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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#04 無断拝借大作戦 (正式名称:域外装備一時運用及び原状復帰任務)

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第12話 ――だんちゃーく、いま! ……で、これいくら掛かった?

 岩殻巨獣ストーンシェル・ベヒモスが、土煙の奥で再び立ち上がった。

 片側の岩殻はごっそり抉れ、足元には砕けた岩片が山のように散っている。それでも巨体は止まらず、ゴォォォォッ! という咆哮が採石場の壁を震わせ、天井もないのに腹の底へ音が落ちてくるようだった。


「次で最後です!」


 ゼニスの声が飛ぶ。


「分かってる! 何回も言うな、焦るだろ!」

「焦ってください! 返却期限が迫ってるんです!」

「戦闘中に返却期限で急かす女神がどこの神話にいるんだよ!」

「逆に、現代兵器を無断で世界間搬送する債務者がどこの神話にいるんですか!」


 正論だったので無視した。


 巨獣が前脚を振り上げると、岩塊が砕けてバラバラと斜面を転がった。ジークフリードたちは正面から距離を取り、ティアナが横へ回り込んで杖を構える。いつもの軽口を飛ばす余裕は、さすがに全員から消えていた。


「黒田。今度はちゃんと説明して。何をすればいい?」

「止められるなら数秒だけ止めろ。無理なら無理でいい。危なくなったら逃げろ」

「それだけ?」

「それだけで十分」

「……分かった」


 ドーガンも俺の横へ立つ。


「陸」

「おう」

「位置は?」

「見えてる」

「なら俺は余計なこと言わん」


 巨獣が地面を蹴った。

 ドンッ! と足元が鳴り、巨体の進行に合わせて砂埃が波のようにこちらへ押し寄せる。


 ティアナの魔法がその足元へ走った。

 ズズズズッ! と地面が歪み、巨獣の片脚がわずかに沈む。勢いを殺しきるほどではない。それでも巨体が傾いた瞬間、砕けた側面の岩殻が開き、奥の弱い部分がほんのわずかに覗いた。


 そこから先だけ、音が遠くなった。


 巨獣の咆哮も、ティアナの息も、ジークフリードの靴音も消えたわけじゃない。

 ただ必要なものだけが前へ出て、その他が後ろへ下がる。


 目標。

 味方。

 土煙。

 動き。


 昔から、見るものは同じだった。


「……そこだ 射撃用意――撃て!」


 誰かが息を呑む。

 俺は目を離さなかった。


「――弾着(だんちゃく)、今。」


 ドォォォンッ――!!


 空気が爆ぜた。

 轟音が身体を突き抜け、採石場の砂と小石が一斉に跳ね上がる。次いで巨獣の側面でズガァァァァンッ! と白灰色の爆煙が膨れ、岩殻の破片が黒い影になって空を切った。


 巨獣は一歩、踏み出そうとした。


 だが、その前脚が地面を掴めない。

 ズ……ズズン、と巨体が傾き、最後には山が崩れるような重低音とともに地面へ叩きつけられた。衝撃が遅れて足元を揺らし、舞い上がった土煙が俺たちのところまで押し寄せてくる。


 しばらく、誰も声を出せなかった。


「……終わった?」


 ティアナが、確かめるように呟く。

 ドーガンは倒れた巨獣を見たまま、ゆっくり息を吐いた。


「終わったな」


 ジークフリードが剣を下ろす。 ジークフリードが剣を下ろす。


「黒田、今の――」

「喜ぶの後! とっとと兵器を返すぞ!」


 俺は全員の余韻を踏み潰した。


「ゼニス! 何分残ってる!」

「だから急いでいるでしょう!」

「お前が料金説明長いからだろ!」

「契約者が読まないからです!」


 ゼニスが両手を広げる。


 そこで気づいた。


「……お前、いつ着替えた?」


 さっきまで作戦幕僚(さくせんばくりょう)風だったゼニスが、いつの間にか白いヘルメット、反射材付きのベスト、腕には「損害査定(そんがいさてい)」の腕章を付けている。手には金縁バインダーと巨大なチェック表。


