消える羽根
人が真夜中に黙々と土を掘り起こす姿というのは、なぜあんなにも見る者の心を不安にさせるのでしょうか。
穴を掘るという行為には、生きているものを隠すか、あるいは死んだものを埋めるか、そのどちらかの匂いしかしないからかもしれません。
街灯の光すら届かない公園の片隅で、子どもたちが相変わらず同じトーンの声でブランコを漕ぎ続けていました。
そのすぐ横の暗闇に、ポツンとうずくまっている一人の女の子がいました。私と同い年くらいの中学生の少女でした。
こんな極寒の真夜中だというのに、彼女は上着も羽織らず、爪の間に黒い土を詰め込みながら、一心不乱に地面を掘り返していました。まるで、地の底へ向かって逃げ道を作ろうとしているかのように。
私は引き寄せられるように少女の側へ寄り、その異様な手つきを黙って見つめていました。
私が側に立っても、少女は顔を上げようとはしませんでした。
爪の間に黒い土を詰め込み、指先を泥まみれにしながら、彼女は誰に聞かせるでもなく、ただ淡々と、低く平坦な声で喋り続けました。
「今日はなんだかあまり気分が良くなかったの。私は家族のことを愛しているのよ。だけど、中学生になってからのこの数ヶ月間は、何かがどうしても噛み合わなかった。何かがずっと頭の中に引っかかっていたの。最初は、小学校から中学校に上がって環境が変わったせいだと思ってた。その頃の私は、なんてバカで間抜けだったんだろうね。先生にも相談してみたのよ。『気のせいだよ、環境が変わったからだ』って……私が考えていたことと全く同じ気休めを言ってきたの。あのクソは。
疲れのせいだと思って、ある時から部活を当分の間休むことにしたの。良く考えたら、朝から午後まで頭を使って、そこから二時間も激しい運動をするんだから疲れて当然じゃない。きっとそのせいなんだって。だけど、月日が経てば経つほど、なぜか疲れは蓄積していったの。授業中も、帰り道も、頭の中はそのことばかり。疲れた、疲れたって。あなたに理解できる? 私がどこか狂っていると思う?
今日も別に、変わらない一日だった。何もかもが昨日と同じ。私の頭の中は『疲れた』って言葉でいっぱいだった。部活を休んで、そのことばかり考えながら歩いていたの。そしたら、ふと思ったのよ。『明日はきっと良くなる』って。
そう思ったらね、道端に黒いものが落ちているのが目に入ったの。普段なら気に留めもしないのに、なぜか視線がそこに吸い付いて離れなかった。……それはね、鳥の死体だった。なんてことのない、街中で極たまに見かける動物の死体。
私、それを見た瞬間にすべてを悟ったの。この数ヶ月間、なんとか騙し騙しやってきたけれど、そこでおしまいだったんだって。私はその場にへたり込んで泣いたわ。泣いて、泣いて、泣いて……それから鳥の死体を手に取ると、この公園に来て、涙でぐしゃぐしゃの顔で土を掘って埋葬したの。
私はね……あのカラスの死体が、羨ましかったの」
少女は抑揚のない声でそう言いました。
言い終えると同時に、少女はおもむろに手元へ視線を落とし、大事そうに何かを抱え上げました。そして、自分が掘った深さ数十センチほどの穴の底へ、それを丁寧にそっと横たえたのです。
少女の脇からその手元を覗き込んだ私は、胸の奥に横たわる違和感を感じました。
――それは、少女が「落ちていたカラス」と呼び、愛おしそうに撫でているその濡れた羽は、黒ではなく真っ白でした。 そして、首から上の頭部が――鋭利な刃物のようなもので綺麗に切り落とされた、一羽の鳩の死体だったのです。
少女は満足そうに微笑むと、切り口から覗く赤黒い肉塊にも構わず、手で黒い土を被せ始めました。
私はそれ以上言葉を交わすことはせずに、静かにその場を後にしました。




