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秒でフラれた俺と実は俺にだけ甘い幼馴染の話  作者: 北条S


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第7話【日曜日のカラオケ】

「啓太、カラオケ行くよ」

「……日曜の朝っぱらから家に来たと思ったら、急に何だよ」

「あれ、美咲ちゃんから聞いてない? 昨日連絡入れたんだけど」


 あいつ……俺に伝えるのサボりやがったな。怜央も怜央で、美咲を通さず直接言ってくれればいいのに。


 とはいえ、特に何の用事もないので断る理由もない。

 怜央に出て行ってもらい、着替えを済ませて一階に行くと、いつの間にか鈴音も来ていた。


「……あれ?」


 ふと、その服装を見て既視感を覚える。

 白いシャツの上に、それが透けて見えるくらい薄い生地の黒カーディガンを羽織っている。それに、ハイウエストの黒いスカート。


 この格好は、色の違いこそあれヒカルさんがブロマイドで着ていた私服と非常によく似ている。

 ――というか、タイミング的に考えたら、


「可愛いでしょー?」


 俺の視線に気が付いたのか、ドヤ顔の美咲がそう言った。

 何故か鈴音本人よりも誇らしげにしている。


「これはね、昨日わざわざ買いに――」

「み、美咲、ほら、啓太も来たし早くカラオケ行こう!」

「わっ、ちょっと、引っ張らないでよー」


 鈴音に手を引かれ、強制的にリビングを後にする美咲。


 ……どう考えてもただの偶然ではないだろうあの服装には、多分触れない方がいい。

 俺がそう思っていたら、隣に来た怜央が笑顔で口を開いた。


「可愛いよね」

「お前……自分の妹をそんな風に褒められるのは凄いな」

「服がね。鈴音自身に可愛いなんて言ったら、流石に気持ち悪がられるよ」


 怜央でもそうなのか……俺も美咲に同じことを言ったら蔑まれそうだ。


「まぁ、いつもとは全然違う格好だから驚いたけど」

「普段はほぼパーカーだもんな」

「誰かの影響なのかな?」

「……ど、どうだろうな」


 俺を見て、なんとも言えない表情で微笑む怜央。

 もしかして全部バレているんだろうか……そんな気がしたけど、怖くて聞けなかった。


◆ ◆


 美咲と怜央が五曲歌う合間に俺と鈴音が一曲歌うという配分でカラオケを楽しんだ。

 アニソンしか入れない美咲と、一昔前の曲しか入れない怜央のやたら上手い歌を聞き流しつつ、コーラをすする。


「美咲とお兄ちゃんが上手すぎて歌いにくい……」

「えー、でも鈴音の声可愛いじゃん。あたしもっと聞きたい! ねぇお兄ちゃん?」

「お、おう、聞きたい聞きたい」


 美咲よ、わざわざテーブルの下で足を踏ん付けなくたって俺は同意するぞ。


「……二人がそう言うなら」


 気まずそうな顔をしながらも、タッチパネルで歌う曲を探し始める鈴音。

 その間に怜央の歌が終わり、美咲のもう何度目かのアニソンが始まった。……こいつ、何回同じ曲歌うんだ。


「啓太、僕喉乾いたからちょっとコーラちょうだい」

「自分のがあるだろ」

「コーラの気分なんだよ」


 なんて勝手な奴だ。

 渋々渡すと、全部飲みやがったし……。


「飲み物入れてくる」


 コップを手に立ち上がると、妙に良い笑顔をした怜央が「ごめんね」と言って見送ってくれた。



 さて、次はどうするべきか。無難に連続コーラか、メロンソーダを挟むか。

 ドリンクバーの前で唸っていると、腕をツンとつつかれた。

 見ると、空のコップを持った鈴音の姿。


「あれ? 鈴音も飲み切ってたのか……言ってくれればついでに取りに来たのに」

「自分で選びたかったから。啓太はなに飲むの?」

「コーラかメロンソーダで死ぬほど悩んでる」

「そっか、…………」

「?」


 なんだ、この不自然な沈黙は。コーラかメロンソーダの二択がそんなに変だったか?