「【原状復帰(リストア)】及び損害査定業務へ移行しました」

「戦場で早着替えすんな! 何だその保険屋みたいな格好!」

「今回の業務に最適です!」

「絶対それ言えば全部通ると思ってるだろ、このいかれ女神が!」


 ゼニスは無視して術式(じゅつしき)を展開した。


契約付帯神術けいやくふたいしんじゅつ【原状復帰】を実行します。使用、消耗、付着、損傷、関連する因果変動を規定範囲まで復帰」

「値段は後で!」

「もちろん後で請求します!」

「そこだけ元気よく返事すんな!」


 金色の光がFH70と周辺を包む。

 89式、予備の64式、残っている小火器弾薬も同じ術式の対象へまとめられた。


 付着した土や使用痕が消え、持ち込んだ時の状態へ戻っていく。

 さらに【異世界送還(リターン)】の術式が重なった。

 巨大な砲は光の中へ消えた。


 しばらくして、ゼニスの神具が小さく鳴る。


「返却完了。現代側の状態整合、確認」


 俺はその場へ座り込んだ。


「終わった……もう無理。俺ここで寝る」


 そのまま横になり、採石場の地面で涅槃図(ねはんず)になる。ブッダの境地だ。

 ティアナが呆れた顔で見下ろす。


「さっきまで格好よかったのに、三十秒で台無しなんだけど」

「格好いい時間は有料なんだよ。無料時間はこれ」

「そんな切り替えある!?」


 ドーガンが腹を抱えて笑った。

 ジークフリードはまだ倒れた巨獣と俺を見比べていた。


「……あんた、本当にレベル4なのか?」

「測った時はな」

「じゃあ今は?」

「知らん。測ると査定されるから測りたくない」

「そこまで徹底して評価から逃げるのかよ」

「評価は責任の入口だぞ。覚えとけ若者」


 ティアナが呆れながらも、小さく笑った。


「魔法は下手なくせに」

「そこ今言う?」

「事実でしょ」

「お前、その一点を一生擦る気だな」

「練習したらやめてあげる」

「じゃあ一生だわ」

「練習しなさいよ!」


「陸、気に入った。今度酒飲むぞ」

「奢りでいいか?」

「一杯目だけなな」

「お前とは友達になれそうだ」

「基準そこかよ!」


 ティアナが何か言おうとした瞬間。


 ぶっ。


 俺は横になったまま屁をこいた。


「……黒田」

「何」

「今の空気でそれやる?」

「緊張が解けた」

「女子の横で解放しないで!」

「だから屁に男女差別を――」

「その理屈もう聞いたって!」


 そこへゼニスがバインダーを閉じた。


「皆さん。楽しいところ申し訳ありませんが、黒田さんへ大切なお知らせがあります」


 俺は地面に寝たまま目を閉じた。


「あーあー! 聞こえない」

「今回の神界利用料が確定しました」

「聞こえないもんねー」

「小火器転送、弾薬因果精算、弾薬管理、重量物転送、砲弾別送、【隠密搬送(ステルス・キャリー)】、高威力兵器利用、原状復帰、時間整合(じかんせいごう)因果安定化(いんがあんていか)――」

「聞こえないって言ってんだろ!」

「合計、金貨14,600枚です」


 俺の目が開いた。


「……いくらだって?」

「14,600枚」

「日本円」

「約7,300万円相当です」


 俺は起き上がった。


「ななせんさんびゃく――」

「ちなみに従来残高と合わせて、神界債務は金貨37,950枚。日本円換算で約1億8,975万円です」


 採石場が静かになった。


「ゼニス」

「はい」

「その請求書、魔物にぶつけろ。そっちの方が殺傷力あるだろ」

「倒した後に言わないでください」

「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ! クソ女神ぃぃぃぃぃっ! 俺いま世界救った側だろ! なんで救う前より破産してんだよぉぉぉぉぉっ!」

