第十九章
結界は壁ではなかった。
近づくと、それが分かった。
外から見れば、それはアステル北壁の外にある古い供犠場を囲む、濁った空気の輪のようだった。普通の意味での円蓋でもなく、輝く球でもなく、透明な硝子でもない。草、石、その内側に立つ影が、熱い空気の層越しに見ているかのように揺れている。ただし、熱はなかった。逆だった。結界からは冷気が流れてきた。乾いて、骨じみていて、肌が凍えるのではなく、すぐ歯を食いしばりたくなるような冷たさだった。
彼らの背後には、衛兵、冒険者、そして数人の魔導士が残っていた。
誰も彼らを止めようとはしなかった。
そして、誰も急いで後に続こうとはしなかった。
それもまた、多くを語っていた。
「後ろへ引かれるように感じても、急に動かないでください」
細い手をした青白い市の魔導士が言った。
「結界は急激な干渉を反射します。ゆっくり。抵抗を押し分けるように」
「斬られ始めたら?」
メイが尋ねた。
魔導士は彼女を見た。
「その時は退いてください」
メイが牙を見せた。
「役に立つ助言だな」
魔導士は何も返さなかった。
彼は結界を見て、不愉快なことを理解していた。彼らは中へ入る。だが、状況をどう解決するか、まだ分かっていない。
普段なら、彼は少なくとも事前に計画を組もうとした。悪い計画でも、仮の計画でもいい。誰が удержえるか。誰が攻撃するか。誰が援護するか。どこへ退くか。崩れた時に何をするか。だが今は、計画がなかった。高位のアンデッド、目的不明の儀式、結界、背後の都市、そして残された時間が少ないという感覚だけがあった。
「一緒に入る」
彼は言った。
「ベラが先頭。盾を前へ。ただし結界を殴るな。ゆっくり押し分ける。俺は隣。リニは後ろで構造を見る。メイは最後尾。ただし離れるな。密集して行く。中で分断されたら、英雄ごっこはしない。互いを探す」
「はい、マスター」
ベラが言った。
「はい、師匠」
「はい、主人」
三つの声。
一つの組。
ベラが最初に踏み出した。
塔盾が歪みに触れた。結界は光らず、雷を撃たず、彼女を弾き飛ばしもしなかった。ただ、抵抗が見えるようになった。盾の前の空気が、厚い膜のようにへこんだ。ベラは身を強張らせ、片足を前に出し、ゆっくり押し始めた。
「力じゃない」
彼は小さく言った。
「重さで。重い扉みたいに」
ベラは振り返らずに頷いた。
彼らも続いて入った。
結界が身体にまとわりついた。
外側だけではない。
内側にも。
冷たい指が皮膚、筋肉、骨を通り抜け、その中で生きているものを探し始めたかのようだった。彼自身の魔力は、胸の奥で毛皮を掴まれた小動物のように縮こまった。若返った身体は力で応えようとしたが、ここではその力が邪魔だった。引き裂きたい、突き破りたい、この気色悪い膜を破りたいという衝動が湧く。だが、まさにそれが間違いだと分かった。
「ゆっくりだ」
彼は自分自身に言った。
背後でリニが静かに息を吸った。
袖口のそばの物たちが震えたが、落ちなかった。石、木、鉄、骨、穀粒。異質な死の魔法に対する、小さな形。彼女はそれを保っていた。自分自身を保つように。
最後尾のメイは歯の間から唸っていた。
「死の匂いがする」
「それそのものだからです」
リニが言った。
「気づいてる」
ベラがさらに一歩進んだ。
結界が伸びた。
離さない。
次の瞬間、抵抗が急に柔らかくなり、彼らは内側へ抜けた。
都市の音が消えた。
完全にではない。
だが急に遠ざかった。まるでアステルが背後ではなく、水の下にあるかのようだった。結界の外の人々の叫びも、鈍く、ほとんど現実味がなかった。内側は静かで、冷たく、そして明瞭すぎた。草は灰色になっていた。石には薄い霜が降りていた。空中には魔法陣が浮かんでいた。暗く、鈍く、細い線が視線を切るようだった。
そして中心に、リッチが立っていた。
もう疑いはほとんどなかった。
それは、ただ強いアンデッドというものではない。
朽ちた黒衣をまとった長身。乾いた皮膚が張りついた頭蓋。暗い眼窩の奥では、緑がかった青い火が燃えていた。骨ばった手には、指輪、腕輪、古い印章の破片があった。彼の周囲では、いくつもの魔法陣が層を成して回っていた。地面近くのもの、胸の高さのもの、頭上近くのもの。線は、彼を守っているだけではなかった。動いていた。力を集めていた。まだ完成してはいないが、もう空気を圧迫して、息をするのが不快になるほどの儀式へと力を編み込んでいた。