 気になって隣の鈴音に視線を向けると、何故か顔を俯けていた。


「……どうかしたのか?」

「いや…………あの、家出る前の美咲の言葉、聞こえてたよね?」

「あ……まあ、少しだけ」


 服装の件についてはあまり触れたくなかったんだが、ここで嘘をつくのも気が引けた。

 俺が頷くと、鈴音は更に凹んだように項垂れた。


「違うの……いや、違わないんだけど。服を買いに行ったのは、いつものパーカーじゃダサいって思われそうだったからで……コーディネートがヒカルちゃんと同じなのは本当にたまたま似たような服を見つけちゃって、つい魔が差して……」


 いつもの鈴音からは想像もつかないほどの早口だった。

 髪から覗く耳は赤く染まっていて、多分顔もそうなんだろうことが分かる。

 その様子が、なんだか微笑ましく思えた。


「似合ってるよ」


 だからだろうか、ついそんな言葉が口からこぼれていた。

 顔を上げた鈴音が、まん丸になった目で俺を見る。


「ほんと?」

「ああ。……まあ、普段のパーカーも鈴音らしくて良いと思うけどな」


 何故だか無性に恥ずかしくなって、そう言葉を付け足した。


「……嬉しい」

「っ……や、やっぱりコーラにするかな! 鈴音はどうする!?」

「オレンジジュースかな」

「よし!」


 何が「よし」なのかは、言っている自分もよく分かっていない。

 とにかくこのむず痒い空気をなんとかしたい一心だった。


「あいつら待たせるとうるさそうだし、早く部屋に戻ろうぜ」

「あ、その前に一つだけ聞いてもいい?」

「なんだ?」

「さっき美咲が言ってた、私の声が……その、良いっていうのに同意してたのは本心?」

「? ああ、本心だが」


 なんでそんなことを改まって聞くんだろうか。

 不思議に思っていると、鈴音はオレンジジュースをコップに注ぎ始めた。


「……前も話したと思うけど、私、自分の容姿についてはよく褒められるの。けど……逆にそれ以外のことを褒められたことってあんまりなくて」

「そうなのか。意外だな」


 鈴音は頭も良いし、運動も得意だし、長所がたくさんあるのに。

 ……でもよく考えると、面と向かって人を褒める機会なんてなかなかないものかもしれない。


「特に声って自分じゃよく分からないし……私からすれば美咲の声の方が可愛いと思うし」

「声質なんて人それぞれだから、そこに優劣はないだろ」

「……みんなが啓太みたいなら世界は平和なんだろうね」


 なんかそう言われると、若干バカにされてるような気もする。


「だから美咲と比べることは出来ないけど、鈴音は良い声だと思うぞ」

「……そっか」

「ああ。だから早く鈴音の歌が聞きたい」

「それは……私が音痴なの分かってて言ってるよね」

「気にするなって、俺も似たようなもんだから」


 というか、あいつらが上手すぎるだけだしな。俺たちくらいが普通だ。

 けど鈴音はそう思っていないのか、不満げに口を尖らせていた。



 その日は、カラオケを全力でエンジョイする怜央と美咲に帰宅を許されず、フリータイムで八時間以上付き合わされる羽目になった。


 なお、まだ六月になっていないので小遣いが足りなかった俺は、怜央に頭を下げてお金を借りることになってしまった。


◆ ◆


 夕食を終えた後、自分の部屋で宿題を片付けていたら、味噌を買い忘れた母さんに買い物を頼まれた。


 こういう時は決まって「女の子が夜出歩くのは危ないから」理論が展開され、俺ばかり押し付けられる。


「別に明日くらい味噌汁なくたっていいのに……」


 なんてボヤきながら、スーパーへと続く道を歩いていた。

 近所の公園の前を通りかかった際、なんとなく目を向けると、ベンチに誰かが座っているのが見えた。

 あの明らかに見覚えのあるシルエットは……


「……鈴音?」


 近づいてみると、やっぱりそこにいたのは鈴音だった。

 俺に気付くなり、手に持っていた何かを背中の方に隠しながら顔を上げる。


「え、なんでこんな時間に?」

「ちょっと買い物頼まれたから……そっちこそなんで公園に?」

