第40話 古竜でも止まらない? じゃあ、こっちの仕事だ
夜が薄くなり始めていた。
もう時間がない。
債権執行巨獣は、ブレスと魔法とSランク冒険者の攻撃を受けながら、それでも村へ近づいている。
グレンが真正面から巨獣の脚を殴った。
ズガァァァンッ!!
岩が砕けたような音が響き、巨体が一歩だけ止まる。
「黒田ぁ! 長くは持たんぞ!」
「分かってるわ!」
その上空を二つの影が旋回した。
モグとルヴィア。
『陸! 上から見た方が早いのじゃ!』
漆黒の古竜が低く降りてくる。
「まじでイヤ」
『なぜじゃ!』
「高い。怖い。落ちたら痛い。あと乗り物酔いしそうだもん」
深紅の古竜が横へ割り込んだ。
『おーっほっほっほっ! でしたら、わたくしの背へお乗りなさい! モグより優雅で速く、何より高貴ですわ!』
「安全性の説明が一個もないけど?」
『わたくしが落とすわけありませんでしょう!』
「事故る奴みんな最初はそう言うんだよ!」
結局、俺はしぶしぶ、モグの背へ乗った。
「低く飛べよ」
『わらわにドーンと任せるのじゃ!』
「その言葉を軽く使うな、怖いから!」
翼が一度打ち下ろされる。
ゴォッ――!!
胃が置いていかれた。
「うわああああああっ、高い高い高い! モグ! もうちょいゆっくり!」
『ルヴィアに負けるのじゃ!』
『誰が遅いですってぇぇぇ!!』
「偵察中に競争始めんじゃねぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
それでも上から見れば、戦場は一枚になった。
村。
川。
森。
逃げる魔物。
防衛線。
砲列。
そして巨獣。
ただ大きいだけじゃない。
進むたび、周囲の魔物の流れまで変えている。なんとか竜の背に乗るのに慣れた俺は、モグに指示をだす。
「モグ、左だ!」
『うむ!』
旋回。
ルヴィアが横からドラゴンブレスを吐いた。
ゴオオオオオオッ!!
巨獣が顔をそちらへ向ける。
「今の動き、もう一回やらせろ」
『わらわが?』
「二人でだ。倒さなくていい。向き変えさせろ」
『わたくしへ囮になれと!?』
「嫌ならモグ一人でやるんだが、それでいいのか?」
『誰が嫌と言いまして!? モグより完璧にやってみせますわ!』
「(ぼそ)扱いやすい金持ちだな、こいつ」
『黒田、聞こえてましてよ!!』
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
地上へ戻ると、フェンナが駆けてきた。
「黒田! あいつ、動く前に臭いが変わるワン! 今まで同じだったのに、動く直前だけ鼻に刺さる感じがする!」
「どっちへ動く時に変わる。左右で違いがあるなら、そこまで覚えてこい」
「右へ行く時は焦げた金属みたいな臭いだワン! 左の時はまだ分からないけど、次は鼻を離さないワン!」
「犬の報告だから感覚的だけど、十分使える。次も変わった瞬間に叫べ」
「褒められたワン! ワンだふる! 次はもっと役に立つワン!」
シェリアも矢を下ろす。
「肩の金色の線、動く前に光る。狙うならそこ見て」
ロイドは泥だらけだった。
「裏まで回った。リリアの言う黒い核、多分ある。近づくと契約文字みたいなのが浮く」
「よし。地上の動きは見えたけど、核の位置だけまだ確信が足りねえ」
俺はまたリリアを見る。
「なによ、こっち見て。いやよ。二回目だからもう『まだ何も言ってない』は通用しないよ。顔に書いてあるもん!」
「そこまで俺の顔読めるなら偵察向いてるじゃねえか。もう一度、敵の裏側を見てきてくれ、頼むよ」
「情報足りないなら自分で行ってよ! 私だけ往復方法が砲撃なの理不尽すぎるじゃない!」
「俺が飛んだら誰が全体を見るんだよ。役割分担って言葉を覚えろ!」
「そういう時だけ自分を重要人物にするの、本当に腹立つんですけど!」
数分後。
「だから嫌! 自分で走る!」
「間に合わん」
「じゃあ飛ぶ魔法とか!」
「今から覚えるならいいぞ」
「無茶言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
また夢境の黒い光がリリアを包み、本人の抵抗を完全に無視して砲身部へ、すぽん。
「その『すぽん』がものすんごっく嫌ぁぁぁぁ!!」
再び砲声。
ドォォォンッ――!!