リッチは強かった。
肌で分かった。
リニのように、膨大な魔力が生きていて、重くとも奥に温かさを持っているのとは違う。
ここにあるのは、墓の深さだった。
何百年もの経験、層、知識、慎重さ、憎悪、忍耐。力を持つだけではなく、それを何世紀もかけて刃のように研ぎ上げてきた存在。こういう相手に、リニの荒い大出力は解決ではなく、ただ向こうが逸らし、反射し、あるいは利用できる資源になり得る。
リッチの前には、平たい供犠石があった。
そして、その上に少女がいた。
エルフだった。
裸で、縛られ、手足を閉じることも隠すこともできないように石へ固定されていた。緑がかった髪は乱れ、細く長い耳と、恐怖に大きく見開かれた目が、青白い顔の中で鋭く目立っていた。見た目は若い。まさに少女だった。華奢で、怯えている。ただしエルフ相手に年齢を見た目で測るのは、いつでも危うい。身体は寒さと恐怖と屈辱に震えていた。口は塞がれていなかったが、話すことを恐れているのか、できないのか、声は出なかった。
石のそばには、巨大な黒いナイフが置かれていた。
鉄ではない。
別のものだ。材質は光を吸い込み、刃には暗い石の中の脈のように、細い赤い線が這っていた。ナイフはただ待っているのではない。儀式の一部だった。
彼はすぐに理解した。
リニも同じだった。
「処女」
彼女が囁いた。
声はほとんど聞こえなかった。
彼はすでにハズレットの知識を掘り返していた。
断片が素早く、しかしばらばらに浮かび上がる。供犠の構造、血の魔法、犠牲の純性、処女性という鍵。道徳でも宗教でもない。少なくともそれだけではない。象徴として、魔法としての意味。触れられていない生命線。開かれていない身体の封印。最初の破れの力を、死の儀式が奪い取る。
目的はまだ分からない。
それがさらに悪かった。
だが規模は、魔法陣を見る限り、石だけでは終わらない。広場だけにも留まらない。線は地中へ、結界の下へ、都市の方へ伸びていた。
「リニ」
彼はリッチから目を離さず、静かに尋ねた。
「何をしている?」
彼女は唾を飲み込んだ。
「分かりません。でも完成したら……私たちだけでは済みません」
「都市か?」
「たぶん」
ハズレットの記憶も同じ答えを返していた。
正確な理解ではない。
だが方向は同じだ。
犠牲。処女。高位のアンデッド。結界。魔法陣。すぐそばにある都市。
正面から攻撃すれば、間に合わないかもしれない。あるいはリッチが反射する。あるいは最初の動きでエルフを殺す。あるいは、彼女の死によって儀式を完成させ、その直後に自分が滅ぼされても目的を果たす。
基礎を崩す必要があった。
すぐにリッチを倒すことではない。
儀式を崩すこと。
だが、どうやって?
黒いナイフ。
犠牲。
処女。
彼は石に縛られた身体、広げられ固定された脚、下腹部へ収束する儀式の線を見つめた。その瞬間、頭の中にあまりにも馬鹿げた考えが浮かび、最初はそれを押し返した。
だが考えは戻ってきた。
さらに冷たく。
さらに正確に。
さらに恐ろしく。
彼は自分の内側がほとんど物理的に抵抗するのを感じた。
だめだ。
ありえない。
怪物じみている。
馬鹿げている。
そして、だからこそ効き得る。
決断は、彼自身にとっても予想外だった。
あらかじめ用意した巧妙な計画ではない。ハズレットの知恵でもない。英雄的なひらめきでもない。ただ、儀式の論理と絶望的な必要がぶつかった結果だった。
犠牲には処女性が必要だ。
なら、犠牲からそれを奪えばいい。
彼女を殺さずに。
救うために。
彼は息を吐いた。
「ベラ」
彼は囁いた。
「ゆっくり右へ。魔法陣には入るな。注意を引け。ただし強くはない」
ベラはほとんど見えないほど小さく頷いた。
「メイ。端を回れ。リッチが崩れたら背後だ」
「はい、主人」
「リニ。俺が言うまで撃つな。結界を見る。開いたら仕留める」
「何をするつもりですか……」
「後だ」
リニは黙った。
理解したからではない。
信じたからだ。
そして、それが一番重かった。
彼は前へ出た。
