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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#22 後輩を温泉旅行に呼ぶ契約じゃねえ(正式名称:世界間接続監査及び現代側立会対応)

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第82話 土産まで転送費取るのかよ

 翌朝。俺は額のたんこぶを触りながら、温泉宿の玄関でひなたの帰還準備を眺めていた。隣ではアレクシスも同じように額を冷やしている。


「黒田さん。昨日の件、僕だけ勇者パーティ内で反省文みたいな口頭説明させられたんですけど」

「勇者だからな。社会的責任が重いんだ、しょうがねえだろ」

「主犯のあなたが他人事みたいに言わないでください!」

『しかも今朝になってもファミチキの約束を忘れておらん!』とルクシオン。

「約束は守る男だからな、俺は!」

「そこだけ律儀になるなぁぁぁぁぁ!!」


 女湯騒動の件は事故部分だけなら完全に無罪だったはずなのに、事故前の会話が悪すぎた。世の中、日頃の行いというやつは本当に侮れない。俺は反省していないが、次は聖剣のいないところで話そうとは思った。


「何も学んでない顔してますね」とゼニス。

「顔で読むな」

「あなたの場合、学習している時の方が珍しいので分かります」


 そのまま、ひなたの荷物へ目を向けた。


「一日で何で荷物増えてんだよ」

「私じゃないですよ」


 ひなたの足元には袋が四つあった。一つはミャオ。


「保存できるパンと干し肉と、少しだけお茶にゃ。陸の様子を見に行く時、自分でも食べるにゃよ」

「俺への差し入れ前提か?」

「陸は放っておくとカップ麺になるってわかったにゃ」


 二つ目はルヴィア。


「こちらは王都最高級の焼菓子、紅茶、宝石細工、それと金貨を少々――」

「待て、金貨は置いてけ。現代で換金ルート説明する方が面倒だ」

「たかが金貨ですわよ?はした金でしょう?」

「お前の『たかが』は世間の『事件』なんだよ」


 ルヴィアは不満そうだったが、最後にはしぶしぶ納得して金貨はあきらめた。


 三つ目はリリア。


「ひなた! 陸の昔の写真あったら今度持ってきて!」

「何で土産袋に変な手紙入れてんだ」

「嫁候補として資料が必要だからね!」

「個人情報保護!」


 四つ目はモグ。


「これはわらわの昼飯じゃ」

「何で帰る人の荷物にお前の飯入れてんだよ」

「ひなたには会う前から美味しいものをいただいたでな。お返しじゃ」

「お前がまさか人に飯をくれてやるなんてな、成長したなお前」


 モグが固まった。


「……ほめても陸にはやらんぞ?」

「いや金くれよ」

「金なぞないわぁぁぁぁぁぁ!!」


 ゼニスは今日は白い手袋に細縁眼鏡、黒のパンツスーツ。神界通関検査官という設定らしく、荷物へ一つずつ光を当てている。


「食品、問題なし。宝石、持ち込み非推奨。金貨、現代側経済への影響を避けるため不可。リリアさんの手紙、内容は……」

「こらぁぁ女神!! 読むなぁぁぁぁ!!」

「検疫です!正当な権利なんです!!」

「恋文(ラブレター)に検疫なんぞあるかあああ! お前はどこの刑務官だぁぁぁぁ!」

「死霊術式が仕込まれてないか見るんです!」

「お前、私を何だと思ってるの!?」

「アーク・リッチです」

「正解!ちっ、ばれたか............」


 二人がやかましい。そしてリリアは一体何を持ち帰らそうとしているんだ......。


 ひなたは荷物を増やした張本人たちを順番に見ながら笑っていた。異世界へ着いた時は肩に力が入っていたが、いまはミャオへ礼を言い、モグの昼飯をもらい、リリアの手紙を受け取る余裕まである。


「陸さん。こっちでミャオさんたちに飯を食べさせてもらって、ゼニスさんに引っぱり回されて、文句を言いながらも一応生活してるのは分かりました。思ってたよりは安心しました」

