↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#21 取り立て屋も取り立てられる(正式名称:神界契約維持査定及び債務管理対応)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/126

第78話 借金持ち同士で仲良くしろ

 神界監査の最終確認は、なぜかまた「やどり木」の食堂で行われた。

 理由は簡単だ。俺が神界へ行くのを嫌がり、ミャオが宿を空けられず、モグが昼飯から離れず、ルヴィアが「でしたら会議室くらいわたくしが用意しますわ!」と宿の一角を勝手に豪華に改装しかけたため、全員から止められた結果である。


 長机の上には帳簿が三冊。ミャオの生活債務帳簿。ゼニスの神界契約帳簿。銭神の上位精算帳簿。そして、その隣に菓子皿が五枚あった。――もちろん会議開始から三分で、モグが四枚食った。


「おい。会議用菓子を会議前に消すな」

「まだ一枚あるじゃろうが」

「そういう問題じゃねえ」


 ゼニスは今日は金融機関の窓口責任者を意識したらしい。白いブラウス、濃紺のベスト、細身のスカート。艶のある黒髪を後ろでまとめ、胸元には金色の小さな神界章まで付いている。立っていれば、借金相談へ来た客を一発で緊張させるタイプの美人である。


「黒田さん。先に言います。私の衣装へ余計なことを――」

「銀行の支店長代理みたいだな。似合ってるぞ」

「……えっ?」

「で、融資枠いくらよ?金利ゼロでいける?」

「褒めてくれたと思った私が馬鹿だったぁぁぁぁぁぁ!!」


 ゼニスが机を叩いた後、意地になったのか俺の隣へ腰を下ろした。きっちりした制服姿のまま脚を組み、琥珀色の目でこちらを覗き込む。

「では黒田さん。相談担当として、もっと親身な距離で返済計画を一緒に考えて差し上げましょうか?」

「お前近い近い。帳簿が見えねえだろ」

「私じゃなく帳簿ぉぉぉぉぉ!? 少しくらい私を見て動揺しなさいよ!」

「借金四万七千枚の前では美女も数字に負けるんだわ」

「それ褒めてるようで一切嬉しくないぃぃぃぃ!!」


 ゼニスが机をバシンと叩く。銭神は銭・湯飲みをすすった。


「ゼニスちゃん。机は宿の物じゃよ、下界のものに軽々しく干渉してはならん」

「す、すみません……」


 ゼニスが即座に小さくなる。俺は笑った。


「ひっひっひ、やっぱお前、完全に部下じゃん」

「誰のせいでこの席にいると思ってるんですか」

「知らん」

「お前だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 銭神が帳面を開いた。


「黒田さんの借金は黒田さんのもの。ただし、ゼニスちゃんは奇跡や転送を先に動かすため、神界側で精算責任を持っとる。黒田さんの支払いが遅れれば、ゼニスちゃん側の査定も悪くなる。戦争規模の利用が続いたから、今は特にね」


 俺はゼニスを見た。ゼニスは目をそらした。


「んだよ……お前も借金持ちじゃねえか」

「正確には立替精算責任です」

「よっ!借金後輩」

「違います」

「債務者二等兵殿!!」

「階級を作るな」

「もち俺の下な」

「誰があなたの下だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!私は女神ですよ!!」


 ミャオが帳簿をめくった。


「はいはい、二人とも債務者の上下関係を作ってる暇があるなら数字を見るにゃ。陸が一月に最低何枚なら返せるのか、ゼニスが緊急時以外の転送やオプションをどこまで減らせるのか、そこから決めるにゃ。宿のツケだって同じだけど、『いつか払う』は計画じゃないにゃ」

「確認なんだけど、その計画って月に一回以上働く前提?」

「最低限にゃ。今の残高で『働かないけど自然に減る』なんて都合いい仕組みはないにゃ」

「じゃあ設計思想が俺に合わない。却下で!」

「開始三秒で返済計画そのものを拒否するなにゃぁぁぁぁ!! せめて金額を見てから嫌がれにゃ! ミャオだって陸が払える線まで下げようとしてるのに、努力する前からゼロを要求するなにゃぁぁぁ!!」


