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秒でフラれた俺と実は俺にだけ甘い幼馴染の話  作者: 北条S


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第6話【公園での一時】

 鈴音に案内された公園は、確かに人気も少なくて静かな空間だった。

 いつも子供が騒がしくしている近所の公園とは大違いな雰囲気に、少し戸惑う。

 前を歩く鈴音についていくと、彼女は少し古びたベンチの前で足を止めた。


「誰もいないし、座ろっか」

「ああ。……って、なんで急にリュックを開けるんだ」

「真面目な啓太には許せないことかもしれないけど、はい」


 そんな前置きと共に差し出されたのは、いつの日かも見た麩菓子だった。


「……鈴音って、麩菓子が好きなのか?」

「うん。甘いし、安いし、量も多いし」


 中学はお菓子の類は昼休みにしか食べちゃいけないことになっているが、流石の俺もそこまで口うるさいことは言わない。

 というわけで遠慮なく受け取ると、鈴音は自分の分も鞄から取り出した。……一体何本持っているんだろうか。


「いただきます。……美味い」

「でしょ。黒糖の味が癖になるよね」


 なるほど、分かる気がする。

 サクサクとした食感を楽しみながら、なんの話をすべきか迷った結果、無難に中学のことを思い出した。


「そういや、もうすぐ歓迎会だろ。何するんだ?」


 俺たちも通っていた中学は、全校生徒数はそこまで多くないが、イベントはやたら多い。

 今頃に行われる新入生歓迎会では、二年と三年がそれぞれクラス単位で何かの出し物をするのが決まりだ。


「……劇」

「へえ、なんの?」


 何か微妙に嫌そうな顔をしたような気が……。かといって会話を不自然に止めるわけにもいかず、続けるしかない。


「白雪姫を短くアレンジした感じのやつ」

「俺たちの時はクイズ大会とかだったけど、随分と難しそうなのをやるんだな」

「なんか、めっちゃ劇やりたい人が多かったから……」


 答える鈴音の表情は、少しゲンナリしていた。


 それにしても劇か……鈴音が劇をやるとしたら、やっぱり似合うのはあの役割だろうなと、ぼんやり考えていたら。


「私が何するか分かる? イメージで答えてよ」

「へ?」


 まるで心を読まれたようなタイミングでそう聞かれてしまった。


「あ、外したら罰ゲームね」

「正解した場合のご褒美は?」

「ない」

「俺に挑戦するメリット無さ過ぎるだろ……しかもノーヒントだし」


 理不尽を感じつつも、一応真面目に考えてみる。

 白雪姫は結構キャラが多いから、そこから絞り込むのは難しい。そもそも役者であるとも限らないし。


 なかなか難易度の高い質問に、自信のある回答なんて出るはずもなく。結局最初に思いついたものを答えることにした。


「脚本」

「……なんで?」

「小さい頃からよく本読んでるし、国語の成績もよかっただろ。まあ、単なるイメージだけど」

「そっか……、うん」


 納得したように頷く鈴音。

 お、もしかして正解か――


「不正解だから罰ゲーム」

「ったぁ!?」


 こ、こいつ……今時デコピンなんてする女子がいるのかよ。

 しかもなかなかの威力を発揮しやがって。


「高校は歓迎会とかないの?」

「クラス単位でやるようなやつはないな。部活紹介とかはあったけど」

「部活か……美咲も今頃頑張ってるかな」

「そういやあいつって何部なんだ?」

「漫画・イラスト研究部」

「……なるほど」


 何ともあいつらしいと思った。

 俺の影響なのか、美咲自身の趣向なのかは分からないが、オシャレと同じくらいアニメや漫画が好きなのだ。


「知らなかったんだ。本当に反抗期なんだね」

「無視されるようなことはあまりないけど……話しかけると鬱陶しがられる」

「そっか。私はお兄ちゃんと普通に話すから、あんまりイメージ出来ないかも」


 何せ、怜央は鈴音に俺の失恋回数まで教えてるくらいだからな……本当になんでこんなことを教えたんだろうか、あいつは。


「仲が良くていいな」

「啓太からバンバン話しかけたら、美咲だって仲良くしてくれるんじゃない?」

「いや、話しかけまくったら無視されると思う」

「そうなんだ……」

「ああ。だから怜央が羨ましいよ、鈴音が妹で」


 俺の言葉に、ぴくりと鈴音の肩が揺れた。

 それから無言で俺の方を見てくる。

 その目がなんだか冷たい気がして、俺は気が付いた。


「悪い。俺なんかが兄じゃ嫌だよな」

「うん、嫌」


 素直に頷かれ、ちょっとショックを受ける。

 そりゃ嫌だよな……美咲にも怜央が良いって言われる始末だし……情けない。


「……だって妹だと、もっと意識してもらえなくなるし」

「え?」

「なんでもない」


 今、照れるようなことを言われた気がするけど……追及しないほうがお互いのためな気がした。


 鈴音が食べ終えた麩菓子の袋を畳み始めたのを見て、俺は立ち上がった。


「捨ててくるよ」

「いいの? ごめんね」


 というわけで、公園の入り口まで走って行き、そこに設置されていたゴミ箱に空袋を放り込む。

