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自衛隊元野戦特科隊員は働きたくない ~弾着だけは外さないが、それ以外はやる気が出ません~  作者: 勇者ヨシ君
作戦#29 客が来ないなら店ごと行くにゃ(正式名称:移動宿泊給食拠点構築及び前線運用)

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第108話 結婚すれば借金消えると思った。だが、卵三匹は聞いてない

 移動式やどり木の見積もりは、二日目にして俺の想像していた「ちょっと大きい荷車」から完全に別物になっていた。

 水道二系統に炊事設備。保存庫。簡易寝台。救護区画。泥落とし。予備車輪。防護板。

 そして俺の一言で追加された、89式と64式の小火器保管区画。


「……なあ。昨日は89式一丁だったよな。何で今日、しれっとロクヨンまで増えてんのさ?」

「陸が『移動拠点なら予備はいる』って言ったにゃ。ちゃんと帳簿にも残ってるにゃー」

「俺が? 昨日の俺、余計なこと言いすぎだろ。誰か止めろよ」


「昨日も今日も同じ本人ですわよ。過去の自分を別人格みたいに扱わないでくださいまし」


 ルヴィアが呆れた顔をした。

 64式は俺の主力だったわけじゃない。俺がいた頃でも、もう一世代前の古参だ。それでも見覚えはあるし、触って分解清掃した経験もある。最新装備を何でも分かった顔で扱うよりはよほどマシだった。


 そこに神界の光が降りる。

 今日のゼニスは淡い金色のジャケットに白いワンピース、腰には細いリボン。手にはタブレット型の契約端末と、なぜか造花のブーケ。


「おはようございます。本日は資金計画と契約条件の――」

「……今日は結婚式場の営業レディ?」

「違います! 本日は資金計画と契約条件の確認です。投資契約と人生設計を包括的に扱うための装いで――」

「ブーケ持って『人生設計』って言った時点で、もう式場側なんだよ。俺の人生設計まで勝手にパック商品へ入れるな」

「黒田さんの人生、放置すると計画欄が全部『その日暮らし』になるでしょうが!」


 横からレグリアの巨大な承認印がぬっと出た。


「でも今日の議題、だいたい結婚ですよぉ♡」

「はあ?お前いつの間に来たクソ査定女神。気配消して人の維持費数えてんじゃねえぞ」

「ふふっ、監査開始からいましたぁ♡ 89式一丁、64式一丁、弾薬少々。現代側は本日も認識阻害継続中。昨日ほとんど撃ってないのに、持ってるだけで料金だけは元気に積み上がってまぁす♡」

「まーた嬉しそうにまぁ。朝イチでその報告やめろ。目覚まし時計より精神に悪い」

「日額ですから朝が一番分かりやすいんですぅ♡ 今日も無事、武器だけ働かず維持費だけ出勤♡ 無駄乙♡」

「嫌なタイムカード作るな!」


 ミャオが見積書を差し出した。


「あと、防護板を厚くした分と救護用寝台で、予算が増えたにゃよ」

「この防護板追加、誰だよ。金額が一桁増えてるじゃねえか」

「陸、お前にゃ。『避難民乗せるなら薄い板で安心した気になるな』って熱く酒飲んで言ってたにゃ」

「うわあ……俺じゃん。内容まで俺っぽいから言い逃れできねええええ」

「そこだけ潔いですわね。借金についても同じ速度で認めればよろしいのに」


 ルヴィアが椅子へ腰を下ろし、数字を一瞥した。


「ですから、陸は速くわたくしと結婚すればよろしいのですわ」

「まだ生きてたの、その結婚案。普通、数日放置したら自然消滅するだろ」

「あなたが財産額を聞いた直後に『結婚する?』と言ったのでしょう! あれを財力確認と呼ぶ人類は初めて見ましたわ!」

「俺としては資金調達可能性の確認だった」

「婚姻を融資審査の入口に使わないでくださいまし!」


 ルヴィアは指を一本ずつ折った。


「ね、陸。広い巣。宝物庫。領地。食事はあなたが担当。子供は――三匹ほど欲しいですわね」

「……今、三匹って聞こえたんだけど。何が三匹かな?怖いけど、聞いていい?」

「竜ですもの。当然”卵”ですわ。もちろん将来的な希望ですけれど、三匹くらいなら賑やかでよろしいでしょう?」

「おいおいおい、待て待て待て。俺はいま移動式宿屋の設備投資と借金の話をしてたんだぞ。何で一行飛ばしたら竜と俺の家庭計画になってんだ」

「将来設計も大きな意味では設備投資ですわよ?」

「俺と子供を設備項目へ突っ込むなああっ!」


 リリアが壁から半分だけ身体を乗り出して、二人の間に割り込んできた。


「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!結婚するなら私が先だよね? ルヴィアより前から陸に『お嫁さんにして』って言ってるんだけど」

