第38話 夢の中まで仕事場にするな、クソ女神
気づくと、そこは土の匂いがした。
目をゆっくりと開けた。
知らない荒野。夜明け前みたいな薄暗い空。
遠くには見覚えのない山。
俺はしばらく仰向けのまま動かなかった。
「......夢だな、まさに」
起き上がる。
迷彩服。
半長靴。
装具。
腹を見る。
「おいゼニス。お前、夢境の再現精度って自分で調整できるんだよな」
「できますけど、どうしました?」
「だったら夢くらい俺の腹を引っ込めろよ。なんで現実のたるみだけ忠実に持ち込んでんだ」
「身体情報は現況を反映しております」
「あーもう!!そこだけ高精細にすんな、クソ女神がああああっ!!」
ゼニスは少し離れた場所で、なぜか指揮官風の迷彩服に赤い腕章をつけていた。
「んで、ツッコむのもバカらしいが、その兵隊さんコスプレ何なの?」
「現場統括仕様です」
「似合ってるのが腹立つ!!」
「......あれ?」
後ろから声がした。
振り返る。
相馬直樹が地面へ座り込んでいる。
「黒田陸曹ですか?」
「元な」
「いや、そこじゃなくて。俺、寝たはずなんですけどね」
「俺もだ」
「てか班長......ちょっと太られました?」
「お前、さっそく嫌なところついてくるなよ」
その横で大庭が起きる。
「うわ、何だこれ。演習場......じゃないですよね?」
橋本が袖を確認している。
「戦闘服、昨日着てません。というか、寝巻きでした」
「変態女神ゼニスに着替えさせられたんだ、災難だったな。これ、夢だからあきらめろ」
「おい黒田ぁぁぁ!言い方!!」
田所は無言で周囲を見回し、栗原は起きて最初に腹を押さえた。
「なんか、俺、腹減りました」
「夢の中までそれか、お前」
「夢なら食っても太らないですよね?」
「俺の腹が現況反映だから多分太るぞ?」
西尾、森谷も起きる。
そして最後にひなた。
「......黒田陸曹?」
「だから元だってば」
ひなたは自分の格好、俺、周囲の順に見た。
「私、家で寝たはずなんですけど」
「安心しろ。全員寝てる」
「安心できる要素が一つもありませんよね、なんですかこれ」
森谷が遠慮がちに手を挙げた。
「えっと......とりあえず、野外演習ですか、これ?」
全員が一瞬黙った。
俺は答える代わりに、後ろを指した。
輸送トラック。
その後ろに、牽引状態のFH-70。
相馬の顔から眠気が消えた。
「......夢にしては仕事が具体的すぎません?」
「俺もそう思うわ」
その時、空が白く光った。
ズガァァァンッ!!
全員が反射的にそちらを見る。
遠方で、ピンク色の髪の少女が杖を振っていた。
巨大な魔法陣から雷が落ちる。
相馬が俺を見る。
「班長、ちょっと状況確認していいっすか?」
「何だよ。俺も今見えてるものを全部理解してるわけじゃねえぞ」
「今、あの女の子、何もないところから雷出しました?」
「ティアナっていう魔法使いだ。俺より魔法が百倍くらいうまいんだぜ?」
「名前と能力の紹介は分かりましたけど、雷が出た理由の説明にはなってないです」
さらに地面が暗くなる。
巨大な影が空を横切った。
漆黒の古竜。
続いて深紅の古竜。
大庭が口を開けた。
「黒田陸曹!! 女の子がドラゴンになったんですけど!?」
「モグとルヴィアだ」
「名前を聞いて安心する段階を超えてますってぇぇぇ!!」
今度は異世界側から声が飛んできた。
「黒田! そっちの人たち何持ってるの!?」
ティアナがこちらへ駆けてくる。
夢境側へ再現された小銃の89式と20式を見て、目を丸くする。
「それ、杖なの? 形は細長いけど、魔導具の反応が全然ないわね」
「小銃というものだ。杖みたいに魔力を流して使う物じゃねえ」
「魔石は入ってないの?」
「ない。そっちの燃料みたいな石は使わねえ」
「術式も刻んでない?」
「魔法術式はない。だからお前らの探知にも引っ掛かりにくい」
「魔力も使わないのに、じゃあ何で攻撃するのよ!」
「火薬だって。細かい説明はあとだ、今は『魔法じゃない飛び道具』くらいで覚えとけ」
