第二十五章
円は、ほとんど広間全体を占めていた。
床の一部ではない。
中心だけでもない。
ほとんど広間全体だ。
巨大な黒い術式が、石の上を輪となり、螺旋となり、折れ曲がった線となり、長く見つめれば目が痛み始めるような記号となって走っていた。円は均等に光っていなかった。呼吸していた。縁が深紅に燃え上がったかと思えば、完全な黒へ沈み、次の瞬間には別の空へ開いた穴のようにも見えた。線が最も密に集まる中央の形の内側に、例の黒い太陽が浮かんでいた。
球ではない。
炎でもない。
穴になろうとしている力の塊だった。
そして、そのそばに女魔族が立っていた。
最初、その言葉が頭の中で形にならなかった。
竜、リッチ、ミノタウロス、深層の魔物たち、ここまで降りてくる重さ。そのすべての後で、彼はもっと怪物じみたものを予想していた。角と牙と骨と翼と炎と憎悪の山。見ただけで人が膝をつくか、正気を失うような存在。
だが、彼らの前に立っていたのは少女だった。
少なくとも、一見しただけなら少女だった。
背が高く、細く、腰まで届く黒髪。滑らかな淡い灰色の肌。こめかみから後ろへ流れる、二本の曲がった黒い角。背には折り畳まれた翼。革質で、暗く、細い赤い脈が走っている。長い尾が床近くでゆっくり動いていた。目は金赤色で、縦長の瞳孔。顔は美しかった。ほとんど人間的だった。あまりにも整った不動さと、彼女から発せられる力を忘れられるなら。
巨大な力。
リニのものとは違う。
ゴルゲラニスのものとも違う。
別種だった。
鋭く、暗く、密度が高い。まるで彼女の全身が、意志と支配と暴力を美しい形へ押し込めて織り上げられたもののようだった。周囲のダンジョンは、彼女の家には見えなかった。素材に見えた。彼女が手に取り、ゆっくり握り潰し、自分のために働かせているものに。
彼は円の縁で止まった。
背後で部隊も止まった。
誰も前へ急がなかった。
いい。
まだ生きる頭が残っている。
彼は、自分の世界で魔族がどう語られていたか思い出そうとした。
うまくいかなかった。
型が多すぎる。
ある物語では、魔族は血に飢えた化け物で、理性あるふりをして、言葉を愚か者への釣り針に使うだけのものだった。
別の物語では、理性はあるが、本当に生きているものすべてを憎む存在だった。生命そのものが、彼らには侮辱だから。
また別の物語では、ほとんど理想化されたほどまっすぐな存在だった。残酷で、危険で、異質で、それでも彼らなりの正直さを持つ。利益、規則、序列、誇り、欲望を持つ存在。
目の前の彼女は、どれなのか。
分からない。
外からは分からない。
角でも、翼でも、美しい顔でも。
力でも。
力が教えるのはただ一つ。彼が判断を間違えたら、部隊は自分たちが何を間違えたのか理解する前に死ぬかもしれない、ということだけだ。
彼はゆっくり手を上げた。
女魔族へではない。
自分たちへ。
「ベラ、中心を保て。リニ、命令なしに撃つな。メイ、飛び込むな。テリ、円を見ろ。全員、その場で止まれ」
リニが静かに尋ねた。
「師匠は、何をするつもりですか?」
「話す」
メイは音もなく牙を見せた。
「もちろんだな、主人は」
ベラの声は硬かった。
「マスター……」
彼は振り向かなかった。
「彼女が攻撃したら、庇って全力で撃て。俺が死んだら、即座に退け。復讐しようとするな。遺体を引きずり出そうとするな。議論するな。退け」
背後の沈黙が重くなった。
リニの声が落ちた。
「嫌です」
大きな声ではない。
だが、叫びより強く刺さった。
彼は彼女へ顔だけ向けた。
「命令だ」
リニの顔が青ざめた。
袖のそばの小物たちが震えた。
メイが低く、怒りを含んで唸った。
ベラは盾を握り、革帯が軋んだ。
テリは弦を指にかけたまま、張り詰めた弦のように固まった。
