↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#29 客が来ないなら店ごと行くにゃ(正式名称:移動宿泊給食拠点構築及び前線運用)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/131

第109話 耳が終わりましたぁぁぁぁ!!

 移動式やどり木に必要なのは、飯と寝床だけではなかった。

 昨日の戦場を思えば、救護担当が要る。


 というわけで、ミャオが連れてきたのがミルネ・ラピスだった。

 年齢は十九歳。小柄な兎人族(レプス)。白い十字の入った看護帽から長い耳が伸び、腰の後ろでは丸い尻尾が落ち着かなさそうに揺れている。


「は、初めまして……ミルネです。救護と衛生管理を勉強しています!」

「黒田です。よろしく。……採用でいいんじゃね?」

「まだ名前を言っただけですけど!? 資格も得意分野も、何も確認してませんよね?」

「第一声でちゃんと挨拶できて、救護やりたいって自分から来た時点で、今のうちには貴重な人材だろ」

「陸、人を見る基準が雑なのか現場が人手不足なのか分からないにゃ」


 ミャオが言う。

 ミルネは俺の前へ座ると、まず脈を取り、それから顔を上げた。


「陸さん、でしたね。まず煙草、減らしてください。それから睡眠時間も。脈は今のところ問題ありませんけど、元気だから放置していい身体ではありません」

「……採用反対。思想が俺と合わないわ」

「判断早すぎません!? 健康指導を思想扱いしないでください!」

「俺にとって煙草は宗教上の――」

「健康の話です! 信仰で肺は綺麗になりませんよ!」


 そこへ今日のゼニスが現れた。

 白いスポーツウェア風の上着に黒い細身パンツ、首にはホイッスル。腰には健康管理用らしい神界端末。


「本日は健康管理体制の査定です。移動拠点を運用するなら、戦闘だけでなく休養と衛生も評価対象になります」

「お前その格好、どう見ても体育教師なんだけど。首の笛まで本当に必要なのか?」

「健康指導担当らしいでしょう。緊急時には合図にも使えます!」

「最後に『雰囲気が出る』って顔してるぞ。もうコスプレって認めてもいいんだぞ?」

「業務衣装です! 私が楽しんでいることと業務上必要なことは両立します!」

「楽しんでるって、お前、ほぼ自白してるじゃねえか」


 ミルネはゼニスを見上げた。


「神様も健康管理するんですか?」

「全員ではありませんが、私は主に黒田さんの契約継続可能性を見ています。煙草、飲酒、睡眠不足、不規則な食事、戦闘後の自己管理放棄……確認項目が多すぎるので」

「契約継続可能性って、生命保険の査定みたいに言うな。俺こうして普通に元気じゃん」

「その『元気だから何しても平気』が一番危ないんです! 年齢的にもそろそろいろいろと来る頃ですし.....あなたは特に、.壊れてから「ああ、もっとこうしておけばよかった。神様なんとかして」って反省する人の典型ですよ!」


