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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#20 敵だけ射程料金ゼロ(正式名称:東方長距離砲撃対抗及び国境火力抑制作戦)

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第72話 レベルが上がるほど借金も育つ

 夜間の砲撃は止まった。止まったから俺は帰って寝た。そして朝、目を覚ました時点で、昨日の最高LEVEL58はきれいに消えていた。


【黒田陸 LEVEL 9】


「……昨日の俺、どこ行った?」


 野営地へ再召喚されながら俺が聞くと、ゼニスは事務的に答えた。今日は神界の金融監査でも意識したのか、濃紺のタイトスーツに細縁眼鏡、髪まできっちりまとめたキャリアウーマン仕様である。本人は書類を胸元へ抱え、俺の視線に気づいたように少しだけ口角を上げた。


「昨日のあなたは昨日のあなたです。現在値はこちらです。……それで、今日は珍しくこちらを見ていますね。やっとこの格好の良さが分かりました?」


 俺は鼻をほじり、眼鏡の奥ではなくバインダーの厚みを見る。


「いや。今日の請求書、厚くねえかと思って」

「私より紙束を見るなぁぁぁぁぁぁ!! ちょっとくらい誘惑に引っかかれこの朴念仁んんんん!!」

「引っかかったら割引すんの?」

「しません!」

「じゃあそんなものに用はない」

「損得勘定で色気を即死させるなぁぁぁぁぁぁ!!」

「能力は日払い、借金だけ終身雇用。やっぱ契約としておかしい」

「まず鍛錬を継続してください」

「だから昨日しただろ!」

「たった三日で威張らないでください!」


 アンディが横で微妙に申し訳なさそうな顔をしている。


「師匠。俺、今日レベル33です」

「言わなくていい。朝から傷口へ塩塗るなよ」


 ポーレンが眼鏡を押し上げる。


「しかし師匠。これは我々へ『基礎を鍛えよ』と身をもって示す高度な教育では――」

「違う。俺はただサボってるだけだ。何回言わせんだよ」

「またご謙遜を――」

「ポン、お前の中の俺を一回殺せ。そいつ実在しないから」


 笑っていられたのはそこまでだった。

 ノエルの感知魔導具が鋭い音を立てる。


「東側、大規模集束! 昨日より強いです!」


 エドガーが即座に立ち上がった。


「全員、昨日と同じ配置へ。砲兵は待機。発射主体が確定するまで無闇に応射しない!」

「そのままでいい。こっちが先に戦争始めた記録だけは残すな」


 外へ出ると、東の空が一度ではなく連続して白く光った。今度は遠くの雷みたいな曖昧さがない。嫌な規則性で、複数の光が山の向こうへ消える。


「来るぞ。数、多い、としか今はわからん!」


 ゴォォォォォォ――!!


 一射目が拠点北側へ落ちた。続けて二射目。三射目。地面が一度揺れて終わるのではなく、腹の奥へ何度も振動が重なる。空気が土と煙で濁り、王国兵の怒鳴り声が飛び交った。


【特性即応(クイック・レスポンス) 高危険度連続戦闘判定】

【|即日レベルアップシステム《インスタント・レベリング》 緊急起動】


【LEVEL 9→17】

【LEVEL 31】


「チクショウ、また始まった……!」

「黒田さん、料金は戦闘後です!」

「知ってるわぁぁ!!昨日俺が言った台詞をお前から言われると腹立つ!」


 南側で悲鳴が上がる。砲撃だけではない。昨日遠くにいた人影が、今日は明確な部隊として見え始めていた。その手前を魔物が逃げ、さらにその後ろから帝国側らしい兵が進んでいる。誰が誰を追っているのか、遠目ではまだ分からない。


