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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#16 異世界砲兵も話が長え (正式名称:東方砲撃脅威調査及び王国魔導砲兵共同運用)

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第57話 訓練なのに即レベ課金すんな

 演習二日目。ノエルと俺は朝から、互いの観測方法の違いを比べていた。遠方の丘へ置かれた標的に対し、ノエルは遠見と測距術式で現在位置を細かく出す。俺はそこまで正確な数字を出せない代わりに、地面の起伏、移動経路、障害物の位置から「次にどこへ動きそうか」を読む。


「私は『今いる場所』を精密に測る。黒田さんは『次に行きそうな場所』を先回りして読む。役割が違うわけですね」

「そういうこと。現在位置を外せば予測もクソもないし、動く相手へ現在位置だけ撃っても遅れる。両方ある方が楽だ」


「説明はまともなのに生活態度が残念みたいですね」

「仕事の評価に部屋のゴミ量を持ち込まないでくれない?」


 その横ではリリアが演習場の端に立ち、胸へ大きな板を掛けていた。板には本人の手書きで『撃たないでね!』と書いてある。


「お前、なんで来た」

「昨日標的役を却下されたから、安全確認係! 危ない場所があったら私が先に行く。死なないからね!」

「その板は?」

「誤射防止で!」

「お前が一番訓練場を不安にさせてるんだよ」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 午前の実射が始まった。王国魔導砲が低い唸りを上げ、術式板の光が一気に集束する。ドォンッ――!! 音というより圧力の塊が胸を押し、少し遅れて遠方の斜面が爆ぜた。土と石が扇状に跳ね上がり、落ちてくるまでの数秒だけ周囲の兵士が静かになる。


「……ちゃんと大砲だな。音と振動が腹に来るところまで含めて、嫌な懐かしさがある」

「褒め言葉として受け取っておこう」


 エドガーが少し笑った。


 数発目までは完全に訓練だったので、俺は念のためゼニスへ確認した。今日は演習監督官を意識した腕章姿で、すでに端末を開いている。


「今、即レベ動いてないよな? 訓練で料金まで取られたら、俺は訓練を違法行為とみなすぞ」

「模擬標的では【即応(ラピッド・レスポンス)】の実戦判定は成立していません。ただし演習立会費は別です」

「俺が安心する前に追加料金差し込む才能だけ神域だわお前」


 その直後だった。


 地面の下から、演習場全体を揺らすような低い音が響いた。ゴゴゴゴゴゴ……と振動が靴底から脚へ登り、標的丘の土が細かく崩れ始める。最初は地鳴りかと思ったが、ノエルの顔色が変わった。


「地下に大きな魔力反応! さっきまで眠っていた個体が、こちらへ上がってきます!」

「射撃で起こしたか?」


 エドガーが即座に砲列へ向き直る。


「全砲、射撃停止! 人員退避! 魔石機関を安全状態へ!」


 次の瞬間、標的丘の手前が内側から膨れ、ズガァァンッ――!! という爆音とともに土砂が吹き上がった。現れたのは全長十数メートル、背中を岩のような鱗で覆い、頭部の左右から湾曲した角を伸ばした巨大な地竜だった。


【砲殻地竜《キャノンシェル・ドレイク》】


 怒り狂った地竜が砲列を見た瞬間、リリアが板を投げ捨てて前へ走った。


「待ってました実戦! こういう時こそ死なない私が――」

「リリア、正面行くな!」

「え、陸が心配して――」


 ドゴォンッ!!


 地竜の尾が横薙ぎに振られ、リリアの身体が紙切れみたいに飛んだ。演習場脇の土手へ突っ込み、黒いローブだけがひらひら落ちる。


「……言い終わるまで待ってくれない敵って失礼だよねぇぇぇぇぇ!!」

「生きてるな。よし」

「その確認もうちょっと愛情込めてぇぇぇぇ!!」


 俺はゼニスを見る。


「これ訓練だよな? 野生動物が勝手に乱入しただけで、俺は被害者だよな?」

「今この瞬間から実戦です!」


【特性即応(クイック・レスポンス) 戦闘判定成立】

【|即日レベルアップシステム《インスタント・レベリング》 緊急起動】


「勝手に区分変更すんなぁぁぁぁ!! 敵に同意書を書かせろ!」


「現在レベル4……6……9です」

「実況すんな! 数字が上がるたび財布が痙攣してんだよ!」


 崩れた穴から地竜だけでなく、怯えた小型魔獣まで何体か這い出してきた。砲側では退避途中の兵がまだ器材をまとめている。大型ばかり見ていれば、そっちへ小さいのが抜ける。