 ミルネが珍しく強い声を出した。

 長い耳がぴんと立っている。


「――それに聞きました。現代の銃を毎日お金払って置いてるって」

「誰から」

「ゼニスさん、です」

「おいクソ女神!患者の財布まで告げ口すんな」

「財務も健康に入ります」

「違うだろっ!」


 ティアナが裏庭から顔を出す。


「黒田ー。診察終わったなら魔法訓練だよ。昨日、煙しか出なかったから、取り戻すまでやるわよ」

「今ちょうど再診が始まるところだな」

「始まってないじゃない。ミルネ、もう終わったわよね?」

「え、ええ。次は生活記録を――」

「ほら終わってる。――逃げる気でしょ」


 俺は立った。


「いや便所。これは人権だから止めるな」

「そっち裏庭よ。便所と逆方向ですけど?」

「外周から回る近道があるらしいから」

「そんな遠回りを近道って言うの、逃走犯だけでしょ!」


 89式を肩へ掛け、そのまま荷車の陰へ回る。


「黒田ァァァ!」


 ティアナの声が飛んできたので、反射的に身を低くした。立ったまま見つかるより、車輪と地面の隙間に入った方が視線が切れる。

 腹と頭を土へつけ、じわじわ横へ移動する。

 昔なら何とも思わなかった動きなのに、三十二歳の腹には地面が妙に近い。


「陸さん!何で匍匐(ほふく)で逃げてるんですかぁぁぁ!」


 ミルネの声だった。


「立つと見つかるだろ!」

「自衛隊の技能を魔法訓練から逃げるために使わないでください!」

「技能は使ってこそだぞ」

「用途が最低すぎなんですって!」


 フェンナが嬉しそうに隣へ伏せた。


「ボス、上手いワン!」

「お前まで来んな」

「匂いで追えるから隠れても無駄ワン」

「最悪の追跡者だな!」


 ティアナが仁王立ちしているところへ、遠くから砲声が響いた。

 ズゥゥゥン……!

 空気が腹へ届くほど低い音だった。

 ミルネの耳が一直線に立つ。


「ひゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「どうした!?」

「耳が! 耳が終わりましたぁぁぁぁ!!」

「世界じゃなくて耳だけ?」

「私にとっては世界の半分が耳なんですぅ!」


 しゃがみ込んだミルネをフェンナが覗き込む。


「大丈夫ワン?」

「近いです! フェンナさんの声も大きいです!」

「小さく喋るワン」

「語尾だけ小さくしても駄目です!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 数分後。

 リリアが診察台へ座った。

 ミルネが手首へ指を当てる。


「ええっ……脈がありません。体温も低いというより、ほとんどなくて、呼吸も確認できませんが――」

「私、死んでるからね。そこ三つは毎回引っかかるやつだもーん」

「で、でも痛みは感じるんですよね?」

「感じるよー。食事もできるし、疲れた感じもある。怪我はだいたい戻るけど、痛くないわけじゃないよぉ」

「生体反応はないのに、本人の感覚と活動は普通に残ってる……ど、どこを基準に診ればいいんですかぁぁぁぁ!?」


 ミルネの耳が左右へ開いた。目がぐるぐる回っている。相当混乱しているのだろう。


「わ、わたし、一体どうしたらぁぁぁ!」

「笑えるだろ、こいつ死んでるんだぜ。医療泣かせの死体なんだよ」

「死体って言わないで。陸のお嫁さん候補って言って♡」

「言うわけねえだろ!」


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


【神界・追加ご請求】


・救護担当適性照合費         金貨1,500枚

・小火器認識阻害継続費        金貨1,800枚

・健康監査補助処理費         金貨900枚

・不死個体診察情報整合費       金貨1,000枚

・移動式救護区画追加適合費      金貨800枚

─────────────────

今回加算               金貨6,000枚

今回加算・日本円換算         30,000,000円相当

前回繰越残高             金貨90,000枚

前回繰越残高・日本円換算       450,000,000円相当

暫定合計残高             金貨96,000枚

暫定合計・日本円換算         480,000,000円相当

※黒田陸の魔法訓練逃走行為は請求対象外。

※匍匐による衣服汚損も神界補償対象外。


「そこ記録する必要ある?」


 ゼニスがホイッスルを吹いた。


「黒田さん、魔法訓練へ戻ってください」

「お前、笛吹きたかっただけだろ!」


 ミルネも立ち上がった。


「その前に煙草の本数決めますよ!」


 ティアナが腕を組む。


「そのあとは魔法ね」


 フェンナが尻尾を振る。


「逃げたら追うワン!」


 俺は三人を見る。


「……移動式やどり木って、俺を逃がさないなんか牢獄みたいな施設なの?」


 ミャオが帳簿から顔も上げずに言った。


「そう考えると便利にゃ。にゃははははは!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。