↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#15 姫様にカレー食わせる仕事じゃねえ (正式名称:王都避難民給食及び生活支援任務)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/127

第54話 魔物は誰かに追われている

 昨日の騒ぎで壊れた柵を見ながら、俺は朝から機嫌が悪かった。理由は単純で、レベル58まで上がった身体は一晩で目に見えて鈍り始めているのに、七百三十万円相当の請求だけは一円も減っていない。能力は揮発性、債務だけ永久保存。商品として考えれば完全に悪徳商法か、詐欺だと思うからだ。


「ゼニス。これ冷静に考えておかしくない? レベルは下がる、借金は残る。普通、レンタル品を返したら料金も止まるだろ。俺の身体から能力抜けてんだから、昨日の請求も一緒に蒸発するべきじゃない?」


 王城の小会議室で、俺は調査官風ジャケット姿のゼニスへ訴えた。彼女は最初から答えを知っている人間の顔で書類を閉じる。


「鍛錬を続ければ維持できます。そもそも即レベは『短期間で必要能力へ到達するためのサービス』ですから、その後あなたが何もしないことまで神界の責任にしないでください」

「つまり俺が悪いと言いたいわけか」

「ほぼ全面的に」

「利用者へ責任を押し付ける企業は伸びないぞ―?」

「利用者が鍛錬を拒否して酒飲んで寝る前提の企業モデルなんてありません!」


 向かいではユリウス、オズワルド、セシリアが昨日の報告書を確認しており、その端にリリアまで座っていた。会議へ呼ばれた理由は、死霊や残留思念に関する感覚が役立つかもしれないかららしい。本人は「王城の椅子ふかふか!」と喜んでいる。


「黒田殿。昨日の大型個体も、やはり東から来たと考えてよいか?」


 ユリウスが地図の東部を指す。俺は昨日見た傷を思い出しながら頷いた。


「可能性は高い。噛まれたとか縄張り争いで付く傷じゃない。焼け焦げた跡と、細い物が複数刺さった痕があった。人為的か魔物同士の特殊攻撃かまでは断定しない。ただ、普通に森を歩いてきただけの身体じゃなかった」


「リリア殿は、何か感じたか?」


 セシリアが問うと、リリアは珍しく少し考えてから口を開いた。


「死体じゃないから、はっきりした記憶は読めないよ。昨日倒れた小型の魔獣が残した魔力の残りを少し触ったけど……怒ってるっていうより、怖がってた。『こっちへ行きたい』じゃなくて『向こうから離れたい』って感じ。誰かの名前とか場所までは分からない」

「死人の勘としては?」


 俺が聞く。


「すっごく嫌なものから逃げる時の感じ。陸が請求書見た瞬間の顔みたいな」

「国家会議で俺の借金を比較対象にするなよ。分かりやすいけど」

「分かりやすいんだ……」


 セシリアが小さく笑ったところへ、兵士が東部国境近くで商いをしていた男を連れてきた。男は疲れ切った顔で椅子へ座り、水を一口飲んでから話し始める。


「三日前の夜です。東の山の向こうが、何度も白く光りました。雷ではありません。空は晴れていましたし、光ったあと少し遅れて、地面まで震えるような音が来たんです。最初は間が長かったのですが、その後は何度も続いて……翌朝から魔物が西へ走り始めました」


「人を襲ったか?」

「ほとんど。家畜にも目を向けず、とにかく逃げていました。道を塞ぐと暴れることはありましたが、追いかけて食うような様子ではなかったです」


 俺は地図へ視線を落とした。光が先、音が後。距離がある。しかも地面へ伝わるほどの出力。俺の知っている砲撃と似た要素はあるが、この世界の魔導兵器について知ったかぶりするほど俺も馬鹿ではない。


「似てるとは思う。でも砲撃だと断定はしない。この世界の魔導砲がどんな音で、どのくらい届いて、何を撃つのか俺は知らん。知らない物を、元軍人だからって全部知ってる顔で断定する奴は危ない。特に軍事関係でそれやると、人が死ぬ」