 共同訓練用の防護装備置場に、89式と見慣れた箱型の機関銃が並んでいた。5.56mm機関銃MINIMI。俺は思わず眉をしかめる。


「お前まで異世界来てたのかよ……」

「黒田さん、感傷に浸っている場合ではありません!」

「感傷じゃねえ。『訓練に来ただけなのに何で装備が増えてんだ』って現実逃避だ!」


 砲側警備へ回っていた王国兵と役割を分け、小型魔獣が退避人員へ寄るのを止める。ガガガガガガッとMINIMIの連続した発射音が岩場へ反響し、ティアナが耳を押さえた。


「大砲の横で、なんで近くからまでこんなうるさいのよ!」

「俺に言うな! 大砲守る側にも仕事があるんだよ!」

「じゃああんたが働きなさいよ!」

「今まさに働いてるだろうが! 歴史的瞬間だぞ、もっと敬え!」


 小型群が砲列から外れたのを確認し、俺は視線を地竜へ戻した。あいつだけは小銃や機関銃でどうにかする相手じゃない。


 地竜の前脚が地面を叩くたびに石が跳ねる。エドガーが砲列を散らし、ノエルが遠見を切って近距離観測へ切り替えた。


「黒田さん、左へ来ます!」

「いや、二歩目で右へ振る。左の地面が柔らかい。あの重さなら沈む方を嫌う!」


 地竜は一度左へ寄り、すぐ右へ頭を振った。ノエルが息を呑む。


「……読んだ?」

「当てずっぽうだ。外れた時に責任取られたくないから予測とは言わん」

「責任回避だけ一貫してますねえ!」


 ゼニスの声が速くなる。


「レベル12……17……23。対象危険度上昇、成長速度が加速しています」

「またか! 俺の人生だけ、高速レベル上げ動画みたいな速度で進むな!」

「29……35」


 地竜が尾を振り、砲側で固定具を外していた兵士二人が逃げ遅れる。俺は反射的に走った。


【LEVEL 43】


 十数メートルの距離が数歩で消えた。兵士二人の襟と装具を掴み、そのまま地面を蹴る。直後、さっきまで三人がいた場所へ巨大な尾が叩きつけられた。ドゴォォンッ――!! 土が爆ぜ、拳大の石が雨のように降ってくる。


「現在レベル51……58……61」


 エドガーが俺を見た。


「お前、本当に人間か?」

「金払って一時的に人間やめてるだけだ! 説明してる俺も意味分かんねえが!」


 土手から復帰したリリアが「私も仲間だねー!」と叫ぶ。


「お前は三百年前から死んでるだけだろ!」


 地竜がこちらを向く。俺は掌を上げ、今度こそ少しくらい威力が出るだろうと期待した。


「ファイア!」


 ぽっ。


 小さな火が生まれ、地竜の鼻先へ届く前に消えた。ノエルが本気で困った顔をする。


「……今のは何を?」

「威嚇してみた」


「お前嘘つけぇぇぇぇぇ!! 普通に届いてないだけでしょうが!」


 ティアナが後方から怒鳴る。


「レベル上がっても魔法技術は上がらねえんだよ! エンジンだけ高級車でも運転手が俺なんだからしょうがねえだろ!」

「言い訳が前と同じなんだよ!だから訓練しろぉぉぉぉぉ!!」


 地竜が咆哮する。ここで笑っている場合ではなくなった。俺は地形、砲列、退避方向、地竜の足、ノエルが出した現在位置を見る。余計な言葉が落ちる。


「エドガー。正面から止めるな。右へ誘導する。左脚に古傷がある。全力で曲がる時、右へ体重を逃がすはずだ」

「根拠は十分か」

「十分じゃない。だからノエルとティアナで補う。ノエル、今いる場所じゃなく動いた後を追え。ティアナ、右側の地面だけ崩して進路を作れ。リリアは砲列から離れた位置で囮、ただし正面で受けるな」


