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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#06 渋々本気 (正式名称:遭難冒険者一行緊急救出及び魔獣脅威排除作戦)

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第18話 俺は働きたくない。死なせたいとは言ってない

 俺が谷底へ降りた瞬間、影走魔狼シャドウランナー・ウルフの群れが動いた。

 十数匹が一斉に飛びかかってくるわけじゃない。

 前へ出る個体、左右へ広がる個体、岩陰へ消える個体。こちらの視線と足をばらけさせながら、確実に弱ったところを狙う。


「こいつら頭いいな。嫌いだわ、こういうの」

「感想言ってる場合!?」


 ティアナが叫ぶ。

 俺は彼女の横へ入り、左から来た一匹を剣で弾いた。刃が毛皮を浅く裂く。致命傷には遠い。


「ティアナ、残り魔力どれくらいだ」

「大きいの二発。中くらいなら五、六。細かいのはもう数えてない」

「ずいぶん無駄撃ちしたな」

「誰の救援だと思ってるのよ!」


「説教は帰ってから聞く。ジーク、脚の具合はどうだ?」

「動く。右肩は少しやられた」

「剣振れそう?」

「片手ならな」

「じゃあ無理すんな。俺が全部何とかするとは言わねえ。帰る道だけなんとかするわ。そこから先は自分で走れ」

「相変わらず、言い方が逃げ腰だな」

「逃げ腰で帰れるならそれが一番だろ。死に腰よりマシだ」


 黒月狼王ブラックムーン・アルファが低く唸った。

 群れが半歩ずつ位置を変える。俺は地形を見る。

 谷底は広いが、北側に倒木が重なっている。西側は岩壁。東へ細い登り道。今来た南側は斜面が急で、負傷者を抱えて戻るには遅い。


「ティアナ。東の登り道、入口の右を一発焼けるか」

「何で?」

「いいから。地面じゃなく、あの岩の下」

「理由ぐらい言いなさいよ!」

「魔狼がそこを回り込む。俺が説明してる間に来るぞ」


 ティアナが振り向く。

 本当に一匹、岩陰へ消えた。


「......分かった!」


 杖の先に火が集まる。


「【収束火槍(フレイム・ランス)】!」


 赤い光が走った。

 ズガァンッ――!!

