↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#04 無断拝借大作戦 (正式名称:域外装備一時運用及び原状復帰任務)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/44

第11話 元野戦特科、異世界でFH-70を撃つ

 翌朝、臨時集結所へ行くと、ゼニスがすでに待っていた。


 今日は濃緑のフィールドジャケットに作業用パンツ、肩には地図ケース、首にはヘッドセット風の神具(しんぐ)。昨日の展示会コンパニオンから一転、今度は妙に本格的な作戦幕僚(さくせんばくりょう)風である。


「……お前、昨日と落差ありすぎだろ」

「本日は重量物転送及び戦闘支援監査です。業務内容に合わせました」

「本職気取りか。絶対その格好したかっただけだろ、毎度お騒がせの変態コスプレ女神」

「だから変態ではありませんって!」


「ま、昨日よりはマシね」


 ティアナが腕を組んで判定した。


「なぜティアナさんが審査員になってるんです!?」

「だって毎回変な服で来るから」

「変ではありません!」


「二対一だな。そろそろ諦めろゼニス」

「元凶が多数決を取るなぁぁぁぁぁっ!」


 朝から元気である。

 俺はあくびをしながら、転送対象の申請書へ目を落とした。


「155ミリりゅう弾砲FH70りゅうだんほうえふえいちななまる


 ドーガンが横から文字を覗く。


「昨日の小銃とは、ずいぶん名前からして違うな」

「別物だ。昨日の89式と64式は俺が持って歩ける小銃。こっちは車両で牽引して運ぶ大砲で、俺がいた野戦特科で使っていたものだ」

「でかいのか?」

「だいぶな」

「お前、本当にこれを扱ってた側なのか?」

「現役時代にな。だから昨日よりは話が早いってわけだ」

「よし」


 ドーガンが嬉しそうに笑う。


「何が“よし”だ。遊びじゃねえぞ」

「分かってる。だから面白えんだろ」

「職人って面倒だな」

「お前に言われたくねえ」


 ゼニスが申請書を持ち上げる。


「先に警告します。FH70は昨日の装備とは料金区分が違います。重量物転送、砲弾別送、【原状復帰(リストア)】対象拡大、地面損傷補正――」

「砲弾、一発ごと?」

「当然です」

「何発までなら俺の心が死なない?」

「知りません」


 俺は申請欄を睨んだ。


「ちくしょう。一発で終わらせたい」

「予備なしで行くのか?」

「それはもっと嫌だ」


 ドーガンに言われ、俺は舌打ちした。


「……二発。今回持ってくるのは二発だけだ」

「三発目が必要になったら?」

「その時は魔物より先に俺の財布が死んだってことだ。撤退を考える」

「戦術判断に家計簿が混ざってるぞ」

「一発が軽い買い物じゃねえんだよ」


 ゼニスが淡々と記入する。


「FH70本体、砲弾二発、89式及び64式は前日分を継続転送。小火器弾薬の追加は?」

「なし。昨日の残りで足りる。撃たなかった俺を褒めろ」

「料金節約だけは学習が早いですね」

「そこだけは生活に直結するからな」


「聞くと使えなくなるから、残りの細かい料金は聞かない」

「聞いてください!」

「使わないと魔物倒せない。聞くと金額で心が折れる。なら聞かずに使う。合理的だろ」

「借金する人が一番言ってはいけない合理性です! では契約書を読み上げますね――」


 俺は地面へ座り込んだ。


「あーもう説明長い。寝る」

「契約前です!」

「耳は開いてるから」

「目を閉じています!」

「契約書はお前が読め。俺は必要なとこだけ聞く」

「あなた昨日もそれでローン増やしたでしょうが!」


 ぶつぶつ言いながらも、ゼニスは契約項目を読み上げた。


 数分後。


「……以上です。理解しましたか?」

「半分?」

「どの半分です?」

「高いってことだけ」

「そこだけは満点です」


 【物資転送(トランスポート)】と【隠密搬送(ステルス・キャリー)】の光が広がる。


 光の向こうから現れたFH70を見て、ドーガンは完全に黙った。

 昨日から継続している89式と64式も、返却対象としてまとめて管理されている。89式は俺の手元。64式は最後まで予備のままにするつもりだ。


 昨日まで豪快だったおっさんが、しばらく一言も出さない。


「……陸」

「触るなよ」

「まだ何も言ってねえ」

「昨日と同じ目してる」

「一周だけ見せろ」

「返却物だから壊すな」

「壊せるわけねえだろ!」


 ティアナが呆れている。


「なんか二人とも子供みたい」

「これは仕事だ」

「さっきまで寝てた人が言わないで」

「専門分野なら起きる。人間には適材適所がある」

「魔法の練習も適所でしょ」

「俺の適所じゃない」

「自分で範囲狭めてるだけ!」


 ドーガンが笑いながら俺の背中を叩いた。


「お前、若いのに尻叩かれてるな」

「十九歳に教育される三十二歳の気持ち考えたことある?」

「ない」

「即答すんな」


「男はでかい道具を見ると一回こうなるもんだ」

「一緒にしないで」


 移動前、俺は少し離れた場所で煙草を一本だけ吸った。

 ティアナがこちらを見たが、俺が最初から風下へいるのを確認すると何も言わなかった。


「珍しく気が利くじゃない」

「昨日うるさかったから学習した。俺は無駄な戦闘を避ける男なんだよ」

「私との会話を戦闘判定しないで」



♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 現地へ入る直前、まだ少し長さの残った煙草を携帯灰皿(けいたいはいざら)へ押し込んだ。


