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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#26 道がないなら今日は休みだろ(正式名称:広域地形崩落対処及び避難路啓開作戦)

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第97話 穴掘って土嚢積んで、俺の青春だいたいこれ

 翌朝から、俺は円匙(えんぴ)と十字(※)を握っていた。


 目の前には崩落した街道、横には槙野、後ろには土嚢袋の山。大砲も銃もない。敵もいない。あるのは泥と石と水と、やってもやっても見た目があまり変わらない地味な作業だけだった。


「......俺、自衛隊入ってから大砲撃ってた時間より、穴掘ってた時間の方が長かったんじゃねえか?」


 槙野が土の状態を見ながら鼻で笑う。


「文句の割に手ぇ止まってないな、さすが元自だわ。まぁ施設科には負けるけどな」

「やっぱ身体が覚えてんだよ。最悪だわ。教育の頃から偽装して、穴掘って、土嚢作って、埋めて、場所変わったらまた掘って。陸上自衛隊って地面に親の仇でもいるのかと思ってた」

「施設科の前でそれ言うかね?」

「お前らは本職だから親族一同の仇くらいあるだろ」

「ないわ!仕事だ――」


 円匙の刃が湿った土へ入る感触をきっかけに、昔の記憶が勝手に浮かんだ。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 まだ自衛隊へ入って間もない頃。


 今より腹は引っ込み、煙草代にも困っていなかった俺は、同期と並んでひたすら地面を掘っていた。迷彩服は泥だらけで、手袋の中は汗でぐしゃぐしゃ。教官の声だけが、広い訓練場のどこにいても聞こえるくらい元気だった。


「ぜぇ、ぜぇ。なあ黒田。俺ら何になるために入隊したんだっけ」


 隣の同期が、土を放りながら真顔で聞いた。


「穴掘り国家資格でも取るんじゃねえの。修了したら履歴書に“穴掘れます、土嚢積めます、雨でも掘れます”って書けるぞ」

「俺、普通科希望なんだけど」

「安心しろ。自衛隊はどこ行っても穴掘るらしいぞ。むしろ戦闘職種ほど掘るって聞いた。国防の最終形態は地面かもしれんな」

「なんか、夢がねえな......」


 汗を遠くから教官の声が飛んだ。


「黒田二士!!口動かす暇あったら手ぇ動かせー!」


 俺は円匙へ体重をかけながら答えた。


「手を動かしたら疲れるじゃないですかー!」

「黒田ぁぁぁぁぁぁ!! 元気あるなら追加でもう一本掘れぇぇぇぇぇ!!あとで腕立てだぁぁぁ!!」

「なんで正直に答えた方が罰増えるんですかぁぁぁぁぁ!」


 同期が腹を抱えて笑い、そのせいでそいつまで怒られた。あとで罰として筋トレをしたのは言うまでもない。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


「......昔から変わってねえよな、お前」


 槙野に言われ、俺は我に返った。


「失礼な。昔より腹が出たぞ」

「悪化を成長みたいに言うなよ」


 その横を、フェンナがものすごい勢いで掘っていた。


「任せるワン! 穴掘り得意だワン! ここ掘ればいい!? もっと深く!? いっぱい掘れるワン!」


 土が後ろへ飛ぶ。大きなお胸と大きな尻尾まで楽しそうに振られ、鍛えられた脚と腰が無駄なく動いている。昨日まで魔物の臭いを追っていた斥候が、今日は完全に大型犬の本能へ戻っていた。