「えっ、私だけ指示が雑じゃない?」

「死なない強みを生かせ。文句は生きてる奴の避難が終わってから聞く」


 リリアの顔から一瞬だけ笑いが消えた。


「了解。じゃあ、ちゃんと引っ張る」


 地竜が動く。リリアの死霊が側面から気を引き、ティアナの魔法が地面を抉る。巨体が嫌がって反対へ寄った瞬間、ノエルの声が飛ぶ。


「次位置、取りました!」

「砲列、射撃準備!」


 エドガーの命令が響く。


 一瞬だけ周囲の音が遠のいた。地竜の咆哮も兵士の足音も消えたわけではない。ただ必要なものだけが前へ出て、その他が後ろへ下がる。地竜が踏み込む。俺はその先を見る。


「――弾着(だんちゃく)、今。」


 ドォォォォォンッ――!!


 魔導砲の光が地面を叩き、空気の壁が演習場を駆け抜けた。地竜の横腹へ土砂と衝撃がまともに入り、十数メートルの巨体が数メートル横へ滑る。石が遅れて落ち、土煙の向こうで巨大な尾が一度だけ地面を叩いた。それきり動かなくなる。


 数秒、誰も喋らなかった。やがてゼニスが端末へ目を落とす。


「戦闘判定終了。最高到達レベル78です」

「……高くね? 俺、朝はレベル4だったぞ。半日で人生何十年分成長してんだよ」

「強敵でしたので」


 エドガーはまだ地竜を見ながら言う。


「今のお前なら、近接であれと戦えたのではないか?」

「嫌だよ。砲があるのに何で殴り合うんだ。俺は遠くから状況見て文句言う方が向いてる。近接戦闘は若い奴と勇者に任せろ」


「そこだけは徹底しているな」


「あと俺、直接倒してないから即レベ料金安くならない? 討伐者はエドガー。俺は見て喋っただけ。これは観戦だ」


 ゼニスが満面の営業スマイルを浮かべる。


「救助、敵性個体との近接接触、観測、誘導、戦闘指示。すべて記録されています。立派な戦闘参加です」

「訓練に来ただけなのに!」

「途中から実戦です」

「だからその自動アップデートやめろやこのクソ課金女神がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


【神界・追加ご請求】


 ・【即日レベルアップシステム】緊急起動料   金貨300枚

 ・高危険度戦闘時急速成長利用料        金貨1,860枚

 ・高位個体因果安定化補助費          金貨240枚

 ・王国砲兵共同戦闘監督費           金貨60枚

 ・現代側戦闘後帰還処理費           金貨20枚

 ─────────────────

 今回加算                   金貨2,480枚

 今回加算・日本円換算             12,400,000円相当

 前回繰越残高                 金貨30,204枚

 前回繰越残高・日本円換算           151,020,000円相当

 合計残高                   金貨32,684枚

 合計残高・日本円換算             163,420,000円相当


 ※最高到達レベル78。訓練不足により継続維持されません。

 ※訓練中に発生した実戦は訓練料金へ含まれません。

 ※共同訓練用89式5.56mm小銃・5.56mm機関銃MINIMI等の再構築/公的使用費はアルヴェリア王国訓練・防衛予算で別途精算。黒田陸個人債務への加算なし。


「一千二百四十万円……。訓練に来て、勝手に敵が出て、助けたらこの請求。これもう金融事故だろ」

「はい、訓練中に実戦が発生しましたので」

「『はい』じゃねえ! 訓練は金を失うって科学的に証明されたじゃねえかぁぁぁぁぁぁ!!」

「違う! その結論だけは絶対違うぅぅぅぅぅ!!」


 ティアナが絶叫する横で、土だらけのリリアが俺の袖を引いた。


「ねえ陸。今日の私、二回吹っ飛んで、囮して、ちゃんと指示も聞いたよ? これだけ尽くす女、嫁にした方が得じゃない? 愛人でもいいよ。死後の面倒まで見てあげるし!」


「一千二百四十万の請求直後に結婚営業すんな。今は女より債務が怖い」

「じゃあ死んで借金から解放された後でも――」

「俺を死後プランへ誘導するなぁぁぁぁぁぁ!!」


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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