 岩の下で火が弾け、回り込もうとしていた影走魔狼が跳ね飛ばされる。熱風が谷の底を舐め、焦げた毛の匂いが遅れて流れてきた。


「なんで分かったのよ!」

「群れで動く奴は、空いてる道があると使う。今はそれでいい。次、左の倒木の隙間を見ろ。二匹来る」

「また!?」

「来るから準備しろ!」


 数秒後、黒い影が二つ走った。

 ティアナが今度は小さな火弾を二発。

 一匹が転び、もう一匹が進路を変える。

 そこへジークの剣が入った。


「一匹!」

「数えるな。まだ多い」

「少しぐらい達成感を寄越せ!」

「帰ったら酒でも飲め。今は前見ろ」


 影走魔狼が距離を取る。

 黒月狼王がこちらを観察している。


「黒田」


 ゼニスが俺の後ろへ来た。


「何だ」

「現在、【|即日レベルアップシステム《インスタント・レベリング》】は未使用です。念のため確認ですが、通常戦力のまま継続しますか?」

「する。今回は料金内で処理する」

「人命救助を通信プランみたいに言わないでください」

「一億九千万背負ったら誰でも料金プランに敏感になるんだよ。今の俺でも動けてる。なら使わん」

「分かりました。ただし、状況悪化時は――」

「分かってる」


 俺はジークの脇へ回る。


「立てるなら東へ。ティアナ、お前は後ろ向きに下がるな。足元見えなくなる。横向きで動け」

「分かってるわよ」

「分かってる奴がさっき崖際まで下がったの見たぞ」

「見てたの!?」

「見てるのが仕事だって前も言ったろ」

「こんな時だけ説得力出すの腹立つ!」


 俺たちは少しずつ東の登り道へ寄る。

 影走魔狼は飛び込んでこない。

 黒月狼王が待たせている。


「妙だな」

「何が?」

「俺らが狭い道へ入るのを待ってる」


 ジークが顔をしかめる。


「狭い方が奴らに不利じゃないのか?」

「普通ならな。でも上から回れる道があるんだろ。俺らが入口に固まったところで挟む気だ」

「じゃあどうするのよ」

「逆に使う」


 俺は倒木を見る。


「ティアナ。さっき“大きいの二発”って言ったな」

「今ので一発分近く使った。最大出力ならあと一発」

「それを狼王に残せ。小さいのは俺とジークで止める」

「黒田、今のレベルで?」

「やるしかねえだろ。できる範囲だけやる」


 ジークが笑う。


「さっきまで料金の話をしていた男とは思えないな」

「料金の話しながら死ねるほど器用じゃない。あとでまとめて絶叫でもしてやるさ」


 黒月狼王が吠えた。

 空気が震える。

 影走魔狼が動いた。

 今度は四匹。

 ドドドッと爪が地面を叩き、左右から砂と小石が弾ける。


「ジーク、右二匹! 深追いすんな!」

「分かってる!」

「ティアナ、左奥だけ焼け! 手前は俺が取る!」

「外したら知らないからね!」

「お前が外したら俺より下手になるぞ!」

「死んでも嫌!」


 火弾が飛ぶ。

 俺は一匹目の飛び込みを避け、腹の下へ剣を滑らせる。二匹目が肩へ噛みつこうとした瞬間、身体を沈めて柄で顎を打つ。

 ゴッ、と鈍い音。

 腕が痺れる。


「重っ......!」


 だが止めた。

 ジークも右側を押し返す。

 ここまではいける。

 そう思った瞬間だった。

 黒月狼王が消えた。


「......っ!」


 視線を振る。

 速い。

 普通の影走魔狼とは比べものにならない。

 狙いは俺じゃない。

 ジーク。

 右肩を負傷して、剣を振り切った直後。


「ジーク、下がれ!」


 遅い。

 黒い巨体が地面を蹴る。

 その瞬間だけ、谷の景色が別の何かと重なった。

 土煙。

 叫び声。

 倒れる人影。

 足りない。

 距離が。

 時間が。

 何かが。

 俺の判断の外側で、何かが足りなくなる感覚。

 胸の奥が冷たくなった。


「ゼニス」


 声が自分でも分かるくらい低かった。


「はい」

「【|即日レベルアップシステム《インスタント・レベリング》】」

「利用料金が――」

「知ってる。起動しろ」


 ゼニスが一瞬だけ俺を見る。


「......了解しました」


 視界の端に数字が走った。


即応ラピッド・アダプテーション 発動】

【レベル:9→14→21】


 身体の中へ熱が流れ込む。

 踏み込む。

 間に合う。

 俺はジークの鎧を横から掴み、引き倒すように地面へ転がした。

 黒月狼王の爪が、俺の肩先を掠める。

 布が裂ける。

 皮膚が熱い。

 でも、致命傷じゃない。


「黒田!」

「死んでねえ! 立て!」


【レベル:28→35→41】


「黒田さん、現在の利用料が――」

「数字読むな! 集中できねえだろ!」

「レベルですか、料金ですか!」

「レベルだけ!」

「料金も重要です!」

「今は人が死ぬ方が先だろ!」


