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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#08 優雅な取り立て屋 (正式名称:神界債権管理者来訪及び債務状況監査対応)

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第24話 無職32歳、神様から真顔で資産査定される

 なぜか朝からゼニスの機嫌が悪い。

 しかも今日は黒いピンストライプのスーツに銀色の腕時計、革の書類鞄という、昨日よりさらに金融屋感の強い格好だった。


「昨日から何なんだよ、その格好。神様辞めて銀行員に転職した?しかも無駄にお色気あるんだよなお前」

「契約交渉に合わせた正式な業務衣装です。あなたは気にしなくて結構です」

「気にしてねえよ。似合ってないって言ってるだけ」

「朝一番に呼び出されて最初の仕事が私の服への悪口なんですか!?」

「俺は呼ばれた側だ。客だぞ」

「債務者でしょうがぁぁぁ!」


 その言い方に、昨日の妙な黒縁通知を思い出した。


「で、何。昨日の誰かと揉めたんか?」

「揉めていません。先方から契約譲渡の提案を受けただけです」

「俺の?」

「......はい」

「え、買い取ってくれるの?」


 思わず姿勢を起こした。


「待て。それって俺の借金まとめて向こうが払ってくれるってこと? 俺、ゼニスから解放される?」

「そこだけ聞けば、そうです」

「まじか!!最高じゃん」

「話を最後まで聞けぇぇぇぇ!!」


 ゼニスが机を叩く。


「相手はリボルヴ。別系統の金融神です。既存債務を引き受ける代わりに、契約者本人の能力、労働力、将来収益へ強い権利を設定する。あなたが想像している“借金チャラで自由”とは違います」

「でも条件見ないと分からんだろ。お前より良心的かもしれない」

「う、そこを否定しにくいのが腹立つんですよ!」

「否定できねえんじゃん」

「表面条件は良い可能性があります! だから危ないと言ってるんです!!」


 ゼニスがこれほど焦る相手なら、少し興味はある。

 だが面倒事の匂いも濃い。俺としては、向こうから来ない限り放置するのが正解だ。


「分かった。来たら話だけは聞くがな」

「話も聞かなくていいです」

「何でだよ。比較見積もりは大事だろ!」

「自分を住宅ローンみたいに比較するな!!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 昼過ぎ。

 その「向こうから」が、本当にやって来た。

 やどり木の扉を開けたのは、銀灰色の髪をした女だった。見た目は二十代半ば。黒い事務服に黒革手袋、薄い書類鞄。背筋が真っ直ぐで、笑顔も営業用なのにゼニスほど怖くない。


「黒田陸様でいらっしゃいますか」

「違います」

「黒田ですにゃ」


 ミャオが即答した。


「ミャオ。最近みんな俺を売るの早くない?」

「宿の中で本人確認を拒否しても意味ないにゃ」


 女は一礼した。


「コレット・ノワールと申します。リボルヴ様の契約執行担当です。本日は現契約状況の確認と、資料のお届けに参りました」

「帰って」

「承知いたしました。では資料のみお渡しします」

「対応が早いな」


 渡された黒い封筒を、その場で二つに破った。


「これで読めない」

「再発行いたします」


 もう一通出てきた。


「......じゃあ燃やす」

「再発行いたします」

「川へ捨てる」

「環境負荷が生じますのでお勧めしませんが、再発行は可能です。なお、故意の連続再発行は事務手数料の対象となります」

「金取るのかよ! やっぱ敵だわ!」

「何で敵側の方が落ち着いてんだよ!」


 横でゼニスが腕を組む。


「私だって最初は落ち着いていましたよ! あなたが毎回、破る、逃げる、寝る、屁理屈をこねるを繰り返した結果が今です!」

「人のせいにするな。感情管理は自己責任だろ」

「お前が言うなぁぁぁぁ!!」


 コレットは二人のやり取りを見ても眉一つ動かさず、書類を開いた。


「確認事項は多くありません。神界債務、宿泊等の生活債務、武具購入に伴う分割債務。複数の債権が存在していますね」

「借金をポートフォリオみたいに言うな。まとめた瞬間、俺の人生が金融商品みたいに見えるだろ」

「現在の返済優先順位は設定されていますか?」

「気分」

「黒田さん!」

「正確には、取り立てに来た順。ミャオが目の前で帳簿出したら宿代、ゲインが店で睨んでたらローン、ゼニスが叫んだら神界。現場対応だ」

「返済計画と呼べるものが一つもありませんね」

「柔軟性が高いと言え」


 コレットは真顔で書類へ何か書いた。


「“計画性なし”と記録します」

「言い換えろ!」


 ミャオが帳簿を持ってくる。


「宿代と食費はこっちにゃ。黒田、最近また増えてるにゃよ」

「モグの食費混ざってるだろ」

「黒田名義で泊まってるにゃ」

「居候の扶養控除とかないの?」

「異世界の宿屋に何を求めてるにゃ、お前は」


 コレットは淡々と数字を書き留める。


「装備ローンについては?」

「ゲインの店。必要装備だな」


 ゼニスがすぐ刺す。


「予備を含めて必要以上に購入しています」

「必要かどうかは現場で決まる。使わなかったから不要だった、は結果論だろ」

「同じ用途の剣を何本も買う理由にはなりません」

「安売りしてた店が悪い」

「出た。最後だけ他人のせい」


 コレットはそこで初めて少しだけ目を細めた。


「なるほど。支出抑制より、収益機会を増やした方が効率的かもしれませんね」

「オ、コレットちゃん、分かってるじゃん」

「同意しないでください!」


 ゼニスが声を上げる。

 コレットは書類を閉じた。


「本日は確認のみです。契約変更を強制する権限はありません。ご安心ください」

「意外とまともだな。もっと玄関で契約書押しつけてくると思ってた」

「拒否自体は契約上可能です。ただし今後、正式な提案が届く場合があります」

「条件いい?」

「私から申し上げる立場にはありません」

「利息は? 返済期限は? 最低返済額だけでも」

「正式提案前のため回答できません」

「じゃあ資料置いてけ」

「先ほど破棄されましたので、次回は耐水・耐火仕様をご用意します」

「対策進化すんなよ!」

「そこだけ教えてくれよ。聞くだけならタダだろ」

「そういう入り口から契約に近づくんです!」


 俺はゼニスを無視して、コレットを見送った。

 扉が閉まった瞬間、ゼニスが詰め寄ってくる。


「黒田さん!絶対にサインしないでくださいね」

「条件見てから」

「見るな!」

「じゃあお前がもっと条件良くしろ」

「それが簡単にできれば苦労してないんですよ!!」


 そこだけ妙に本音に聞こえていた。

 俺は少し黙ってから、椅子へ寝転ぶ。


「まあ、来たら考える。今日は考えない。脳みその営業時間終わり」

「まだ昼です!」

「知らん。寝るわ」


【神界・追加ご請求】

・敵対契約照会対応事務費         金貨25枚

・契約執行官来訪監視費          金貨30枚

・債務情報照合保全費           金貨30枚

─────────────────

今回加算                金貨85枚

日本円換算               425,000円相当

前回繰越残高              金貨40,960枚

合計残高                金貨41,045枚

日本円換算               205,225,000円相当

※ミャオ管理債務は別口。


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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