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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#32 誰を探してるか忘れたけど探す(正式名称:無銘元帥存在欠落追跡及び救出作戦)

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第120話 誰を探してるか忘れたけど探す

 名前のない奴を探すのは、思ったより面倒だった。顔も分からない。能力も分からない。どこにいたかも曖昧で、アルヴィナですら「いた」という感情だけを残して名前へ届かない。


 それでも、人数だけは合わない。超常現象が相手でも、六人で暮らせば六人分だけ地面が沈み、六人分だけ食料が減り、荷物も増える。記憶が消えるなら、記憶以外を数えればいい。それなら俺にもできる、とたかをくくっていた。


「神様相手に算数で勝とうとしてます?」


 ゼニスが呆れた。今日の衣装は現地調査員風。長いブーツにポケットの多いジャケット。昨日よりだいぶ実用的だ。


「超常現象が数字消しても、飯食った皿まで全部消えるとは限らんだろ」

「発想が地味ですねぇ♡」


 レグリアが横から言う。


「地味でいいんだよ。派手はダメだ、昨日三十二億掛かったから」

「まだ引きずってる♡ダメおじぃ♡」

「一生引きずるだろそんなの」


 俺は、魔王軍の古い野営地へ入った。ローディスとアルヴィナも一緒だ。フェンナが先頭で鼻を動かしている。


「くんくん。臭い、やっぱり五人分じゃないワン」

「分かるか?」

「古すぎて薄いけど、一個だけ変なのあるワン。知らない臭いなのに、嗅いだことある気がするワン」

「誰の臭いだ?」

「ボス、ごめん。それが私も思い出せないワン……」


 フェンナが耳を伏せた。


「名前は要らん。追えそうかだけ教えてくれ」

「追えるワン!」

「よし、なら追うぞ」


 レグリアがフェンナの鼻先へ端末を近づける。


「その臭い、数値化できますぅ?」

「できないワン」

「類似率とか」

「分からないワン」

「監査記録に“なんとなく知ってる臭い”って書けないんですけどぉ」

「じゃあ“なんとなく知ってる臭い”って書けばいいだけだろ」

「正式文書ですよ!?」

「現場がそう言ってんだからしょうがないだろ。あきらめろ」


 ゼニスが横から覗く。


「“既知感を伴う未識別臭気”では?」

「それです!」

「急に神界文書っぽくなったな」

「言い換えただけじゃない」


 ティアナの指摘が正しかった。意味は一文字も増えていない。


 古い天幕跡を一つずつ見ていくと、派手な魔法痕より地味なものの方が気になった。寝床の窪みは六つ、食器箱の皿も六枚。壊れた椅子も五人で使ったにしては一脚多く、古い補給帳簿は五人分として見ると毎回ほんの少しだけ量が余る。六人分として見ると逆に少ない。


「なにか、中途半端ね」

「一人だけ食う量が少なかったか、全部の食事に参加してなかったか。数字だけじゃ分からん」

「でも“五人しかいなかった”よりは変か」

「そう。超常現象は知らんが、飯の量って意外と嘘つかないもんだ」


 アルヴィナが真顔で頷いた。


「お菓子の量もか?」

「お前は全部食うから参考にならん」

「失礼だな! 残す時もあるぞ!」

「袋をか?」

「乾燥剤だ」

「それ残したうちに入らねえよ」


「ねえ、これ、六人分じゃない?」


 ティアナが帳簿を覗く。


「そう見える。ただし一人分丸々じゃない。食わない奴だったか、別の配分だったか」


 アルヴィナが考える。


「……少食だったのかな?」

「シルフィアじゃねえぞ」

「分かってるもん!」


 モグが古い保存食の袋を見つけた。


「これ食えるかの?」

「こら、触んな」

「一個だけじゃ」

「だから証拠だっつってんだろ」


 俺が目を離した一瞬。モグが口へ入れた。


「証拠食うなデブ竜!!お前の“匂いだけ”が最終的に口へ入るの何回目だコラ!」

「なんか古かったぞ!」

「味の感想聞いてねえ!」

「塩が足らん!」

「料理評論まで始めんな!」

「食えたから問題ない!」

「問題しかねえよ!」


 アルヴィナが真面目な顔で言う。


「モグ、もう一個あるか?」

「お前まで乗るな!」


 ゼニスが額を押さえた。


「捜索中に証拠品が食料扱いされる案件、神界報告書へ何て書けばいいんですか」

「被疑者、古竜。動機、空腹」

「普通に犯罪記録みたいに言わないでください!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 昼前、いったん足を止めて携行食を広げた。モグが俺の分まで覗き込み、アルヴィナは六枚目の小皿に金平糖を一粒だけ置いている。