 セシリアが少し驚いたように俺を見る。


「黒田さんでも、分からないと言うのですね。普段は何でも屁理屈で押し通すのに」

「普段の屁理屈と命の話を同列にすんなっての。俺だって分からんことくらいあるし、分からん時に『分からん』と言う方が後で仕事が減る。適当なこと言って事故ったら、報告書が増えるだろ」

「最後の動機だけ台無しですね」


 ユリウスはそれでも真面目に頷いた。


「では王国魔導砲兵に確認させる。東方の閃光と振動が既存兵器の延長で説明できるのか、専門家へ見てもらうべきだろう」

「そうそう。専門家に任せろ。俺は帰るぞ」

「もちろん黒田殿にも同席してもらう」


「なんで今の話からそうなるんだよ。俺は『専門家へ任せろ』って言ったんだぞ」

「異なる体系の火砲を知る者として比較してほしい。君は王国式を知らず、王国砲兵は君の世界の砲を知らない。その差そのものに意味がある」

「嫌だなあ、王太子がちゃんとした理屈で逃げ道塞いでくるタイプだこれ」


 オズワルドが淡々と書類へ何か書き込む。


「明朝、王国魔導砲兵の責任者を呼びます。黒田殿の参加も記録済みです」

「ちょ、待て、俺まだ了承してねえぞ! 国家権力で無職の予定を先に確定するな! 無職の唯一の福利厚生は予定がないことなんだよ!」

「予定がないなら参加できますね!」

「そういうロジックで無職を追い詰めるなぁぁぁぁ!!」


 会議後、俺は現代へ戻った。今日は競馬もパチンコも開かず、冷蔵庫から安い缶ビールを一本だけ出して畳へ座る。ゼニスも少し離れた場所へ現れたが、珍しくすぐ請求の話をしなかった。


「昨日の魔物、まだ気になってます?」

「別に。俺は明日の予定を勝手に入れられたことへ怒ってるだけ」

「その顔で言っても説得力ありません。あなた、真面目な時ほど煙草の火を付けるのが遅いんですよ」

「人の癖を観測すんな。気持ち悪い女だよまったく」


 缶を開け、一口だけ飲む。


「魔物が逃げるくらいの何かが東にいて、王国と帝国は互いに『お前が追いやった』って言ってる。片方だけなら勘違いで済む。でも魔物が複数方向へ逃げてるなら、真ん中に別の原因がある可能性も見るべきだ。戦争になるかは知らん。だから調べる」

「怖いですか?」

「面倒くさい」

「それ、黒田さんの場合はだいたい『怖い』と『心配』をまとめて隠す言葉ですよね」

「心理分析まで料金取る気か?」

「今は取りません」

「おい、今は、って言ったな?」


 少しだけ空気が緩んだ。俺は布団へ横になり、天井を見た。


「……ただ、嫌な感じはする」


 ゼニスが黙る。数秒後、俺の腹の奥から別の圧力が抜けた。


 ぶっ。ぷすぷすー。


 静寂。


「……今の空気を返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「屁は思想を持たない。自然現象だ。国際情勢と俺の腸内情勢を混同するな」


「混同させたのはお前でしょうがぁぁぁぁ!! せっかく珍しく真面目だったのに!」

「真面目に考えたから疲れた。酒飲んで屁こいた。人間として正常な回復行動だ。寝るわ、帰れ。シッシッ」


「せめて換気しろぉぉぉぉぉ!!」


【神界・追加ご請求】


 ・現代側帰還処理費          金貨20枚

 ・東部異常事案情報照合費       金貨15枚

 ・王国調査会議神性秘匿費       金貨10枚

 ─────────────────

 今回加算               金貨45枚

 今回加算・日本円換算         225,000円相当

 前回繰越残高             金貨30,054枚

 前回繰越残高・日本円換算       150,270,000円相当

 合計残高               金貨30,099枚

 合計残高・日本円換算         150,495,000円相当


 ※室内換気費は神界請求対象外。

 ※ゼニスの精神的損害について補償制度はありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。