「おめーは死者の癖に何の順番を真顔で管理してんだよ。そこだけ妙に現世の制度へ寄せてくんなっての」

「死人でも未来くらいあるよ! 死んだからって、好きな人と一緒にいたいとか、そういうのまで全部なくなるわけじゃないんだからね!」


 そこは少しだけ言葉に詰まった。


「……まあ、それはそうだけど」


 リリアがにぱっと笑う。

 そこへティアナが机を叩いた。


「......ちょっと待って。なんでよりによってルヴィアなのよ! ……別に私ならいいって意味じゃないけど!」

「最後の一文、自分で足す必要あったやつ?」

「おっさん、うるさい!」


 レグリアが嬉しそうに端末を回した。


「古竜令嬢の財産目当て♡ 逆玉狙い♡ 生活力よわよわ♡」

「お前も結婚すりゃ分かるぞ」

「なんで私が黒田さんと結婚する前提なんですか!?」


 全員がレグリアを見た。


「……は?誰がお前とって言った?」

「…………」


 巨大承認印が止まる。


「いや、今のは一般論として! 監査対象から婚姻を示唆された場合の――」

「誰も示唆してねえって」

「もう! 黙ってください!」


 ゼニスが口元を押さえた。


「レグリア、耳赤いですよ」

「ゼニス先輩はほんとに黙っててください!」

「監査官が勝手に自爆したにゃ にゃははははは」

「ミャオさんまでぇ!?」


 その騒ぎの横で、俺は見積書の下へ書かれた小火器維持費を見ていた。


「……なあティアナ。昨日の魔法修行の話なんだけど、今日からって本気?」

「今日どころか今からでしょ、どー考えても。あんた、放っておくと『明日から』を百回繰り返すタイプでしょうが?」

「せめて飯食ってからにしようぜ。空腹だと魔力も出ない気がする」

「あのさ、さっき肉まん二個食べたの見てたわよ。逃げ道を食事へ偽装しないで」

「この魔女、監視厳しくない?」

「借金持ちのサボり癖を相手にするなら普通よ」


 ――この女、嫌なところだけ記憶力がいい。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 俺は、裏庭で初歩の着火魔法をやらされた。


「魔力を指先へ集めて、熱へ変えるの。火を作ろうとしすぎないでね。まず温度を上昇させる」

「こうか? 指先へ集めて、熱だけ意識する……」


 指先から出たのは、火ではなく薄い煙だった。


「……ちょっと待って。何で最初に出るのが煙なのよ?」

「身体が慣れてる形へ寄ったんじゃね。例えば――ヤニの記憶」

「魔法の初成功を煙草へ寄せるなぁぁぁ! もっと夢のある失敗しなさいよ!」


 ゼニスがブーケを抱えたまま端末を見る。


「現代装備維持費を下げるために魔法を覚える人、神界記録でも珍しいです」

「金が理由なら続くだろ」

「勤勉の入口が最低ですっ!」


【神界・追加ご請求】


・64式小銃追加転送費         金貨3,000枚

・小火器二丁認識阻害維持費      金貨4,000枚

・移動式やどり木防護設備適合費    金貨6,000枚

・救護区画世界間設計補正費      金貨4,000枚

・婚姻資産照会抑制処理費       金貨3,000枚

─────────────────

今回加算               金貨20,000枚

今回加算・日本円換算         100,000,000円相当

前回繰越残高             金貨70,000枚

前回繰越残高・日本円換算       350,000,000円相当

暫定合計残高             金貨90,000枚

暫定合計・日本円換算         450,000,000円相当

※婚姻成立時の資産移転は本請求へ反映していません。

※卵三匹は査定対象外です。


「最後の一文、誰が頼んだ?」


 ルヴィアが胸を張った。


「三匹は希望ですもの」

「お前かぁぁぁぁぁぁっ!」


 レグリアが小さく笑う。


「返済能力より繁殖計画の方が具体的♡」

「お前、さっきの自爆忘れてねえからな」

「……次の監査へ移ります!」


 チビ女神は、一目散に逃げた。

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※筆者は元自衛官ですが、本作に登場する自衛隊、火器、装備、部隊運用等の描写は、公表されている情報や筆者自身の経験を参考にしたフィクションです。実際の組織・部隊・人物とは関係ありません。また、物語上の演出や脚色、実際とは異なる表現を含む場合があります。あくまでフィクション作品としてお楽しみいただければ幸いです。
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