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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#04 無断拝借大作戦 (正式名称:域外装備一時運用及び原状復帰任務)

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第10話 89式と64式を異世界へ――銃弾一発にも利用料を取る女神がいるらしい

 旧採石場(きゅうさいせきじょう)から戻った翌日。

 俺たちは王都東側の臨時集結所にいた。


 ドーガン、ジークフリード一行、ティアナ。

 少し離れたところではモグが、ミャオから持たされた弁当をすでに半分食っている。

 俺はポケットに入れてきた、ひなた差し入れの栄養補助食品を一本取り出した。


「陸。それは何じゃ?」

「日本の保存食みたいなもん」

「一口よこせ!」

「嫌だ。俺のだ」

「では半分じゃ」

「交渉すんな!」


 なんだかんだ結局、モグに三分の一取られた。


「うむ。甘いのう。ひなたという者は良い奴じゃな」

「会ったこともねえのに評価すんな」

「飯をくれる者は全員善い奴じゃ」

「お前の人物評価、胃袋一本だな、すがすがしいわ」


「陸、戦う前に飯を食うのは大事じゃぞ」

「お前は戦わなくても食うだろうが、このデブ竜が!」

「戦う可能性に備えておる、で、わらわのどこがデブじゃ!!」

「食欲がだよ!あとその理屈、俺の予備装備論を食欲に転用しないでくんない?」


 俺は栄養補助食品の残りを飲み込み、昨日発掘した煙草を一本くわえた。

 火を点けて一服すると、ティアナがすぐ眉を寄せる。


「黒田、煙こっち来てる、くさい!」

「気にしすぎだろ」

「嫌なものは嫌なの!」

「はいはい」


 俺は煙草をくわえたまま数歩離れ、風下へ移動した。


「……そこは素直なんだ」

「人に煙かけて説教が長引く方が面倒なんだよ」

「理由は最低だけど、まあいいや」


 吸い殻は地面へ捨てず、携帯灰皿(けいたいはいざら)へ押し込んだ。

 俺が岩へ腰掛けたところで、金色の光が広がった。


 ゼニスが現れる。


 白を基調にした身体に沿う短いジャケット、黒のタイトなスカート、膝上までのブーツ。はだけた胸元には金色の「DIVINE DEFENSE EXPO」の札。片手には料金表、もう片手には妙に派手なカタログ。


