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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#03 即金蒸発 (正式名称:初期装備調達及び戦力評価任務)

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第7話 追加報酬? 命より安いならいらん。俺は帰る

 翌朝五時五十七分。

 王都東門の脇で、俺は草地に横向きになり、片肘で頭を支えていた。

 荷重分散フレーム付きの背嚢(はいのう)を枕代わりにした、いつもの涅槃図(ねはんず)スタイルである。


「黒田。集合時間には来たんだから起きろ」

「来た時点で任務の半分は終わっただろ。あとは現地まで運んでくれ」

「自分の足で歩け」

「朝六時に人間を歩かせる方がどうかしてる。太陽だってまだ本気出してねえぞ」


 ジークフリードがこめかみを押さえた。

 その後ろには昨日見た弓使いと盾持ち、それから見慣れない少女が一人いる。


 淡い桜色の髪を後ろでまとめ、青紫の瞳。装飾の少ない実用的なローブに短い杖。見た目だけなら、朝からやたら姿勢のいい優等生だった。


「……ねえ。この寝てるおっさん、本当に合同調査に連れてくの?」

「おっさん言うな。まだ三十二だ」

「三十二で地面に寝てる方が問題でしょ。しかもジャージ」

「ジャージを舐めるな。寝間着、普段着、外出着を一着で兼ねる高効率装備だぞ」

「それ、着替えてないだけじゃない」


 この女、初対面から口が悪い。

 俺は片目だけ開けた。


「誰だよ、この朝から元気な魔法女は」

「ティアナ・ヴァーレン。魔術師協会(まじゅつしきょうかい)から調査協力で来た。十九歳」

「十九でその態度かよ? 最近の若者は年長者を敬う教育が――」

「はぁ?年齢マウントかよ老害。敬われたいなら、まず起きなよ」

「正論きっつ!! 寝起きに効く」


 俺は起き上がるついでに、ジャージのポケットから潰れた煙草の箱を取り出した。

 振ってみる。残り一本。


「……一本しかねえ」

「朝一番で吸うの?」

「朝だから吸うんだよ。飯は一食抜いても死なん。煙草切れると俺の精神が死ぬ。これは精神維持費だ」

「その理屈で借金増やしてるんじゃないの?」

「十九歳が朝から核心を突くな。年長者への配慮をわきまえろ」


 火を点けると、ティアナが露骨に顔をしかめた。

 俺は舌打ちしながら二歩ほど風下へずれる。人に煙を浴びせて揉める方が面倒だ。


「……意外とそこは動くんだ」

「俺を何だと思ってんだ」

「地面で寝ながら煙草吸うおっさん」

「初対面の評価として最低だな」


 仕方なく身体を起こしたところで、腹の奥が鳴った。


 ぶっ。ぷすぷすー

 数秒、東門前の空気が止まった。


 ティアナがゆっくり俺を見る。


「はあ?おじさん……今、屁こいた?」

「生理現象だろ」

「女子の目の前なんだけど!?」

「屁に男女差別を持ち込むな!今は男女平等の時代だぞ」

「最低の平等論を朝一番で聞かされた!てかあんたさっき年齢マウントしてたよね」

「元気だなあ。若いっていいね」

「誰のせいで大声出してると思ってんのよ!」


 ジークフリードが顔を背けて肩を震わせている。

 笑ってんじゃねえ。


 その時、頭上で金色の光が弾けた。


「全員揃っていますね。では契約履行状況の観測を開始します」


 ゼニスだった。

 今日は深緑の迷彩服風ジャケットに細身のパンツ、首から双眼鏡、片手に地図板。髪まできっちりまとめている。無駄に様になっているのが腹立たしい。


「お前さ……何その格好」

「現地観測業務に最適化した装いです」

