↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#06 渋々本気 (正式名称:遭難冒険者一行緊急救出及び魔獣脅威排除作戦)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/44

第19話 本気を出すと金が減る。やっぱり働くもんじゃない

 黒月狼王ブラックムーン・アルファを倒してから、俺たちは負傷者を連れて山道を下った。

 帰りは遅かった。


 ジークフリードの右肩はまともに動かない。ティアナも魔力を使い切って足取りが重い。俺は【|即日レベルアップシステム《インスタント・レベリング》】の反動というより、料金明細を見た精神的ダメージの方が大きかった。


「九百六十万円......数字にすると改めて腹が痛ぇわ。狼より請求書の方が後から効く」

「黒田、さっきからそれしか言ってないわよ」

「九百六十万円あったら何できると思う。酒。煙草。家賃。車だって中古なら選べる。なのに俺は狼に噛まれないために消した」

「でも、その九百六十万円で私たち助かったでしょうが。そこは必要経費として認めなさいよ」

「そこが反論しづらいんだよ。人命救助を盾にされると、俺の金銭感覚だけが悪者になる」

「実際、金の使い方は悪いでしょ。今だけ神界のせいにしても過去の浪費は消えないわよ」

「装備買う時のお前らと同じだ。必要だったから使った。そこは認める。認めるけど、利用料金が九百六十万なのは神界が悪い」


 ゼニスが振り返る。


「また責任分散が始まりましたね。今回はご自分で起動を指示したのを忘れないでください」

「だってそうだろ。俺は悪くないとは言ってない。起動したのは俺。そこは認める。だが、人一人助けるたびに車一台消える料金体系は社会インフラとしておかしい。救急車呼んだら請求書で家がなくなる国があったら住みたくないだろ」