リッチの頭蓋が彼へ向いた。
眼窩の火が強くなった。
「生者か」
リッチが言った。
その声は乾き、いくつもの死者の囁きが一つの言葉に重なったようだった。
「なんと都合のよい」
「思っていたより見た目がひどいな」
彼は大声で言った。
ベラが右へ動き始めた。
メイが灰色の草の中へ、ほとんど音もなく消えた。
リニは彼の後ろに残った。
リッチがわずかに首を傾げた。
「侮辱を携えて死にに来たか」
「侮辱しながら死ぬほうが楽しいだろう。でも正直、がっかりしている」
彼は進んでいた。
ゆっくりと。
祭壇へ。
一歩ごとに重かった。魔法陣が圧をかけてくる。結界がリッチの周りで揺れ、攻撃を反射する準備をしている。だが、まだ攻撃してこない。会話している。そこが重要だった。古く、強く、経験豊かで、攻撃に備えたアンデッドは、剣や魔法を無視できるかもしれない。だが、そういう存在の虚栄は、肉体と一緒には死なない。時には乾ききって、さらに鋭くなる。
「がっかりだと?」
リッチが聞き返した。
「もちろんだ。これだけの魔法陣、これだけの冷気、これだけの芝居。石の上の少女。巨大な黒いナイフ。どうせなら背後に稲妻でも出しておけば、もっと説得力があったのにな。何百年も経験して、結局、田舎の安芝居みたいな飾りつけか」
リッチの眼窩がさらに明るく燃えた。
いい。
聞いている。
怒っている。
だが、まだ崩れてはいない。
「お前は、自分が何の前に立っているのか分かっていない」
「とても古い魔導士だろう。間違うのが怖すぎて、祭りの護符売りみたいに魔法陣をぶら下げている」
彼は外側の魔法陣の縁まで来ていた。
肌がざわついた。
ハズレットの記憶が叫んでいた。あと一歩で、構造の内側へ入る。そこで一つでも間違えれば防御が発動する。だがリッチは攻撃してこない。まだ。
「時間を稼いでいるな」
リッチが言った。
「それほどでもない。ただ、お前の魔法陣と飾りを鑑賞しているだけだ。けばけばしいな。趣味がない」
彼はもう一歩踏み出した。
祭壇までは、もうわずかだった。
エルフが彼を見ていた。
その目に理解はなかった。
恐怖。
懇願。
羞恥。
彼女には分からない。あるいは、あまりにも恐ろしく分かりかけている。ナイフを持つリッチと、死を嘲りながら自分へ近づいてくる男のどちらが恐ろしいのか。
説明はできなかった。
今は無理だった。
「お前は失敗する」
彼はリッチに言った。
「そして一番おかしいのは、それが偉大な力のせいじゃないということだ。英雄的な一撃でも、古い予言でもない」
彼は肩から予備の厚い布を外した。巻いていた旅用のマントだ。本来はただの予備だったが、今はあり得る唯一の幕になった。
「神の徴が布に現れる。今からそれを見せてやる」
「何だと?」
リッチがしわがれた声で言った。
「よく見ろ。その年になると、最後の授業を逃すわけにはいかないだろう」
彼はエルフの上に布を広げた。
一つの動きで、彼女の下半身をリッチから、魔法陣から、そして可能な限りすべての視線から隠した。仲間たちにとっても、それは目隠しになった。完全ではない。それでも、すでに十分すぎるほど公開の屈辱になっていた出来事を、さらに晒し物にしないだけの隔たりにはなった。
彼はエルフのそばへ身をかがめた。
近く。
言葉は小さく、速くなければならなかった。
「命か、名誉か」
彼女は彼を見ていた。理解していない。
あるいは、恐ろしすぎるほど理解している。
彼はほとんど声にならない声で繰り返した。
「儀式には処女が必要だ。俺なら崩せる。だがこの方法しかない。命か、名誉か」
エルフはさらに激しく震えた。
その顔に、恐怖、痛み、不可能な選択の波が走った。あまりにも残酷で、公平とは言えない選択だった。だが時間はない。黒いナイフはすぐそばにある。リッチはもう魔法陣へ手を伸ばし、布の向こうで何が起きているのか理解しようとしていた。
エルフの唇が動いた。
最初は音がなかった。
それから、彼女は息だけで言った。
「命」
それで十分だった。
美しくはない。
荘厳でもない。
救いに満ちたものでもない。
十分だった。
彼は一瞬だけ目を閉じた。
そして動いた。
恋人としてではない。
欲望に従う者としてでもない。