メイが言った。
「その命令は嫌いだ」
「後で話す」
「後があればな」
「だから命令している」
リニは、彼が二人の間に張られたものへ刃を突き立てたかのような目で見ていた。
彼は受け止めた。
そうするしかなかった。
女魔族が最初の一撃で彼を殺した時、愛や怒りや誇りで、彼女たちまで後を追って死んではいけない。
それは正しい。
そして、吐き気がするほど嫌だった。
彼は前へ踏み出した。
足元の円が、冷たい熱で応えた。発動はしない。ただ、彼を認識した。線がわずかに燃え、巨大な獣が片目だけ開けたようだった。
女魔族が顔を向けた。
それまで彼女は、儀式の中央にある黒い太陽を見ていた。
今は彼を見ている。
そして、微笑んだ。
「お前は、ほかの者より近くへ来た」
声は心地よかった。
この場所には、心地よすぎた。
低く、柔らかく、ごく薄い嘲りを含んでいる。彼女はヴァルドゥスの言葉を自然に話していた。ほとんど訛りはない。だが抑揚には、異質なものがあった。言語ではなく、他人の恐怖を動かすための作法を学んだ者のように。
「俺は、頭の足りなさを勇気で埋めようとしている」
「違う。お前は怖がっている」
「ああ」
「それでも来る」
「時には、怖がらないことより役に立つ」
彼女は彼を見ていた。
飢えではない。
憎しみでもない。
興味だった。
ちょうど、あの炎の広間でゴルゲラニスが、なぜか竜と取引しようとする生意気な人間の奇妙さを眺めていた時に近い。
女魔族が言った。
「お前は、この地の者とは違う」
「それはもう言われた」
「竜か?」
彼は一瞬だけ止まった。
彼女はそれを見逃さなかった。
笑みが深くなる。
「つまり、炎の守護者を通ってきたのだな。面白い。彼はお前を焼かなかったのか?」
「話し合った」
「ゴルゲラニスと?」
「ああ」
女魔族は、低く、ほとんど愛らしいほどに笑った。
「そして今度は、私と話し合いに来た」
「今は、理解しに来た」
「何を?」
「目の前にいるのが誰なのか」
彼女は翼を少し広げた。
飛ぶためではない。
威容のためだ。
「シリアン。闇の王の側近。七つの炎の窪地を征した者。黒冠の三人の請求者を殺した者。下層圏の砦が膝をついた女」
背後で誰かが、とても小さく息を呑んだ。
彼は頷いた。
「見事だ」
シリアンは目を細めた。
「感銘を受けていないな」
「受けている。ただ、それがここで何を意味するのか、まだ分からないだけだ」
「ここで?」
彼女は鉤爪のある手で、円の中心にある黒い太陽を示した。
「ここで、私は門を開く」
背後でリニが鋭く息を吸った。
彼は尋ねた。
「魔族の世界への門か?」
「そうだ」
シリアンは静かに言った。
ほとんど嬉しそうに。
「円が完成すれば、世界の間の布は裂ける。最初に来るのは強者だ。細い裂け目を通れる者たち。次に門は広がる。魔族の軍勢がここへ流れ込む。都市は燃え、王国は倒れる。生者は叫び、祈り、仕え、あるいは死ぬ。この柔らかい世界は戦争の一部になる。そうあるべきだ」
彼女の声に大げさな調子はなかった。
よく考えた仕事の説明のようだった。
彼は言った。
「この世界を滅ぼすのか」
「すぐには違う。まず折る。それから従える。それから作り替える」
「なぜ?」
シリアンは黙った。
長くはない。
だが十分だった。
「何だ?」
「なぜ、それをする?」
彼女は、火に向かってなぜ燃えるのかと尋ねられたような目で彼を見た。
「ここが生者の世界だからだ」
「それで?」
「生者は弱い。嘘をつく。柔らかい。哀れみ、恐れ、小さな欲望で世界を腐らせる。魔族は取れるものを取る」
「お前は人間が嫌いなのか?」
「もちろん」
「人間を、どれほど知っている?」
彼女はまた黙った。
今度は少し長かった。
「十分に」