「またそれ!? その一言で全部済ませるの、いい加減ずるいんだけど!」
ひなたが20式を見て、俺を見る。
「ニーマルまであるんですね」
「俺よりお前が使え。俺の手が覚えてんのはハチキュウだからな」
「珍しく素直ですね」
「知ったかして事故る方が面倒だろ」
西尾が小さく頷いた。
「昔から言ってました」
「今その記憶力発揮すんな!」
ズズズズズズ......。
地面が揺れる。
遠方に、債権執行巨獣の巨体が浮かび上がった。
ゼニスが平然と言う。
「なお、あちらは実戦です」
全員が止まった。
大庭が最初に口を開く。
「......演習じゃないんですか?」
「実戦です」
「夢ですよね?」
「はい、夢です......が実戦です」
「寝てる現役自衛官を実戦参加させるなぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の声が荒野へ響いた。
「夢ですので!」
「夢なら何してもいい理論やめろ!!」
ひとしきり怒鳴ったあと、ふと静かになった。
八人がFH-70を見る。
次に、俺を見る。昔と同じだった。
「おい......俺を見るな」
相馬が少し笑う。
「それで、どうします。班長」
「俺はもう班長じゃねえ。とっくに辞めた人間を、夢の中だけ現役扱いすんなよ」
「知ってます。だから現実でそう呼ぶつもりはありません」
「だったら今も呼ぶな。そういうのが一番やりにくいんだよ」
「今夜だけです。今日ここで動くなら、俺たちはあなたの指示を待ちます」
大庭が腕を組んだ。
「俺ら、状況よく分かってませんけど。黒田陸曹がいるなら、とりあえずやれって言われたことやりますよ」
「まったく。そういうのが一番怖い言い方だぜ」
ひなたは何も言わない。
ただ、逃げずに俺を見ている。
俺はFH-70へ視線を戻した。
鉄の塊。
昔、毎日のように見た形。
喉の奥が少し詰まる。
「......一日だけだぞ」
「夢なのに一日あるんですか?」
「大庭、うるせえ」
俺は息を吐いた。
「今日だけ俺が砲班長やる」
相馬が即答した。
「了解、班長」
「だからその呼び方――もういい。車出すぞ、全員、乗車用意!」
田所がすでにトラックへ向かっていた。
「班長、夢でも整備状態は見ますよ」
「夢くらい雑でいいだろ」
「駄目です」
「お前も変わってねえなぁ......」
エンジン音が荒野へ響く。
輸送トラックが動き出す。
その後ろをFH-70がついてくる。
正面には巨大な敵。横には、昔の班員。
俺は助手席へ身体を預けた。
「......ほんと、嫌な夢だよ」
相馬が笑った。
「俺はちょっと懐かしいですけどね」
【神界・夢境装備再構築ご請求】
・FH-70一門再構築料 金貨700枚
・輸送車両再構築料 金貨350枚
・小火器・機関銃再構築料 金貨260枚
・弾薬・資材因果再現基本料 金貨500枚
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今回加算 金貨1,810枚
日本円換算 9,050,000円相当
前回繰越残高 金貨44,330枚
合計残高 金貨46,140枚
日本円換算合計 230,700,000円相当
※追加砲列・通信・射撃指揮機能は別料金。
【登場キャラクター紹介】
決戦を前に、黒田が逃げてきた過去の人間関係まで、夢という形で戦場へ戻ってきました。
【★本格登場 相馬直樹】
黒田の元砲班で副班長格を務めた現役自衛官。黒田の右腕だった人物です。事故そのものより、何も言わず距離を取った黒田へ怒っています。
【★本格登場 黒田の旧FH-70砲班】
相馬直樹
橋本航平
大庭拓海
田所圭介
栗原亮太
西尾拓真
森谷悠斗
そして望月ひなた、黒田を含めて九名。夢の中とはいえ、久しぶりに同じ火砲の前へ集まりました。。黒田を含めて九名。夢の中とはいえ、久しぶりに同じ火砲の前へ集まりました。
【◆主要登場 黒田 陸】
もう陸曹でも、現役の砲班長でもありません。それでも今夜だけ、昔の位置へ戻ることを選びました。