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 二度目でも慣れないぃぃぃぃ!!」
今度のリリアは着地後、遊ばなかった。
遠方で闇が膨らむ。
地面から半透明の死霊が何十体も立ち上がり、巨獣の周囲へ散った。
死霊索敵。
死者の残留思念と霊体をばら撒き、敵の反応を見る。
巨獣の金色の防壁が、死霊の一群だけを強く弾いた。
そこだ。
戻ってきたリリアが地面へ倒れ込む。
「もう無理......世界なんて滅びればいい......いや、やっぱ私が巻き込まれるから今は滅びるのも駄目......」
「愚痴はあとで全部聞く。今見つけた場所だけ先に教えてくれ」
「その『情報だけ先に』って顔やめて! もっと労災事故者へのいたわりを持ってよ!」
「分かった分かった。帰ったら飯でも何でも奢るから、まず場所を教えろ」
リリアは恨めしそうに俺を見てから、地図を指した。
「あの黒い核。そこだけ、死者の魂が全部避ける。近づくと契約に吸われる。多分、あれが中心よ」
ティアナとエルミナが同時に顔を上げた。
「魔法解析でもそこだけ歪んでる」
「術式が防壁へ集中しています!」
情報が揃った。
夢境の射撃指揮所から雑音混じりの声が流れる。
顔のない影が地図を囲んでいる。通信員らしき影が何かを伝え、別の影が各砲列へ情報を流していく。顔も名前もないのに、動きだけは妙に見覚えがあった。
「班長、あれ誰なんです?」
橋本が小声で聞く。
「知らん。多分、俺らの記憶の寄せ集め」
「自分の記憶に指揮所まで課金されるの、嫌ですね」
「言うな。今一番考えないようにしてる」
俺が全部計算するわけじゃない。
昔からそうだ。
情報が来る。
諸元が出る。
撃つ人間がいる。
俺がやるのは、見ることだ。
敵が今どこにいるか。
どちらへ動くか。
実際に落ちたものが、次にどこへ来るか。
そこだけは、昔から得意だった。
なのに。
口が動かなかった。
秋の空。
あの時の音。
倒れた仲間。
正しかったと言われても、結果だけが残った。
「班長。止まってるの、みんな分かってます」
相馬の声。
「......俺が見るんだぞ。俺が見て、俺が決めて、それで外したら今度こそ言い訳できねえ」
「知ってます。だから俺たちは、自分の持ち場をやります。班長一人で全部背負う話じゃありません」
大庭が肩を回す。
「今さら何言ってんすか班長。俺ら、その前提でここにいるんですけど」
西尾が静かに言った。
「分からないなら聞け。分かったふりして事故る方が面倒だ、って班長の口癖だったじゃないですか」
俺は西尾を見る。
「俺、そんなこと言った?」
「言ってました」
ひなたが小さく息を吐く。
「黒田陸曹が見るなら、私は自分の仕事をします。みんなそうです」
八人がいる。
誰も俺を責めていない。
それが昔は怖かった。
今は――少しだけ違う。
「......分かった」
喉が乾く。でも言えた。
「――任せろ。」
相馬が笑う。
「了解、班長!」
遠方。
一門目の砲口が光った。
ドォォォォンッ――!!
少し遅れて二門目。
さらに奥。
夜明け前の荒野を、四個小隊相当の砲声が揺らし始めた。
【神界・航空偵察/特殊運用ご請求】
・古竜搭乗航空観測補助 金貨180枚
・リリア二回目特殊飛翔保証料 金貨260枚
・死霊索敵領域安定化費 金貨210枚
・大規模砲列同時接続維持費 金貨650枚
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今回加算 金貨1,300枚
日本円換算 6,500,000円相当
前回繰越残高 金貨48,680枚
合計残高 金貨49,980枚
日本円換算合計 249,900,000円相当




