺し、針のような足がリネの身体を捉える前に、刀をぐっと捻り息の根を止める。


「っはぁ…ごめんね。ありがとうリネ」


 しかしリネの鼻が効かないということはそれだけ匂いが充満するほど蜘蛛の数がいるんだろうか。

 それとも魔法で匂いを消しているんだろうか。

 角灯を上に掲げると洞窟のような天井を這う黒い影がぞろぞろと向かってくる。

 いったい今までどこに?なぜ歩いてきた方向から?


「リネ、捕獲のことは一度忘れよう」


 わふっと吠えてリネが飛び上がっ、天井を這う蜘蛛を二匹押し潰し、天井を蹴って下に着地すると、蜘蛛が一気に降ってくる。

 私も四つの鉄塊で落ちてきた蜘蛛を叩き潰し、死体を越えてくる蜘蛛の足を斬り落として頭を串刺し、斬り上げて頭を両断し、四つの鉄塊で殴り飛ばして斬って突いてとどめを刺す。

 気がつけばもう蜘蛛の死体でリネの姿は見えず、十匹倒したのにまだまだ蜘蛛が近づいてくる。

 兵士の人達もきっとこの数にやられたんだ。


「リネ!一旦退避!」


 死体の山を蹴散らしてリネが駆けてきてくれて、リネが広げた翼を掴んでリネの背に乗り、左手を伸ばしてリネに角灯をくわえさせしっかりと両手で首の皮を掴むと、リネが速度を上げて洞窟を駆け抜けて五分もかからずに洞窟の入口まで戻ってくる。


「ナズナさん!」


 洞窟まで案内してくれた兵士の方が野営をしながら待っていてくれたみたいだけど、収穫は特に無いから申し訳ない気持ちになってくる。


「ごめんなさい…囲まれてしまって手遅れになる前に一度撤退してきたんです」

「そうでしたか。ともかくご無事で何よりです。お水をどうぞ」

「ありがとうございます」


 カップに水を注いで手渡してくれて、ありがたく飲ませてもらう。

 まだ冷たくて美味しい。

 リネの背から降りて角灯を預かって一度灯りを消し、リネにもお水を飲ませてあげる。


「中の様子をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「はい。人の気配も生き物の気配もなくて、突然背後から無数に蜘蛛が現れて、二人で二十匹は倒したはずですが、減るどころか死体の山とどんどん出てくる蜘蛛に身動きが出来なくなる前に逃げてきました」

「そうですか…」

「何度か繰り返して数を減らしていこうと思います」

「それでしたら我々もお手伝いを!」

「ありがとうございます。でもまずは様子見でまた二人で行ってこようと思います。蜘蛛の死体で道が塞がったり、生存者を見つけることができた時のために残っていてくれると嬉しいです」

「…かしこまりました」


 私は角灯を点け直し、リネの背に乗る。


「よしリネ、一撃離脱作戦だよ!まずは確実に数を減らそう!」


 わふっと吠えてリネが洞窟の中に駆け出していき、すぐにさっき戦闘があった辺りに戻って来たはずなのに、蜘蛛の死体が一つも無い。

 まさか共食い?

 正面はリネに任せて、角灯を高く掲げて私は後ろを警戒しながら進んでいく。

 不気味なほど静かな洞窟の地面に今度は剣が落ちているけど、戦闘の跡はそれ以外に一切見当たらない。


「やっぱり共食いもしてるのかな。レイゼリアさんの護衛を任せられるほどの人達が一匹も倒せないなんてことはないよね?」


 わふっとリネが返事をくれる。

 声を出すということは近くに気配はないみたいだ。


「リネ止まって」


 リネの背から降りてリネに角灯を渡す。


「天井に横穴とかあるんじゃないのかな。探してみてくれる?」


 わふっと吠えて翼を広げてリネが天井ギリギリをゆっくりと飛び回り、その間に落ちていた剣を拾って観察してみるけど、刃こぼれなどもなくもしかすると使わずに落としてしまったんだろうか。

 リネが小さくわふっと吠えて、リネの方を見上げるとやっぱり穴があったようだ。

 蜘蛛が狼くらいあるから私もリネも余裕で通れそうな大きさの穴。

 入るべきか、後にするべきか、そもそもやめとくべきか。

 もしも巣へと続いていたら、生存者を見つけられるかもしれない。


「リネ、一緒に奥にいってみよう」


 降りて来てくれたリネに股がり、二人で天井に開いた穴の奥に飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。