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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#14 王様まで俺を働かせるな (正式名称:王国中枢緊急報告及び東部国境情勢確認対応)

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第48話 国家案件は無職の業務範囲外です

 王城の謁見室。俺は、生まれて初めて本物の王様を見た。

 国王アルフレッド・アルヴェリア、五十四歳。派手な王冠を被って威張り散らすような男ではなく、むしろ普通に話が通じそうな顔をしている。

 

 こういう相手の方が、雑に逃げづらいので困る。その隣には王妃エレオノーラが座り、さらに王太子ユリウス、第一王女セシリア、第二王子レオン、宰相オズワルド・ケインまで顔を揃えている。人数が多く、逃げ道まで塞がれた気分になる。登場人物の名前を覚えるのが面倒だし、もう帰りたい。


「黒田陸よ」


 アルフレッドが口を開いた。


「まず、先日の防衛について礼を言う。そなたらの働きがなければ、被害はさらに大きかっただろう」

「いえ。じゃあこれで失礼します」


 俺は頭を下げ、そのまま身体を横へ向けた。


「まあ待て」

「ですよねえ」


 分かっていた。でも一回は試したかった。ゼニスが後ろから小声で言う。


「黒田さん。お願いですから、せめて五分くらい王様の前では社会性を維持してください」

「俺の社会性は自衛隊退職時に国へ返納している」

「社会性は官給品じゃない!」


 アルフレッドの口元が少し緩んだ。


「貴殿は、聞いていた以上だな」

「何を聞いたか知りませんけど、半分くらい誇張ですよ?」

「怠け者だと聞いている」

「そこは事実です」

「借金があるとも」


 俺は反射的に振り返った。


「おい、誰が喋ったぁ!?」


 ゼニスがすっと目を逸らす。


「お前か!絶対お前だろ!!」

「必要な財務情報です。王国側があなたへ今後も報酬を支払う可能性がある以上、契約上の債務状況は――」

「王様に会って三十秒で俺の信用情報開示すんな! 国家機密より先に個人情報守れよ!」

「あなたが自分で『金くれ』と言い始める前に説明した方が被害が少ないと判断しました!」

「被害って何だ!」

「主に私の精神です!」


 宰相オズワルドが低く咳払いする。


「黒田殿。今回、王国が確認したいのはあなたの私生活でも債務でもない。先の魔物大移動、使用された未知の火力、及び東方情勢についてだ。そこへ話を戻してよろしいか」

「その言い方、役所で窓口たらい回しにされる時の声に似てるな」

「役所が何かは知らんが、少なくとも今は私の話を聞け」

「最後の以外は報告書で済みます」

「報告書は?」

「ゼニスが――横の女が書きます!」

「あなたが書くんですよ!」

「お前口述筆記担当だろ」

「いつ決まった!?」


 オズワルドの眉間へ皺が寄る。


「国家へ提出する正式文書を、神に代筆させるつもりか」

「神が書いた方が格が上じゃない?」

「そういう問題ではない」

「ゼニスより面倒くせえ事務屋がいるぞ……」

「「今なんて?」」


 ゼニスとオズワルドが同時に言った。俺は前を向く。


「何も」


 王妃エレオノーラは、さっきから静かに俺を観察していた。


「あなた、兵士だったのでしょう」


 少しだけ空気が変わった。俺は視線を王妃へ戻す。


「……昔の話です」

「そうですか。ですが、王都まで同行した避難民から聞きました。あなたは隊列の速度、休憩位置、負傷者の配置、荷車の順番を自然に決めていたそうですわね。冒険者の振る舞いには見えません」

「癖みたいなもんです。今は無職です」


 王太子ユリウスが初めて口を開く。


「その『無職』が、我が国の軍にも存在しない火力へ接続できる。こちらとしては、あなたが何者か確認しないわけにはいかない」

「元自衛官、現無職、神界債務者。望みは寝ること。望まないのは仕事。以上」

「最後の二つがひどいな」

「分かりやすいでしょう」


 ゼニスが頭を抱える。


「国家中枢への自己紹介が『寝たい、働きたくない』で完結する人初めて見ました!」


 俺はユリウスを見る。


「警戒するのは分かりますよ。俺だって、所属不明の奴が大砲持ち込んだら嫌ですから。でも俺はこの国を取ろうとか、軍を作ろうとか、英雄になろうとか、そういう面倒なことする気ないんです。国家運営の野心があるなら、まず自分の四畳半を統治できてます」