「それ何のつもりだ?」

「もしこの人が帰ってきたら食べるかもしれない」

「誰が甘い物好きだったかも分からんだろ」

「じゃあ黒田の干し肉も置く?」

「俺の昼飯を供物にすんな」

「ケチ」

「三十二億借金ある人間から飯まで取るなよ!」


 レグリアが横で記録する。


「六人目候補への供物、金平糖一粒。黒田さん、提供拒否♡ だっさ♡」

「その書き方だと俺だけ人情ないみたいだろ!」

「事実では?」

「違う。干し肉は俺が食う昼飯だ」


「やっぱり人情ないじゃないの」


 ティアナにまで刺され、結局干し肉を半分だけ皿の横へ置いた。誰に向けた行為なのか自分でも分からなかったが、俺の行為にアルヴィナは少しだけ嬉しそうにした。


 危険地帯へ入るので、89式だけは短時間転送した。


【物資転送(トランスポート):89式小銃 一丁】

【認識阻害《コグニティブ・ジャミング》:短時間起動】 


 レグリアが銃を見る。


「今日は撃たないんですかぁ♡」

「撃たずに帰れるなら一番安い」

「兵器への愛がなくなった♡」

「愛はある。だが弾代もある」

「持ってるだけでも認識阻害費は発生してますよぉ♡」

「分かってる。だからお前、時間計るな。止めろ」

「監査なので計ります♡」

「時計隠しても?」

「神界時間で計ります♡」

「マジで最悪だな!」


 俺は89式を肩へ掛けたまま、一発も撃たずに歩く。銃があるから安心する部分は確かにあるが、引き金を引くたび別の意味でも心拍数が上がる身体になった。元自衛官としてどうなんだとは思うが、借金三十二億円に比べればプライドなんぞ軽いものだ。


 結局、その日は一発も撃たなかった。フェンナが追った臭いは、谷の奥で急に薄くなる。


 そこで地面へ六つ目の足跡があった。フェンナが止まった地点には、古い泥が固まったまま残っていた。五人分なら説明できる足跡の列へ、少し小さな歩幅が一つだけ混ざっている。途中で消え、別の列の脇からまた現れる。


「幽霊みたいね」とティアナが言った直後――


「幽霊ならいるよー!陸ぅ、会いたかったぁ♡」


 リリアがはーいと手を挙げる。


「お前かよ!!呼んでないわ死体未満は」

「ひどい!」


 笑いながらも、俺は膝をついて足跡の向きを追った。古い土は新しい足跡のように形を残してはいない。だが、石の並びや草の切れ目、同じ場所だけ繰り返し踏まれた硬さを拾っていくと、五人分では説明しにくい線が一本だけ混ざる。


 消されているというより、見落としやすい。目を離すと「これも五人分のどれかだろ」と勝手に納得したくなる。それでも地面は、完全には忘れていなかった。


 誰のものかは分からない。だが、五人の元帥が歩いたはずの道に、六人目の歩幅が混ざっている。


「い(・)た(・)な(・)」


 ローディスが低く呟いた。


「……ああ」


 アルヴィナが足跡の横へしゃがむ。


「私、この人と歩いたんだ」

「名前は?」

「……まだ、出てこないよ」


 俺は何も言わなかった。帰る前に89式の状態を確認し、そのまま原状復帰へ回す。


「今日は撃ってないから、清掃差分ほぼなしですね」


 ゼニスが言う。


「素晴らしい。撃たない銃は安いな」

「何か――新しい思想へ到達してません?」

「戦闘しないのが一番安い。俺の生き方と一致してる」

「だったら最初から冒険者やめればいいじゃないですかぁ♡」

「借金がなければ今すぐやめてるわ!」

「原因の一部、自分ですよ?」

「知ってるから傷口へ塩塗るな」


 ゼニスが89式の返却処理を確認する。


「今日は発射なし、汚れも軽微。返却差分はかなり小さいです」


【神界・追加ご請求】


・89式小銃短時間再転送費          金貨4,000枚

・短時間認識阻害維持費           金貨3,000枚

・現地痕跡追跡神界補助費          金貨3,000枚

・未識別臭気記録変換処理費         金貨4,000枚

・小火器原状復帰軽微処理費         金貨2,000枚

・弾薬未使用及び軽微清掃減額       -金貨1,000枚

─────────────────

今回加算                  金貨15,000枚

今回加算・日本円換算            75,000,000円相当

前回繰越残高                金貨658,000枚

前回繰越残高・日本円換算          3,290,000,000円相当

暫定合計残高                金貨673,000枚

暫定合計・日本円換算            3,365,000,000円相当


「七千五百万……一発も撃ってないのに?」

「昨日の十八億円よりは安いですね」

「待て。七千五百万を“安い”って思い始めたぞ俺」

「金銭感覚の原状復帰が必要ですねぇ♡」

「そっちも有料?」

「対象外です♡」

「じゃあ放っとけ!」

「でも弾薬未使用で千枚減ってます」

「素晴らしい。今日のMVPは“撃たなかった俺”」

「何もしてないのを表彰しないでください」

「働かないことが成果になる日、最高だな」

「それ、ただ働きたくないだけでしょう」


 レグリアが即座に判定した。


 バンッ。


 【働きたくないだけ】


「正解だけど腹立つ!」


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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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