重く、汚く、取り返しのつかない行為を、それでも彼女を死なせず、都市を儀式へ飲ませないために選ぶ者として。布はできる限り彼女を隠した。彼はリッチに神の徴を見逃すなと言い続けながら、それを素早く終えた。何より恐ろしかったのは、そんな状況で身体が反応しない可能性だった。だが身体は若かった。そして目の前の状況は、あまりに近すぎた。彼女の身体は痛みと恐怖に強張った。必要だったのは、儀式の論理を壊す事実だけだった。短く、硬く、優しさも戯れも欲望もない。ただ、魔法的な条件を変えるための事実。犠牲はもう、儀式が要求したものではなかった。白い肌と祭壇には、リッチの供犠のナイフではなく、彼女が生きるために選んだ結果としての暗い血が残った。
世界が一瞬、止まった。
魔法陣が震えた。
すべてではない。
だが中心のものは、確かに。
祭壇の下の線が波打ち、対応を失った。黒いナイフへ伸びていた細い赤い糸が、乾いた音を立てて切れた。空中で硝子の弦が断ち切られたような音だった。
彼は後ろへ下がり、リッチに見えるだけ布を動かした。
祭壇のそばにいる彼を。
少女がもう処女ではないことを。
供犠のナイフによるものではない血を。
儀式が崩れたことを。
「処女はもういない」
彼は言った。
声は低く、ほとんど自分のものではなかった。
「お前は遅かった」
そこで、ようやくリッチは理解した。
すぐではない。
最初、死んだ顔には何の変化もなかった。次に、眼窩の火が明るくなり、細い舌のように伸びた。周囲の魔法陣が痙攣し、一部の線が光って消えた。儀式の中心構造は崩れ始め、再構築しようとしていたが、土台はすでに壊れていた。
そしてリッチは切れた。
慎重な古い魔導士ではない。
何百年もの経験を持つ存在でもない。
怒り。
純粋な、死んだ、恐ろしい怒り。
「貴様……!」
攻撃はすぐ来た。
ナイフではない。
魔法だった。
黒い波が祭壇へ向かって叩きつけられた。だが彼はすでに横へ倒れ込み、布と魔法と自分の身体で、自分とエルフを間に合う限り庇っていた。ベラが前へ踏み込み、塔盾が波の半分を受け止めた。彼女は片膝まで押し下げられ、金属が呻いたが、 удержえた。
「リニ!」
彼は叫んだ。
メイはもうリッチの背後にいた。
銀の影。低い踏み込み。石の欠片を蹴って回転する跳躍。リッチは、自分に正面だけでなく背後もあることを思い出すのが遅すぎた。彼の結界は、魔法に、正面からの攻撃に、直接の力で儀式を破ろうとする試みに合わせられていた。怒りによって一拍だけ忘れた、背後の獣人には合わせられていなかった。
メイはこめかみを撃った。
鉤爪ではない。
シミターで。
彼女の速度と彼の訓練に支えられた刃が、乾いた骨の頭蓋の側面へ食い込んだ。完全には断てなかった。リッチは守られていたし、骨はただの骨ではなかった。だがその一撃は防御回路の一つを剥がし、頭を揺らし、内側の魔法構造の均衡を崩した。傷というより、亀裂を作った。
「いい娘だ」
彼は、自分でも彼女に聞こえたか分からないまま息を吐いた。
メイは聞いていた。
アンデッドの顔の前で牙を見せ、返撃の波を避けて低く沈んだ。
リニが撃った。
以前とは違った。
彼女は、これまで学んだものをすべて集めていた。石。異なる素材の物たち。小さな形。木片の火。土の棘。空気の押さえ。爆発ではなく制御。そして巨大な力を、メイの一撃が防御を剥がしたその一点、こめかみの亀裂へ向けた。
白い火と圧縮された空気が、リッチのこめかみの裂け目へ入った。
ベラが横から盾で打ち込み、リッチがリニへ向くのを妨げた。
彼自身も、剣の柄へ魔力を叩き込み、リッチの周囲に浮かぶ魔法陣の一つへ刃を突き立てた。身体ではない。ハズレットの記憶が、つなぎの線だと示した場所へ。
魔法陣が破裂した。
リッチが叫んだ。
今度は声ではなかった。
結界全体で叫んだ。
冷気が外へ奔り、草が霜に覆われ、石が割れた。魔法陣の外、壁のそばにいる人々も、おそらくそれを感じただろう。だが儀式はもう崩壊していた。
リニが両手を上げた。
「目を閉じて!」
彼女が叫んだ。
彼は何とか顔を背けた。
光は瞼越しにも突き刺さった。
太陽の光ではない。
清く、硬く、死の魔法を切り裂く光。空気が鳴った。まるで生と墓の間に巨大な扉が閉じられたようだった。リッチの叫びは高い音で途切れ、その響きはなお一秒、歯の奥で震えた。