「何人だ?」
金赤色の目が細くなる。
「お前は私を侮辱しているのか?」
「違う。理解しようとしている。お前は生者を憎むから世界を滅ぼすと言う。俺は、お前が犠牲者、敵、獲物ではない生者をどれほど知っているのか知りたい」
シリアンは薄く笑った。
「犠牲者と敵の方が、友より真実を見せる」
「便利な考えだ。特に友が一人もいなかったなら」
背後でリニがかすかに囁いた。
「師匠、慎重に……」
彼自身も分かっていた。
だが、もう止まれなかった。
確信があったからではない。
初めて亀裂が見えたからだ。
シリアンは殺しに来なかった。
聞いている。
怒っているが、聞いている。
「お前はこの世界を憎んでいる」
彼は続けた。
「だが、見たのか?」
「私は今その中に立っている」
「地下だ。ダンジョンだ。石と魔物と儀式と恐怖の中だ。これは世界ではない。世界に開いた穴だ」
シリアンの尾が、ゆっくり石の上を滑った。
「お前は滑稽だ」
「かもしれない。だが、お前は見たこともないものを壊そうとしている。都市、市場、海、雪、森、食べ物、音楽、酒場の酔った口論、使い走りを怖がる子供、ギルドの受付台にいる、支配者の半分より多くを知っていそうな女、笑いの趣味がひどい竜……」
メイが小声で呟いた。
「竜は面白かった」
彼は振り向かなかった。
「お前は、自分が何を壊すのか、本当に知っているのか?」
シリアンは黙っていた。
背後の黒い太陽は脈打ち続けている。
円は働いている。
時間は少ない。
だが、彼女が沈黙する一秒ごとに、彼らは勝っていた。
彼は尋ねた。
「お前は、自分の世界が好きか?」
シリアンが微笑んだ。
けれどその笑みは変わっていた。
細く。
危険に。
「私の世界は、私を強くした」
「強くしたかどうかを聞いたんじゃない。好きかと聞いた」
彼女は答えなかった。
「どんな世界だ?」
「黒い空」
彼女はようやく言った。
声がさらに冷たくなる。
「岩。溶岩。灰の平原。骨と黒曜石の塔。炎の川。弱者が強者に仕え、強者がさらに強くなろうとする者からの一撃を常に待つ砦」
「住み心地は悪そうだ」
彼女は牙を剥いた。
「力の世界だ」
「背を向けられない世界だ」
「愚か者だけが背を向ける」
「つまり、皆が常に裏切りを待っている」
「皆が常に備えている」
「お前はそれが好きか?」
彼女の翼が揺れた。
これだ。
おそらく、彼女が自分へ一度も投げたことのない問い。
生者の世界を滅ぼすのが正しいかどうかではない。
できるかどうかでもない。
闇の王が何を与えるかでもない。
自分自身は、そう生きることが好きなのか。
彼は尋ねた。
「闇の王がお前に門を開けと命じたのか?」
シリアンはあまりにも鋭く彼を見た。
答えはもう出ていた。
彼は彼女の代わりに言った。
「命じていない」
「私は王の栄光のために動いている」
「彼は頼んだのか?」
「私は、王へ新しい世界を捧げる者になる」
「頼んだのか?」
彼女の鉤爪が握られた。
「私は側近の列まで辿り着いた。大半より強い。自分より上にいた者を殺した。だが……」
彼女は止まった。
彼は助けなかった。
自分で聞かせるべきだ。
「だが、王は私を十分には認めなかった」
女魔族の言葉は、ほとんど憎悪とともに出た。
彼らへ向けたものではない。
「常に誰かが近くにいる。誰かがより古い。より大きな軍を持つ。より大きな領域を持つ。玉座の近くに立つより大きな権利を持つ。私が門を開けば、王は見る。見ずにはいられない」
彼は言った。
「つまり、お前は王が必要としているから世界を滅ぼすのではない。王にようやく自分を見せるために滅ぼすんだ」
沈黙が危険になった。
非常に。
黒い太陽の周りの魔法陣がいくつか燃え上がった。
ベラが半歩前へ出て、盾を上げた。
