↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#19 今さらダンジョンに潜るのかよ(正式名称:基礎戦闘能力向上及び地下迷宮資源回収訓練)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/126

第70話 レアドロップ出るまで帰らんぞ

 三日目。俺は朝から迷宮へ入りたくなかった。脚は重いし、肩も張っている。即レベを切って普通に動いた結果、三十二歳の身体へ三十二歳らしい疲労が返ってきた。これが健康的な成長というなら、俺は不健康でいい。


「今日は入口付近で待ってる。お前ら深層行ってレアだけ持って帰ってきて」


 そう提案すると、ロイドが腕を組んだ。


「分け前どうする?」

「俺が情報提供と全体監督で三割」

「情報持ってきたの俺だぞ」

「じゃあ二割五分でいいや」

「お前昨日ほぼ後ろで指差してただけだろ。一割だ」

「指差しを舐めるな。方向を示すのは指揮だぞ!」


 アレクシスが呆れた顔で二人の間へ割って入った。


「そもそも訓練なんですから、黒田さんも行くんですって。ロイドも最初から分配交渉を始めないでください」

「勇者様、金銭管理を軽視するとパーティ破綻するぞ?」

「そうそう。仲間だからこそ金は明確にしろ。人間関係は曖昧な金から壊れるもんだ」

『その二人が並ぶと、急に説得力と胡散臭さが同居するな』


 ルクシオンの評価は正しいので無視した。


 深層へ向かう途中、昨日までより敵は明らかに強くなった。岩壁へ擬態する【鉱脈喰らい(ヴェイン・イーター)】、天井から落ちる粘体、魔力を含んだ石片を吐く小型魔獣。勇者パーティは久しぶりの再集合とは思えないほど自然に動いた。


 ロイドが罠と進路を先に確認する。シェリアの矢が敵の移動を縫い止め、エルミナが結界を張りながら必要な場所だけ魔法を重ねる。アレクシスとルクシオンは一番危ない相手を正面から受け、互いの声が短くなる。


