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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#30 三口で死にそうな古竜を拾った(正式名称:蒼晶古竜救出及び広域観測能力保全作戦)

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第113話 ああ、もうダメ……落ちちゃいます……

 シルフィアが飛べる程度まで回復したのは、その翌日だった。


 前日の夜、シルフィアが気になることを言っていた。


「南東の方だけ、魔力の流れが少し変なんです。地上からだと山に隠れて、どこまで続いているのか分からなくて……」


 だったら、上から見てもらうしかない。

 ただし、まだ本調子じゃない。今日やるのは南東方面の短時間観測と、シルフィア自身が何分くらい飛べるのかの確認だけだ。


 少し見て、疲れたら降りる。それだけの予定だった。

 ――後から考えれば、その「少し」が一番怪しかった。


 今日のゼニスは紺色の細身フライトスーツ。腰から脚にかけて身体の線が出る作りで、胸元には金色の翼章まで付いている。


「本日は航空観測支援担当です。南東方面の簡易観測と、シルフィアさんの飛行可能時間、安全限界を確認します」

「最初からそう言えよ。お前の格好だけ見たら航空祭でも始まるのかと思ったわ。どーせ飛ばないんだろ?」

「飛べますよ! 神ですから!」

「じゃあ横飛んで支えてやれよ」

「私は地上監査があります!」

「都合悪くなると全部『監査』で地上へ残れるの、便利だな女神」


 ゼニスが頬を膨らませた。お前女神だろ。

 シルフィアは竜形態になると、淡青の翼を広げた。


「お前、普通に飛べるじゃん」

『はい。短時間なら大丈夫です……』


 数分後。


『黒田さん……少し高度を下げてもいいですか。思ったより風が強くて……』

「もちろんいいぞ。高度記録会じゃねえんだから、見えるところまで下げろ」


 さらに数分。


『ああ……もう翼が重いです……』

「早いな。まあ今日は限界時間を測るのも目的だ。無理すんな」


 リリアが両手を振る。


「シルフィアあああ! 生きて帰ってきて!」

『リリアさん……死んでますよね……?』

「だから死にそうな気持ちは分かる!」

「死んでる奴が言うと説得力ゼロなんだよ!」


 フェンナが鼻を上げる。


「疲れた臭いが濃くなってるワン!」

『それ聞いたら余計に疲れてきました……』


 ミルネが叫ぶ。


「応援する人、減らしてください! 患者の気力が削れてます!」


 その時、林側で枝が折れた。


 バキバキッ――ガサァッ!


 未精算獣が二体、観測地点へ出てくる。俺は89式5.56mm小銃を取った。


「ティアナ、大きい魔法は残せ。シルフィアの降下場所を潰すな。フェンナは追わなくていい、増援の臭いだけ見ろ。リリアは上を――」

「落ちてきたら私が受ける!」

「嬉しそうに言うな!」


 一体目が倒木を越える。

 89式を構えた瞬間、視界の端へ嫌な表示が浮かんだ。


【特性即応(クイック・レスポンス):戦闘判定成立】

【即日レベルアップ《インスタント・レベリング》:小規模起動】


「おい! 二匹を銃で追っ払うだけだぞ!」

「黒田さん自身が敵性個体へ直接射撃する時点で戦闘扱いです!」

「まだ距離あるじゃん!」

「距離は関係ありません!」

「融通利かねえな、このクソシステムがよおお!」


 灰色の光が横へ走った。反射的に腹を地面へ落として匍匐前進の姿勢を取る。伏せ撃ちがいつでもできるようになったが、土臭い。草が頬へ刺さる。


「はぁ……退職してまでこれやんのかよ」


 文句を言いながら、身体は勝手に低い方へ動いていた。倒木の陰まで匍匐で移る。


「風、右から。補助魔法でも分かるでしょ」

「分かる。昨日より楽だ」

「戦闘になると急に上達するの腹立つわ!」

「褒めてる?」

「違う!」


 射線から味方が外れる。乾いた銃声。

 獣が横へ逸れ、フェンナが押し返した。


「倒し切らなくていい! 降下場所から外せ!」


 上空からシルフィアの声が落ちる。


『黒田さん……もう、落ちるかもしれません……』

「観測中止だ。降りてこい」

『でも、南東がまだ全部――』

「要らん。今日取れた分で十分だ。無理して落ちて明日の観測まで潰す方が面倒だろ」


 少し間があった。


『……はい』


 降りてきたシルフィアをモグとルヴィアが支えた。


「……すみません。あまり役に立てなくて」

「何言ってんだ。途中で限界来るって分かったのも情報だ。次はその前提で組めばいい」

「怒らないんですね」

「怒鳴って翼が軽くなるなら怒るけど、ならんだろ。弱いところまで含めて戦力だ」


 シルフィアは少し驚き、それから笑った。


「黒田さんって変な人ですね。適当なのに、そういうところだけ優しいです」

「前半だけで評価止めてくれ。後半は慣れてない」


 後ろでティアナがじっと見ていた。


「何だよ?」

「別に。たまにはまともなこと言うんだなって」

「なら褒めろ」

「嫌。あんた褒めたら一週間威張るでしょ」

「信用ねえな」

「積み上げた実績よ、認めなさい」


 意味が分からん。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 戻ってから、匍匐したせいで泥だらけの89式を見た。


「これ、そのまま返すと高い?よな」

「状態復元まで神界側へ任せれば、その分は掛かります」

「じゃあ俺が泥落として、普段やる範囲の点検まで済ませたら?」

「原状復帰処理が軽くなるので減額できますね」


 俺は無言で89式を持ち上げた。


「黒田さんが自分から働いた!?」

「三千枚安くなるならやるしかねえよ、面倒だけどな」

「動機が全部金かい!!」


 しばらくして、清掃と点検を済ませた89式と64式を並べる。


「これで返しとけ」

「はい。状態確認……問題ありません。【原状復帰(リストア)】します」


【神界・追加ご請求】


・竜眼広域観測初回補助費       金貨8,000枚

・小火器再転送及び認識阻害費     金貨6,000枚

・観測地点近接防護補正費       金貨7,000枚

・蒼晶古竜緊急降下安全補正費     金貨9,000枚

・即日レベルアップ小規模起動費    金貨4,000枚

・小火器原状復帰処理費        金貨4,000枚

・自前清掃・状態整備減額       -金貨3,000枚

─────────────────

今回加算               金貨35,000枚

今回加算・日本円換算         175,000,000円相当

前回繰越残高             金貨150,000枚

前回繰越残高・日本円換算       750,000,000円相当

暫定合計残高             金貨185,000枚

暫定合計・日本円換算         925,000,000円相当


「九億二千五百万……でも三千枚減った」

「そこで喜べるようになったら末期ですよ」


 レグリアが端末を覗く。


「借金生活への適応力だけ上がってますねぇ♡」

「うるせえ。三千枚は千五百万だぞ」


 寝台で休んでいたシルフィアが南東へ顔を向けた。


「……今日見えた範囲だけでも、魔力の流れが等間隔で曲がっていました。明日、距離まで測れればもう少し分かると思います」

「じゃあ明日は短時間でそこだけ見る。今日みたいに欲張るなよ」

「はい」


 明日の仕事が決まった。俺の休みは決まらなかった。

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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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