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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#08 優雅な取り立て屋 (正式名称:神界債権管理者来訪及び債務状況監査対応)

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26/43

第25話 墓場で妙に元気な死体に話しかけられた

 昼寝してその日の夕方。

 ゼニスがまた来た。

 今日は黒いロングコートに細身のパンツ、革手袋。首から銀色の札まで下げている。金融屋から急に霊障調査員へ転職したらしい。


「今度は何。葬儀屋でもはじめんのかお前?」

「違います! 異常存在の現地確認です!」

「異常存在なら自分で鏡見てみろよ」

「黒田てめぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ......じゃなくて、今日は本当に時間がありません。神界記録におかしな反応が出ています」


 途中で営業口調へ戻そうとする努力だけは認める。

 ゼニスが見せた記録には、王都郊外の古い共同墓地周辺で生命反応と死亡記録が重なっている表示が出ていた。


「バグだろ。再起動しろ」

「神界の記録網をどっかの家電みたいに言わないでください。対象は三百年以上前に死亡処理済み。それなのに現在も活動反応があります」

「なら幽霊じゃね?」

「幽霊なら幽霊として別分類されます。これは死亡済み本人が動いている判定なんです」

「じゃあ本人に聞けばいい」

「そのために行くんですって!」


 ちょうどギルドにも、墓地付近で死霊が増えたという調査依頼が出ていた。

 報酬は高くないが、相手が幽霊なら物理的に噛まれる可能性は低そうだ。


「よし。安全案件だな」


 リゼットが営業スマイルで首を傾げる。


「黒田さんがそう言った依頼、最近だいたい安全ではありません」

「受付が縁起悪いこと言うな」

「実績に基づく注意喚起です」


 ちょうど時間が合った、魔法使いのティアナも同行することになった。

 理由は死霊系魔術への対処。俺よりよほど彼女のほうが適任だろう。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 日が落ちかけた墓地は、雰囲気だけなら満点だった。

