並木荘
藤崎から説明を受けた翌日、夕斗は買い物をする前に住所を頼りに新しい部屋のあるアパートに行ってみることにした。
資料によると富川という駅から徒歩5分くらいのところにある線路沿いに建っているアパートらしい。資料には写真などはなく3つの条約(?)以外は住所と部屋番号のみしか書かれていなかったので、夕斗はどのような場所なのだろう、と楽しみにしながら富川駅を降り、アパートを目指した。
「おー、すごい・・・」
夕斗は小さく呟き、その場に立ち尽くした。
そこだけ時代に取り残されたような空間だった。敷地の奥に大きな木造二階建ての家が建っており、その手前に開けた空間がある。建物は玄関らしき扉が一つあり、その上にベランダらしきものがある。そこには洗濯物が干してあった。手前の空間には左右に木々が植えてあり、さらさらと木の葉を揺らす風の音が聞こえそうである。木々の隙間からは木洩れ日がもれている。とてもきれいな場所だった。
夕斗は改めて資料を見た。地図で確認すると、やはりこの建物が引っ越し先の並木荘であるらしい。この手前の木々から取った名前だろう。
夕斗は木々を眺めながら並木荘の敷地に入ろうとした。すると建物の扉が開き、中から小学生くらいであろう女の子が顔を出してきた。そしてこちらをじーっと観察し
「あっ!」
と声を出し建物の中に入り乱暴に扉を閉めた。
「おかーさーん!新しい人が来たよーーー!!」
と、そんな声が中から聞こえる。
それに対してベランダから
「はーい。今行くからちょっと待っててー」
と女性の声が聞こえた。さっき見たベランダを見上げると洗濯物を干している人がいた。
また、扉が開いて先ほどの女の子が顔を出し
「ちょっと待っててだそうです」
といい扉を閉めた。女の子は夕斗を中へ入れる気がないらしい。なので、夕斗はここで待つしかないようだった。
それから5分くらいたったころだった。扉が再び開き、女の子と先ほどベランダで洗濯物を干していた女性が出てきた。彼女は髪を後ろでまとめ、いまどきは見ないであろう割烹着を着ていた。
「ごめんね、待たせてしまって。わたしはここの大家で住み込みで管理もしている桜っていいます。この子は娘の桃。並木荘にようこそ。夕斗君」
「よーこそー!!」
「私たちは君を歓迎するわ、ささ、入って入って」
そういい彼女たちは夕斗を建物の中に招いた。
招かれるままに夕斗は建物の中に入った。
入ると中は薄暗く涼しかった。左を見ると階段があった。夕斗はまず、玄関から右側に伸びている廊下を進んだ先の広い空間に案内された。そこにはテーブルと椅子がありキッチンも見える。
「ここは、並木荘のみんなで食事を取ったり団欒するスペースになっていて、みんなのスペースだから気軽に使ってね。昼、夜は別でもいいけど、必ず朝食はみんなで食べることになってるの。資料に書いてある三か条はみた?」
「はい」
「最後にみんな仲良くって書いてあるでしょ。これもその一環だと思ってくれてかまわないから。桃。私はこれから掃除があるから後の案内よろしくね」
それに対して桃は
「はーい」
と元気良く返事をし、
「お兄ちゃん、こっちこっち」
といい駆けて行った。
部屋を出ると先程見た階段から桃が顔を出していた。
夕斗は呼ばれるがままに2階へとついていった。
その後、この元気があり余っている彼女に振り回されたのは言うまでもない事である。