「お前、適性あるな。俺の代わりに入隊するか?」

「ワン!いっぱい掘るワン!」

「使えるな、こいつ」


 槙野まで真顔で言った。


「採用決定。俺は除隊だ」

「もうしてるだろーが!」

「じゃあ再入隊して即日辞めるわ」

「手続き増やすな」


 少し離れた場所では、リリアが地面へ両手を向けていた。黒紫の髪が魔力でふわりと浮き、足元から冷たい霧が広がっている。


「はーい陸! この斜面、私が魔法一発で抉ろうか? 土ごと持ち上げて、道幅ぶん全部飛ばせば早いよ!」

「馬鹿かやめろ。地下に空洞がある。フェンナが人の臭い拾ってるんだぞ!」

「でも小さい範囲なら――」

「駄目だ。生きてるかどうか先に見ろ。死者術はその後だ」


 リリアの顔から笑いが消えた。


「......分かった。生きてる人、探すね」


 こういう時だけ、彼女は死を軽く扱わない。


 リリアの霧が地中へ染み込み、フェンナが耳を伏せて匂いの方向を絞る。槙野は崩れた石と木の噛み方を見て、どこから触れば追加崩落しにくいかを判断する。


 俺は四人の位置と、避難者が出てくる道だけを見る。


「フェンナ、そこから右へ一メートル。リリアはその下。槙野、上から押さえられる?」

「できる。先に水逃がすぞ」

「じゃあ俺は土嚢回す。モグ!」


「飯の時間か!?」


 離れたところで炊き出しを狙っていた古竜が振り向いた。


「違うわ! 土嚢(これ)運べ!」

「重労働ではないか!」

「お前が言うな! 竜だろ!」


 そこから二時間近く、作業は地味に続いた。


 土を掻き、石を外し、水を逃がし、足場を固める。派手な魔法なら数秒で終わりそうな場所を、数センチずつ人間が進めていく。面倒で、遅くて、汗臭い。それでも地下に人がいるなら、力任せに壊せない。


 やがてフェンナが吠えた。


「ここ! すぐ下だワン!」


 最後の板を外すと、狭い空洞の奥から子供の泣き声が聞こえた。


 大人二人と子供三人。崩落時に古い排水路へ逃げ込み、出口を塞がれていたらしい。泥だらけの子供をリリアが抱え、フェンナが泣きながら尻尾を振る。


「生きてるワン! みんな生きてるワン!」

「分かったから顔舐めるな。相手びっくりしてるだろ」


 救出した穴の脇で、槙野が何かを拾った。


「黒田。これ、元から埋まってたみたいだぞ」


 古い金属杭だった。

 表面は錆びているが、上部に太陽と翼を組み合わせたような聖印が刻まれている。リリアが触ろうとすると、薄い聖属性の光が一度だけ弾けた。


「セレネア系の印に似てるね」

「巡礼路の古い杭か何かじゃねえの?」


 俺は深く考えず、布へ包んで保管した。

 その時点では、ただの古い目印にしか見えなかった。


 夕方、孤立していた住民を仮設路へ誘導し終えた頃には、腕も腰も重かった。俺は円匙へ寄りかかり、泥のついた手袋を見下ろす。


「はぁ......穴掘りなんか二度とやりたくねえと思ってたんだけどな」

「ふ、昔のことが役に立っただろ」


 槙野が言った。


「だから嫌なんだよ。役に立つと次もやらされるだろ?」


 フェンナが隣で元気よく手を挙げる。


「次も私がいっぱい掘るワン!お任せだワン!」

「よし。次から全部任せた。俺は監督になるからな」

「ボス、監督も仕事だワン!」

「ちくしょう、余計な知恵つけやがってぇぇぇぇ!」


【神界・追加ご請求】


・災害現地広域接続維持費       金貨1,600枚

・仮設避難路因果安定化費       金貨2,400枚

・現代専門知識世界間同期補助費    金貨1,200枚

・救出領域安全補正費         金貨2,000枚

・公共災害処理暫定立替        金貨2,000枚

─────────────────

今回加算               金貨9,200枚

今回加算・日本円換算         46,000,000円相当

前回繰越残高             金貨10,200枚

暫定合計残高             金貨19,400枚

暫定合計・日本円換算         97,000,000円相当


※公共災害勘定への再分類対象を含むため、確定額ではありません。


「四千六百万円……俺、今日ずっと穴掘って土嚢積んで人助けしてただけだよな?」

「ボス! 五人助けたから、一人あたり九百二十万円だワン!」

「命を一人単価で割るな! しかも俺の請求額基準で計算すんな!」

「でも全員生存です。公共災害勘定へ回る部分もありますから、まだ確定ではありません」

「じゃあ全部公共費用で頼むわ」

「全部通るとは言ってませぇん♡」

「レグリア! 救助の余韻に監査ハンコ持って入ってくんなぁぁぁぁぁ!!」


※いわゆるピッケルの事


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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