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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#11 請求書破り (正式名称:広域魔物避難事象対処及び防衛拠点緊急構築作戦)

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第37話 女神「寝ている人なら借りてもバレません」 俺「犯罪だろ」

 夜。

 臨時防衛拠点の天幕の中で、俺はゼニスが広げた契約書を睨んでいた。


「嫌だ。説明を聞く前から嫌な予感しかしねえし、お前の有料オプションは聞いた時点で契約が進みそうで怖い」

「まだ一行目ですよ。説明も料金も提示していません」

「一行目に『集団夢境接続』って書いてある時点で十分怖いんだよ。人間を何人まとめて夢へ放り込む気だ」

「では名称をもう少し柔らかく変更しますか?」

「そういう問題じゃねえ。看板を可愛くしても中身が強制連行なら一緒だろうが!」


 ゼニスは今度は黒い事務スーツに眼鏡という、完全に契約担当者の格好だった。

 さっきまで軍務官だったくせに衣装替えが早い。


「使用する神術は【追憶再編(リユニオン)】。対象者の肉体は現実世界で睡眠状態のまま、意識、感覚、身体記憶を限定領域へ接続します」

「夢だろ」

「共有夢境型因果接続です」

「夢だろ」

「料金区分が違います」

「そこだけ細けえんだよ!」


 ティアナが契約書を横から覗く。


「つまり本人たちは寝てるけど、こっちでは動けるってこと?」

「はい。過去の複製を呼ぶわけではなく、現在の本人です」

「それ、余計まずくねえか?」


 俺はゼニスを指差す。


「相馬たちは今も現役だ。ひなたも現役。寝てるところ勝手に引っ張って、起きたら異世界で実戦でしたとか色々アウトだろうに」

「接続した時点で状況を説明し、本人の意思で離脱できるようにします。強制戦闘参加にはしません」

「ならまだマシ......いや、最初に夢へ引っ張る時点で強制じゃねえか」

「非常事態ですので」

「その言葉で全部通るとでも思ってんのか?頭お花畑女神か、このパープリンが!」


 アレクシスが苦笑している。


「黒田さん、神様相手でもずっとその調子なんですね」

「神だからって請求書が安くなるわけじゃねえからな」

「そこなんですか?」


 ゼニスが次の紙を出した。


「なお、必要装備については夢境内で再構築します。FH-70、輸送車両、89式5.56mm小銃、20式5.56mm小銃、機関銃、弾薬、被服、個人装具――」

「待て。今さらっと聞き流しかけたけど、『被服』って何の料金だよ」

「対象者の戦闘服です。夢境内で安全に活動できるよう、現行状態へ合わせて再現します」

「寝てる奴の服を勝手に着替えさせるのか? 現実側までいじるなら即中止だぞ」

「夢境側だけです。現実側の肉体や寝巻きには触れません」

「それで金取るのかよ。勝手に着替えさせて請求書まで寄越すって、神界の更衣室どうなってんだ」

「九名分ですので、当然それぞれに再構築費が発生します」


 俺は契約書を閉じた。


「全員パジャマでやれ!」

「戦闘ですよ!?」

「夢だろ!パジャマでいいじゃねえか」

「最低限の尊厳と安全性を確保してください!」

「じゃあ言わせてもらうけどよ、尊厳に課金すんなよ!」


 ロイドが紙を横から見て、感心したように頷く。


「追加対象一人ごとに料金か。なるほどな」

「学ぶな。こいつの料金体系を異世界へ広めるな、マジで。頼む」

「いや、商売としては面白い」

「敵増やす気か」


 少し離れた場所では、モグが巨大な鍋を覗き込み、ルヴィアが「庶民的ですわ」と言いながら三杯目をよそっていた。

 リリアは寝る必要がないので、椅子の背へ逆さにぶら下がっている。


「陸ぅ。私も夢に入れるかなー? 死んでるけど!キャハハハハ!」

「お前ずっと起きてるだろ、いや死んでるのか」

「じゃあ見学ならいい?」

「仕事増えるから却下だ!」

「死人への娯楽が少なすぎるーーーっ!」


 俺はもう一度、契約書を開いた。


「分かった。使うなら条件を付ける。ここだけは一個でも破ったら、その神術ごと止めろ」

「どうぞ。契約条件として記録しますから、順番におっしゃってください」

「一晩だけだ。日の出で強制的に切れ。あと向こう八人に借金つけるな。勝手に契約者にするな。現実側に致命傷とか残すな。途中で嫌だって言った奴はすぐ帰せ」