「即レベは救急サービスではありません。戦闘能力を短時間で引き上げる高コストの成長支援です」

「なら救援用途の割引プランを作れ。人命救助時だけでも料金を下げろ」

「残念ながら、現在そのような救援専用割引プランはありません。勝手に制度を作らないでください」

「なら俺が第一号になる。命がかかってる時に値段で迷う奴、絶対ほかにもいるだろが!」

「少なくとも現状、あなたの契約条件で即レベを使っているのはあなただけです! 一般需要みたいに言わないでください!」

「なら独占市場じゃねえか! もっと値下げしろバカか!」

「市場原理の使い方がおかしいです!!」


 ジークフリードが、肩を押さえながら笑った。


「こんな状況でも金の話なのか、あんた」

「金の話ができるってことは生きてるってことだ。死にかけてる時は料金のこと忘れてたからな。俺はあの状態が嫌いだ」


 その言い方に、ジークが少し黙った。

 しばらく歩いてから、ぽつりと言う。


「黒田。俺は、あんたを勘違いしてた」

「いや、やめろ。評価上げるな。仕事増える」

「そういう意味じゃない。最初に会った時、力を出さない、逃げ道ばかり探す、金のことばかり言う。正直、口だけの臆病者だと思ってた」

「大体合ってる。口だけ、逃げ腰、金の話ばかり。その評価自体は否定しない」

「だから話を終わらせるなよ! 今日、助けられた。あんたがいなかったら、俺はあの狼王にやられてた」

「ティアナもいたし、お前も最後は斬った。俺一人の手柄じゃねえ」

「それでも、あの瞬間に俺を引っ張ったのはあんただ」

「あれはたまたま間に合っただけだ。次も同じ距離で間に合う保証はない」

「たまたまじゃない。あんた、ずっと全体を見てた。魔狼がどこから来るか、俺がどっちへ動けるか、ティアナの魔法がどこへ届くか。俺にはあんな見方はできない」


 俺は返事をしなかった。

 ジークは続ける。


「それでも、本当は強いんだな。少なくとも俺が思ってたよりずっと」

「その認識は危険だ。今日の俺を基準にして次の作戦を組むなよ?」

「何でそこまで自分の戦力を低く見せたがるんだ。今日の動きは嘘じゃないだろ」

「今日の俺は【即応ラピッド・アダプテーション】で無理やり上がっただけ。何日かサボればまた落ちる。次に会った時、同じ動きできる保証はない」

「......そんなに落ちるのか?」

「落ちる。だから期待すんな。俺を恒常戦力に数えると計画が破綻する。必要な時にたまたま上がる、不安定な予備部品ぐらいに思っとけ」

「自分を予備部品扱いする奴、初めて見たぞ」

「本体扱いされるよりマシだ」


 ティアナが横から口を挟んだ。


「戦闘判断は認める。でも、魔法技術だけは本当に最低。そこは評価を上げないから」

「そこから入る? 今ちょっと良い話をしてた流れだっただろ」

「だって事実じゃない。レベル上がっても、初級火球の制御は変わってなかった。身体能力と魔法技術が別物って、あんた見てるとすごく分かりやすい」

「俺を教材扱いすんな。しかも良い例じゃなく悪い例で使うな」

「反面教師としてはすごく優秀よ。レベルと技術が別だって一目で分かるもの」

「褒めてねえだろ、それ」


 ティアナは少し笑い、腰のポーチから小瓶を一本出した。


「これ、肩の傷に使って。浅いうちに処置した方が治りも早いから」

「回復薬か? これ、そこそこ値段するやつじゃないのか」

「そう。高級品じゃないけど、浅い傷なら十分。貸すだけだから」

「薬を貸すって返却どうすんだよ。飲んだら俺の身体から回収する気か?」

「そういう意味じゃない! あげるって言うと、あんた絶対変なこと言うでしょ!」

「もう言ってる」

「だから嫌なのよ!」

「じゃあ素直に貰う。助かる。肩を動かすたび地味に痛かったんだ」


 俺が素直に言うと、ティアナが一瞬だけ止まった。


「......何よ。普通にお礼言えるじゃない」

「俺だって必要な時は礼くらい言う。常時垂れ流すほど安売りしてないだけだ」

「だったら普段からもう少し言いなさいよ。毎回こっちが驚く方がおかしいでしょ」

「頻度上げると価値下がる」

「感謝を希少通貨みたいに扱うな!」


 山を下りきったところで、ギルドから出ていた後続の救援班と合流した。


 その先頭にいたのは、朝に別ルートへ入ったバルガスだった。大盾には新しい引っかき傷が増えていたが、本人はぴんぴんしている。その後ろには救出された商隊の生存者も揃っていた。


「......全員いるな」


 バルガスは俺たちの人数を一人ずつ確認し、ジークの肩、ティアナの顔色、最後に俺の傷へ視線を移した。


「怪我はしてるが、歩ける。なら上出来だ。詳しい話は町へ戻ってからでいい。今ここで反省会を始めて、日が落ちてからもう一回救援されるなんて間抜けな真似だけはするなよ」

