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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#33 契約切れば無料だと思った(正式名称:神界契約断絶異常及び無登録因果接続対処)

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第123話 ゼニスとの契約切ったら全部無料じゃね?

 第六元帥【零】イリス・ゼロスを谷から連れ帰った翌朝、移動式やどり木の会議室には、朝飯の匂いより先に神界端末の薄青い光が満ちていた。昨夜、レグリアが最後に見つけた【契約系統:異常】という一行が、寝て起きても消えてくれなかったからだ。


 俺としては、世界整合管理局だか神界だか知らないが、朝から面倒な文字列を見るくらいなら、味噌汁飲んで煙草吸って二度寝したかった。


「で。契約がどうしたって?」


 俺は面倒くさそうに欠伸(あくび)をしながら聞くと、壁際に立っていた女が視線だけを寄越した。黒に近い青の外套、無駄のない細身の軍装、胸元には魔王軍第四元帥を示す紋章。第四元帥(だいよんげんすい)【契】――蒼冥元帥(そうめいげんすい)ネレイス・モルティアは、こっちが眠そうだろうが何だろうが気にする様子もなく、神界端末へ表示された複数の線を指先でなぞった。


「お前と神界の接続契約に、外部から触られた跡がある。イリスへ施された保全処置と同系統かどうかは、まだ分からないがな」

「なーんだ。分からないなら寝ていい?」

「駄目だ」

「少しは考えてくれてもよくね?」


 今日のゼニスは、濃紺の長衣に銀糸を入れた法務官めいた格好だった。胸元まできっちり留めた服は珍しく実務一辺倒で、昨日まで衣装で遊んでいたアホ女神と同一人物とは思えない。


「ですから、一時的に黒田さんと神界の契約を遮断して、異常がどちら側に残るか確認します」

「ち、ちょっと待て」


 俺が手を上げると、ゼニスが嫌そうな顔をした。


「何ですか、一体」

「それ、切ったらお前からの請求も止まるよな?」

「何でそこが最初なんですか!」

「大事だろ。俺にとっては世界の危機より大事だ」

「大事にしないでください!!」


 横でレグリアが口元を押さえた。今日は白と黒の監査服。昨日あれだけ砂まみれになったからか、膝丈の実用的な服へ戻っている。


「契約を切っても、既に確定した債務は残りますよぉ♡」

「うるせえチビ女神。お前に聞いてない」

「聞かなくても教えてあげましたぁ♡」

「じゃあ存在消してくれない?」

「監査対象から直接言われるとムカつきますねぇ」


 ネレイスが俺たちを無視して処理を続ける。


「よし、契約を遮断するぞ」

「いいぞー切って!」


「おいちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!!」


 ゼニスが机を叩いた。


「あなた、何でそんな即決なんですか!もう少しこう、あるでしょういろいろと!!」

「借金は残るらしいけど、お前から追加請求来なくなる可能性あるだろ?」

「私との契約ってその程度なんですか!?」

「その程度って何だよ。請求書運んでくる迷惑業者でしかないだろ」

「業者じゃありません!!め・が・みですっっ!!」


 それ以上有無を言わさないかのように、ネレイスの指先が光った。

 次の瞬間、いつも視界の端に薄く浮かんでいた神界表示が、音もなく消えた。


【即応(クイック・レスポンス)】

【即日レベルアップ《インスタント・レベリング》】

【異世界送還(リターン)】


 普段は邪魔だと思っていた表示が一枚ずつ落ち、最後には何も残らなかった。

 その環境は、俺にとって妙に静かなものであった。


「......おお」


「どうですか?」


 ゼニスが警戒しながら聞く。


「俺は――――自由だああああああ!!」

「まだ何も解決してませんけど!!」


 椅子から立ち上がろうとした俺の肩をティアナが掴んだ。


「黒田、どこ行くのよ」

「酒だ、祝い酒。こんなこと祝わずにどうするよ!」

「あのね、あんたまだ朝よ」

「じゃあ煙草で祝杯を――」

「それはいつもでしょ!」


 レグリアが端末を確認し、少しだけ口角を上げた。


「契約遮断、正常終了。ちなみに黒田さんの既存債務、金貨七十四万六千枚も正常に残ってますぅ♡」

「そこ異常起こせよ!!くそシステムがっ!!」

「債権記録は健全です♡」

「一番不健全な数字だろうが!」


 ネレイスは神界表示の消えた俺を見て、何事もなかったように続けた。


「しばらくこの状態で観察する」

「どれくらい?」

「最低半日は必要だろう」

「半日何もしなくていい?」

「戦闘が起きれば普通に戦え」

「能力止まってるんだけど?」

「自前でなんとかするんだな」

「一番嫌な言葉出たなあ......」


 ゼニスが深く息を吐き、銀の縁取りが入った袖を整えた。


「本当に......そんな簡単に切るんですね」

「何がよ?」

「私との契約です!」

「ま、実験だろ?」

「分かってます、分かってますけどぉ......」


 分かっていると言いながら、妙にこの女神、機嫌が悪い。

 レグリアがゼニスの横顔を見て、ニヤッとした。


「ゼニス先輩、男に捨てられた女みたいな顔してますよぉ♡」

「あのね!契約の話です!」

「でも『切って』って一秒でしたぁ♡」

「あんた、黙りなさい!」

「先輩、顔赤――」

「黙(・)っ(・)て(・)て(・)く(・)だ(・)さ(・)い(・)!!」


 ゼニスが本気でキレそうだったので、レグリアが一歩引いた。


「本気で怒るじゃないですかぁ......」

「お前が余計なこと言うからだろ、バーカ」


 俺が笑うと、今度はゼニスの視線がこっちへ飛んできた。


「黒田さんもです」

「俺?」

「......何でもありません!」


 ああ、神様って面倒くさい。いや女ってやつは......なのか。


【神界・追加ご請求】


・神界契約系統異常診断費        金貨5,000枚

・契約一時遮断処理費          金貨7,000枚

・世界間因果安全化処理費        金貨4,000枚

・旧契約履歴逆引き照合費        金貨3,000枚

・遮断後安定監視費           金貨5,000枚

─────────────────

今回加算                金貨24,000枚

今回加算・日本円換算          120,000,000円相当

前回繰越残高              金貨746,000枚

前回繰越残高・日本円換算        3,730,000,000円相当

暫定合計残高              金貨770,000枚

暫定合計・日本円換算          3,850,000,000円相当


※契約遮断は債務免除を意味しません。

※黒田陸の期待だけが正常に切断されました。


「契約切っただけで一億二千万!?」

「神界系統の安全遮断ですから」

「無料解約じゃないの?」

「神界契約を携帯電話みたいに言わないでください!」

「解約手数料高すぎんだろ!」

「だから解約ではありません!」


 俺は請求書を丸め、机の上へ置いた。


「もういい。帰って屁こいて寝るわ」

「どうぞ!ご勝手に!!」


 ゼニスが投げやりに返した。


 この時の俺はまだ、その「帰る」が使えなくなっていることに気づいていなかった。


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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