メイは視界の端からほとんど消えた。
リニは、音の大きな暴発より恐ろしいほど静かに魔力を集めた。
テリは弓を完全に引いた。
シリアンは彼を見ていた。
ここで間違えれば終わりだ。
彼は尋ねた。
「お前は退屈しているのか?」
そして、また彼女を外した。
「何?」
「退屈しているのか。お前の世界で。黒い空、溶岩、終わらない権力争い、背中を刺される恐怖、そしてようやく見てもらうのを待つ暮らしの中で。お前はそれが好きなのか? それとも、違う形があると考えたことがないだけか?」
彼女は答えなかった。
だが儀式が震えた。
わずかに。
「もし自分の世界が好きではないなら」
彼は続けた。
「なぜこの世界も同じにする?」
シリアンは眉を寄せた。
人間的ではない。
だが、とても人間に似ていた。
「この世界は弱い」
「だが、お前にとっては新しい」
「征服される」
「それは間に合う。本当に望むならな。世界は逃げない。だが、なぜいきなり壊す? まず見ろ」
「見る?」
その言葉は、魔族に刺繍でも勧められたかのように響いた。
「ああ。都市。食べ物。遊び。音楽。どうしても必要なら喧嘩。ダンジョン。竜。酒場。家。毎分背中を刺そうとしてこない人間たち」
メイが静かに言った。
「刺そうとする奴もいる」
「一部はな」
彼は認めた。
「だが全員じゃない。そういう奴らは殴ればいい」
シリアンは彼を見つめていた。その目に初めて、軽蔑ではないものが現れた。
戸惑い。
ほとんど苛立ちを含む好奇心。
「お前は私に……散歩しろと言っているのか?」
「まずは、今日ここで地獄みたいな場所への門を開かないことからだ」
「地獄ではない」
「説明を聞く限り、近い」
「お前は何も分かっていない」
「かもしれない。だが、他人の期待で自分の檻を作っている者なら分かる。お前は闇の王の承認が欲しい。その後はどうなる? 彼が褒める。かもしれない。玉座の近くに席を与える。かもしれない。その後、お前はそれを守らなければならない。新しい請求者を殺す。攻撃を待つ。また証明する。また十分に近くない。それが、お前の目的か?」
彼女は黙った。
黒い太陽の脈が、さらに遅くなっていた。
リニは気づいた。
背後で彼女が、その瞬間を怖がらせないよう、ほとんど息を止めているのを彼は感じた。
「ここには、お前の上に闇の王はいない」
彼は言った。
「お前の存在権を証明しろと求める、魔族の上位者もいない。ただ在れる。見る。試す。選ぶ。破壊はいつでもできる。だが先に破壊したら、ここで何を気に入れたか、永遠に分からない」
「気に入る」
シリアンは繰り返した。
「魔族が」
「なぜ駄目なんだ?」
「なぜなら……」
彼女は止まった。
答えが見つからなかった。
今、彼女の世界観に本当の亀裂が入った。
壊れてはいない。
だが、彼女の周囲にある内側の防御は、魔法ではない防御は、揺れた。
彼女は何百年か、それ以上かの生で、挑戦、脅し、命令、陰謀、服従、地位争い、力、恐怖には答えてきたのだろう。だが、「自分自身にとって、それは必要なのか」という問いには答えてこなかった。
「お前は、私に偉大さを捨てろと言っている」
「違う。偉大さという名で、誰かに首輪を渡されていないか確かめろと言っている」
シリアンが震えた。
床の円が燃え上がった。
背後で何人かが動きかけた。
彼は振り向かず、手を上げた。
「静かに」
彼女は低く吐き捨てた。
「首輪」
「ああ。見えない首輪だ。とても美しい。金の札に闇の王の名が刻まれている」
彼女は怒りを込めて彼を見た。
だが、それだけではない。
「私はお前を殺せる」
「できる」
「お前たち全員を」
「かもしれない」
「門を開ける」
「ああ」
「そして偉大になる」
