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秒でフラれた俺と実は俺にだけ甘い幼馴染の話  作者: 北条S


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第9話【可愛い】

 仲の良い幼馴染の家にお邪魔する。それだけだ。いたって普通のこと。


 だというのに、何を緊張しているんだ、俺は。


「お、お邪魔します」

「誰もいないからそんな畏まらなくていいよ」

「誰もいないのか!?」

「お兄ちゃんは今日遅くなるって言ってたし」

「おばさんたちは!?」

「仕事だよ。知ってるでしょ」


 そういえば鈴音たちのとこは共働きなんだった。

 昔からそうなのに、ここに来るまですっかり失念していたなんて、俺はどれだけ緊張してるんだ。


 微かな震えが止まらない手でいつも以上に丁寧に靴を並べつつ、玄関を上がる。


「お茶いれてくるから、私の部屋で待ってて」

「え!?」

「なんでさっきからそんなオーバーリアクションなの」

「わ、悪い。なんか久しぶりに来たから、つい」

「そうだっけ? この間もお兄ちゃんの部屋で遊んでなかった?」

「ああ、まあ……」


 あくまで”鈴音の部屋に”という意味で言ったんだが、訂正するのも恥ずかしいのでやめておく。


 キッチンに向かった鈴音を見届けてから、二階へ上がる。

 その途中、足元を通過する物体が。


「お、クロ」


 声をかけると、立ち止まって振り返り、俺をジッと見てくる。

 クロというのは、鈴音たちが飼っている黒猫の名前だ。

 人懐っこく、俺にも触らせてくれる可愛いやつ。


「良い子だな」


 軽く背を撫でると、にゃあと鳴いて、階段を下っていく。

 それを見ながら、俺は二階へ。


 鈴音の部屋には小学生の頃何度か来たことがあるから、場所はすぐに分かった。

 軽く息を整え、誰もいないと分かっているのにノックしてから扉を開けた。


「……シンプルだな」


 思わずそんな声が漏れてしまうくらい、本当にシンプルな内装だった。


 白い壁とグレーのカーペット、黒いベッド。窓の近くに勉強用と思われる机と本棚、テレビ。

 それから部屋の中央に小さめのテーブルが置いてあるだけで、他はほぼ何もない。

 家具も全て白か黒で揃えられているため、色で表現するとほぼモノクロだった。


 唯一、ベッドの上に置かれたクッションのピンク色だけが、逆にこの部屋から浮いているような気すらしてくる。


「……鈴音らしくて逆に落ち着いてきたな」


 言い方は悪いが、良い意味で女の子らしくなくて良い。

 小学生の頃はもっとキャラクター物でごちゃごちゃしていたイメージだったが、いつの間にかすっかり大人びた部屋になったものだ。


 とりあえずテーブルの近くに腰を下ろして待っていると、お盆を片手に持った鈴音がやって来た。


「コーラなかったからコーヒーにしちゃった」


 手渡されたそれを有難く受け取る。

 鈴音はクッキーの乗った皿をテーブルの上に置き、俺の向かいに腰を下ろした。


「あれ……このクッキーって、もしかして俺がさっき渡したやつか?」

「うん。せっかくなら一緒に食べようと思って」

「悪いな」

「別に。……ところでこの部屋、白黒ばっかだなって思ったでしょ」


 事実だったので頷くと、鈴音はベッドの上のクッションを手に取った。


「あまりに色がないから、美咲が去年の誕生日にこれくれたの」

「ああ、だからピンクなのか……」


 そういえばあいつの部屋は、キャラクターグッズとピンク色のものだらけだ。

 良くも悪くも女の子感全開で、俺はちょっと苦手だったりする。


「美咲のそういうとこ可愛いよね」

「イマイチ共感しかねるな……」

「これ、啓太が持ってて」

「えー……」


 派手な色のクッションを手渡され、どうしようもなかったので、とりあえず膝の上に置いておく。


 それから鈴音がクッキーを食べたのを見て、俺も一枚いただくと、ほどよい甘さで美味しかった。流石怜央のおススメだ。


「……そういえばクラスのみんなとね、劇の練習を通じてちょっと話が出来たの」


 しばらくお互い無言で飲み物を飲んでいたら、不意に鈴音がそんなことを言った。


「今まであんまり話したことのなかった人とも話せてちょっと楽しかった」

「それはよかったな!」

「……滅茶苦茶嬉しそうだね」


 人に興味がないところのある鈴音が、周囲に馴染もうとしてるんだから、そりゃ嬉しい。

 でもそんなことを言ったら流石にお節介だろうから、心で思うだけにしておく。


「あ、せっかくだし映画見る?」

「いいな。俺の部屋テレビないから、最近好きな映画見れてなかったんだ」


 何せリビングにあるテレビは母さんか美咲がいつも占領してるし。


「何がいい? 今配信してるやつしか見られないけど」


 言いながら、鈴音は立ち上がってリモコンを手に取った。

 俺が適当な映画をいくつか挙げて、その中から気になるものをチョイスしてもらうことにした。


「……」


 本編の再生を始める直前、リモコンを片手に動きを止める鈴音。

 その視線はテレビと俺の方を行ったり来たりしている。


「どうした?」

「えっと……嫌だったら言ってね」


 そう前置きして、鈴音は先ほどの場所ではなく、俺の隣に座った。

 少し驚いたが、何か言うとすぐに離れていってしまいそうな気がしたので、口をつぐんだ。


 ……ん? いや、離れてもらった方がいいのだろうか、この場合は。


 そんなことを考えている間に、映画の再生が始まった。


 いつの日か予告を見て気になっていたものの、見る機会のなかった作品。

 序盤から興味をそそられるような内容だったのだが、


(なんか落ち着かないな……)