 エレオノーラが口元を押さえる。

 セシリアまで少し笑った。ユリウスは真顔のまま言う。


「その言葉を信用しろと?」

「しなくていいです。俺も王国を全面的に信用してるわけじゃない。お互い様でちょうどいいでしょう。必要な時だけ話して、終わったら帰る。健全な距離感です」

「ずいぶん都合のいい距離感だな」

「人付き合いなんてだいたいそんなもんですよ」


 アルフレッドはしばらく俺を見たあと、唐突に言う。


「では報酬の話をしよう」


 俺は姿勢を正した。


「詳しく聞きましょう」


 ゼニスが額を押さえた。


「切り替え早っ! 今までの警戒と距離感の話どこ行ったんですか!」

「報酬は報酬だ。政治と会計を混ぜるな、これは俺のじっちゃんが言った言葉だ」

「都合のいい時だけ会計分離すんな!誰ですかじっちゃんって!」


 アルフレッドが笑う。


「なるほど。扱い方が分かってきた」

「陛下、餌付けしないでください!」

「誰が動物だ!」


 エレオノーラが穏やかに言う。


「でも、報酬と食事を提示すると反応がよいのでは?」

「王妃様まで学習しないでください!」

「俺を攻略対象みたいに解析すんな!」


 その時、第二王子レオンが我慢できなくなったように身を乗り出した。


「黒田殿! あの巨大な砲は、どのように撃つのだ!? 私にも教えてくれ! あれほど遠方へ正確に火力を届かせる仕組み、王国の魔導砲とはまるで違うのだ!」


「嫌だね。学校行け」


 レオンが固まった。


「即答か!?」

「殿下、十七だろ。ちゃんと勉強しろ。あと大砲は一人で撃つ物じゃない。『俺も撃ちたい!』でどうにかなるもんじゃない」

「なら部隊ごと学ぶ! 人員も用意する!」

「前向きすぎる! そこで引けよ!」

「必要なら王国軍から――」

「人員確保の話へ進むな! 俺は教官じゃねえ!」

「では見学だけでも!」

「子供が大型兵器の職場見学を要求すんな!」

「私は王子だ!」

「十七歳は十七歳だ!」


 ユリウスが額を押さえる。


「レオン、少し黙れ」

「兄上は興味がないのですか!」

「興味の有無と、今聞くべきかは別だ」


 俺はユリウスへ親指を立てた。


「いいな、兄ちゃんの方が話通じるな」

「貴様、馴れ馴れしいぞ」

「そりゃどうも。撤回します」


 第一王女セシリアが口元を押さえて笑っている。


「フフフ。弟がこれほど連続して断られたの、初めて見ました」

「姉上まで笑わないでください!」


 セシリアは俺へ視線を向けた。


「それと、避難民へ食事を作ったという話も聞きました。二百人近い人数だったとか。しかも翌朝の分まで残したと」

「何で大砲より飯の話の方が詳しく伝わってんだよ」

「人は自分が食べた物のことをよく覚えますから。温かい食事をもらった人たちが、とても助かったと話していました」

「大したもん作ってません。穀物と豆と根菜を煮て、保存肉を細かくして脂出して、量が減らないようにしただけです」

「その『だけ』を二百人分、翌朝の分まで計算して?」

「だから料理じゃなくて兵站です」


 セシリアが首を傾げる。


「私には料理に聞こえますけれど」

「兵站!」

「食べられる兵站?」

「飯です!」

「やっぱり料理では?」

「だーかーらぁぁぁぁぁっ!」


 セシリアが楽しそうに笑う。嫌な予感がした。この王女、たぶん今後こっち方面で面倒を増やす。オズワルドが書類を一枚抜いた。


「話を戻す。黒田殿へ王国から臨時協力契約を提示したい」

「嫌です」

「まだ内容を読んでいない」

「契約って単語がもう嫌だ」

「報酬は一日につき金貨――」


 俺の目が輝く。

「すぐ見せてください」

「黒田さんんんんんんっ!!」


 アルフレッドが肩を震わせる。ユリウスは呆れた顔。エレオノーラは、何か面白いものを見つけたように俺を見ていた。俺は悪くない。金額を聞いてから判断する。それが大人というものだ。