「褒められてる気が一切しねえ。俺は保護動物か」

「放っておくと食事も部屋も危ないって、現代と異世界の両方から証言が揃ってましたから。保護対象に近いかもしれません」

「お前までミャオ側へ行くな。せめて元部下らしく上官を立てろ」

「もう上官じゃないですよね! 今の陸さんを立てるとそのまま寝そうなので嫌です」

「ひなた、成長したな。言うことが辛くなったわお前」


 ひなたが荷物を抱え直して転送陣へ足を入れたところで、リリアが急に手を上げた。さっきまで土産話で騒いでいた顔から笑いが消えている。


「ひなた、ちょっと待って」


 白銀の髪を揺らしながらひなたへ近づき、触れないぎりぎりのところへ指を伸ばした。


「魂じゃない。呪いでもない。でも、何かついてる」


 ゼニスの琥珀色の目が鋭くなる。


「どこです?」

「ひなた本人じゃなくて……外側。世界と世界の間を通った跡みたいな。前から少しあったけど、今は分かる」


 ゼニスが神界タブレットを開いた。


【|BOUNDARY TRACE《バウンダリー・トレース》:微弱反応】


「黒田さん。以前の黒金片と似た系統のものです。ただし物質ではありませんね。世界境界に触れた残留因果……現時点では害性反応なし」

「なしなら帰せ。現代側に長く置く方が嫌だ」


 ゼニスが俺を見た。ここで料金の話を挟む気にはならなかった。


「保護を二重にします。帰還後も短時間監視します。残留値が上がったら即座にこちらで止めます」

「頼む。金の話は戻してからでいい」

「……はい。そうします」


 ゼニスは短く頷き、すぐ通関検査官の顔へ戻って操作を続けた。


「追加費用が――」

「今だけは黙れ」

「……はい」


 光がひなたを包んだ。


「陸さん。また」

「おう」


 ひなたは転送陣の中央まで進んだあと、言い残したことを思い出したように戻り、俺の袖をつまんだ。


「次に変なことが起きた時、一人で勝手に消えないでくださいね。昔みたいに、何も言わずにいなくなるのは嫌です」

「……善処する」

「だから、それじゃ信用できません」

「じゃあ努力目標」

「もっと信用できなくなりました」


 文句を言いながらも、ひなたの口元は最後には緩んだ。


「連絡、一本くらいは返してください」

「スタンプでもいい?」

「既読スルーより百倍いいです」

「要求水準低くなったな」

「誰のせいですか、本当に仕方のない人なんだから......」


 姿が消える。現代へ戻ったことが確認されるまで、誰も騒がなかった。数秒後。


「帰還完了。身体状態正常。残留因果は微弱のまま、拡大なし」


 帰還完了の表示を見て、ようやく奥歯に入っていた力が抜けた。ゼニスも眼鏡を外し、目元を指で押さえながら椅子へ寄りかかる。

「……よかった」

「お前も心配してたの?」

「当たり前でしょう。私が通行許可を出したんです。戻せなかったら査定どころの話ではありません」

「そこは『人として心配した』って言っとけよ」

「私は女神です!」

「細けぇなあ相変わらず。もてねぇぞそんなんじゃ」

「あなたが雑すぎるんですって!」


 帰還後の監視まで問題なしと出たところで、ようやく監査は一区切りになった。その日の夕方、俺も日本の四畳半へ戻った。四畳半の畳へ寝転がり、ひなたが置いていった保存食の袋から菓子を一つ取り出す。缶ビールも開けた。右肘をつき、いつもの涅槃図(ねはんず)スタイルへ落ち着く。


「ふわぁぁ......やっぱ自宅が一番だわ!」


 ぶっ。ぷす~。自然に屁が出た。誰もいない部屋なら問題ない。


「――最低ですね」


 げっ、いた。ゼニスが背後に立っていた。黒髪を下ろし、まだ通関検査官の黒パンツスーツ姿。細縁眼鏡の奥から、俺を冷たく見下ろしている。


「何だよ。帰還後の余韻くらい味わわせろ」

「余韻を放屁で締めた人が言います?」

「自宅で屁して何が悪いんだよ」

「私がいます!」

「勝手に来たのそっちだろ!」

「そういう問題じゃ――」


 ゼニスの神界タブレットが鳴った。彼女の顔から怒りが消える。


「……黒田さん」

「今度は何だ」


 表示された文字を見て、ゼニスが低い声で言った。


「ヴァルディス魔導帝国の軍需契約。神界系融資との接続痕跡が正式に検出されました」


 缶ビールを口へ運ぶ手が止まった。


「リボルヴか?」

「まだ断定できません。ただ、通常の国家融資ではありません。戦争が長引くほど契約価値が上がる構造になっています」

「……戦争に金貸して、長引いた方が儲かるって?」

「可能性としては」


 俺は数秒考えた。それから布団を引き寄せた。


「まあいいや、明日な」

「今です!」

「今日は温泉でボコられて後輩送って屁こいた。十分働いたぞ」

「最後の一個は労働じゃないでしょ!」

「酒飲んだから業務終了、はい」

「契約痕跡が出たって言ってるでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!」


 ゼニスの絶叫を聞きながら、俺は布団を頭までかぶった。本当に働きたくない。だが、戦争そのものへ利息をつけて売っている奴がいるなら、さすがに寝たふりだけでは終わらなそうだった。


【神界・追加ご請求】


 ・現代側第三者帰還処理費       金貨180枚

 ・境界残留因果二重保護費       金貨120枚

 ・帰還後短時間監視費         金貨60枚

 ・軍需契約神界系統緊急照合費     金貨120枚

 ─────────────────

 今回加算               金貨480枚

 今回加算・日本円換算         2,400,000円相当

 前回繰越残高             金貨48,304枚

 前回繰越残高・日本円換算       241,520,000円相当

 合計残高               金貨48,784枚

 合計残高・日本円換算         243,920,000円相当


「二百四十万……」

「必要経費です!」

「ひなた帰しただけで軽自動車買えるんですけど?」

「人間を車両価格で比較するなぁぁぁぁぁぁ!!」

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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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