第六話 開かれた地下閲覧室
古い木製の扉が重い音を立てて隙間を広げていく。
地下へと続く階段の先は薄暗く、ひんやりとした空気が這い上がってきた。
いつもなら絶対に近づかない不気味な場所のはずなのに、なぜか5人は、目に見えない糸で引っぱられるようにその扉へと足を進めていた。
「おい、本当に行くのかよ」
1番が警戒するように声を低くしたが、その足は止まらない。
「……行かなきゃいけない気がする。ここで何が起きているのか、確かめるために」
2番を先頭に、5人はゆっくりと階段を下りていった。 階段を下りきった先には、埃っぽい小さな部屋があった。
館内と同じ古びた木製の机が中央にひとつ。
そして、その机の上には、一冊の古びた『ノート』がぽつんと置かれていた。
「これ……何だろう」
4番が恐る恐るノートに近づき、表紙を開く。
5人もその周りを取り囲むようにして中を覗き込んだ。
ノートの1ページ目。そこには、青いインクの万年筆で、見覚えのある文字が並んでいた。
『1人目:ヤマト。周囲に誤解され、誰も信じてくれない一匹狼の少年』
『2人目:ノゾム。教室に居場所がなくなり、部屋から出られなくなった少年』
『3人目:カエデ。周囲の顔色ばかりを伺い、自分の言葉を失った少女』
『4人目:ナギ。みんなの理想を演じ続け、心が空っぽになった少女』
『5人目:タクミ。親からの過剰な期待に押し潰されそうな優等生の少年』
心臓が、跳ねるように冷たくなった。
カエデが短い悲鳴をあげて口を抑え、タクミは眼鏡を落としそうになりながらノートを凝視している。
「な、なんだよこれ……! なんで俺たちの本名や、誰にも言ってねえ悩みが、こんなノートに書かれてるんだよ!?」
1番がノートを掴み取り、激しくページをめくった。
そこには、彼らがこの図書館で出会い、番号で呼び合い、過ごした日々の出来事が、まるで誰かが予め決めていた物語のように、一言一句たがわず書き込まれていた。
「……僕たちは、誰かに作られた存在なのか?」
5番の震える声が、狭い部屋に虚しく響く。
自分たちの感情も、ここで過ごした愛おしい時間も、すべて誰かの手による創作だったというのか。
苗字が思い出せなかったのは、このノートの持ち主が、まだ苗字を書き込んでいないからなのか。
「違うよ」
2番が、静かに、けれど強い声で遮った。
「作られたものなんかじゃない。だって、ここで5番やみんなと話して、心が救われたのは、僕たちの本当の気持ちだ。それは絶対に嘘じゃない」
ノゾムはノートのさらに次のページをめくった。
そこには、乱れた筆跡で、こう書き残されていた。
『心がバラバラになってしまった。もう、あの教室には戻れない。 大好きだったサッカーも、走ることも、全部奪われてしまった。 現実から消えてしまいたい。僕の名前は――』
そこで文字は途切れ、激しい血のようなシミがページに広がっていた。
「外を見ろ!!」
突然、1番が叫んだ。
階段の上から、図書館の大きな窓が見える。 ずっと『10:15』のまま止まっていたはずのスマホの画面が激しく明滅し、窓の外の景色が、まるでガラスが割れるようにピキピキとヒビを立て始めた。
午前十時のあの優しい光が、不気味な暗闇へと侵食されていく。
「何……!?どういうこと…!」
4番が怯えた声をあげる。
自分たちの居場所が消えようとしていた。
その時、さらに暗い部屋の最深部から、微かな「衣擦れの音」が聞こえた。
そこに、誰かがいる。