 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 夜。全部終わって現代へ帰った。玄関前に、小さな紙袋が置かれていた。中にはレトルト飯や缶詰、インスタントの汁物、保存の利く菓子がまとめて入っていた。その上に、折ったメモが一枚。


『陸さんへ。

 家にいなかったので置いておきます。

「現実で顔くらい出す」って言ったの、忘れないでくださいね。

 あと、吸い殻を拾って吸う前にこっち食べてください。

 ひなた』


 俺はしばらく黙った。


「……何で吸い殻拾ってんの知ってんだよ」


 後輩の観察力が妙に怖い。それでも紙袋は部屋の中へ持ち込み、スマホを取り出した。


『受領。生存』と打ったところで指を止め、以前のことを思い出す。少し考えてその文面を消し、『受領。ありがと。生存』と打ち直して送信すると、数秒で既読が付いた。


『ありがとうございます、は進歩ですね。でも生存報告は聞いてません』


 俺が画面を見つめていると、続けてもう一件届いた。


『あと「顔くらい出す」も忘れてないですよね?』


「……追撃が早いなこいつ」


 俺は親指を動かして『覚えてる。今日は無理』と返す。すると間を置かず、『今日は、は保存しました。じゃあまた聞きます』と返ってきた。


「もうマジ怖ぇぇ……」


 ゼニスの声が後ろからする。


「でも以前より会話になっていますね」


 俺は飛び上がる。


「うおっ! 見るな変態女神!」

「目の前で返信しているでしょうが! それに私は、あなたがまた『生存』だけ送って人間関係を終了させないか確認していただけです」

「保護者かよ」

「債権者です!」

「もっと嫌だわ!」


 それでも紙袋は開けた。缶詰を一つ取り出し、机へ置く。


「今日は食うんですか?」

「食う。王様に会ったから疲れた」

「因果関係が分かりません」

「精神労働は腹減るんだよ」


 礼装の上着だけ脱ぎ、布団へ倒れる。ズボンがずれて、半分尻が出た。


「……今日はもう無理。飯食ったら寝る」


 ゼニスが額を押さえる。


「せめて尻をしまってから無理になってください」

「自宅だぞ」

「自宅なら何でも許されると思うな!」


「今日の俺、王様に会って、王子に砲を教えるの断って、王女に兵站と料理の違いを説明して、契約書まで読んだんだぞ。もう人間一人分の社会性は使い切った」

「わけのわからん単位を作るな!」

「明日補充される」

「社会性をスタミナゲージみたいに扱うなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 俺は布団へ顔を埋める。


「じゃあ半ケツのまま寝るから、お前とっとと帰れよ」

「まずきたねぇ尻をしまえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


【神界・追加ご請求】


 ・王宮神性露出抑制費         金貨20枚

 ・国家契約立会事務費         金貨25枚

 ・現代側帰還処理費          金貨20枚

 ─────────────────

 今回加算               金貨65枚

 今回加算・日本円換算         325,000円相当

 前回繰越残高             金貨28,304枚

 前回繰越残高・日本円換算       141,520,000円相当

 合計残高               金貨28,369枚

 合計残高・日本円換算         141,845,000円相当


 ※黒田陸の社会性は神界補償対象外です。

 ※ひなた差し入れは神界課税対象外です。


 黒田

「そこは当たり前だろ」


 ゼニス

「一応書いておかないと、あなた『差し入れにも手数料取る気か!』って騒ぐでしょう」


 黒田

「よく分かってんじゃねえか」

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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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