「やっぱおっさん、話分かるわ。俺も今すぐ帰って横になりたい」

「お前はまず治療しろ。地面に横になるって意味なら却下だ」

「何で今日会った奴まで俺の扱いを理解し始めてんだよ」


 ジークフリードが苦笑する。


「黒田、あんた分かりやすいんじゃないか?」

「俺ほど奥深い男も珍しいぞ」


 バルガスが即答した。


「金と睡眠の話ばかりしてる奴の、どこが奥深いんだ」

「第一印象だけで人を判断するな」

「第一印象から今までずっと変わってないぞ」


 反論しようとしたが、ティアナまで頷いたのでやめた。


 商隊の生存者も確保されている。

 俺はその場で一度横になろうとしたが、ゼニスとティアナに同時に止められた。


「怪我してる人間がそのまま地面に寝転がるな。傷へ土が入ったら面倒でしょう」

「契約者の負傷状態を悪化させないでください」

「二人して言うな。母親が増えたみたいで嫌だ」

「誰が母親よ! 私はあんたより十三も年下なんだけど!」

「私まで母親枠に入れないでください! 私は債権管理担当です!」

「どっちも怖いわ」


 夕方。

 王都の冒険者ギルドアドベンチャラーズ・ギルドへ戻ると、ガロンが腕を組んで待っていた。


「全員帰ったか。負傷者もいるが、まずは生還できたようだな」

「帰った。だからもう俺の仕事は終わり。報告はジークに任せて、俺は宿へ――」

「待て。黒田、お前はまだ報告と確認が終わっていない」

「嫌な予感しかしない」

「今回の救援記録を確認する。黒田、お前の戦力評価も見直す必要がある」

「戦力評価の見直しはやめろ。そこを上げると次の仕事が増える」


 即答した。

 リゼットが受付の向こうで書類を用意する。


「黒田さん。緊急救援への参加、指揮補助、上位個体討伐への貢献。これだけ実績が重なると、現在の登録評価では不整合が出ます」

「不整合のままでいい。世の中、多少の誤差は許容しろ」

「実績と登録評価がずれたままだと、依頼を割り振る側が困ります。危険度判断にも関わります」

「困ってくれ。俺が困るよりいい」

「自分が困らなければ受付が困ってもいい、という意味なら最低ですね」

「リゼット、お前も強くなったな。最初の頃はもっと愛想良かったぞ」

「今もちゃんと営業スマイルです。黒田さんへの対応内容が少し具体的になっただけです」

「内容が刺してくんだよ」


 ガロンが机を指で叩く。


「ランクそのものは即時に上げん。だが、危険案件への適性があることは記録する」

「それが一番嫌なんだよ! 高ランクになったら高ランクの仕事振るだろ。記録だけ残したら、ランク低いのに高難度だけ来る最悪の状態になるじゃねえか!」

「記録を消しても実力があるなら仕事は来る。諦めて働け」

「責任と仕事が増える昇進を喜ぶ奴の気持ちが分からん。上に行けば報告増える、調整増える、部下の面倒増える。現場だけやってりゃいい時期が一番楽なんだよ」


 ジークが横で笑う。


「妙に実感があるな」

「元二曹を舐めんな。仕事ができる奴には仕事が集まる。俺はその恐ろしさを知ってる」

「じゃあ、できないふりをしてたのか?」


 言ってから、少しだけ空気が止まる。

 俺はすぐ金の話へ逃げようとした。


「その話はもういい。過去の労働実績を掘り返しても一円にもならん。それより今回の報酬を――」

「黒田さん!!」


 ギルドの端から、やたら元気な声が飛んできた。

 振り向くと、若い冒険者が三人、こっちへ一直線に歩いてくる。


 先頭は赤茶色の短髪をした筋肉質な青年。腰には剣。見るからに「考える前に走ります」という顔をしている。その後ろには丸眼鏡を掛けた黒髪の魔術師らしい少年。最後は砂色の髪をした細身の青年で、装備を見る限り斥候だろう。三人とも目が妙に輝いていた。


「黒田さんですよね!?」

「全然違います。人違いです」


「黒田さんです」


 受付からリゼットが即座に刺してきた。


「おい。本人が違うって言ってるだろ。客の個人情報を勝手に開示すんな」

「ギルド登録者のお名前を確認しただけです」

「逃げ道を事務処理で塞ぐんじゃねえよ」


 赤茶髪の青年が一歩前へ出た。


「俺、アンディ・グレイです! 前衛剣士やってます! さっき救援班の人から聞きました。黒田さん、あの黒月狼王ブラックムーン・アルファに囲まれた仲間を助けて、群れまで退かせたんですよね!? お願いします、俺を弟子にしてください!」


「嫌です」

「即答!?」

「弟子って言葉には教育、指導、面倒を見る、責任を取るという危険な概念が詰まってる。俺の人生方針と真逆だ。よって却下」


 今度は丸眼鏡が前へ出た。


「ポーレン・ノックスです。魔術師をしています。ですが師匠、私は分かっています。初級火球を意図的に外し、敵の注意を誘導したうえで本命の攻撃へ繋げたのでしょう? 一見すると失敗に見える行動まで戦術へ組み込む......これは非常に高度な――」

「普通に外しただけよ」


 ティアナが真顔で切った。

 ポーレンは一瞬止まり、それから眼鏡を押し上げた。


「なるほど......自分の魔法技量を低く見せ、周囲の警戒を下げるための偽装まで」

「違う。こいつ本当に下手なのよ」

「そこまで徹底して実力を隠しているとは......!」


「おいこら話聞けぇぇぇっ!!」


 ティアナの声がギルドへ響いた。


「俺もそこはティアナに賛成する。変な方向に評価上げんな。魔法については俺が下手。それで話は終わりだ」

「師匠ほどの人が、そこまで謙虚に......!」

「ポーレン、お前たぶん人の話を理解する能力だけ魔法より低いぞ」


 三人目の砂色の髪の青年が、二人を押し退けるように前へ出た。


「タンナー・ベルです。斥候をやっています。師匠が面倒事を嫌うのは聞いていますので、その点は心配ありません。こちらで訓練場所の候補を三か所選び、初心者向け依頼も二件ほど調べておきました。師匠の負担を減らせるよう、事前準備はこちらで進めます」

「お前が一番まともそうな顔して一番怖いこと言ってるぞ。何で俺が了承する前に予定を組んでんだ」

「善は急げと言いますので」

「俺にとっては善じゃねえ!」


 アンディが拳を握る。


「じゃあ明日の朝からお願いします、師匠!」


 ポーレンも頷く。


「私はまず、師匠の魔法失敗に隠された戦術的意図を体系化します」


 タンナーは手帳を出した。


「ギルドへの集合は朝七時で大丈夫ですか?」


「何一つ大丈夫じゃねえ!! 俺は弟子なんか取らんし、朝七時にも来ねえ! あと全員、勝手に師匠って呼ぶな。教える仕事が増えるだろうが!」


 三人が揃って首を傾げる。


「「「師匠?」」」


「もう始まってんじゃねえかぁぁぁぁぁぁ!!」


 頭を抱えた俺の横で、ジークが肩を震わせていた。ティアナに至っては隠す気もなく笑っている。


「黒田、良かったじゃない。尊敬してくれる後輩が三人も増えたわよ」

「いらん。尊敬は現金化できない。弟子は飯を食うし質問するし、勝手に仕事を持ってくる未来しか見えねえ。俺はもっとこう、何も要求せず遠くから静かに尊敬してくれる人材を求めてる」


