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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#23 戦争に融資すんな (正式名称:ヴァルディス軍事動員及び戦費契約異常調査)

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第85話 兵站の量が戦争の規模と合ってねえ

 帝国軍の動きそのものより、俺が気になっていたのは、その後ろだった。

 国境へ出ている兵の数。魔導兵器の数。運び込まれる魔石。飼料。保存食。予備の革帯や金具。ノエルが遠見で拾った荷列の頻度と、ロイドが商人から聞いてきた荷車の台数を並べると、どうにも釣り合わない。


「多すぎるな......」


 地図の上で荷車の印を指で追う。砲兵にいた頃も、撃つ話だけしていれば済んだわけじゃない。弾は勝手に砲の横へ生えないし、飯も燃料も交換部品も、補給として誰かが後ろから運んでくる。前に出ている数より、後ろで何が減っているかを見る癖は、辞めても抜けなかった。


 俺が言うと、エドガーが眉を寄せた。

「兵が多いのではなく、補給が?」

「両方見る。兵だけ増やして飯がなきゃ止まるし、飯だけ増やして兵がいなきゃ腐る。今の帝国は、前にいる奴らより後ろの荷物の方がやけに元気だ」

「予備を厚くしている可能性は?」

「ある。だから変だとしか言ってない。ただ、予備ってのは安心のために持つもんだ。買えば買うほど借金が増えて、さらに次の信用枠が開く仕組みなら、その『安心』自体が誰かの商品になる」


 エドガーは黙って地図を見た。現役の軍人だからこそ、補給を削れとは軽く言わない。俺も同じだった。足りないより余る方がいい。ただ、余らせ続ける金を誰が出しているかは別の話だ。


 王国軍の簡易指揮所には、ノエル、エドガー、ロイド、タンナー、リリアまで集まっていた。ゼニスは灰色の作戦幕僚風ジャケットに地図板を抱えている。また似合っているのが俺をイラつかせた。


「お前、今日は何屋だよ一体」

「戦費調査と兵站監査を兼ねた作戦幕僚風です」

「今、自分で『作戦幕僚風』って言ったよな。そこまで寄せるなら正式に軍属女神にでもなればぁ?」

「私は神界側の監査担当です。越権はしません。格好だけ寄せても指揮権は持ちません」

「コスプレは攻めるのに、権限だけコンプラ守るんだな、アホか」

「誰がアホですかぁぁぁ!」


 ノエルが地図へ印を増やした。

「昨日から今日にかけて、東側の魔力輸送反応が二割ほど増えています。ただ、前線の魔導砲反応は増えていません」

「貯めてるか、別の場所へ回してるか」

「そう見えます」


 ロイドが革袋から紙片を出した。

「商人筋だと、帝国側は『国境封鎖が長引く前に買えるだけ買え』って空気らしい。値段が上がってるのに、買い手は引かない」

「普通なら高くなったら減らす。減らさなくていい理由がある」

「信用枠か」

「だろうな」


 ミャオから預かってきた商人組合の控えも広げた。軍の帳簿と宿屋の帳簿では規模が違うが、「何がいつ足りなくなったか」を見る目は同じだ。塩、乾燥肉、油、飼料。戦闘の派手さとは無縁の品ほど、嘘をつきにくい。

「ミャオが『油だけ値段の割に動きすぎ』って印付けてた。宿屋の猫に軍の経済分析させる状況もどうかと思うけど」

「商人の目は軍人と違う。使える情報なら使うべきだ」

「エドガー、お前ほんと真面目だな。俺なら報酬発生するか先に聞く」

「だからお前の生活は改善しないのだ」

「戦場の話してる時に生活指導入れるなよ」


 タンナーは自分のメモを見直してから、遠慮がちに口を挟んだ。

「師匠。帝国兵の話も変です。捕虜になった奴ら、アルヴェリアが先に侵攻準備してるって本気で信じてます」

「誰から聞いたんだ?」

「上から、としか――」


 リリアが壁にもたれていた背を起こした。

「死んだ人から拾える残り物も似た感じ。『王国が来るから守れ』って思ってた兵が多いよ。少なくとも、みんな喜んで攻めに来たわけじゃない」

「死人の証言は裁判じゃ使いづらそうだな」

「でも三百年生きてる死人の経験値は高いよ?」

「死んでるのに生きてるって言うなよ。話がややこしなるわ」


 俺は地図を見たまま煙草を探し、当然ここが王国軍の指揮所なので持っていないことを思い出した。

(兵隊が何を信じてるかと、国が何を買ってるかが同じ方向向いてる。誰かが不安を燃料にしてるな)


「帝国は全面侵攻する気じゃないかもしれん」

 エドガーがこちらを見る。


「根拠は?」

「断定はしねえ。けど、本気で一気に攻め切る軍なら、前線の動きと補給の出方がもっと揃う。今は『いつでも戦えるように買わされ続けてる』感じが強い。長引けば長引くほど物が売れる奴には都合いい」

「戦わない準備にも金は掛かる、か」

「そういうこと。怖がらせ続ければ、撃たなくても金は動く。弾が飛ばない日にも儲かるなら、戦争寸前が一番長く続いてほしい奴だって出る」


 リリアが腕を組んだ。

「死人を増やさなくても儲かるならまだマシ、って言いたいけど、その寸前状態を長引かせたらいつか誰か撃つよね」

「昨日までそれやってた。誤射一発で全部始まる。だから嫌なんだよ」


 自分で言ってから、国境で見た兵の顔を思い出した。撃つ側も撃たれる側も、たいていは大きな企みなんて知らない。だからこそ、後ろで数字を動かしている奴の方が厄介なのだ。


