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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#33 契約切れば無料だと思った(正式名称:神界契約断絶異常及び無登録因果接続対処)

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第124話 契約切ったら日本へ帰れなくなった

 ゼニスとの契約を(一時的にだが)切った夕方になって、俺はいつものように現代へ戻ろうとした。特別な準備はしない。煙草の残りが少なくなったから補充して、冷蔵庫の酒を確認して、ついでにスマホを見る。それだけのつもりだった。


「じゃ、帰るわーほなまた」

「はいはい。今日はもう大きな処理をしないでくださいね」


 ゼニスの返事を背中で聞き、いつもの感覚で神界接続へ意識を向ける。

 何も起こらない。


「......ん?」


 もう一度。本当に何も起こらない。

 目の前には移動式やどり木の壁。右にはティアナ。左にはゼニス。現代の四畳半はどこにもない。


「おいゼニス」

「何ですか」

「帰れないんだけど?」

「だから言ったでしょう!!」


 会議室の天井が震えそうな声だった。


「こんなの聞いてないぞ?」

「契約遮断って何だと思ってたんですか!」

「請求止めるやつじゃないの?」

「そんな都合のいい契約遮断があるわけないでしょう!」


 レグリアが端末を開きながら、わざとらしく指を折った。


「異世界送還(リターン)停止、現代側再転送停止、装備転送停止、認識阻害《コグニティブ・ジャミング》停止、原状復帰(リストア)停止、即応停止、即レベ停止。綺麗に全部止まってますぅ♡」

「......しまった、俺の魔法じゃなかったの忘れてた」

「そんな重要なこと忘れるんですか!?」

「ずっと使ってると自分の能力みたいな気がしてくるじゃん」

「家の電気を自分の発電能力だと思います?」

「停電して初めてありがたみに気づくタイプかな俺」

「最低ですねほんとに」


 ティアナが腕を組んだ。


「でも戦えないなら、あんた喜ぶんじゃない?」

「お前、俺を何だと思ってる」

「働きたくないおっさん」

「そう!正解だ」


 実際、最初の一時間は快適だった。


 即応が出ない。即レベも出ない。現代兵器も転送できない。つまり「黒田さんお願いします」と言われても、「無理」で押し通せる。


「最高じゃん」

「何がですか」

「能力がないから働けません」

「元自衛官としての技能は残っています」

「余計なこと思い出させるなよ、いい気分の時にさ」


 ところが二時間後、問題が出始めた。俺は煙草の箱を振る。


「残り......三本」


 財布を見る。


「異世界金貨しかねぇ」


 スマホは当然つながらない。競馬も見られない。パチンコ屋の騒音すら、こうなると少し懐かしい。


「......ファミチキ食いてえ、アレクシスの気持ちが分かってきたかもしれん」

「今は、そんな贅沢言わないでください」

「日本の酒飲みてえ、第3のビールとか、やっすいディスカウントストアで買ってきた謎のチューハイとか......」

「こっちにもお酒ありますよ?醸造方法が現代日本より未発達なので、ひたすら酔うためだけって感じのものですが」

「違うんだよ。コンビニ行って、何買うか決めずにウロウロしたいんだよ~むしろ買い物はそのついでっていうか――」

「帰れない人間の郷愁がコンビニなんですか?」


 ゼニスが呆れた顔をする。


 さらに夜になった。


「うー布団が恋しい」

「ありますよ、やどり木のいつも泊まるとき使ってるのが」

「俺んちのがほしい」

「ありません!」

「競馬新聞」

「それもありません!」

「ひなたから連絡来てるかもしれん」

「確認できませんね、通信使えないので」

「......異世界って、不便だな」


 ぽろっと不満を口にすると、ゼニスの眉が上がった。


「今、不便って言いました?」

「言ってない、お前の空耳じゃねえの?」

「言いましたよ、聞こえましたもん」

「幻聴だわ」

「神に幻聴扱いしないでください!!」


 その夜、移動式やどり木へ戻ると、厨房から焼いた肉とスープの匂いが流れてきた。テーブルではモグが既に二人前を食べ、ミャオが空いた皿を回収している。


「陸、今日は帰れないんだってにゃ?」


「おおミャオか。情報早いな」

「ゼニスが言ってたにゃ。ご飯食べるにゃ?」

「食うぞ」

「お風呂も沸いてるにゃ」

「入る」

「布団も出してあるにゃ」

「寝る」

「煙草は外」

「うーん、そこだけ厳しいな」


 俺はいつもの席に座った。


 ミャオは何か特別な慰めを言うわけでもなく、スープを置き、肉を置き、パンを追加した。横ではモグが俺の皿を見ている。


「こら!見るな」

「一口だけ、ほしいのじゃ!」

「お前の一口、皿ごと消えるやつじゃねえか」

「わらわ、なんでそんなに信用がないのじゃ!知らない付き合いでもなかろう!」

「食事に関してだけはゼロだな」


 その後、風呂へ入り、外で煙草を一本だけ吸い、布団へ転がる。


 現代へ戻れない。

 なのに、野宿でも避難生活でもない。


 天井には移動式やどり木の木目があり、厨房からミャオとモグが揉める声が聞こえる。ティアナは隣室でレグリアへ何か怒っていて、遠くではミルネが誰かの薬を準備している。


 俺は目を閉じた。


「......まあ、とりあえず仕事せずに寝れるならいいか」


 翌朝。

 ネレイスが地図と神界端末を広げた。


「復旧前に、自発的帰属点を測るぞ」

「何だ、それ? 専門用語すぎてわけわからんぞ」

「契約がなくても、お前が自分から戻ろうとする場所、人、生活環境」

「帰りたい場所なら日本だろ」

「第一候補はな。問題は異世界側だ」


 レグリアの目が光った。


「人も対象になりますぅ?」

「ああ、なるのだ」


 ゼニスも顔を上げる。


「個人単位でも?」

「理論上は」


 ティアナだけが二人を見比べ、露骨に嫌な顔をした。


「......やめなさいよ。絶対ろくなこと考えてないでしょ」


 ゼニスとレグリアが同時に笑った。

 俺はその意味を、まだ知らなかった。


【神界・追加ご請求】


・送還機能停止状態診断費        金貨4,000枚

・自発的帰属点予備走査費        金貨5,000枚

・神界契約遮断維持費          金貨3,000枚

・生活圏安定観測費           金貨4,000枚

・異世界滞在延長補正費         金貨2,000枚

─────────────────

今回加算                金貨18,000枚

今回加算・日本円換算          90,000,000円相当

前回繰越残高              金貨770,000枚

前回繰越残高・日本円換算        3,850,000,000円相当

暫定合計残高              金貨788,000枚

暫定合計・日本円換算          3,940,000,000円相当


「帰れなくなってんのに、九千万取られるの?」

「観測費です」

「サービス止めといて金取るなよ! この悪徳違法業者!」

「黒田さんが自分から切れって言ったんでしょう!」

「契約って怖いな」

「今さらですか!?」


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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