 ゼニスの表情が少しだけ真面目になる。


「承知しました」

「あと請求は全部俺に回せ」

「本当に全額、黒田さんご本人へ請求してよろしいんですか? 追加八名分まで含めると安くありませんよ?」

「どうせ最初から俺へ寄越す気だったんだろ。あいつらに神界債務なんか背負わせたら、夢から覚めたあと俺が八方向から殺されるだろが」

「はい。契約上も黒田さんが主契約者ですので、その予定でした」

「確認した俺が馬鹿だった。今ちょっとだけ格好いいこと言った気分を返せ」


 ゼニスが小さく笑った。


「黒田さん。珍しく格好いいことを――」

「勘違いすんな。あいつらに請求飛ばしたら現実で俺が八方向から殺される。特に大庭が怖いんだよ」

「最後まで台無しですね」


 アレクシスが少しだけ真面目な顔で聞いた。


「その八人って、黒田さんが自衛隊にいた頃の仲間なんですよね」

「仲間って言うと気持ち悪いな。元部下と同僚」


 ゼニスが名簿を確認する。


「秋葉隆司さんは対象外でよろしいですね?」

「秋葉さんは砲班じゃねえ。あの人まで夢に引っ張ったら、起きたあと普通に説教される」

「では、黒田さんを含め九名のみ」

「『のみ』って言う人数じゃねえけどな」


 アレクシスが首を傾げる。


「上司だった人までいるんですか」

「いる。だから現実の人間関係掘るな。異世界でまで職歴面接されたくねえ」


「同じじゃないですか」

「違う。仲間って言うと急に青春っぽくなるだろ」


 ティアナが呆れた顔をする。


「そこまで嫌がるくせに、必要な人数も顔も一瞬で出てくるのね。変な人」

「仕事の編成忘れるほどボケてねえよ」

「そういうところよ。嫌だ嫌だって逃げるくせに、必要な時だけ人数も役割も一瞬で出てくる」

「何が言いたいんだよ。仕事の編成を忘れるほどボケてねえってだけだろ」

「別に。そういうことにしておいてあげるわ」


 ドーガンが腕を組んだ。


「会えば分かるだろ。昔のお前がどんな奴だったか、俺も少し興味がある」

「見るな。夢の中まで人事評価されてたまるかよ!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 ここは日本。同じ夜。


 相馬直樹は仕事を終え、自宅の灯りを落とした。

 橋本航平は翌朝の予定を確認してから布団へ入った。

 大庭拓海はスマートフォンを充電器へ投げるように置いた。

 田所圭介は工具の通販ページを閉じた。

 栗原亮太は夜食を食べてから眠った。

 西尾拓真は無言で目を閉じた。

 森谷悠斗は明日の勤務を気にしながら布団へ潜る。


 望月ひなたは、黒田とのトーク画面を一度だけ開いた。


 最後の返信は短い。


『分かった』


 以前の「生存」よりは二文字多い。

 それだけで少し笑い、スマートフォンを伏せた。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 俺も四畳半の部屋へ戻されていた。


 布団の脇には空き缶。

 灰皿。

 外れ馬券。


 いつもの部屋だ。


「夢まで仕事って、労基どこに通報すりゃいいんだよ......」


 煙草を灰皿へ押しつけ、布団へ転がる。


「頼むから普通の夢見せろ。温泉とか。焼肉食い放題とか。できれば料金なしで」


 天井が滲んだ。

 最後にゼニスの声がした。


『【追憶再編(リユニオン)】、接続開始』


「絶対請求書の額が怖いやつじゃん......」


 そこで意識が落ちた。


【神界・夢境接続ご請求】

・追憶再編基本接続料           金貨600枚

・追加対象8名因果接続料          金貨800枚

・睡眠中被服・装具再構築料        金貨180枚

─────────────────

今回加算                金貨1,580枚

日本円換算               7,900,000円相当

前回繰越残高              金貨42,750枚

合計残高                金貨44,330枚

日本円換算合計             221,650,000円相当

※火器・車両・弾薬再構築料は使用時別途加算。


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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