 リゼットが営業スマイルで書類を持ち上げた。


「では黒田さん。将来のお弟子さんのお話は後ほどということで、先に報酬精算をいたしましょうか?」

「弟子じゃねえ。その部分だけは訂正する。でも報酬の話は大歓迎だ。そこだけ先に聞かせろ」


 リゼットが待ってましたとばかりに紙を出した。


「緊急救援報酬、上位個体討伐加算、商隊側謝礼を合わせて金貨260枚です」

「二百六十枚! やっと働いた実感のある数字が出たな!」


 俺は立ち上がった。


「よし。今日の九百六十万円は戻らんが、せめて百三十万相当は稼いだ。完全赤字だけど、赤字幅は縮んだ。人生はこういう小さな改善から――」

「そこからギルド手数料が二十六枚」

「......はい。まず最初の控除ですね。ここまではまだ耐えられる」

「ゲインさんの装備ローン返済へ三十六枚。これで前回返済済みの十二枚と合わせて、金貨四十八枚の契約は完済です」

「……待て。いま“完済”って言った? 俺、借金を一個ちゃんと消したの?」

「はい。ゲインさん分については残債ゼロです」

「やった! 俺でも借金って減らせるんじゃねえか。今日は祝い酒――」

「続いて、ミャオさん管理の生活債務へ五十四枚です」

「祝いの寿命が短ぇ! 数字を連射するな、精神防御が追いつかん!」

「消耗品補填、治療費分担、救援班共同経費で三十四枚」

「俺の話聞いてる? せめて一回、百枚くらい手元に置かせてくれない?」

「各種控除後で、現時点の残額は金貨百十枚です。まだ残っていますよ」

「ある! まだ百十枚ある!」

「なお、神界債務への自動充当についてゼニスさんから申請が――」

「神界債務への自動充当は却下! そこまで持っていったら俺の手元がまた消える!」


 ゼニスが隣からにっこり笑った。


「黒田さん。今回、即レベだけで金貨1,920枚増えています。百十枚くらい返しても罰は当たりません」

「当たる! 俺の生活に当たる! 煙草、酒、食事、全部必要経費だ。百十枚ぐらい手元に残せ。人間には現金が必要なんだよ!」

「では、最低返済額として七十枚」

「三十枚なら返す。それ以上は生活防衛上の問題が出る」

「六十枚です。今回の利用額を考えれば、それでもかなり譲っています」

「三十五。こっちも五枚譲った。交渉ってのは歩み寄りだろ」

「では五十五枚。私も五枚下げました。これで公平です」

「四十。これ以上は一歩も引かん」

「四十では低すぎます。五十枚までなら、こちらもこれ以上は言いません」

「四十五! 真ん中だ。これ以上やったら交渉じゃなくて徴収だ!」

「......分かりました。この返済では四十五枚で処理します。今後の前例にはしません」

「よし、交渉成立! 久しぶりに金の話で一勝した気がする!」


 俺は勝った顔をした。

 その横で、ゼニスが端末を一度だけ確認する。


「では、神界債務へ金貨四十五枚を任意返済として充当します。なお、金貨五十枚未満の少額任意返済に該当しますので、返済処理手数料として金貨四十五枚が別途加算されます」