 数秒、誰も口を開かなかった。


「……お前、その格好で業務って言い張る気なの?」

神界軍需展示会しんかいぐんじてんじかいにおける契約促進用正式制服です」

「どこのいかれた展示会だよ。痴女かお前は!」

「誰が痴女ですかぁぁぁぁぁっ!」

「いや、今日は黒田に一票だわ」


 ティアナが真顔で言った。


「ティアナさん!?」

「だって、そのスカートで採石場来るのおかしいでしょ」

「現地作業は黒田さんが担当します! 私は契約窓口です!」

「契約窓口が現場まで来てる時点でおかしいだろが」


 ゼニスが顔を赤くしながらカタログを開く。


「っ......と、とにかく! 本日は高威力火器転送プランのご案内です。初回利用に限り、転送申請処理費が――」

「安くなる?」

「別途です」

「帰れ、変態営業女神が」

「待って!最後まで聞いてください!」


 ドーガンが俺の肩越しにカタログを覗き込んだ。


「陸。こいつは何の絵だ?」

「俺の世界の現代の兵器だ。こっちの大型弩よりずっと小さいくせに、もっと嫌なことができる」

「適当な説明だな」

「細かく説明すると長い。俺は説明で疲れたくない」


 ゼニスが咳払いする。


「黒田さん。念のため申し上げますが、現代側の装備を世界間搬送する場合、契約付帯神術けいやくふたいしんじゅつを使用します。黒田さん個人の魔法ではありません」

「知ってる。だから高いんだろ」

「はい」

「嬉しそうに言うな」


 俺はカタログの小火器欄を指した。


「まず89式。予備に64式。いきなり大物を持ってくると請求書で俺が死ぬ」

「珍しく金銭感覚がありますね」

「借金一億超えてから育った」

「もう手遅れですね」


 ゼニスが料金表をめくった。


「では弾薬数を申告してください。小火器は本体転送のほか、弾薬一発ごとに因果精算が発生します」

「はぁ?一発ごと?」

「はい」

「お前ら弾まで従量課金なのかよ!」


 俺は指を折って考えた。

 実際の標準だの何だのは今は関係ない。今日必要なのは、神界に余計な金を払わず、戻ってくるまで困らない程度だけだ。


「89式用、四十発」

「黒田さん。先ほど六十発と書こうとしていましたね?」

「料金表見て二十発減らした」

「64式はどうされます?」

「二十だ」

「予備なのに二十発?」

「予備はあくまで保険だ」

「合計六十発。弾薬因果精算、弾薬管理、原状復帰対象追加――」

「ちょっと待て。いま一発あたりの単価計算するから黙ってろ」

「戦場へ行く前にスーパーの特売みたいな顔をしないでください」


 ティアナが呆れた。


「必要なら持ってけばいいじゃん」

「十九歳には分からん。一発増やすたび請求が増える世界では、引き金より先に電卓を叩くんだよ」

「夢がないなぁ」

「夢で借金は減らねえ、飯も食えねえ」


 転送対象に並んだ89式を見て、俺は少しだけ黙った。

 こっちは嫌になるくらい分かる。辞めてから時間は経っているのに、触れれば手の方が先に昔の位置を思い出す。


「……最悪だ。こういうのだけ残ってやがる」

「何か言った?」

「何も」


 隣の64式へ視線を移す。


「ロクヨンか。あったな。まだ残ってたんだよ、こういう古参が」

「そっちの方が古いのか?」

「古い。でも知らん銃じゃない。だから予備。ただし俺の基準はこっちじゃなく89式だ」


 ドーガンが大きく頷いた。


「分かる道具と、知ってる道具は違うってことか」

「そういうこと。おっさん、話が早くて助かるわ」

「あとで一杯やるか」

「奢りなら」

「現金なやつだ」


 ゼニスが両手を前へ出した。


「では契約を確認します。【物資転送(トランスポート)】、及び搬送痕跡の一時秘匿として【隠密搬送(ステルス・キャリー)】を適用します」

「値段は?」

「終了後、重量・使用状況・因果変動量に応じて確定します」

「時価かよ! 一番怖いやつじゃねえか!」

「使いますか、使いませんか?」


「ちなみに今なら、原状復帰までまとめた安心パックもあります」

「最初からそれ出せよ」

「安心パックだから安いとは言っていません」

「お前、今日その格好で人を誘惑して契約取る気満々だったろ」

「心理的訴求です」

「色仕掛けの前に料金下げろ、痴女営業女神が!!」

「二回も痴女って言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 俺は岩殻巨獣ストーンシェル・ベヒモスのいる方角を見る。


「……使う」

「契約成立です」

「その笑顔やめろ。今、魂まで分割で売った気分になった」


 金色の術式(じゅつしき)が地面へ広がった。

 光が収まったあと、89式と64式、それに今回分だけ申告した弾薬が並んだ。

 異世界の土と石の中へ置かれると、二挺とも冗談みたいに場違いだった。


 ドーガンが無言になる。


「触るなよ」

「まだ触ってねえ」

「目が触ってる」

「細い方が89式、古い方が64式か」

「そう。俺が使うのは基本89式。64式は予備。勝手に持つなよ。こっちは返却物だ」

「分かってる。見るだけだ」

「その台詞、俺が言うと大体買うやつだぞ」

「一緒にするな」


 ティアナも少し離れて眺めている。


「黒田の世界、こんなの普通にあるの?」

「普通ではない。だから勝手に持ってくると怒られる、どころじゃすまないな」

「じゃあ持ってこないでよ!」

「あとで戻せば実質ゼロだろ」

「アンタね、その理論で借金増やしてるんでしょ!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 岩殻巨獣ストーンシェル・ベヒモスは、昨日と同じ採石場跡にいた。