 ルヴィアが扇子をぱちんと開いた。


「そんなに面倒なら、わたくしがまとめて払って差し上げますわ。金貨五万枚程度でしょう? わたくしからすれば、端数とまでは申しませんけれど……まあ、大した額ではありませんわね」


 ぱらり、とミャオがめくりかけた帳簿の紙が途中で止まった。


 ゼニスも止まった。

 リリアも止まった。

 俺も止まった。


「……五万枚全部?」

「ええ。必要なら、ですけれど」


 椅子が後ろへ擦れる音がした。俺は立ち上がった。


「ルヴィア様」

「な、なんですの、その急な呼び方は」


 さっきまで「金持ち竜」だの「スポンサー」だの呼んでいた相手である。それが今は背筋まで伸ばし、両手を腹の前で揃え、社会人時代でも滅多に見せなかった完璧な営業姿勢になっている。


「今まで高貴なる貴女様への数々のご無礼、本当に申し訳ございませんでした」

「な、なんですの! 急に怖いですわよ!?」


 俺はそのままルヴィアの前まで歩き、うやうやしく片膝をついた。


「ルヴィア様」

「ちょ、ちょっと待ちなさい。なぜ跪きますの!?」

「結婚を前提に、資産管理を俺へ任せていただけませんでしょうか」


「最初から財産目当てじゃありませんのぉぉぉぉぉ!!」

「間違えました」

「間違える場所ではありませんわ!!」


 俺は咳払いを一つして、ルヴィアの白い手を両手でそっと取った。


「下賤なわたくしめではございますが、どうか一生、あなた様のおそばで――」

「目が怖い! わたくしではなく、その後ろに積まれた金貨を見てませんこと!?」

「気のせいです。今の俺にはルヴィア様しか見えてません」


 モロバレの嘘だった。

 俺の脳内には、金貨五万枚という数字が黄金色に輝いていた。たぶん俺の目には¥マークが映っていることだろう。


「ルヴィア様。どうか俺と結婚してください」

「わ、わたくしだって気持ちの準備というものがありますわ! そ、それに、わたくしは竜ですのよ!? あなたは人間でしょう!?」

「種族なんて関係ありません!」


 俺は握った手へさらに力を込めて、大演説をぶちまけた。


「愛があれば、寿命も種族も世界の壁も乗り越えられるのです!」

「り、陸様……」


 ルヴィアの頬が一気に赤くなる。


「俺は今、確信しました」

「な、何をですの……?」

「金貨五万枚の前では、大抵の壁は乗り越えられると」

「やっぱり金目当てですわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ばしんっ!!

 開いた扇子が俺の額へ直撃した。


「あ痛っ!?」


「わたくし一瞬、本気で騙されましたのよ!? 途中までちょっとだけ、ほんのちょっとだけ嬉しかったわたくしの気持ちを返しなさぁぁぁぁぁい!!」

「いや待て。金持ってるところも含めてルヴィアの魅力じゃねえか」

「一切フォローになってませんわぁぁぁぁ!!」


 横からミャオの毛が逆立った。


「陸ぅぅぅぅぅ!! お前ほんっっっと最低にゃぁぁぁぁぁ!! 五万枚って聞いた途端、今まで見たことないくらい姿勢よくなったにゃ!!」

「冗談だって。八割くらいな」

「残り二割が本気なのが一番駄目にゃぁぁぁぁぁ!!」


 ゼニスも額を押さえていた。


「黒田さん……あなた、さっきまで契約だの人生だの真面目な話してましたよね?」

「したな」

「金貨五万枚で全部吹き飛ばすなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 さらにリリアが俺の肩へしがみついた。