「まだ吸えたんじゃないの?」

「後で吸う。今はいらん」


 ティアナが何か言おうとして、やめた。

 その一本をしまった辺りから、自分でも分かるくらい頭の中が静かになっていった。


 岩殻巨獣ストーンシェル・ベヒモスは昨日の傷を残したまま、さらに荒れていた。巨体が岩壁へ肩をぶつけるたび、バキバキッと岩が割れ、崩れた石が斜面を転がり落ちる。ジークフリードたちは真正面へ居座らず、巨獣の意識だけを引きながら距離を保ち、ティアナは足元へ魔法を叩き込んで動きを鈍らせた。


「黒田! 今なら止まる!」


 俺は返事をしなかった。

 周囲では剣が岩殻を擦る音も、魔法が爆ぜる音も、巨獣の咆哮も混ざっていた。それでも必要なものだけを拾えば、頭の中は妙に静かだった。


 巨獣の向き。

 岩殻が開く瞬間。

 味方の位置。

 砲と目標の間を横切るもの。


 そこだけを見る。


 さっきまでの眠気も、借金も、ゼニスの変な服も消える。

 ティアナがこちらを見たが、いつもの悪態は返さなかった。


「……黒田」

「喋るな。今見る」


 短く返すと、ティアナも黙った。


「陸」


 ドーガンの声が飛ぶ。


「見えてる」

「そうか」


 次の瞬間。


 ドォンッ――!!


 音というより、空気の壁だった。

 胸板を平手で叩かれたような圧が一気に抜け、足元の砂がぶわっと円を描いて舞い上がる。ティアナが思わず肩をすくめ、ジークフリードたちも一瞬だけ動きを止めた。


 その轟音が岩壁へぶつかって何重にも返ってきた直後、遠くの巨獣の側面でズガァァンッ! と岩殻が爆ぜた。


 黒い破片と灰色の粉塵が空へ噴き上がり、巨体が横へ大きく傾く。遅れて地面がドドドッと揺れ、採石場全体が一瞬だけ沈んだような錯覚さえあった。


「……当たった」


 ティアナの声が小さい。

 俺は巨獣から目を離さなかった。


「まだだ」


 土煙の奥で、巨大な影が動いた。

 ゴゴ……と岩が擦れ、倒れたはずの巨体が前脚を突いて再び身体を起こしてくる。片側は大きく崩れているのに、それでも立つ。


「まだ生きてるの!?」

「硬すぎるだろ。誰だよこんなの実装したやつ」


 口を開いた瞬間、普段の俺が少し戻った。


 ドーガンが、砕けた岩殻と俺を交互に見て笑う。


「さっきまで別人みたいな顔してたぞ」

「気のせいだ。俺は最初からやる気ない」

「そういうことにしといてやる」


 ティアナが俺の腕へ小さな薬瓶を押しつけた。


「何これ」

「魔力と疲労を少し戻すやつ。貸すだけ」

「飲んだら返せなくない?」

「そういう意味じゃない!」

「十九歳、言葉は正確に使え」

「もう返して!」

「いや飲む。無料なら飲む」

「ほんっと腹立つ!」


 その時、ゼニスの神具からピィィィッ! と場違いな警告音が鳴り響いた。

 さっきの砲声より遥かに小さいはずなのに、嫌な予感だけは負けていない。ゼニスの顔色が変わった。


「黒田さん」

「その顔やめろ。請求額?」

「もっとまずいです。現代側の管理周期と原状復帰許容時間が近づいています」

「何時までだ?」

「余裕を見て、次の戦闘が最後です」


「お前、昨日“安心パック”って言ったよな?」

「原状復帰機能が含まれるという意味です!」

「全然安心できてねえじゃねえか!」

「時間制限のない奇跡があると思わないでください!」

「名前変えろ! “条件付き不安パック”にしろ!」

「売れないでしょうが!」

「売る気を優先すんな!」


 俺はゆっくり振り向いた。


「先に言えクソ女神!」

「今確定したんです!」

「もっと早く確定しろ!」

「因果計算に文句言わないでください!」


 ドーガンが眉を上げる。


「返さねえとどうなる?」

「面倒なことになる」

「具体的には?」

「俺の人生が社会的にもっと終わる」


 ティアナが真顔になる。


「もう終わってるように見えるけど」

「まだ下があるんだよ!」


 土煙の向こうで、岩殻巨獣が再び咆哮した。

 壊れた側面から石片を落としながらも、その巨体はまだこちらを向いている。俺は携帯灰皿の中に残した吸いかけを一瞬だけ思い出し、それから完全に頭の外へ追い出した。


「次で終わらせる。終わったら即返却だ」

「できますか?」


 ゼニスが聞いた。


「期待すんな」


 俺は巨獣へ視線を戻した。


「まあ、弾着(だんちゃく)だけ見とけ」


【神界利用速報】


・重量物転送              算定中

・砲弾別送               算定中

・隠密搬送延長             算定中

・小火器継続管理            算定中

・原状復帰待機             算定中


※域外装備関連費用は任務完了後、一括精算予定。

※契約者が耳を塞いでも請求処理は停止しません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。