落ちてくる夜
静かに闇が落ちてきました。
世界を覆い尽くしたその夜の闇は、単に空を黒く染めただけではありません。この街に生きる私たちの心そのものへ、ゆっくりと、けれど確実に侵食していったのです。
あやが去ったあと、私はそのまま床の上で泥のように眠りに落ちてしまいました。
激しい流血による貧血と激痛で体が動かなかったこともあります。ですが何より、私自身の心のどこかで、あやに真実を問い詰めることへの強い恐れと抵抗があったのだと思います。
どのくらい眠っていたのでしょうか。
ふと、私を深く重い眠りから引き戻したのは、外から聞こえてくる子供の笑い声でした。
幼い子供にしてはあまりにも甲高く、金糸のように鋭く耳の奥へ突き刺さるその声。寝ぼけた頭のまま、私は重い体を起こして窓の外を見つめました。
ですが、部屋の窓から見下ろせる範囲には限りがあります。暗闇の深さも手伝って、その甲高い声の主の姿を見つけることはできませんでした。
気のせいだろうと自分に言い聞かせ、私は再びベッドに横たわり、目を閉じました。
けれど、声は一向にやむ気配を見せませんでした。眠り直そうとする私の意図とは裏腹に、意識は神経質に研ぎ澄まされ、頭が冴え渡っていきます。
そして、その奇妙な違和感に気づいたのです。
耳に届く声は、間違いなく幼い子供たちの楽しげなはしゃぎ声でした。ですが、太陽が消え去り、世界が漆黒に染まったこの状況で、子供が外で遊んでいるなどということがあり得るでしょうか。
私は壁の時計に目をやりました。
針は深夜の一時を指し示していました。
「……幽霊?」
今の私であれば、そんな安易な言葉で説明しようとは思わないでしょう。ですが当時の私はまだ中学生で、怪異や非科学的な現象に対して、どこか子供じみた恐怖と不条理な納得感を抱いていたのです。
こんな真夜中に、なぜ――。
小さなパニックが胸を締め付ける中で、あの例の症状が私を襲いました。
黒い雪がもたらす、過去の記憶の狂狂的な反芻。ですが、自らの手で突起を切り取ったおかげなのでしょう。初めて症状が現れた頃のような狂乱の苦しみではなく、それはどこか静かで、波のように穏やかな記憶の浮上でした。
思い浮かんできたのは、あやとの幼い頃の記憶でした。
あやとは、幼稚園の時からの幼馴染でした。初めて出会った頃のあやは、今とは比べものにならないほど静かで大人しく、誰とも関わろうとしない陰のある子供でした。
――そういえば、私はどうしてあやと親しくなったのだろう。
ふと、奇妙な疑問が胸を掠めました。
嫌でも過去の記憶が脳裏に焼き付けられるこの呪いにかかっているというのに、なぜか「あやと出会い、どうして特別な関係になったのか」という最初のきっかけの記憶だけが、すっぽりと抜け落ちていたのです。
どれほど脳の奥を探っても、思い出せるのはただ一つの記憶だけでした。
それは、あやと二人で興じていた「おままごと」の光景でした。
幼稚園の砂場や教室の隅で、あやと私は何度も何度も「家族ごっこ」をしていました。私が母親で、あやが父親、あるいはその逆――二人だけの歪で完璧な家庭。その記憶だけが、壊れたオルゴールの音色のように頭の中でリフレインしていました。
繰り返されるおままごとの記憶。
そして、窓の外から響き続ける、子供たちの甲高い笑い声。
二つの音が重なり合った瞬間、私の胸を満たしたのは恐怖ではなく、ある種の甘やかな恍惚感でした。
私は導かれるようにベッドを抜け出し、上着を羽織って部屋のドアを開けました。
そこに明瞭な目的などありませんでした。
今思えばそれは、私が背負った呪いと、逃れられない運命に手招きされた、必然の歩みだったのだと思います。