「双眼鏡まで持ってノリノリじゃねえか。このイカレ女神が、遠足気分で来やがって」

「誰が遠足ですか。あなたが本気を出さず、最低限だけ働く可能性が高いので監査に来たんです」

「信用がないな」

「昨日、ご自分で低評価を維持したいと宣言した方に言われたくありません」


 ティアナがゼニスと俺を見比べる。


「……女神?」

「そう。見た目だけはな」

「だけとは何ですか!だけとは!」

「中身は請求書とコスプレで構成されてるだいぶやばいやつだ」

「はあ!?!? あなたの中で私の神格どうなってるんです!?」


 ゼニスの朝一番の絶叫を背中に受け、俺たちは旧採石場(きゅうさいせきじょう)へ向かった。


 出発して十分で、俺はすでに帰りたくなった。


「ねえジーク、そろそろ休憩の時間だったりしない?」

「何を言っている。まだ王都の城壁が見えてるぞ」

「見えてるうちに休むのが安全管理だろ」

「あんたさ、ただ歩きたくないだけでしょ」


 ティアナが冷たく言う。


「違う。俺は長距離行動における疲労の蓄積を――」

「昨日LEVEL4だった人が急にそれっぽい言葉で誤魔化さないで」

「LEVELと語彙力は別だ」

「じゃあ、おじさんはそれだけ反論できる余力で黙って歩いて」

「年下に人権削られてる気がする――」


 ゼニスが後ろから淡々と追撃した。


「黒田さんの人権は削っていませんよ。無駄な休憩申請を却下しているだけです」

「お前は労務管理まで始めたのかよ、ブラック労働女神が!」

「借金回収のためです」

「目的が一切ぶれないの、ほんとに腹立つな」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 街道を外れてから一時間ほど。

 切り立った岩壁と、古い採掘道具の残骸が見え始めた。


 道中、ティアナは俺のLEVEL4がどうしても気になるらしい。


「ねえ黒田。あんた、魔法は?」

「使えるぞ。多分な」

「多分って何。簡単なのでいいから見せて」

「追加報酬出るかな?」

「出るわけないでしょ」

「じゃあ嫌だ!」

「そういうところが気になるから言ってるの!」


 あまりにうるさいので、指先へ小さな火球を作った。

 作ったところまではよかった。

 飛ばした瞬間、火球は俺が狙った枯れ枝の横を抜け、何もない岩へ当たって消えた。


 ティアナが無言になる。


「......風のせいだな」

「無風ですけど?」

「火の機嫌が悪かった」

「アンタね、素直に魔法が下手なの認めなさいよ! 魔力の出し方が雑なのよ! 術式(じゅつしき)を最後まで整える前に放してる! そのLEVELでなんで初級術がそんなに雑なワケ!?」

「必要になったら練習するつもりだ!」

「必要になってからじゃ遅いから練習するんでしょ!」

「俺と思想が正反対だな。お前とはマジで仲良くできそうにない」

「こっちの台詞だわ!」


 ゼニスが後ろでタブレットへ何かを書き込んでいる。


「おい、お前、何記録した」

「契約者、初級魔法技能の自主訓練意思なし、と」

「すぐに消せ。査定に響くだろ」

「響かせるための査定です!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 旧採石場の入口近くでは、小型の獣型魔物が数匹うろついていた。

 ジークフリードたちが前へ出る。


「黒田、後ろにいろ。無理に出なくていい」

「おう。そういう評価、すごく助かるわ。全力で応援してるぞ!がんばれー」


 俺は素直に岩陰へ座った。ティアナが二度見する。


「あんた、本当に座るの!?」

「戦わなくていいって言われたからな。指示遵守だ! 団体行動では重要だぞ?」

「都合のいい命令だけ守るのやめなよ!」


 カキン! バシュッ!!