「それとも、闇の王へ贈り物を運び、自分の頭を撫でてもらえるか、せめて片目でも向けてもらえるか待つ、有用な玩具になる」
メイが小さく言った。
「危険だ」
ベラが囁いた。
「とても」
リニはほとんど音もなく言った。
「でも正確です」
シリアンは動かなかった。
そして突然、尋ねた。
「では、お前は?」
「俺が何だ?」
「お前は、自分の者たちの頭を撫でている」
背後で誰かが、かすかに身じろぎした。
彼は嘘をつかなかった。
「ああ」
「彼女たちはそれを待つ」
「時には」
「お前も首輪を持っている」
「力ではない。それに彼女たちは、俺を馬鹿だと言える。実際よく言う」
メイが即座に言った。
「彼は馬鹿だ」
リニが目を閉じた。
テリが静かに息を吐いた。
ベラは、たぶん笑みを堪えた。
シリアンはメイを見た。
「奴隷が主人にそう言うのか?」
メイは答えた。
「言う。主人が馬鹿なら」
「罰しないのか?」
「たまに野菜を食べさせる」
シリアンは数秒、彼女を見ていた。
それから、ゆっくり彼へ顔を戻した。
「奇妙な群れだ」
「家族だ」
「生者の言葉だ」
「いい言葉だ」
「弱い」
「思ったより強い」
シリアンは黒い太陽を見た。
この会話の中で初めて、彼女はそれを侮ってではなく、本当に考えるために振り返った。
儀式は働き続けている。
だが、今は彼女の決断を待っているようだった。
「私が円を止めれば」
彼女は言った。
「ダンジョンが吠える。魔族の力はもう脈に編み込まれている。乱暴に裂けば、階層が崩れる。おそらく、もっと多くも」
「安全に止める腕はあるのか?」
自尊心への挑発だった。
「ある」
迷いはなかった。
誇りがすぐ戻った。
「なら止めろ」
彼女は彼を見た。
「命じているのか?」
「提案している」
「その後は?」
その瞬間だった。
図々しく。
荒唐無稽で。
滑稽に近い考え。
ついさっき門を開いて世界を滅ぼすと堂々と語った女魔族を、こちらへ加える。
だが、今日という日はとうに普通ではなくなっていた。
そもそも、門の後の彼の人生に、普通が入り込む余地はほとんどなかった。
彼は手を差し出した。
「加われ」
背後が完全に静まり返った。
メイさえ。
リニさえ。
シリアンは、その手を、自分の儀式より複雑な罠を見るように見ていた。
「お前たちに」
「ああ」
「家族に」
「いつか、望むなら。今は組に。契約で」
彼女はゆっくり笑った。
「お前は魔族と契約を結びたいのか」
「ああ」
「魔族の契約が危険だと分かっているのか?」
「ああ」
「分かっていない」
「かもしれない。だから条件は単純にする」
「単純?」
その声に、初めてほとんど本物の愉快さが混じった。
「お前は儀式を止める。門を開かない。都市、ダンジョン、俺たちの家、俺の組、通りすがりの村、酒場、そのほか椅子より大きいものを、俺の許可なしに壊さない」
「椅子ならよいのか?」
「先に襲ってきたなら」
メイが鼻を鳴らした。
リニは、うめきかけたようだった。
シリアンは、増していく不信の目で見ていた。
「見返りは?」
「別の生。可能な限り、お前の王からの自由。食べ物。遊び。新しい世界。焼くと決める前に、好きになれるか見て回る機会。契約を守る限り、組の保護。そして、俺たちが見つけられる新しくて面白いもの全部」
「お前は魔族に、食べ物と遊びを差し出すのか」
「それと、常に背中を刺されない生活だ」
彼女は黙った。
どうやら、それは食べ物や遊びより重要だった。
「お前は私を удержえない」
「かもしれない」
「私はお前より強い」
「ああ」
「お前たち全員より強い」
「かもしれない」
「それでも差し出すのか」
「ああ」
「なぜ?」
彼は考えた。
答えはいくつもあった。
彼女と戦えば、全員が死ぬかもしれないから。