 傾いた墓石、枯れた木、古い石壁。薄暗い霧まで出ている。


「これ絶対何かいるだろ」

「だから来たんでしょ。あんた、さっき安全案件って言ってたじゃない」

「昼の墓地と夜の墓地は別物だ。危険度査定に時間帯補正を入れろ」

「都合よくルール増やさないの!」


 奥へ進むと、墓石の陰に人が倒れていた。

 白銀に近い長髪。黒いゴシックローブ。異様に白い肌。細い手足に濃い隈。見た目だけなら、どう考えても死体だ。


「ゼニス。いたぞ。死体」

「反応はその人です。ただ......」


 俺が覗き込んだ瞬間、女の目が開いた。


「こんにちわああああああああ!! 死んで三百年! 今日も元気に死んでまぁぁーす!!」

「うわ、うるせえ死人だな」

「初対面でその感想!?」


 女は勢いよく立ち上がり、両手を広げた。


「私、リリア・モルグ! 不死魔導師(アーク・リッチ)! 死後生活満喫中! 健康状態は死亡で安定してまーす!」


 ゼニスが神具を何度も見直す。


「本当に死亡済み......しかも処理完了が三百年以上前......どうして活動しているんですか?」

「死んだから?」

「理由になってません!」


 俺には別のところが気になった。


「俺は陸だ、お前、飯は?」

「ほぼいらなーい!」

「睡眠は?」

「いらなーい!」

「病気は?」

「もう死んでるから関係なーい!」

「老後資金」

「永遠に老後みたいなものだから不要!」


 俺は顎へ手を当てた。


「お前、生活コストめちゃくちゃ安いな」


 ティアナが嫌そうな顔をする。


「そこに食いつくの?」

「重要だろ。食費ゼロ、医療費ほぼゼロ、寝具もいらん。ミャオの宿代問題を考えれば優良物件だぞ」


 リリアが目を輝かせた。


「ねえ陸! そんなに私の事認めてくれるなら、私なんか、お嫁さんにどう? 愛人でもいいよ! 維持費安いよ!」

「初対面でいきなりすぎだが、食費ゼロは魅力的だな。続けろ」

「検討するなぁぁぁぁ!!」


 ゼニスとティアナの声が重なった。

 その直後、墓地の奥から低い呻き声が響いた。

 半透明の影が一つ、二つ、十、二十。どう見ても増えている。

 リリアが「あ」と言った。


「あれぇ? もしかして、さっき暇だったから呼んだ子たちかな」

「暇つぶしで死霊呼ぶなぁぁぁ!」

「でも一人だと寂しいじゃん?」


 ティアナが杖を構える。


「黒田、説教は後! あれ、まともに統制されてない!」


 死霊の群れが一斉にこちらへ流れてきた。

 俺は横を見る。


「リリア」

「その呼び方、嫌な予感してきんたですけどぉぉ!」

「とりあえずお前が行け」

「初対面で!?」

「お前死なねえんだろ。原因お前だし、一番前で片付けろ」

「死んでても殴られたりしたら、痛いんだからねぇぇぇぇ!!」


 リリアが叫びながら飛び出した。

 闇色の魔力が地面へ走り、数体の死霊をまとめて縛る。術そのものは強い。ティアナが一瞬目を見開くほどだった。


「......何あれ。魔力制御、私より上の部分あるんだけど」

「じゃあ優秀じゃん」

「今のところ結果が全部マイナスなのよ!」


 リリアが両手を上げる。


「よーし! 分からなくなったから周辺の死霊ぜーんぶ呼んで、まとめて命令し直す!」

「おい待て。“全部”って言った?」


 地面が鳴った。

 墓地のあちこちから骸骨が起き、木の陰から幽霊が出て、遠くから首のない騎士まで歩いてくる。


「うわぁぁぁぁぁ、増えたぁぁぁぁぁ!!」


 ティアナが絶叫する。

 リリア本人も青ざめた。


「誰が誰の死霊か分かんなくなったぁぁぁ!!」

「お前、召喚より片付け覚えやがれぇぇぇぇぇ!!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 結局、ティアナが術式を整理し、リリアが一体ずつ送還して、俺は墓石の陰から指示だけ出した。

 終わった頃には完全に夜だった。

 ゼニスは神具へリリアを登録しようとして、固まる。


【死亡済み。登録不能】

 もう一度。

【死亡済み。登録不能】

 リリアが胸を張る。


「ほら! 私ちゃんと死んでるでしょ!」

「ちゃんと死んでる人は喋らないんですよぉぉぉぉ!!」


 俺は疲れたので墓石にもたれた。


「まあいい。こいつ今後使えるぞ。食費安いし」

「人材評価が維持費だけなんですか!?」


 ティアナは疲れた顔でリリアを見る。


「術そのものは本当に高位よ。制御も途中までは綺麗だった。途中から“全部呼べばいい”って馬鹿な判断しただけで」

「褒められた! 後半は聞かなかったことにする!」

「そこ聞きなさいよ!」

「都合の悪い評価を切り捨てるの、黒田に似てるわね」

「俺まで巻き込むな」


 リリアは笑顔で手を振った。


「よろしくね陸! 死後生活、エンジョイして楽しくいこー!」

「俺は生きてるし、できれば静かに寝たいだけ......」


 遠くで、黒いカラスみたいな鳥が「カア」と鳴いて一羽飛び立った。

 その脚には、見覚えのない黒い札が結ばれていた。


【神界・追加ご請求】

・死亡記録異常照会費           金貨35枚

・霊障現地確認監督費           金貨45枚

・死霊大量発生緊急安定化費        金貨60枚

─────────────────

今回加算                金貨140枚

日本円換算               700,000円相当

前回繰越残高              金貨41,045枚

合計残高                金貨41,185枚

日本円換算               205,925,000円相当

※ミャオ管理債務は別口。


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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