第四話 最後の空席
――どうせいつも、俺が全部悪いんだろ。
ヤマトは自分の荒れた拳を見つめながら、図書館の硬い椅子で一人、苦い毒を吐き出していた。
体格が良くて目つきが鋭い。
ただそれだけの理由で、昔から何かトラブルがあるたびに、周囲の大人は『またヤマトの仕業か』と決めつけてきた。
今回だってそうだった。
一方的に絡んできた連中を軽く突き飛ばしただけなのに、学校の先生たちは俺の言い分に一言も耳を貸さなかった。
『お前がもっと大人になれ』
――その冷たい言葉に、ヤマトの心は完全にブチ切れた。
信じてもらえないなら、言葉なんて最初からいらない。
そう思い、ヤマトはすべてを投げ出してここへ逃げてきたのだ。
だが、この街の片隅にある寂れた図書館だけは、違っていた。
おっとりした『2番』、眼鏡の『5番』、物静かな『3番』。
彼らは俺を恐れることも、疑うこともしなかった。
ただの『1番』として扱ってくれるこの場所だけが、ヤマトにとって唯一、肩の力を抜いて静かに息ができる臨時の居場所になっていた。
「……あ、やっぱり誰かいた」
トランプのカードを配ろうとしていた2番の手が止まる。
ヤマトが顔を上げると、図書館のガラス扉の向こうから、小柄な少女が歩いてくるところだった。
いつも周囲にたくさんの友達を従えて、ひまわりのように明るく笑っているクラスの有名人。
そんな雰囲気を纏った女の子だった。
だが、今の彼女にはその眩しさが一切ない。仮面を貼り付けたような不自然な笑顔の奥で、その瞳は完全に光を失い、空っぽだった。
「あの……ここ、サボるのにちょうどいい場所って聞いて。私も、一緒にいてもいいかな?」
3番が、どこか自分と同じ「限界の匂い」を感じ取ったように、優しく隣の椅子を引いた。
「ここ、どうぞ」
「ありがとう、私はナギ」
「私はカエデ」
「だけど、ここではお互いのことを番号で呼んでるの」
「えっ、どういうこと?」
5番が、いつものように丁寧な口調で説明する。
「いつもの自分を忘れるためのルールなんだ」
「みんな番号で呼び合ってる。君は何番にする?」
少女は一瞬、呆気に取られたように4人の顔を見つめた。
名前を捨てる。何者でもないただの数字になる。 そのルールが意味することを理解した瞬間、少女の顔から「無理に作った笑顔」がふっと消え、本当に救われたような、等身大の穏やかな顔になった。
「何者でもなくていいなんて、最高だね。……じゃあ、私は『4』にするよ」
「なんで4番なんだ?」
ヤマトが少しぶっきらぼうに尋ねると、少女は自分の胸の前に残された最後の空席を見つめるようにして微笑んだ。
「理由なんてないよ、なんとなく」
「よろしく、4番」
2番が、今度こそ1番の手元にもカードを配り直した。
1番、2番、3番、4番、5番。
ついにすべての椅子が埋まった。




