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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#08 優雅な取り立て屋 (正式名称:神界債権管理者来訪及び債務状況監査対応)

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第26話 食費ゼロの居候を拾った。そんなうまい話があるわけない

 死霊を退治した翌朝。

 やどり木の食堂で目を覚ますと、リリアが向かいの椅子へ座っていた。


「おはよー陸! 私は寝てないけど! 元気だよーーーーーっ!」

「朝からうるせえ。何でいるんだよ」

「昨日、“今後使える”って言ったじゃん!」

「能力の話だ。居候許可じゃない」


 ミャオが帳簿を持ってくる。


「黒田。その娘、食費はいらないみたいだけど、場所を使うなら宿代は相談するにゃよ」

「すぐ墓地に返そう。家賃ゼロなら本人も得だろ」

「ひどい! 私だって屋根のある場所で死後生活したい!」

「死後生活の住宅事情とか知らん、墓地へ帰れ」


 そこへゼニスが現れた。

 今日は灰色の監査官風スーツに腕章、手には分厚い査定ファイル。顔色が悪い。


「黒田さん。少し確認事項があります」

「嫌だ。朝は脳が起きてない」

「昨日の墓地案件とは別です。あなたの契約について、上から追加資料の提出を求められました」

「上って?」


 ゼニスが一瞬だけ黙った。


「......銭神様です」


 普段なら「余計なことを聞かないでください」と即答するところだ。

 今日は反応が遅い。


「お前もどーせそいつに借金あるんだろ。俺に偉そうなこと言えなくね?」

「私は借金ではありません。業務上の立替金です」

「返さなきゃいけない金?」

「返済義務はあります」

「世間ではそれを借金って言うんだよ」

「違います!」

「何が違う」

「名目が!」

「名目しか違わねえじゃん、やーい借金女ー」


 いつもならここで絶叫が来る。

 今日はゼニスは眉間を押さえただけだった。

 俺は少しだけ身体を起こす。


「......あれ?何かあった?」

「ありません」

「そうか」


 それ以上聞くのも面倒なので止めた。

 ただ、ゼニスがファイルを閉じて帰ろうとした時だけ言った。


「倒れんなよ。俺の契約分かる奴、お前しかいねえし。担当変わったら最初から説明するの面倒だから」


 ゼニスが足を止める。


「そこまで言って、最後に全部台無しにする必要あります?」

「善意に見えると気持ち悪いだろ。俺まで自分をいい奴だと勘違いしたら終わりだ」

「あなた自身が一番嫌がってるだけでしょう」

「まあな」


 少しだけ、いつもの営業スマイルが戻った。

 その方が、変に静かなゼニスよりはまだ気楽だった。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 昼過ぎ、またコレットが来た。