『勇者。次、上だ』

「分かってる!」


 白銀の斬撃が落下してきた魔物を弾き、シェリアの矢が壁へ縫い付ける。ロイドがその間に奥の罠を解除し、エルミナは後方へ回った一体を風魔法で押し戻した。


「……お前ら、普通に強かったんだな」


 俺が言うと、アレクシスが戦闘中とは思えない顔で振り向いた。


「何だと思ってたんですか!?」

「最近ファミチキ食ってるか、聖剣で肉焼いてるかしか見てなかったからさ。お前らが勇者パーティだってこと、忘れかけてた」

『貴様が我々の日常を壊している側だろうが!!』

「大丈夫。戦闘ではちゃんと尊敬してる」

「戦闘以外でも少しはしてください!」


 シェリアが笑いながら矢をつがえる。


「勇者様、諦めな。黒田に尊敬を求める方が疲れるよ」

「シェリアまで!」


 俺自身も少しずつ上がった。即レベほど派手ではないが、戦うたび身体の動きが軽くなる。


【LEVEL 10】

【LEVEL 11】

【LEVEL 12】

【LEVEL 13】


 十三まで来た時には、俺も少しだけ機嫌が良かった。


「見ろティアナ。努力したぞ。俺、努力した」

「三日でそこまで恩着せがましく言えるの逆にすごいわね」

「人間は褒めて伸ばせ。特に俺は褒めないと伸びない」

「褒めても翌日寝るでしょ」

「よく分かってるじゃん」


 最深部手前で、ロイドが壁際の古い扉を見つけた。周囲だけ鉱石の色が違い、鍵穴には何重もの傷がある。


「これ、当たりかもしれん」


 全員の空気が変わった。


 俺とロイドの目が同時に光る。


「開けろ」

「言われなくても、お宝の匂いがするんだ開けるに決まってるさ」


 アレクシスが嫌な予感を覚えたらしい。


「二人とも、訓練目的を忘れてませんよね?」

「忘れてない。訓練の成果としてレアを取る」

「結果が出れば訓練のモチベーションも上がる」

「ロイドまで黒田さん側へ行かないでください!」


 ロイドが罠を慎重に確認し、扉を開ける。奥には小さな石室があり、中央の台座に青白い晶石が一つ置かれていた。


「……【蒼晶魔核《ブルー・クリスタル・コア》】」


 エルミナが眼鏡を押し上げる。


「こ、これは、とても純度が高いです。内部構造を割って確認すれば――」

「駄目!!」


 俺とロイドの声が完全に重なった。


 エルミナが不満そうに見る。


「研究価値があるんですよ?」

「換金価値もあるだろうが」

「研究は売ってから別個体でやれ」


 アレクシスが額を押さえた。


「なんでそこだけ完璧に息合うんですか……」


 その時、石室の奥が低く鳴った。


 ゴゴゴゴゴゴ……。


 床へ刻まれた古い術式が光り、岩壁の一部が内側から崩れる。現れたのは、人型に近い巨体だった。全身が鉱石と岩盤で構成され、胸の中心には、さっきの魔核より大きな青い結晶が脈打っている。


【晶核守護巨人《クリスタル・ガーディアン》】


 ロイドが一歩引く。


「……これ、情報になかったぞ」

「レアの守り神セット販売かよ。いらんオプション付けんなよなあ」


 巨人が腕を振る。空気が重く押され、石室の床が一撃で砕けた。アレクシスが正面へ入り、ルクシオンで腕を受けるが、足元が数十センチ滑る。


『勇者、これは軽くないぞ!』

「ああ、分かってる!」


 矢継ぎ早に放たれたシェリアの矢が関節へ刺さる。エルミナの魔法が胸の結晶を覆う障壁を解析し、ロイドが背後へ回る経路を探す。三馬鹿も動いたが、巨人が踏み込むたび迷宮そのものが揺れた。


 ゼニスの表示が赤く染まる。


【危険判定:上昇】

【即レベ抑制継続限界】


「黒田さん。停止を解除します」

「待て! 十三まで普通に上げたんだぞ。もうちょい地道に――」

「生命危機です!」


【特性即応(クイック・レスポンス) 緊急判定成立】

【|即日レベルアップシステム《インスタント・レベリング》 強制再起動】


「俺の今までの努力はぁぁぁぁぁぁ!!」 俺の悲しい絶叫と共に、ステータスウィンドウが開いてしまった。


【LEVEL 18】

【LEVEL 27】

【LEVEL 41】

【LEVEL 52】

【LEVEL 63】


 身体が一気に軽くなる。三日かけて登った坂道を、エレベーターで全部飛ばしたような感覚だ。ありがたい。ありがたいが、異次元レベルに腹が立つ。


「ティアナ! 俺の普通の三日間、意味あったか!?」

「あるわよ! 今それ聞く時!?」

「だって十三から十八、一瞬だったぞ!」

「命守る方を先に考えなさい!」


 巨人がアレクシスを押し込む。俺は地面を見る。重い巨体は真っ直ぐ進む分には速いが、崩れた床を避ける時に必ず一度体勢が止まる。


「シェリア、左関節。壊さなくていい、動きだけ止めろ。エルミナ、胸の障壁が薄くなる瞬間ある?」

「攻撃直後です。結晶から腕側へ魔力が流れた瞬間だけ、胸部が薄くなります!」

「ロイド、後ろ回れるか」

「十秒くれ」

「五秒」

「給料上げろ!」

「レア出たら考える!」


 アレクシスが笑った。


「黒田さん、そこでも金なんですね!」

「平常心維持だよ!」


 ルクシオンが白銀の光をまとった。


『勇者。来るぞ』

「分かってる。黒田さん、次で開けます!」

「期待すんな。できる範囲だけやる」


 巨人が腕を振り上げた。シェリアの矢が膝の継ぎ目へ連続して刺さり、片脚の動きがわずかに鈍る。ロイドが背後から注意を引き、エルミナの結界が崩れた石片を受け止める。


 巨人の攻撃が空を切った。


 胸の障壁が薄くなる。


「アレクシス、今だ、いけぇ!」

「はい!」


 白銀の光が走った。胸の結晶へルクシオンが深く入り、遅れて青白い亀裂が全身へ広がる。巨体が一歩、二歩と後退し、最後は迷宮全体を震わせながら膝をついた。


 ズズズズズ……ドォンッ――!!