 黒月狼王が着地し、すぐ反転する。

 俺は息を吸った。

 さっきまでうるさかった音が、遠くなる。

 消えたわけじゃない。

 ティアナの詠唱。

 ジークの荒い呼吸。

 魔狼の爪。

 谷を抜ける風。

 必要なものだけが前へ出て、それ以外が後ろへ下がる。


「ティアナ」

「何!」

「最大火力、まだ撃つな」

「今撃たないでいつ撃つのよ!」

「狼王は俺を見てる。次、俺に来る。左三歩。そこで溜めろ」

「根拠は?」

「今説明してる暇ない。期待すんな。俺が見てる間だけ、言った位置にいろ」


 ティアナの顔から反論が消えた。


「......分かった」


 左へ三歩。

 黒月狼王が動く。

 俺へ来る。


「ジーク、右へ。追うな。退路だけ空けろ」

「了解!」

「ゼニス、料金実況やめろ」

「後でまとめてお伝えします」

「それも怖いけど今はいい」


 黒月狼王が低く身体を沈める。

 前脚。

 肩。

 視線。

 踏み切る位置が見える。

 俺は真正面へ一歩出た。


「黒田!?」

「動くな、ティアナ」


 狼王が跳ぶ。

 俺は直前で左へ抜けた。

 狼王の身体が空中で向きを変えようとする。

 無理だ。

 そこだけは変えられない。


「今!」


 ティアナの杖が光った。


「【爆裂火槍バースト・フレイムランス】――ッ!」


 ズガァァンッ――!!

 音というより、熱い壁が谷を押し抜けた。

 火線が黒月狼王の側面へ食い込み、爆発と同時に地面が震える。砂礫が足首へぶつかり、焼けた毛と土の匂いが一気に広がった。

 黒月狼王の巨体が横へ吹き飛び、岩へ激突する。

 ドォンッ、と遅れて重い音。


「ジーク!」

「分かってる!」


 ジークフリードが走る。

 負傷していたはずの身体から最後の力を絞り、剣を両手で握った。


「これで――終わりだッ!」


 刃が黒月狼王の首元へ入る。

 深い。

 狼王が暴れる。

 俺も横から剣を押し込む。


「一人で格好つけんな。肩壊れてんだろ!」

「最後くらい言わせろ!」

「帰ってから言え!」


 ティアナが残った小火力を撃ち込む。

 三人分の攻撃が重なった。

 黒月狼王の脚から力が抜ける。

 巨体が傾く。

 ズズズズッ......と土を削り、そのまま倒れた。

 地面が揺れる。

 一瞬、谷から音が消えたように感じた。

 残った影走魔狼たちは、指揮個体が倒れたのを見て距離を取る。

 やがて一匹、また一匹と岩陰へ消えていった。

 追わない。


「追撃する?」


 ティアナが息を切らして聞く。


「しない。帰る道が空いた。十分だ」

「珍しく賛成」


 ジークが地面へ座り込む。


「俺も、もう無理だ」

「知ってる。右肩動かすなよ」


 俺はそこでようやく肩の傷を見る。

 浅い。

 血は出てるが動く。

 煙草を探す。

 ない。


「......さっき落とした一本、拾えば吸えたかな」

「戦闘の後の第一声がそれ!?」


 ティアナが叫ぶ。


「無事だったんだからいいだろ。煙草一本は戻ってこねえんだぞ」

「命と比べなさいよ!」

「命は戻った。煙草は戻らん」

「その理屈、本気で腹立つ!」


 そこへゼニスが静かに端末を閉じた。


「黒田さん」

「今だけ黙れ」

「まだ何も言っていません」

「顔で分かる。料金だろ」

「はい」

「今だけ黙れ」

「分かりました」


 数秒。

 俺は安心した。

 ゼニスが口を開く。


「では、十分ほど後に――」

「てめえ、黙れっつったろクソ女神ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

「別に時間指定されてないでしょうがぁぁぁぁぁっ!!」


 ティアナが両耳を塞いだ。


「アンタら、最後が一番うるさい!」


【神界・追加ご請求】

・【即日レベルアップシステム】緊急起動料   金貨300枚

・戦闘時急速成長利用料            金貨1,420枚

・高危険度因果安定化補助費          金貨200枚

─────────────────

今回加算                   金貨1,920枚

日本円換算                  9,600,000円相当

前回繰越残高                 金貨38,480枚

合計残高                   金貨40,400枚

日本円換算                  202,000,000円相当

※ゲイン装備ローン・ミャオ管理債務は別口。


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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