 ロイドとタンナーが左右へ分かれた。


「黒田! 西へ回る群れがいる!」

「タン、そっちは避難民側へ行く。アンとアレクシス回せ!」


 身体が軽くなる。


【LEVEL 48】

【LEVEL 66】


 走る速度が、自分でも気持ち悪いくらい上がる。倒れた兵士を土塁の陰へ運び、次の瞬間には別の場所へ戻れる。レベルという数字が、文字どおり身体能力へ直結している。


 シェリアが俺の横へ降りた。


「ねえ。三日前、あんた私たちの後ろで息切れしてたよね?」

「金払うとこうなる」

「相変わらず、金で説明つくの怖いんだけど!」


 エルミナは別の意味で目を輝かせていた。


「ゼニス様、この成長曲線を一部だけ解析しても――」

「契約情報なので駄目です!」

「表示されている数値だけでも!」

「駄目です!」

「魔力変化量を外から測るだけなら!」

「だから駄目ですぅぅぅぅぅ!!」

「お前ら戦場で研究倫理の喧嘩すんな!」


 四射目が近くへ落ちる。俺は地面へ伏せ、衝撃が抜けてから立ち上がった。


【LEVEL 91】

【LEVEL 117】


 ティアナが俺の横へ来る。


「黒田、身体は?」

「軽い。たぶん今ならアン担いで走れる」

「じゃあ魔力も少しは――」

「それ今試すの?」

「試してみてよ!」


 俺は掌を前へ向けた。


「ファイア!」


 ぽすっ。


 親指ほどの火が出て、風に揺れて消えた。

 周囲が一瞬静かになる。

 シェリアが目を細めた。


「……今レベルいくつ?」


 ゼニスが表示を見る。


「136です」

「はああああ? 百三十六で、それ?」

「技術は別だっつってんだろ! レベルは身体、魔法は練習! 三日ダンジョン潜ったけどファイアの練習してねえから変わらねえんだよ!」


 ティアナが額へ青筋を浮かべる。


「だから魔法も訓練しろって何十回言わせるのよぉぉぉぉぉ!!」

「今は大砲飛んでるから後にしろぉぉぉぉ!!」


 砲側では、昨日から残していた89式とMINIMIの警戒班が小型魔獣を食い止めている。FH-70まで寄らせないための仕事を別の連中が回しているから、俺たちは前の大型へ集中できる。


「昨日の訓練、ちゃんと役に立ってるじゃない!」

「役に立ったのは認める! だからって毎朝訓練する契約には同意してねえ!」


 そこへ東側の斜面から大型魔獣が一体突っ込んできた。アレクシスが正面へ入るが、その後ろにも複数いる。俺は走った。レベルがさらに跳ねる。


【LEVEL 158】


 一体の進路へ入り、横から身体を押す。普通なら人間側が吹き飛ぶ質量だが、今は逆に魔獣の肩が大きく逸れた。アンディが目を見開く。


「師匠! 昨日よりまた強い!」

「金払ってんだから当然だろ! お前らの三十レベルは努力! 俺の百五十八はクレジットカードだ!」

「例えがよくわからないけど、悲しすぎるってことだけはわかります!」


 アレクシスがルクシオンで最後の個体を止め、シェリアが足を射抜き、ティアナの魔法が人のいない方向へ押し返す。帝国側の部隊も一度後退したため、昼過ぎには砲撃が途切れた。


 俺はその場へ座り込む。


「……よし。今日は俺、強かった。もう帰るぞ」


 ゼニスが静かにバインダーを開いた。


「では、その前に」

「見るな。今日の俺はレベル百五十八だぞ。請求書くらい腕力で破れるぞ」

「破っても債務記録は消えません」

「電子化社会の悪いところ出てるぅぅぅ!!」


【神界・追加ご請求】


 ・即レベ高危険度緊急起動料      金貨300枚

 ・超高危険度急速成長利用料      金貨3,420枚

 ・連続砲撃下因果安定化補助費     金貨360枚

 ・戦場生命維持・監督費        金貨160枚

 ・戦闘後現代側帰還処理費       金貨20枚

 ─────────────────

 今回加算               金貨4,260枚

 今回加算・日本円換算         21,300,000円相当

 前回繰越残高             金貨39,114枚

 前回繰越残高・日本円換算       195,570,000円相当

 合計残高               金貨43,374枚

 合計残高・日本円換算         216,870,000円相当


 ※最高到達LEVEL 158。

 ※魔法技量はLEVEL上昇のみでは向上しません。


「二千百三十万円……。これ、俺がレベル上がったんじゃなくて借金がレベルアップしてねえ?」

「黒田さん本人も最高百五十八まで上がりましたよね!」

「ダンジョンで普通に十三まで上げて喜んでた俺、馬鹿みたいじゃん。三日かけた努力を数分で札束が追い越してんぞ!?」

「普通の鍛錬と緊急課金成長は意味が違います。基礎を上げた分は無駄ではありません!」

「じゃあ二千百三十万返して、俺十三でいい。慎ましく生きる。今なら真人間になれる気がする!!」

「返金不可ですし、その程度で真人間になれるなら最初からなってください!」

「この羽根付き消費者金融がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! レベルより借金育ててどうすんだクソ女神ぇぇぇぇ!!」

「育てたのはお前の利用履歴だぁぁぁぁぁぁ!!」


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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