彼が目を開けると、リッチはまだ立っていた。
だが、もう一つの存在ではなかった。
黒衣は灰になって落ちていた。頭蓋の骨には亀裂が走り、眼窩から緑がかった青い火が流れ出して煙になっていた。魔法陣は一つずつ消えていく。広場を囲んでいた結界は、死にかけた泡のようにしぼんでいた。
メイは待たなかった。
再び跳び、背後から首を斬った。
今度は、リッチの頭が離れた。
石へ落ちた。
そして灰色の塵になって崩れた。
身体もそれに続いた。
その後の静けさはあまりにも濃く、彼らの組の名は、初めて選んだものではなく予言だったかのように思えた。
死の静寂。
彼は祭壇のそばに膝をついたまま、数秒、身体を動かせなかった。
その時、エルフが小さくすすり泣いた。
それが時間を動かした。彼はようやく我に返り、服を整えた。
「リニ、マント。メイ、ナイフを遠ざけろ。ベラ、まだ光っている魔法陣があれば触るな」
彼女たちはすぐ動いた。
リニが祭壇へ駆け寄った。顔は白かったが、まとまっていた。質問はしなかった。今はしなかった。ただ自分のマントを外し、彼が縄を解く間、エルフの上へかけた。縄には魔法が染み込み、あまりにも強く締められていたため、その下の肌は赤くなり、ところどころ擦り剥けていた。ナイフで切るしかなかった。
エルフは震えていた。
寒さだけではない。
すべてに。
彼が手を解くと、彼女はマントの端へしがみついた。それが世界との間に残された唯一の境界であるかのように。
「歩けるか?」
彼は尋ねた。
彼女は座ろうとした。
揺れた。
メイが即座にそばへ来たが、掴まなかった。待った。
エルフは怯えたように彼女を見た。
メイは低く言った。
「食わない。立て」
奇妙なことに、それが助けになった。
リニが反対側から支えた。彼はすでに見るべきではないものを見すぎていた。やるべきではないことを、あまりにもやっていた。
説明しなければならない。
リニに。
メイに。
ベラに。
このエルフに。
自分自身に。
後で。
できるなら。
今は、彼女を連れ出す。
結界はほとんど消えていた。
残ったものは、入る時よりずっと容易に彼らを通した。冷気が退いていく。街の音が戻ってきた。叫び、命令、金属の音、誰かの祈り。
外へ出ると、壁際の人々は最初、沈黙した。
衛兵はマントに包まれたエルフを見た。
刃に灰をつけたメイを見た。
霜に覆われた盾を持つベラを見た。
青白く震えながら、それでもまっすぐ立つリニを見た。
破れた服、血のついた手、そして今は何も聞かれたくない人間の顔をした彼を見た。
最初に近づいたのはルシアだった。
賢い。
彼女は皆の前で尋ねなかった。
ただエルフを見て、言った。
「ギルドへ。急いで。治療師と閉じられる部屋があります」
彼は頷いた。
「ああ」
「リッチは?」
「塵になった」
「儀式は?」
「崩した」
ルシアは彼の目を見た。
何かを理解した。
詳細ではない。
だが、ここで質問してはいけない程度には。
「では行きます」
死の静寂は都市へ戻った。
前にはルシアと二人の衛兵がいて、道を空けていた。
中央にはリニとメイが、救い出したエルフを支えていた。
ベラは少し後ろを歩き、リッチが死んだ後でさえ、世界から来る次の一撃を受け止めるつもりでいるかのように盾を構えていた。
彼はそのそばを歩いた。
そして、自分の中で遅れて理解が立ち上がってくるのを感じていた。
思いつきは本当に効いた。
都市は、おそらく救われた。
エルフは生きている。
儀式は壊れた。
リッチは滅んだ。
そして彼自身は、外から見れば滑稽なほど馬鹿げて見えるはずのことをした。もし、それがこれほど重く、汚く、恐ろしく真剣なことでなければ。
リッチの目の前の祭壇で、生贄を犯し、処女を奪って、古い儀式をぶち壊す。リッチが、ただの目隠しにすぎないマントに現れるはずの神の文字を必死に探している、その隙に。
考えただけでも狂っている。
だが魔法は、解決が美しいかどうかなど問わない。
条件が破られたかどうかだけを問う。
条件は破られた。
今はただ、その代価を自分の内側で、そして隣を歩く者たちの前で、どう支払うのかを理解しなければならなかった。