 岩山がそのまま四本脚で歩き出したような巨体が身じろぎするたび、ゴゴゴゴ……と低い振動が靴底から膝へ這い上がってくる。周囲には小型の獣型魔物まで集まり、こちらを遠巻きにしながら牙を剥いていた。


 89式と64式は、あくまでそいつらへの備えと退路確保用だ。岩山みたいな本体を小銃だけでどうにかしようとは思っていない。


「黒田、右!」


 ティアナの声と同時に、小型魔物が岩陰から飛び出した。

 俺は身体が勝手に思い出す範囲だけ89式を使う。乾いた発砲音がパンッ、パンッと採石場へ跳ね返り、魔物が土煙を上げて進路を変えた。撃った数より、ゼニスの料金表が頭に浮かぶ回数の方が多いのが腹立たしい。


「二発!」

「何が?」

「今ので二発ぶん金が飛んだ!」

「戦闘中に家計簿つけないで!」


 別の一体が岩を蹴って迫る。

 ジークフリードの剣がギャリッと爪を弾き、その横をティアナの火炎がゴウッと薙いだ。熱気と砂埃が一緒になって顔へ押し寄せ、モグが少し離れた場所から「おお、派手じゃ!」と完全に見物客の声を上げる。


「お前も働け、この無駄メシぐらいのデブ竜が!」

「弁当を守っておるのじゃ!」

「食べ物を最優先任務みたいに言うな!」


 必要な場面だけ89式を使い、64式には手をつけない。

 古い方を使わないのかとティアナに聞かれたが、俺は岩殻巨獣から目を離さず答えた。


「今日は予備。使わず帰れれば一番安上がりだ」

「戦力じゃなく料金で温存してる……」

「一発ごとに金取られるんだぞ。撃たずに済んだ弾は利益だ!」


 その時、岩殻巨獣がこちらを向いた。


 ズ……ズズズ、と前脚が地面を削る。

 次の瞬間、ドンッ! という地響きと一緒に巨体が踏み出し、採石場の石片が跳ねた。ジークフリードたちが横へ散り、俺も距離を取りながら岩殻の動きを追う。


 小銃弾が硬い表面へ当たるたび、キンッ、ガッ、と嫌な金属音に似た響きが返った。

 効いていないわけではない。表面の欠片くらいは飛ぶ。だが、あの巨体を止めるにはまるで足りない。


「……駄目だな。こいつ相手に小銃弾を追加購入するのは、金貨をそのまま投げるのと同じだ」

「だから最初から言ってるでしょ、硬いって!」

「実物を見て費用対効果を確認した。重要な調査だ」

「撃つ前から分かりそうなものを!?」

「現場での確認は大事だぞ」


 ゼニスが後ろでタブレットを操作する。


「なお現在、小火器転送基本料金、弾薬因果精算、弾薬管理費が発生中です」

「まだ六十発ほとんど残ってるだろ。未使用分は安くしろ」

「未使用でも世界間搬送した時点で料金対象です」

「持ってきただけで金取るのかよ!」

「送料という概念をご存じでしょう?」

「物より送料の方が高えじゃねえか!」


 ゴォォォォッ!


 岩殻巨獣が吠えた。

 咆哮だけで胸の奥が震え、天井もない採石場なのに音が逃げ場を失ったように何度も反響する。崩れた岩壁から細かな石がぱらぱら落ち、ドーガンが目を細めた。


「おっさん」

「なんだ」

「小さいので駄目なのは確認した。次は【本命】を持ってくる」

「でかいのか?」

「でかい。面倒。高い。だが俺は知ってる」

「なら話は早い」


 ゼニスが青ざめる。


「黒田さん。まさか」

「FH70――155mm榴弾砲だ」

「やっぱりぃぃぃぃぃっ!」


 俺は肩をすくめた。


「知らん砲は知らんからな。知ってる砲なら話は別だ」


【神界利用速報】


・小火器転送基本料金          算定中

・隠密搬送               算定中

・弾薬因果精算             算定中

・弾薬管理費              算定中


※域外装備関連費用は任務完了後、一括精算予定。

※黒田陸の希望による「見なかったことにする」は認められません。

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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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