「......待て。今の文章、途中から俺の知ってる日本語じゃなくなった。俺は四十五枚返したんだよな?」

「はい。返済そのものは正常に処理されます」

「なのに四十五枚増える?」

「はい。少額任意返済処理手数料です」

「返した額と同額じゃねえか! 俺いま何のために七十から四十五まで命懸けで値切ったんだよ!」

「ご安心ください。手数料は神界債務側への加算ですので、現在お手元に残る六十五枚から直接徴収するものではありません」

「そこだけ親切そうに説明すんな! 財布から取らず借金へ積む方が悪質だろうがぁぁぁぁ!!」


 周囲の冒険者が一斉にこっちを見る。

 ゼニスは何事もなかったように端末を閉じ、リゼットが営業スマイルのまま続きを引き取った。


「それでは、現在お手元に残っている六十五枚ですが、未払いの宿代と今週分の食費前払いをミャオさんから――」

「うわああああああああああああああああっ!! 何で俺、人命救助して狼王倒して、最後に財布だけ討伐されてんだよぉぉぉぉぉっ!!」


 ギルド中が振り返る。

 リゼットは営業スマイルのまま言った。


「各所へ適切に配分されています」

「その言葉、現代でも異世界でも嫌いになったわ!」


 夜。

 やどり木へ戻ると、モグが食堂で俺を待っていた。


「陸! 帰ったか! 腹減ったぞ!飯だ!!」

「第一声がそれかよ。俺も腹減った」

「陸、ひなたの飯はまだ残っておるか? 昨日の肉がとても気に入ったぞ」

「お前、名前まで完全に覚えたな。本人に会ったら最初に飯を要求しそうで怖い」

「うむ。ひなたは飯をくれる良い奴じゃぞ」

「本人に会ったこともねえくせに評価が飯一本で決まってる」

「飯は大事じゃぞ。腹を満たす者は、それだけで信用に値する」

「それはまあ、否定しねえけど」


 そこへ、救出した商隊の男が礼を言いに来た。


「黒田さん。これ、北方の村から仕入れた干し肉です。大した物じゃありませんが、皆さんで」

「食い物なら何でもありがたい。こいつが全部食う前に俺の分だけ確保する」


 袋を受け取った瞬間、モグの鼻が動いた。


「......その袋、少し待て。匂いをもう一度嗅がせてくれ」

「何だ」

「一切れでいいから寄越せ。全部取らぬ、味を確かめたいだけじゃ」

「嫌だ。今、お前が全部食う前にって説明しただろ」

「一つだけ! 一つだけじゃ!」

「お前の“一つだけ”は信用ならん」


 ミャオが笑いながら一切れ渡した。


「ほら、一個だけにゃ」


 モグは干し肉を口へ入れた。

 いつもなら即座に“うまい”が飛ぶ。

 今日は違った。

 咀嚼が止まる。

 小さな鼻がもう一度匂いを嗅ぐ。


「......これ、覚えておる。ずっと昔に食べたことがある味じゃ」

「どうした、デブ竜。まずいのか?」


 モグは首を振った。


「違う」


 声が少しだけ静かだった。


「この塩と燻し方、故郷の味がする。昔、里で食べた肉と同じじゃ」


 俺は干し肉を見る。


「故郷って、北の森じゃなくて、お前が生まれた竜の里の方か?」


 モグはもう一口、ゆっくり噛んだ。


「うむ。ずっと、ずっと昔に食べた味じゃ――」


 食堂の空気が、少しだけ変わった。


【神界・追加ご請求】

・戦闘後能力評価更新費          金貨40枚

・ギルド連携戦績同期費          金貨35枚

・救援報酬債権振分処理費         金貨55枚

・少額任意返済処理手数料         金貨45枚

・神界債務任意返済           -金貨45枚

─────────────────

今回新規加算              金貨175枚

今回返済               -金貨45枚

差引今回増減              金貨130枚

日本円換算(差引増加)         650,000円相当

前回繰越残高              金貨40,400枚

合計残高                金貨40,530枚

日本円換算               202,650,000円相当

※ゲイン装備ローンは本話で完済。ミャオ管理債務・その他商業債務は神界債務とは別口。

【登場キャラクター紹介】


なるべく本気を出したくなかった黒田ですが、見捨てられない場面では結局動きました。

そして、その結果――妙なものまで寄ってきました。


【◆主要登場 ジークフリード】


黒田を口だけの怠け者だと思っていた若手冒険者。

実際の危険な現場で黒田の判断と戦い方を見て、その評価を大きく改めることになります。


【◆主要登場 ティアナ・ヴァーレン】


魔法については今でも容赦なく黒田を「下手」と評価しています。

しかし、魔法とは別の黒田の専門能力については、少しずつ認め始めています。


【★初登場 アンディ・グレイ】


前衛剣士。

黒田の戦いを聞きつけ、勢いだけで弟子入りを申し込んできた熱血青年。

黒田からすれば、「弟子=教育=仕事」なので天敵です。


【★初登場 ポーレン・ノックス】


丸眼鏡の魔術師。

黒田の魔法失敗にまで高度な戦術的意図を見いだそうとする、非常に前向きな勘違いの持ち主。

ティアナがどれだけ否定してもなかなか止まりません。


【★初登場 タンナー・ベル】


斥候担当。

三人の中では一見もっとも常識人ですが、黒田が承諾する前から訓練予定を組み始める行動力の持ち主。

ある意味、一番逃げにくい人物かもしれません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。