 石片と粉塵が広がり、しばらく誰も動かなかった。煙が薄くなる。


 中央に、大きな青い魔核が残っていた。

 ロイドと俺が同時に走った。


「レアだあああっ!」

「俺が先だぞ!!」


「戦闘後に勇者より速く宝へ走るなぁぁぁぁ!!」


 アレクシスの絶叫が迷宮へ響いた。


 その夜、現代へ戻った俺は缶ビールを一本開け、四畳半の万年床へと沈んだ。身体はLv63の余韻で妙に軽いのに、三日間まともに動いた疲れは残っている。腹を少し出したまま横向きになり、片肘で頭を支えるいつもの涅槃姿勢へ収まったところで、金色の光が部屋を照らした。


 現れたゼニスは、今度は宝石鑑定士でも意識したのか、黒いタイトスカートに白手袋、細縁眼鏡まで掛けていた。胸元へ小さなルーペを下げているあたり、本人だけはかなり乗り気らしい。


「どうですこれ? レアドロップの鑑定業務ですから、少し知的にまとめてみました」

「コスプレ大好きだよなお前......で、ルーペ小さすぎて魔晶核見えねえだろ。それより鑑定額いくら?」

「そこじゃない! 少しくらい私自身を鑑定しなさいよ!」

「査定したら債務超過って出そうだわ」

「女神を企業価値で見るなぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺はビールを一口飲み、何事もなかったように続けた。


「まあいい。レアも出た。明日売って、少しでも借金へ――」


 ゼニスが金縁バインダーを開く。俺はその動きを見た瞬間、さっきまでの希望が急速にしぼむのを感じた。


「その前に、本日の緊急再起動分です」

「……先に言うな。酔いが醒める」


【神界・追加ご請求】


 ・即レベ緊急強制再起動料       金貨300枚

 ・高危険度急速成長利用料       金貨1,260枚

 ・迷宮深層因果安定化費        金貨140枚

 ・戦闘監督・緊急解除処理費      金貨40枚

 ・現代側戦闘後帰還処理費       金貨20枚

 ─────────────────

 今回加算               金貨1,760枚

 今回加算・日本円換算         8,800,000円相当

 前回繰越残高             金貨36,014枚

 前回繰越残高・日本円換算       180,070,000円相当

 合計残高               金貨37,774枚

 合計残高・日本円換算         188,870,000円相当


 ※最高到達LEVEL 63。

 ※蒼晶魔核等のダンジョン取得物は鑑定・売却前のため本請求へ未充当。


「八百八十万円……」

「はい」

「レアドロップ、いくらで売れる?」

「鑑定前です」

「八百八十万超える?」

「現時点では保証できません」


 俺は缶ビールを置いた。


「ロイド。明日もう一周するぞ」


 横で通信魔導具からロイドの声が飛んだ。


『やるか』

「やるなぁぁぁぁぁぁ!! 赤字を周回数で取り返そうとするな! それギャンブルで負けた人間と同じ思考でしょうがぁぁぁぁぁ!!」

「違う。こっちは敵倒せばドロップする。期待値が目に見えてるから健全だろ?」

「『次は出る』って言ってる時点で同類ですぅぅぅぅ!!」


 俺は返事の代わりに身体を少し傾けた。尻から派手な音は出なかったが、数秒後、ゼニスの表情がゆっくり変わる。


「……黒田さん」

「何」

「今、すかしっぺしましたよね?」

「気のせいだ。レアドロップの魔力残滓じゃねえかな?」

「異臭までダンジョン産に偽装するなぁぁぁぁぁぁ!! 窓ぉぉぉぉ!!」


 ゼニスの絶叫で夜が終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。