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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#12 それでも借金は減らない (正式名称:神界債権執行個体迎撃及び広域火力支援作戦)

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第39話 一門で足りない? だからって増やすな。金が掛かるだろ

 夜明け前。

 王都北西の防衛線は、もう街道の形をしていなかった。


 逃げてきた魔物の足跡。

 荷車の轍。

 踏み荒らされた畑。

 魔法で焼けた地面。


 その全部の向こうから、債権執行巨獣デット・エグゼキューターがゆっくり近づいてくる。


「西側、また来るぞおおおおおおおおおおっ!」


 バルガスの声。

 大盾の前へ獣型魔物が殺到した。


 カイゼルとジークフリードが横から入り、抜けた個体を斬り払う。


「師匠ぉぉぉ! こっちは任せてください!」


 三馬鹿まで元気だ。


「アン! ポン! タン! 村の中まで追うな! 戻ってこい!」

「了解です師匠! ってかいつのまにかそんな呼び名に!?」

「誰が師匠だ! その呼び方今すぐやめろ!」


 俺は89式を抱え直した。

 横ではひなたが20式を確認している。


「ニーマルはお前な」

「黒田陸曹は?」

「俺はハチキュウ。これなら手が覚えてる」

「存在は知ってるのに、新しい方を触りたがらないんですね」

「知らんもん知ったかして事故るよりマシだろ。現役のお前の方が詳しい」


 西尾が後ろから言った。


「昔から言ってました」

「お前、そのネタ気に入ったの?」


 その時、ティアナの魔法が夜を裂いた。


 バリバリバリッ――!!


 雷光が魔物群の前へ落ちる。


 森谷が目を丸くした。


「黒田陸曹、あれ普通なんですか?」

「こっちでは割と」

「普通の基準がおかしい......」


 逆にティアナは、こちらの機関銃の音に肩を跳ねさせた。


 ダダダダダダッ!!


「ちょっと! 何それ! 詠唱してないのに連続で何かが飛んでる!」

「機関銃だよ」

「魔力反応がない!」

「だから使ってねえって」

「その世界、魔法なしで何でそんなにうるさいのよ!」

「知らん。設計した奴にでも聞け」


 アレクシスだけが頭を抱えていた。


「自衛官の皆さんは魔法に驚いて、異世界側は銃に驚いて、なんで元日本人の僕が仲裁してるんですかね......」

「勇者だからだろ」

「勇者ってそういう仕事じゃないですよね?!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 砲撃地点へ着いたのは、その少し後だった。