 その答えは明白で、隣に並んで座っているせいだ。


 異性と隣になることくらい、経験がないわけじゃない……主に授業中のみだが。

 しかし、それとは明らかに違う距離感。

 意識しないと腕が触れてしまいそうな近さに、映画どころではなくなってきた。


「……」


 ところが鈴音は映画に集中しているらしく、視線がテレビに釘付けになっている。

 その姿を見ていると、何だか動揺している自分が恥ずかしくなってきて、俺も雑念は捨てることにした。


◆ ◆


 およそ二時間半後、エンドロールが終わり、画面がホームへと切り替わった。

 そこでようやく息をつく。

 終盤は気になる展開の連続で、つい見入ってしまった。


「面白かったね」

「ああ、ラストの展開は読めなかったな」


 鈴音がテレビの画面を消すため、リモコンを持った手を伸ばした。


「!」


 その拍子に体が触れたため、反射的に距離を取ってしまった。

 ズザザッと、後ずさった音が静かな室内に嫌に響いた。


「あ……わ、悪い」


 いくら驚いたとはいえ、今の離れ方はいくら何でも失礼だった気がする。

 鈴音は俺の方を見た後、少し視線を逸らした。


「別に謝らなくても……、私と近付くのは気まずいだろうし」

「気まずくは……」


 咄嗟にフォローしようとしたが、ここで気を使うのは何だか違う気がした。

 首を振りながら体勢を整え、鈴音の方に向き直る。


「正直言うと気まずさはある。……多分、鈴音にああいうことを言われなければ、感じなかったことだとも思う」

「……だよね」

「ただこれは、なんというか、言葉にし辛い感覚なんだが……嫌な気まずさじゃないというか、悪い感じではないというか」


 本当に言葉に出来ない感情だったので、ついオロオロとした説明になってしまった。


 しかし鈴音は真面目な表情でそれを聞き、何かを考えるように黙り込んだ。


「……私も正直に言うとね」


 口を開いた鈴音に真っ直ぐに見つめられ、何故か目を逸らせなくなった。

 ただ、少しして向こうから視線を逸らす。流石に何秒も見つめ合うのは恥ずかしかったんだろう……助かった。


「あれからずっと、啓太に迷惑かけてて悪いなって思ってたよ」

「え?」

「だって今って、啓太の中ではもう結論の出てたことを私のワガママで引き伸ばしてもらってる状態でしょ」

「それは前に俺も納得した話じゃないか」


 そもそも俺がハッキリしないのも悪いんだし……と思っているんだが、鈴音はそうは思っていないのだろうか。


「そうだとしても、我ながら往生際が悪いなって思うものなの」


 でも、と言葉を続けた鈴音は、俺の方に身を寄せてきた。

 先ほど遠ざけた距離が再び接近し、つい目が泳いでしまう。


「もしかして私のこと、少しは好きになってくれてる?」

「…………」


 言葉が出なかったのは、単に恥ずかしかったからなんだろうか。

 それともいきなりそんなことを言われて面食らったのか。

 それとももっと別の何か……


「……めっちゃ顔赤いけど、大丈夫?」

「だ、大丈夫だ……全然問題ない……」


 自分の感情なのに全く分からない。


 よく考えたら俺の人生において、人にアピールをすることはあれど、受けることなんてなかった。

 だからこの現状にまだ感情が追いついていないのかもしれない。


「……啓太」

「ひぇっ!? な、なんだ!?」


 手にちょんと指で軽く触れられ、肩が跳ね上がる。

 鈴音はそんな俺を見て、おかしそうに笑った。


「そんなにビビらなくても、取って食べたりしないから」

「流石にそこまでは思ってないけど……というか俺、なんかさっきからひたすらダサいよな」


 鈴音は本当に、こんな俺のどこがいいんだろうか。

 情けない気持ちに浸っていると、


「そういうところも啓太らしくて良いと思うけど」

「……」


 そんなことを言われて、素直には喜べなかった。


◆ ◆


 その日の夜、キッチンに行くと、ちょうど美咲が冷蔵庫を開けていた。


「うげ、お兄ちゃん……いたの」

「そりゃ自分の家なんだからいるだろ。……というかお前、そのプリンは俺のなんだが?」

「……てへっ」

「ウインクで誤魔化すな」


 こいつはいつも黙って人のものを食べるよな……俺のもの限定かもしれんのが腹立たしい。


「まあ、別に食べてもいいぞ」

「ほんと!? やったーお兄ちゃんお人よしー」


 何故だろう、お人よしと呼ばれるとあまり褒められている気がしない。


 美咲はスキップ混じりにスプーンを手に取り、キッキンを後に――しようとしたところで、足を止めた。


「あ、そうだ。プリンくれたし、仕方ないからお礼してあげるよ」


 すごい日本語だな。


 美咲はポケットからスマホを取り出し、何やら操作している。


「はい。じゃ、プリンありがとー」


 そのままスキップ混じりで立ち去っていく。


 なんだったんだあいつは、と思っていたら、スマホが振動した。

 取り出してみると、美咲からのメッセージが届いている。

 訳は分からなかったが、とりあえず開いてみた。


【可愛いでしょ】


 そんなメッセージと共に添付されていたのは、劇が終わった後にでも撮ったのだろうか。

 シンデレラの衣装のまま、クラスメイトに囲まれて楽しそうに笑う鈴音の姿。


「…………可愛い」


 自分でも気付かない内に口から零れ落ちた言葉は、誰にも聞かれることなく消えていった。



続く

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