 昨日と同じ黒い事務服。今日は書類鞄の中身がさらに厚い。


「本日は契約対象者の周辺評価確認です」

「俺の?」

「はい。職能評価が資料によって大きく異なるため、補足確認を行っています」

「誰に聞いた」

「既に何名かへ」


 嫌な予感がした。

 最初はゲインだったらしい。


「金払いは悪い! だが買う! 必要以上にな!」


 次にミャオ。


「生活能力? ないにゃ。放っておくと煙草と酒だけで一日終わるにゃ、わたしもつい情にほだされてお金を出してしまうにゃ......困ってるにゃ」


 ティアナ。


「魔法は下手。そこは断言できる。でも距離とか位置を見る時だけ、別人みたいになる」


 ジークフリード。


「戦場なら頼れる。ただし本人が“次も同じとは思うな”って言う」


 バルガス。


「強い弱いより、帰り道を見る奴だ。俺はそこを買ってるな」


 ガロン。


「実力評価が安定しない。低い時は本当に低い。だが危険状況で数字だけでは説明できん判断をする」


 コレットは淡々と読み上げた。


「困りましたね。評価が統一されません」

「ほら見ろ。俺は評価不能。つまり仕事振るなってことだ」

「逆です」

「何でだよ」

「状況依存で価値が変動するなら、高価値状態が発生する条件を特定すればよいだけです」

「怖いこと言うなよ。俺を株みたいに分析すんな」


 リリアが横から手を上げる。


「私の評価も聞く?」

「お前は昨日会ったばかりだろ」

「陸はね、死人への扱いが雑かな!」

「参考にならんな」

「あと食費を聞くのが早い!」

「重要情報だろ」


 コレットは本当に記録した。


「維持費への関心が高い、と」

「書いてんじゃねえ!」


 ゼニスまで飛んできて書類を覗く。


「コレットさん。これ以上の私的調査は現契約管理権限への干渉です」

「承知しています。ですので、公開情報と本人同意を得た聞き取りのみです」

「黒田さん、同意したんですか!?」

「ゲインとか勝手に喋ったんじゃねえの?」

「してないじゃないですか!!」

「俺に怒るなよ!」


 コレットは静かに一礼した。


「本日の確認は以上です。なお、リボルヴ様は対象価値を当初査定より上方修正されました」

「それ仕事増える?」

「契約が成立した場合は、働く必要がなくなる可能性もあります」


 俺の耳が反応した。


「おい、今なんて?」


 ゼニスが即座に俺の前へ立つ。


「聞かなくていいです!」

「いや、“働く必要がなくなる”って俺の人生における最重要単語が聞こえたぞ」

「どう見ても罠です!」

「条件くらい聞かせろ!」


「――次回、正式なご説明を差し上げる予定です」


 コレットはそう言って帰った。

 俺は扉を見つめる。


「ゼニス」

「何です」

「お前、俺に“働かなくていい契約”出せる?」

「出せません、出せるわけないでしょう!!」

「じゃあ競合他社の見積もり見るわ」

「てめぇ黒田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 久しぶりに本気の絶叫が戻った。

 そんな日常に、俺は少し安心した。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 夜。

 俺は食堂の長椅子へ横になり、煙草を咥えていた。


「最近仕事多すぎる。明日は絶対何もしねえ。起きても働かん。飯食って煙草吸って、できれば一回も立たずに一日終える」


 ミャオが呆れる。


「そう言ってる日に限って何か来るにゃ」

「縁起悪いこと言うな」


 コンコン。

 扉が二度、静かに鳴った。

 ミャオが入口へ向かう。


「黒田、お客さんにゃ」

「居留守」

「もう灯り見えてるにゃ」

「寝てるって言って」


 扉の向こうから、落ち着いた男の声がした。


「黒田陸さん。少々、お時間をいただけますか?」


 昨日、神界の奥から聞こえた声だった。

 俺は煙草を外す。


「......ゼニス」


 光が弾け、監査官姿のゼニスが現れる。


「出なくていいです!」

「いや、もう玄関にいるじゃん」

「それでもです!」

「面倒くせえなあ......」


 俺は長椅子から身体を起こした。

 働きたくない男へ、働かなくていいという話が向こうからやって来た。

 嫌な予感しかしないのに、条件だけは少し気になった。

 無料、という言葉には弱い。自覚はある。


【神界・追加ご請求】

・契約資産周辺評価再査定費        金貨40枚

・第三者聞取記録照合費          金貨30枚

・敵対契約接触警戒監督費         金貨40枚

─────────────────

今回加算                金貨110枚

日本円換算               550,000円相当

前回繰越残高              金貨41,185枚

合計残高                金貨41,295枚

日本円換算               206,475,000円相当

※ミャオ管理債務は別口。


【登場キャラクター紹介】


黒田の周囲が騒がしいのは今に始まったことではありませんが、今回は神界側にも厄介な人物が増えました。

ついでに死人まで増えました。


【★初登場 リボルヴ】


ゼニスとは別系統に属する金融神。

黒田を単なる債務者ではなく、「価値ある契約対象」として見ています。

常に穏やかで礼儀正しく、ゼニスより条件も良さそうに見える男。


だからこそ、ゼニスは強く警戒しています。


【★初登場 コレット・ノワール】


リボルヴの契約執行担当。

銀灰色の髪に黒い事務服という、隙のない実務担当者です。

黒田が契約書を破っても怒りません。


再発行します。


燃やしても怒りません。


再発行します。


ただし手数料は発生する可能性があります。


【★初登場 リリア・モルグ】


三百年以上前に死亡済みの不死魔導師(アーク・リッチ)

白銀の髪、青白い肌、濃い隈という完全に死体寄りの見た目ですが、中身は異常に元気です。


食費ほぼゼロ。

睡眠不要。

病気の心配もほぼなし。


黒田は初対面で能力より先に「維持費が安い」と評価しました。


なお本人から一言。


「死んでても痛いんだからねぇぇぇぇ!!」


【◆主要登場 ゼニス】


これまで黒田を追い回す側だった女神。

今回は初めて、自分たちの契約そのものを外から狙われる立場になりました。


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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