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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#31 元特科だから全部の大砲使えると思うな(正式名称:現代砲兵共同運用及び遠距離異常核制圧作戦)

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第117話 砲兵同士を三種類も会わせるな

 19式の情報を持ち帰った後、異世界側の作戦会議は、開始十分で通訳が必要になった。同じ言語を喋っているはずなのに、である。


 移動式やどり木の食堂から大きい机を一つ借り、窓際へ寄せて臨時の作戦卓にした。外では鍋の蓋が鳴り、時々ミャオの怒鳴り声が飛んでくるのに、机の上だけは妙に物々しい。南東山地の地図、その上へ重ねた透明板、シルフィアの観測値、セラフィナが持ち込んだ魔導砲兵隊の記録、俺のFH-70関係メモ。そこへひなたから教わった公開範囲の十九式資料まで混ざり、異世界と現代の紙が同じ机で喧嘩していた。


 机の上には南東山地の地図。シルフィアが上空から取った距離。

 セラフィナが持ち込んだ魔導砲兵隊の記録。俺のFH-70関係メモ。

 そして、ひなたから教わった公開範囲の19式資料。エドガーが紙を睨んでいる。


「つまり、この“火力戦闘指揮統制”というのは、そちらの魔導通信網に近いのか?」

「似てるっちゃ似てるけど、同じって言い切ると後で怒られそうだ」

「誰にだ」

「現役のやつらにだよ」


 セラフィナが別の図を指した。


「こちらは第二魔導圧縮環で砲身負荷を抑えつつ、観測値を第三補正陣へ送ります」

「待て。今度は俺が分からん」

「先ほどから私もそちらの単語が半分分かりません」

「じゃあお互い様だな」


 ティアナが椅子にもたれた。


「ねえ。全員同じ言葉喋ってるのに、何で会話成立してないの?」

「専門が違うからだよ」

「大砲って面倒ね」

「そこ雑にまとめんな」

「じゃあ翻訳係つければ?」

「誰がやるんだよ」

「ゼニス」

「無理です。私、現代砲兵用語も魔導砲兵用語も専門外です」

「神なのに?」

「神は万能職ではありません!」

「じゃあレグリア」

「監査用語なら翻訳できますぅ♡」

「一番いらんわ、帰れ」

「ざぁこ専門家♡ 互いの言葉も分からないっ♡」

「煽りを翻訳と呼ぶな!」


 モグが横から口を挟む。


「わらわは何をすればいいんじゃ?」

「会議中は何も食うな、黙って座ってろ」

「役割それだけか!?」

「重要だぞ。資料が減る」


 シルフィアだけが申し訳なさそうに手を挙げた。


「わ、私は距離を出せばいいんですよね?」

「そう。お前はそれでいい。どこへ落とすか、何を使うかまで考えるな」

「では、南東異常核の外縁から順に測りますね」


 そこから話が早くなった。シルフィアが測った距離を紙へ落とし、セラフィナがその数字を魔導砲側の届く範囲へ置き換える。エドガーは地図の谷筋や避難路へ指を滑らせ、砲撃してはいけない方向を先に潰した。俺はその三人の情報を見比べながら、現代砲側の位置と時間を整理していく。


 ほんの数分前まで、互いの専門用語へ「何それ」と首を傾げていた連中だ。それでも「どこへ落とす」「誰を巻き込まない」「何発で止める」という三つだけ共有すると、会話が勝手に一本へ繋がっていく。専門が違っても、危険を減らすための考え方まで別物というわけではないらしい。