「…………笑わない?」

「よほどのことじゃない限りは」


 頷いた俺を見て、鈴音は先ほど背に隠したものを胸の前に掲げた。


「シンデレラ(仮)? ……あ、歓迎会の劇の台本か?」

「そう。……言ってなかったけど、私、シンデレラ役なの」


 美咲に聞いたから知ってる、とは言い辛い雰囲気だった。


「明日、最後の通し練習があるから、その前に確認したくなったんだけど……家でお兄ちゃんたちに聞かれたら恥ずかしくて」

「熱心だな」

「じゃなくて、自信がないだけ。本番で失敗するの嫌だし」


 それを踏まえて熱心だと思うんだがな。

 不安げに俯いた姿を見て、俺は鈴音の隣に腰を下ろした。


「……お使いは?」

「こんな時間に女の子一人は危ないだろ」

「別に近所だし……、……まぁいいや。でもちょうど帰るところだったんだ」

「そうなのか? 変な時に声かけて悪かったな」

「ううん。……あ、そうだ」


 何かを思いついたような顔をした鈴音は、台本を開きながら俺の方を見て言った。


「"あなたと出会えて、本当にうれしいです"」

「へ……、……あ、台詞か……」


 一瞬自分に言われてるのかと思ってしまった。


「ここ、練習の最中にめっちゃくちゃ棒読みで怒られたとこなの」

「普通に上手いけどな」

「ふーん……啓太が相手だからかもね」

「えっ」

「なんて、嘘だけど」


 こいつ……冗談に聞こえない冗談はやめろよ……。

 ワナワナしている俺を見て、鈴音は眉を下げて笑った。


「ごめんね。本当はこのシーン、何度も王子役の子と自主練したの。歓迎会とはいえ、せっかくだからちゃんとした劇にしたいなって思って」

「やっぱり熱心じゃないか」

「まあ、選ばれた以上はね」


 美咲が言うには、相当乗り気じゃないだろうに立派な心がけだ。


 それにしても、この台詞はシンデレラが王子と初めて会う舞踏会のシーンだろうか。

 ここを王子役の子と何度も自主練か……自主練……


「……変なこと聞いてもいいか?」

「なに?」

「その自主練っていうのは……二人でしたのか?」

「そうだけど」

「…………そうか」


 二人きりか……それは随分と熱意があるというか、仲が良いというか……いや、鈴音もその子も純粋に頑張ってるだけなのに、俺は何をモヤモヤしてるんだ。というか、何にモヤついてるんだ。


「……啓太」

「な、なんだ?」


 気が付くと、目の前に鈴音が立っていた。どうやら俺がウダウダ考えている間に立ち上がっていたらしい。


「難しい顔してるね」

「……元からこういう顔だよ」

「嘘」


 眉間の辺りに指が触れ、ぐりぐりされた。無意識にシワでも寄っていたんだろうか。


「もしかして、二人きりっていうのが気になったの?」

「いや…………練習熱心なのは、良いことだ」


 この時の俺は果たしてどんな表情だったんだろうか。

 目の前の鈴音は、俺を見ておかしそうに笑いやがった。


「真面目なこと言ってるのに笑うなよ……」

「ふふ、ごめんね……なんか深刻な顔してるから、つい」

「深刻な顔の何が悪い」

「だってなんか誤解してるでしょ」

「誤解?」


 俺の眉間から手を離した鈴音は、再び隣に腰を下ろした。


「王子役の子、女の子だよ」

「え? ……あ……そっか、女の子か……」

「立ち居振る舞いとか、そこら辺の男子よりカッコいいけどね」


 何故か安心していると、俺の顔を覗き込むように見上げてくる鈴音。

 それから悪戯っぽく微笑みながら問いかけてくる。


「安心した?」

「……鈴音に美咲以外の女友達がいたことに安心したよ」

「うわ、酷い……からかったから怒ってるの?」

「分かってるならからかわないでくれ」

「だって啓太ってからかうと面白いから。なんか美咲と反応似てて、流石兄妹って感じ」

「……」


 兄妹揃って鈴音の手のひらの上な気がして、ゲンナリした。



続く

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