「待って待って待って! 私への『考えとく』は三百年コースなのに、ルヴィアには五秒でプロポーズするのおかしくない!?」

「お前、五万枚持ってんの?」

「結局そこなのぉぉぉぉぉぉ!?」


 俺はルヴィアの手を離し、何事もなかったように椅子へ戻った。


「まあ、冗談は置いといて」

「置くなですわ!! わたくしの心拍数を上げるだけ上げて捨てるなですわぁぁぁぁぁぁ!!」


 その後、ミャオに尻尾で引っぱたかれた。銭神は笑ったまま首を振る。


「駄目じゃよ。個人間の借金ならともかく、因果契約そのものを第三者の財産で勝手に消すのは別の問題になる。ルヴィアちゃんのお金は大事にしなさい」

「初めて金持ち側を守る神を見た」

「銭神じゃからね。金は回すものであっても、捨てるものではないよ」


 なるほど。銭ゲバではあるが、筋は通っている。俺は「筋は通す銭ゲバ」に評価を一段だけ上げた。


「じゃあ増やすしかないな」

「嫌な予感しかしません」とゼニス。

「金を増やす方法は昔から三つある。働く、投資する、博打で当てる」

「最初のを選べにゃ!」

「俺の適性を考えろ。消去法で三番一択だろ」

「一番消しちゃいけない選択肢を最初に消すなぁぁぁぁぁぁ!!」


 ここに勇者アレクシスがいればファミチキで同意を買えたかもしれないが、今日は別任務でいない。残念だ。


「パチスロで一撃。競馬で万馬券。最悪、宝くじ。ラスベガスかマカオいって一攫千金ジャックポットもありだな」

「全部期待値の話からしましょうか?」とゼニス。

「ちっ、夢がない女だな」

「あなたの妄想に私の女神人生を巻き込むなあ!」


 俺は椅子へ深く座り直した。その時、腹の奥に微妙な圧を感じた。音を立てるほどではない。俺は何食わぬ顔で尻を少し浮かせた。すぅ――。数秒後、ミャオの猫耳がぴくっと動いた。


「……陸」

「何だ」


 ミャオが鼻をつまみながら言う。

「今、こいつ、し(・)た(・)にゃ」

「えー証拠はあるの?」

「鼻が動かぬ証拠にゃ!」


 ゼニスが一拍遅れて顔をしかめた。


「ちょっ……くさっ! 黒田さん!? 上位神監査の会議中にすかしっぺしましたね!?」

「会議が長いからだ。換気不足」

「放屁を施設管理の責任に転嫁するなぁぁぁぁぁぁ!!」


 銭神だけは平然と湯飲みを置いた。


「昔の大家業でもねえ、こういう人はおったよ。家賃の話になると急に腹が痛い、親戚が倒れた、財布を落とした。人間は金の前でいろんな音を出すねえ」

「やっぱ大家経験あるだろ、ババア」

「ふん、さてねえ」


 銭神は最後の紙をゼニスへ渡した。


「過去接続は確認できた。ただ、望月ひなたさんだけ残留因果が高い。世界間接続を継続するなら、今度は本人を短時間こちらへ通して、第三者立会を取った方がええね」


 俺の笑いが止まった。


「待て。ひなた本人をこっちへ呼ぶってことか?」

「一日だけ。保護を付けてね」

「駄目だ。あいつは現役だぞ。こっちの借金地獄に巻き込むんじゃねえ」

「珍しくまともな理由ですね」

「珍しいが余計だわ」


 ゼニスは俺の反発を待たず、監査結果をそのまま続けた。


「でも、現代側の接続痕跡を確認するには最適です。以前の黒金の欠片との関連もあります。本人へ説明して、同意を取ります」

「断れって言っとくぞ俺は」

「それは本人が決めることです」


 正論だった。本当に正論というものはこういう時に面倒だ。


【神界・追加ご請求】


 ・上位監査最終照合費         金貨80枚

 ・第三者立会計画作成費        金貨50枚

 ・現代側接続候補保護予備費      金貨30枚

 ─────────────────

 今回加算               金貨160枚

 今回加算・日本円換算         800,000円相当

 前回繰越残高             金貨47,014枚

 前回繰越残高・日本円換算       235,070,000円相当

 合計残高               金貨47,174枚

 合計残高・日本円換算         235,870,000円相当


「計画作っただけで八十万って……」

「黒田さん?」

「いや。今ちょっと、大家に家賃の相談する方が優しい気がしてきた」

「比較対象がおかしいです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。