 さっきまで通じなかったのに、目的が一つになった途端、会話だけが異様な速度で進み始めた。


 五分前まで「第二魔導圧縮環って何だ」「火力戦闘指揮統制って何ですか」で互いに首を傾げていたのに、三つへ話を絞ると、専門用語の壁を勝手に迂回し始める。


「そこは魔導砲側で先に押さえます」

「じゃあ現代側兵器は重ねなくていいな。無駄弾になる」

「二点目だけ再測距します。先ほどより風向きが変わっています」

「急がなくていい。数字がおろそかになる方が困る」

「……何で急に全部通じてるの、これ?」


 ティアナが本気で気味悪そうな顔をした。


「砲兵って別世界でも砲兵なの?」

「知らん。でも目標と距離と危険区域が共通なら何とかなるみたいだな」

「恋愛より意思疎通できてるじゃない!」

「比較対象おかしくない?」


「南側から撃つと避難路に近い。東へずらした方がいい」

「魔導砲はこちら側へ寄せられます。ただし連続射撃は抑えます」

「シルフィア、三地点だけでいい。全部拾おうとすると先にお前が落ちるだろ?」

「はい。前回で学びました」

「いい返事だぞ」


 ティアナがゼニスを見る。


「この人たち、急に仲良くなったんだけど」

「私にも分かりません。大砲の話になると人格変わるんですよ」

「黒田だけじゃないのが一番怖いわ」


 今日のゼニスは眼鏡に紺のタイトスーツ。書類を抱えて、完全に参謀部の秘書みたいになっている。珍しく普通に似合っていた。


「お、今日の格好、普通にいいじゃん」

「その眼鏡も似合ってるし、今日はちゃんと仕事できる人に見えるぞ」


 ゼニスが止まった。


「……え?ええ!」

「いや、いつもより仕事できそうだなって」

「…………」


 耳が赤くなった。そのままゼニスは資料を一枚めくり、同じページをもう一度めくった。


「おい、どうした、同じ紙二回見てるぞ」

「確認です」

「何を?」

「確認です!」

「だから何のだよ!!」


 レグリアが机へ突っ伏す勢いで机をばんばん叩きながら笑っている。レグリアが見逃すはずがない。


「ゼニス先輩、処理止まってますよぉ♡ ひー、おかしい!!」

「止まってません!」

「耳赤ぁい♡」

「赤くありません!」

「黒田さん、もう一回言ってあげたらどうです?」

「何をだ?」

「検証ですぅ♡」

「お前、性格悪いな」

「監査です♡」


 ゼニスがレグリアへ書類束を投げた。


「あなたは仕事しなさぁぁぁい!」

「してますぅ! 先輩の動揺も立派な監査資料ですぅ!」


 俺は再び地図を見た。


「あ、そうだレグリア。昨日の神託系コード、照合ありがとな。あれなかったら、こっちもここまで絞れてないから」

「仕事として普通に助かった。ありがとな!」


 今度はレグリアが止まった。


「……当然です」

「お前も止まってないか?」

「止まってません!」

「承認印、押そうとして空中で止まってるぞ」

「これは待機です!」

「耳も赤いが」

「照明です!」

「外だぞ」

「夕日です!」

「まだ昼だぞ」

「おじさん、うるさぁい!」


 ゼニスがここぞとばかりに胸を張る。


「レグリア、褒め言葉耐性が低いですね」

「さっきまで真っ赤だったゼニス先輩にだけは言われたくありません!」

「私は止まってませんでしたけど?」

「同じ資料二回めくってましたぁ♡」

「二回だけです!」

「そこ争うとこか!?」


 ゼニスが即座に反撃した。


「まだ耳赤いですよ、レグリア」

「赤くないです!」

「先輩として記録しておきます」

「すぐ消してください!」


 ティアナがぼそっと言った。


「この二人、面倒くさいわね。神の癖に」

「俺に言うな」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 会議の途中、魔王アルヴィナがやってきた。手にはカステラをもってルンルンだ。


「黒田ー。会議まだやってるのかー?一緒にカステラ食べよー」

「やってる最中だ」

「じゃ、先にお菓子食べててもいい?」

「静かにするならな」

「やったあああっ!」


 アルヴィナはなぜか俺の横に座った。数分後。


「魔王様――」


 セラフィナの声が低くなった。


「なに?」

「お言葉ですが――、会議資料へ砂糖を落とさないでください」

「落としてないもん!」

「今、黄色い粉が乗りました」

「これは紙が取りに来たんだもん!」

「資料に責任転嫁しないでください!!」


 俺も見る。


「それカステラの下に紙敷いたのお前だろ」

「お皿が遠かったから......」

「軍議資料を皿にすんな魔王!」


 モグが横からカステラへ手を伸ばした。


「おいお前、一口よこせ」

「やだよ!」

「魔王のくせにケチじゃ!」

「これは私のだもん!」


 セラフィナが目を閉じた。


「……黒田殿。話を戻しても?」

「俺が言うのも何だけど、お前も苦労してんな」

「最近、よく言われますね」


 会議が終盤へ差しかかる頃には、地図の上に書き込みが増え、カステラの粉まで一部混ざっていた。数字を追っているだけなら机上の話だが、十九式を本当に異世界へ呼ぶとなれば、今度は一分一秒が料金になる。そこだけは俺の理解が誰より早かった。十九式を使う場合の滞在時間を、必要最低限まで削った。


「持ってくる。撃つ。必要な分だけ動かす。終わったらすぐ返す。異世界に置いとく時間は極力短くする」

「大規模装備の場合、それが最も安くなります」


 ゼニスが言う。


「それと原状復帰だ。泥とか煤とか、俺らで落とせる差分は全部落とすぞ」

「大型装備ですから、かなり圧縮できますよ」


 俺は全員を見て、一言言った。


「……お前ら、作戦終わったら掃除な」


 ティアナが目を丸くする。


「あんたがっ?」

「俺もやる、どこ整備するかわからんだろ。お前らじゃ」

「普段、皿一枚洗うの面倒がるあんたが? いつも鼻ほじって後ろで見てるだけのあなたがああ!?」

「金貨が減るなら働く!」


 レグリアが承認印を出した。


 バンッ。


 【労働動機:借金】


「的確だけどムカツクなあああっ!」


【神界・追加ご請求】


・現代砲/魔導砲混成運用事前同期試算費   金貨5,000枚

・晶界測距作戦計画補助費          金貨3,000枚

・魔導砲座標系変換照合費          金貨3,000枚

・19式短時間転送運用圧縮試算費       金貨4,000枚

・神界現地監査及び記録接続費        金貨3,000枚

─────────────────

今回加算                  金貨18,000枚

今回加算・日本円換算            90,000,000円相当

前回繰越残高                金貨262,000枚

前回繰越残高・日本円換算          1,310,000,000円相当

暫定合計残高                金貨280,000枚

暫定合計・日本円換算            1,400,000,000円相当


「九千万……あのさ、会議しただけだぞ?」

「三種類の砲兵体系を合わせる事前同期ですから」

「会議室代、高すぎだろ!公民館だったら100円とかだぞ」

「ゼニス先輩と私、神が二柱も現地対応してますしぃ♡」

「てめぇらクソ女神、二人とも呼んだ覚えねえよ!」

「衣装費は私費です!」

「お前の趣味の話、どうでもいいわああっ!」


 明日は、本当に十九式を持ってくる。まだ撃ってもいないのに、なぜか借金は十四億円になった。


「……お前ら、明日の掃除だけは絶対逃げんなよ」

「そこだけ指揮官の目にならないでください!」

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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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