「世界は救ってません! 街道一本です!」

「規模を小さく言うな! 俺の七千三百万を尊重しろ!」

「あなたが使ったんでしょうがぁぁぁぁぁっ!」


 ティアナが耳を塞ぐ。


「最後が一番うるさい……」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 その夜。


 俺はゼニスに頼んで日本へ戻った。

 正確には、これ以上異世界にいると何か追加契約を結びそうだったので逃げた。


 四畳半の玄関。


 ドアノブに、また袋が掛かっていた。


「……また来たのか、あいつ」


 中にはパックご飯、缶詰、スポーツドリンク、インスタント味噌汁。

 今度は小さなお菓子まで入っている。


 紙が一枚。


『陸さんへ。

 また留守でした。

 ちゃんと食べてください。

 次の訓練日も確認してください。

 今度はちゃんと顔を見せてください。 ひなた』


 俺はしばらく立ったまま読んだ。


「……母ちゃんかよ」


 紙を丸めるでも捨てるでもなく、机の端へ置く。

 前にもらった短いメモが、その下から半分だけ覗いていた。


「捨てるの面倒だっただけだからな」


 誰も聞いていないのに、一応言い訳しておく。

 スマホを開いた。


 ――ありがとう


 そこまで打つ。少し止まる。

 全部消した。


 ――差し入れ確認


 送信。

 数秒後。


 ――望月ひなた:そういうところですよ。


「何がだよ……」


 反射的に煙草の箱へ手を伸ばした。

 逆さに振る。

 何も落ちない。

 灰皿も覗いたが、昨夜の俺が有効資源を綺麗に使い切っていた。


「七千三百万増えて、煙草までゼロかよ……今日という日は俺に何の恨みがあるんだ」


 買いに行く気力も金もない。

 ヤニ切れで少し落ち着かないが、玄関まで往復する労働の方が今は勝った。


 俺は返事をせず、万年床へ倒れた。

 片肘で頭を支える。いつもの涅槃図(ねはんず)


 七千三百万円ぶん借金が増えた日でも、腹は減る。

 俺はひなたの袋からパックご飯を一つ取り出した。


「食って、酒飲んで、今日は寝る。明日の俺に期待しよう」


 未来の俺なら、たぶん何とかする。

 今の俺は、もう知らん。


【神界・追加ご請求】


・89式/64式小火器転送基本料金

・小火器弾薬因果精算/管理費

・重量物世界間転送費

・砲弾別送及び因果精算費

・隠密搬送特別加算

・高威力兵器一時利用料

・原状復帰オプション

・時間整合/因果安定化費

─────────────────

今回加算               金貨14,600枚

日本円換算              73,000,000円相当


前回繰越残高             金貨23,350枚

合計残高               金貨37,950枚

日本円換算              189,750,000円相当


※ゲイン装備ローン・ミャオ管理債務は別口。


【登場キャラクター紹介】


ついに異世界へ現代装備まで持ち込み始めた黒田。

その一方で、異世界側にも「大きな物を飛ばす」ことを知る専門家が加わりました。


【★初登場 ドーガン・バルツ】


48歳前後。元王国軍の攻城兵。

現在は大型弩や投石器などを扱う工房の職人です。

豪快な見た目に反して大型兵器の扱いは繊細。

黒田が異世界で珍しく、自分から起き上がって専門分野の話を聞いた相手でもあります。


【◆主要登場 ティアナ・ヴァーレン】


魔法担当。

黒田のやり方に呆れながらも、彼が距離や位置を見る時だけ別人のようになることに少しずつ気づき始めています。


【◆主要登場 ジークフリード】


黒田への評価はまだ高くありません。

しかし、旧採石場で黒田が撤退を選んだ理由を目の当たりにし、その見方には少しずつ変化が生まれています。


【◆主要登場 ゼニス】


今回も装備を運ぶたび、戻すたび、しっかり請求。

黒田にとって現代兵器以上に恐ろしい存在は、たぶん使用後の請求書です。


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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