 前では剣と魔法が飛び交っている。

 俺は鼻をほじりながら周囲を見た。


 足跡。

 削れた岩。

 倒れた荷車の木片。

 大型の何かが擦ったような跡。


「ジーク。左寄るな」

「え?」

「そこ、岩の裏から来るぞ」


 言い終える前に、小型魔物が岩陰から飛び出した。

 ジークフリードが反射的に身を引き、盾持ちが受け止める。


「……なんで分かった?」

「足跡がな」

「見えてたのか?」

「見えてたから言った」


 それだけ答えて、俺はまたしゃがみ込んだ。

 さらに一匹が飛び出したが、今度はティアナの魔法が先に叩き落とした。


「ほら。こういうのは練習してれば外さないの」

「俺に向けて撃つなよ」

「向けてない。あんたの横にいた魔物」

「俺の横で爆発した時点で体感上は同じだ」

「助けても文句言うの!?」

「無料なら礼は言う。ありがとう」

「……急に素直になると気持ち悪っ!!」

「礼言って損したわ、返してくれる??」


 戦闘が終わる。

 ティアナが俺の横へ来た。


「さっきの、偶然?」

「偶然でいいよ。その方が仕事増えないし」

「ほんっと、あんた意味分かんないんだけど」


 奥へ進むにつれ、俺は口数を減らした。


 荷馬車をひっくり返した跡は一つじゃない。

 地面の沈み方も、小型魔物のものじゃない。

 岩壁の高い位置に、新しい擦過痕(さっかこん)がある。


「ここまでで帰るぞ」


 ジークフリードが振り向いた。


「まだ群れの規模を確認してない。奥を見れば追加10枚だろ?」

「いらん」

「朝から金貨40枚って騒いでたのに?」

「命張って10枚拾うほど困ってねえ」

「手取り0になるって言ってただろ!」

「それはそれ。これはこれ」


 ティアナが眉をひそめる。


「怖くなった?」

「そう思っとけばいい」

「……何それ。やる気ないだけじゃなくて、都合悪くなると逃げるんだ」

「逃げるよ。生きて帰れるならな」


 ジークフリードの顔から、さっきまでのわずかな興味が消えた。


「分かった。あんたはここで待ってろ。俺たちだけで――」

()()()()


 自分でも驚くほど低い声が出た。


「今日は帰れ。奥の確認は別口で組み直した方がいい」

「根拠は?」

「説明すんのが面倒、だるっ」

「おい!」

「だから、俺は帰る。お前らが行くならこれ以上止めはしないがな」


 空気が悪くなる。


 その時だけ、ゼニスは何も言わなかった。

 双眼鏡を下ろし、俺が見ていた岩壁と地面を静かに確認している。


 結局、ガロンから「合同調査は無理をするな」と言われていたジークフリードたちも引き返した。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 夕方、ギルドに戻った。


 受付嬢リゼットが報告書を確認し、営業スマイルのまま告げた。


「小型群の確認と街道周辺の安全確認までは完了。ただし大型個体及び群れの規模は未確認ですので、追加報酬条件は未達ですね。報酬は金貨30枚です」


「……えっ、待って」

「はい」

「30?」

「30枚です」

「40じゃなく?」

「30枚です」


 俺は両手で頭を抱えた。


「30枚だと俺の取り分ゼロなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 リゼットの笑顔が一ミリも崩れない。


「存じております」

「知っててそんな穏やかな顔できる!?」

「昨日までに十分学習しましたので」


 背後でティアナが呆れた声を出す。


「命張って10枚は嫌なのに、30枚で手取りゼロだとそこまで叫ぶんだ」

「命と金は別会計なんだよ!」


 ゼニスだけは俺を見ず、金縁バインダーへ一行だけ何かを書き加えていた。

 嫌な予感しかしなかった。


【今月のご請求】


・合同依頼現地監査費          金貨70枚

・戦力観測記録同期費          金貨50枚

─────────────────

今回加算                金貨120枚

日本円換算               600,000円相当


前回繰越残高              金貨22,550枚

合計残高                金貨22,670枚

日本円換算               113,350,000円相当


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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