 輸送トラックが止まる。


「降りるぞ、降車用意!」


 言い終える前に、全員が動いた。


 扉が開く。

 靴が土を踏む。

 田所が車両側を見て、橋本が周囲を確認する。


 牽引されてきたFH-70は、まだただの重い鉄の塊に見えた。


 そこへ人が散る。


 切り離され、向きが変わる。

 トラックから弾薬と必要資材が下ろされる。

 大庭と栗原が重量物を運び、森谷とひなたが続く。


 前回は俺が一つずつ指示した。


「そこ持て」

「押せ」

「引け」

「それ以上触るな」


 そんなことばかり言っていた。

 今回は違う。


「......早えな。俺が口出す前に、もう次へ動いてやがる」


 思わず漏れた。

 相馬が振り返る。


「何がです? 昔からこの流れで動いてたでしょう」

「何でもねえよ。久しぶりに見ると、人に一から説明しなくていいって楽だなと思っただけだ」


 俺が言う前に次へ進む。

 身体が昔の順番を覚えている。


 陣地が形になってから、最後に偽装網が広げられた。

 砲身から車体側へ、荒野の輪郭へ溶け込ませるように網がかかっていく。


 その光景を見ていると、胸の奥が少しだけ重くなった。


「班長、感心してる場合じゃないですよ。手が止まってます」

「分かってる。現役に仕事の遅さ指摘されるほど落ちぶれてねえよ」


 相馬の声で戻る。

 そこで、横にいるはずのない砲身が目に入った。


「......おい?」


 霧の向こう。


 一門。

 さらに奥に一門。

 もっと遠くにも、FH-70らしき長い影。


 車両。

 顔のない隊員。

 人間の形だけが、昔の演習場の記憶みたいに動いている。


「なんか、FH-70増えてね?」


 大庭も気づいた。


「うーん、どう見ても増えてますね」


 ゼニスがどこからともなく現れた。


「四個小隊相当をご用意しました!」

「宴会予約みたいに言うな!」

「一門では足りないとおっしゃったので」

「俺は追加料金払うって言ってないぞ!」

「必要経費です」

「てめぇ守銭奴女神が!消せぇぇぇぇぇ!!」


 遠くでドォン、と巨獣の足音がした。


 ゼニスは真顔になる。


「もう再構築済みです」

「キャンセル料は?」

「発生します」

「俺の将来、詰んでんじゃねえか!」


 その時、ロイドから伝令が入った。


「敵の後ろが見えない! 黒い霧みたいなのが広がってる!」


 俺はしばらく考え、横を見た。

 そこにリリアがいた。


「いYはぁ。黒田が私を見たあとFH-70を見る時は、絶対ろくな仕事じゃないでしょ!」

「まだ一言も内容説明してねえだろ。先回りして拒否すんな」

「今、私を見てから砲を見た! その視線だけで十分説明になってるのよおおおおっ!」

「簡単だ。敵の後ろを見てきてくれ。霧の向こうが分からないと、こっちも狙いを絞れねえ」

「だったら普通に走って行かせてよ! 私、足はあるし死んでても歩けるんだからさ!」

「それだと時間がかかる。今は速さを買う場面だぜ?」

「なんかもう、この先どうなるかわかるけど、そんなことするの世界で黒田だけだからね!?」


 夢境神術での無茶な補助。

 ゼニスが「安全保証を追加すれば可能です」と指を鳴らすと、黒い光がリリアを包んだ。現実なら絶対にあり得ない形で身体が光へほどけ、そのままFH-70の砲身部へ、すぽん、と吸い込まれる。


「待って待って待って! 絵面がおかしい! 私、死んでるけど痛覚あるからね!?」

「知ってる」

「知っててもやるの!? 人でなしぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 ドォォォンッ――!!


 砲弾が飛び出したのとほぼ同じ瞬間、夢境の黒い光に包まれたリリアまで砲口側から夜空へ吐き出された。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 キラーン。

 リリアの声が夜空の向こうへ消えていった。


 相馬が無言で俺を見る。


「言いたいことあるなら言え。俺も絵面がおかしいのは分かってる」

「今、人が砲弾と一緒に飛んでいきましたよね。夢だからで済ませていいんですか」

「人じゃなくて死人だ。本人もそう名乗ってるし、何しても死なねぇぞ」

「分類の問題じゃありません。異世界の安全基準、班長が一番壊してませんか」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 十分ほど後。

 闇の塊が地面から這い出した。


「てめぇぇぇぇぇ黒田ぁぁぁぁ!!」


 リリアだ。

 髪はぐしゃぐしゃ、ローブは土だらけ。


「で、どうだった。怒るのは報告のあとに好きなだけ聞くから、まず敵の後ろを教えろ」

「普通は最初に『大丈夫だった?』でしょ!? 髪もローブもぐちゃぐちゃなんだけど!」

「自力で帰ってきて怒鳴れるなら重傷判定から外す。今は情報が先だ」

「死んでても痛いんだからぁぁぁぁぁ!! その判定基準を死人仕様にするなぁぁぁぁ!!」


 リリアは怒鳴ったあと、急に真面目な顔になった。


「でも、変なの見つけた。あいつの後ろ、死んだ魔物の残留思念が全部同じ場所を避けてる。近づこうとすると、魂ごと引っ張られる感じ」


 俺は地図へ指を置いた。


「その避けてる場所を地図で示してくれ。だいたいでいい」

「ここ。この辺。黒い霧の奥だけど、死霊の反応ははっきり違った」


 シェリアとロイドの報告とも近い。


「よし。その情報ならシェリアとロイドの報告とも噛み合う」


 リリアが胸を張る。


「私、結構役に立ったでしょ!」

「よくやったぞ。じゃあもう一回いけるよな」

「評価が次の特攻に直結したぁぁぁぁぁ!!」


 その後ろ。


 さらに霧の奥に、偽装された指揮所らしき影が浮かんでいた。


 無線の雑音。

 地図を囲む人影。


「......そこまで再現したのかよ」


 ゼニスがにっこりした。


「四個小隊動かしますので」


「その影も有料?」

「もちろん」

「ああもう、この悪夢から覚めてぇ......」


【神界・大規模夢境戦力ご請求】

・四個小隊相当火砲影再構築加算      金貨1,600枚

・夢境射撃指揮所・通信網再現料      金貨700枚

・リリア特殊飛翔安全保証料        金貨240枚

─────────────────

今回加算                金貨2,540枚

日本円換算               12,700,000円相当

前回繰越残高              金貨46,140枚

合計残高                金貨48,680枚

日本円換算合計             243,400,000円相当


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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