「……帳簿だけ見てても腹落ちしねえ。荷物がどこで増えて、どこへ分かれてるか一回現地で見るぞ」


 俺がそう言うと、エドガーだけでなくゼニスまで一瞬黙った。


「何だよ」

「黒田さんが自分から現地確認を提案したので、聞き間違いかと」

「俺だって必要なら動くわ。必要じゃない時に動きたくないだけだ」

「その判定が極端なんですよ!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 昼過ぎ、俺たちは王国側の補給中継所まで出た。前線よりかなり後ろだが、街道には荷車が途切れず、乾燥肉、油、飼料、魔石箱が別々の列で積み替えられている。遠くの警戒陣地にはFH-70の長い砲身が見え、街道警護班には王国防衛名義で再構築された89式とMINIMIが回されていた。


「帳簿より分かりやすいな。人が増えれば護衛が増える。護衛が増えればそいつらの飯と交代要員も増える。戦ってなくても、前線があるだけで後ろが太る」


 ノエルが北東へ続く別街道を指した。


「黒田さん。帝国側で確認した荷列の一部、こちらではなく北東へ分岐しています。量も昨日より増えています」

「アルヴェリア相手だけの準備じゃねえってことか」

「可能性は高いです」


 そこへ街道の先で警笛が鳴った。森際から小型魔獣の群れが飛び出し、荷車の馬が一斉に暴れかける。こちらを狙って来たというより、何かから逃げて街道へ雪崩れ込んだ動きだった。


「また東から逃げてんのかよ。俺、帳簿見に来ただけなんだけど!」

「黒田さんは後ろ! 警護班で対応できます!」

「分かってる。今日は俺が撃ったらまた請求増える。公費の人たち頑張って!」

「言い方ぁ!」


 警護班の89式とMINIMIが乾いた音を重ね、アレクシスとアンディが荷車へ近い個体だけを前で止める。タンナーは街道脇へ回って群れの抜け道を確認し、ティアナが人のいない側へ誘導する。数分で魔獣は北西へ抜け、荷車の列も止まらずに済んだ。


 俺は散った土と、再び動き始めた荷車を見た。


「ほらな。今の数分だけでも警護を厚くする理由が増えた。護衛が増えりゃ飯が増える。武器も交代要員も要る。『まだ戦争してない』のに、金だけは毎日ちゃんと減っていく」


 エドガーが北東の街道へ目を向ける。


「そして帝国は、その備えを二方向へしている可能性がある」

「だな。ヴァルディスが俺らだけ見てると思ったら、数字が合わん理由も出てくる」


 ゼニスが端末へ記録しながら言った。


「ちなみに今の89式とMINIMIの公的使用費は王国防衛予算です」

「それ先に言え。今日一番安心した」

「魔物より請求先で顔色変えるのやめてください!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 夕方、俺は現代へ戻った。今日は一人で飲む気になれず、佐伯へ連絡したら、たまたま秋葉まで合流した。

 駅前の安い居酒屋。俺は生中、佐伯はハイボール、秋葉は最初から焼酎だった。


「で、黒田。久々に呼び出した理由が『飯の量と兵隊の数が合わん時どう思う』って何だ」

「ただの雑談だわ」

「お前の雑談、最近ずっと軍隊が絡むよなあ」

「パチンコ屋の新台入替の話だよ。客の数より景品多かったら変だろ」

「その例え、なんなんだよ」


 佐伯が笑いながら枝豆をつまんだ。

「普通に考えりゃ、何か起こると思って余分に抱えてるか、抱えさせられてるかじゃねえの。現場は『上がそう言ってるから』で動くしな」


 秋葉はグラスを置き、俺をじっと見た。

「誰が言ってるかより、誰が得するか見ろ。昔のお前ならそう言ったろ?」

「昔の俺、賢かったんだな。今の俺にもその頭ちょっと分けてほしいわ」

「頭は今も同じだ。腐ったのは生活と習慣だ。そこを他人事みたいに分けてるんじゃねえぞ」

「先輩、せっかく褒めるなら最後まで気持ちよく褒めてくれない?」

「はっ、最初から褒めてないがな」


 俺は笑って誤魔化したが、秋葉の言葉は残った。

 誰が命令したか。誰が怖がらせたか。その先で、誰が金を取るのか。


 店を出る頃には、頭の中で答えが一つに寄り始めていた。


【神界・追加ご請求】


 ・敵国兵站情報因果照合費       金貨35枚

 ・死者残留情報安全監査費       金貨25枚

 ・現代側参考接続/帰還処理費     金貨60枚

 ─────────────────

 今回加算               金貨120枚

 今回加算・日本円換算         600,000円相当

 前回繰越残高             金貨49,034枚

 前回繰越残高・日本円換算       245,170,000円相当

 合計残高               金貨49,154枚

 合計残高・日本円換算         245,770,000円相当


 ※補給路警護用89式5.56mm小銃・5.56mm機関銃MINIMIの再構築/公的使用費はアルヴェリア王国防衛予算で別途精算。黒田陸個人債務への加算なし。


「俺の個人的な飲み会まで調査費に入ってんの?」

「飲食代そのものは入ってません」

「じゃあ経費で落ちたと思っていい?」

「思わないでください」

「領収書あるぞ」

「出しても出ねぇわぁぁぁぁぁぁ!!」

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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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