ゴルゲラニスが下品なほど笑い、不可能なことをやれたら忠誠を誓うと言ったから。
問いが効いたから。
彼女の中に、脅威だけでなく、自分が何を望むのか一度も尋ねたことのない存在を見たから。
最初から、彼の道はそういうものだったから。
力を折るのではなく、力の居場所を見つける。
リニ。
メイ。
ベラ。
テリ。
そして今、狂気じみているが、シリアン。
「お前が壊さないことを選べるなら、俺はそちらを選ぶ」
彼は言った。
「殺す方がいつも簡単だ。できるならな。機会を与えるのは難しい。だが、時にはその方が得だ」
「得?」
「そして誠実だ」
シリアンは静かに笑った。
「お前は危険だ」
「特別だとは言われる」
「それより悪い」
彼女が一歩近づいた。
足元の円が燃え上がったが、彼女は手振りだけで線を伏せさせた。黒い太陽が縮む。消えたわけではない。だが小さくなった。儀式は、伏せろと命じられた獣のように苦しげに震えた。
女魔族は彼の前で止まった。
近い。
近すぎる。
彼女からは煙、熱い石、そして何か異国の香辛料めいた匂いがした。リニより高く、ベラより低い。しなやかで、危険で、あり得ない存在。
「条件」
シリアンが言った。
「私は門を止める。椅子より大きいものは、お前の許可なしに壊さない。椅子が先に襲ってきた場合を除いて」
「からかうな」
「お前が言った」
「続けろ」
「お前の組の者を殺さない。意図的に裏切らない。魔族の世界への門を開かない。許可なしに同族を呼ばない」
「いい」
「見返りとして、お前はこの世界を私に見せる。食べ物。遊び。都市。笑った竜」
「彼がまとめて俺たちを焼かなければ、なんとかなる」
「もし私が退屈したら?」
「言え」
「もし何かを壊したくなったら?」
「先に聞け」
「もしお前を殺したくなったら?」
「それも先に言え」
彼女はさらに笑みを広げた。
「お前は滑稽だ」
「方法の一部だ」
「もしお前の世界が、私の世界より悪かったら?」
「その時は、破壊について相談しよう」
シリアンは彼の手を見た。
それから彼を見た。
「契約は奴隷契約ではない」
メイの耳が鋭く動いた。
彼は言った。
「ああ。奴隷契約ではない」
「服従ではない」
「違う。合意だ」
「だが、お前は破壊を禁じる権利を求める」
「ああ。それがなければ、この広間から出す意味がない」
「理にかなっている」
彼女はその言葉を、新しく、妙に心地よいものを口にするように言った。
そして手を差し出した。
指は長く、爪は黒く鋭かった。
彼はその掌を取った。
契約の魔法は、すぐ打ち込んできた。
メイの時とは違う。
獣人の奴隷印とも違う。
もっと深く、もっと危険だった。言葉が形になり、形が鎖になった。だが鉄ではない。むしろ現実そのものに互いの鉤をかけるようなものだ。彼女が破れば、彼は感じる。彼が条件を裏切れば、契約は彼にも打撃を返す。魔族の契約は嘘を嫌う。嘘は、契約の獲物をより美味にするからだ。
シリアンは目を閉じた。
その顔に、初めて誇りでも嘲りでもないものが浮かんだ。
戸惑い。
ほとんど人間的な。
「同意する」
彼女は言った。
「同意する」
彼は答えた。
足元の円の三分の一が消えた。
さらに消えた。
シリアンは黒い太陽へ向き直り、空いた手を上げた。
「伏せなさい」
彼女は儀式へ命じた。
黒い太陽が震えた。
その内側に一瞬、巨大な裂け目が浮かび上がった。向こう側には何かが見えた。黒い空、炎の平原、塔の影、翼、叫び、咆哮、飢えた終わりなき戦争。
次の瞬間、シリアンが指を握った。
裂け目は潰れた。
広間が震えた。
深く。
強く。
だが崩れはしなかった。
円の線が一つずつ消え、石に焼け跡だけを残した。マルブルクの脈から盗まれていた魔力が、壁へ、床へ、ダンジョンへと下り戻り始めた。空気が軽くなった。清らかではない。ここが清らかになるには、まだ遠い。だが、世界の喉を誰かが掌で押さえているような感覚は消えた。
背後では誰も話さなかった。
本当に誰も。
彼は振り返った。
そして、皆の顔を見た。
リニは青白い顔で目を見開き、彼を誇るべきか、殴るべきか、泣くべきか決めかねているようだった。
メイは、さらにあり得ない獲物が自分たちの庭へ自分から入ってきたのを見た捕食者の歓喜を浮かべて、シリアンを見ていた。
ベラは盾を構えていたが、口がわずかに開いていた。
テリはエルフ語で何かを囁いていた。祈りかもしれない。罵倒かもしれない。あるいは、これが起こるはずのなかった理由の一覧かもしれない。
ガルンは槍を手に、世界の理解を完全に諦めた人間の顔で立っていた。
最初に口を開いたのは、老罠師だった。
「俺は年寄りだ。いろいろ見てきた。だがこれは、馬鹿げている」
メイが笑った。
耐えられなかった。
続いて誰かが、緊張した息を吐いた。
また別の誰かも。
リニが数歩、近づいてきた。
「師匠は……女魔族と契約を結びました」
「ああ」
「世界を滅ぼそうとしていた女魔族と」
「今はもう、滅ぼそうとしていない」
シリアンが彼女へ顔を向けた。
「今のところは」
彼は女魔族を見た。
「シリアン」
彼女はかすかに笑った。
「冗談だ」
リニは手で顔を覆った。
「もう冗談を言っています……」
メイが言った。
「私は好きだ」
ベラが静かに尋ねた。
「彼女は、今……私たちと一緒なのですか?」
全員が彼を見た。
次にシリアンを見た。
シリアン自身も、ほかの者たちに劣らず戸惑っているようだった。おそらく、それ以上に。彼女はたった今、自分の偉大な儀式を止め、闇の王に認めさせるはずだった主導権を手放し、異世界の人間と契約し、食べ物、遊び、そして背中を刺されない生活を見に行くことに同意したのだ。
どうやら彼女自身、自分たちがどこへ辿り着いたのか、まだ信じきれていない。
彼も信じていなかった。
まったく。
速すぎる。
狂いすぎている。
そして、明日には四人全員が必ず言うだろうが、あまりにも彼らしい。
おそらくルシアも言う。
ゴルゲラニスが知れば、マルブルクが本当に崩れるほど笑うだろう。
「どうやら」
彼はようやく言った。
「一緒だ」
シリアンがゆっくり彼を見た。
「では、これからどうする?」
彼は疲れた息を吐いた。
「これから上へ戻る。そして部隊、ギルド、竜、街、場合によっては首を突っ込んでくる神々にも、これを説明する」
「不快そうだな」
「世界を即座に滅ぼさない生活へようこそ」
彼女は考え込んだ。
「食べ物は?」
メイが一歩近づいた。
「ああ、それなら私が説明する」
彼は言った。
「メイ」
「何だ? 契約の重要な部分だろう」
リニが静かに、ほとんど諦めたように言った。
「うちの特別さんは……」
ベラが続けた。
「……また不可能をやりました」
テリはシリアンを見ていて、まだ弦を完全には緩めていなかった。
「あるいは、新しい問題を始めました」
シリアンは、冷たく捕食者めいた笑みを彼女へ向けた。
「私は、とても面白い問題になれる」
彼は眉間を揉んだ。
「まずそこからだ。家族を脅かすな」
女魔族が彼を見た。
「家族?」
「いつかその一部になりたいなら、そうだ」
彼女は答えなかった。
だが、その目にまた、あの戸惑いが揺れた。
弱さではない。
後悔でもない。
可能性。
マルブルクの第二十階層の広間では、この世界を滅ぼすため、魔族の世界への門を開くはずだった円の最後の線が消えていった。
その代わりに、世界はシリアンを得た。
そしてそれが良いことなのか、元より恐ろしいことなのかは、彼女自身を含め、まだ誰にも分かっていなかった。