 その隣にある自販機が目に入ったので、缶コーヒーとミルクティーを買って戻った。


「どっちがいい?」

「コーヒー」


 相変わらず渋い趣味だと思いつつ、コーヒーの方を手渡して座る。


「お金大丈夫?」

「流石にこれくらいはな……」

「今美咲からメッセきた」

「部活中なのに?」

「うん。なんか部内の空気緩い感じなんだって」


 緩い漫研か……ちょっと羨ましいな。俺も中学にいた頃、入ればよかった。


「それで、帰りにコンビニでプリン買って帰ってって」

「え? なんで俺への伝言を鈴音に?」

「今日一緒に帰ってること知ってるから」

「!? げほっ……」


 飲んでいたミルクティーが変なところに入って咽せてしまった。


「大丈夫?」

「あ、ああ……というか、なんで美咲が知ってるんだ? 教えたのか?」

「うん、別に隠すことでもないかなって」


 そんなものなのか……俺は怜央にも言えなかったのに。

 よくよく考えると、俺と鈴音の関係なら、二人で帰るのはそう変な話ではないのかもしれない。


「ミルクティー膝にこぼれちゃってるよ。ティッシュいる?」

「いや、ハンカチがあるから大丈夫だ」


 リュックの中を探したが、奥の方にいってしまったのかハンカチが見当たらなかった。

 探しやすいようにノートやクリアファイルを一旦取り出して改めて探したら、奥底に発見することができた。


 グシャグシャになってしまっているそれを綺麗に畳み直し、汚れた膝を拭いていると、


「なにこれ? ブロマイド?」


 そんな声が聞こえて隣を見ると、いつの間にか鈴音が俺のクリアファイルを手に取っていた。


「あ、いや、それはだな」

「今流行ってるアイドルの……リーダーの子だっけ。好きなの?」


 クリアファイルにしまわれたままのブロマイドをこちらに向けて問いかけてくる。


「…………はい。推しです」

「ふーん」


 やけにそっけなく聞こえるのは気のせいではないだろう。

 ブロマイドを学校に持って行ってるなんて(正確には貰ったんだが)引かれただろうか……。


「可愛いね」

「それはもう! 顔だけじゃなく、中身も素敵なんだ。私服姿も美しい!」

「へー」

「……ひ、引いてるか?」

「別に? ただ、推し的な意味でも年上系の人が好きなんだなぁって思って」


 言われてみれば、推しをそういう目で見ているわけでもないのに、無意識に年上属性の人を追いかけている気はする。


「好みのタイプって変わらないものなんだね」

「まあ……そういうものじゃないか?」

「私はタイプとかないからよく分かんない」


 ないのか……まあ、あれば俺なんか好きになったりしないよな。


「勝手に見てごめんね」


 言いながら手渡されたクリアファイルをリュックにしまい直す。


「鈴音は推しとかいないのか?」

「特にいないかな……芸能人もあんまり詳しくないし、創作物もキャラクターよりストーリーを好きになることが多いし」


 そういう人もいるのか、と思っていたら、鈴音はスマホを取り出した。


「さっきのアイドルの人の名前教えて?」

「……何故?」

「啓太の好みのタイプを知ろうと思って」


 よくそんなことを恥ずかしげもなく……。


 逆に俺の方が恥ずかしくなってしまい、結局その後は二人でヒカルさんについての情報を調べるという、よく分からない時間になった。


◆ ◆


 部屋でゲームをしていたら、ノックもなく扉が開かれた。


「ご飯」


 それだけ言って立ち去ろうとした美咲を、つい呼び止める。


「お前、いい加減ノックを覚えろよ」

「だってめんどいんだもん。なに? いきなり開けられたらやましいことでもあるの?」

「別にそんなものはないが……俺にもプライバシーというものがだな」

「早く来ないとお兄ちゃんのカツ貰うから」


 とんでもないことを言いながら歩いて行く美咲の後を慌てて追いかける。

 階段を下っている最中、ふとさっきの鈴音との会話を思い出した。


「お前のクラス、劇やるんだって?」

「うん。鈴音から聞いたの?」

「ああ。……そういや鈴音って何やるんだ? それだけ聞きそびれた」

「もっちろん主演に決まってんじゃん。白雪姫」

「しゅ、主演?」


 思わず間抜けな声が出てしまうくらいには意外だった。


 だって鈴音が主演って……言っちゃなんだが、全くイメージがわかない。

 小さい頃はいつも俺たちの後ろに隠れているようなタイプで、目立つのが好きな感じじゃないし。


「立候補したのか?」

「まさか。ほぼ押し付け……というか、鈴音に主演やってほしくてみんな劇にしたんだと思うし」

「何でそんな……」

「そりゃ可愛いからじゃん」

「可愛いから……?」

「ちょっと、なんでそこ疑問形なの。どう見たって可愛いでしょ」


 別に否定したかったわけじゃなくて、そんな理由で主演に祭り上げられるのも気の毒だなと思っただけだ。

 大体、舞台上の役者の顔なんてハッキリ見えるものでもないし。


「まぁちょっと可哀想だけどね。バリバリ嫌そうだったし……あたしも一応反対したんだけど、数の暴力の前に敗北しちゃった」

「へえ……」


 嫌だったのか……だとしたら、さっきは悪い話題を提示してしまったかもしれないな。


「だから明日のお出かけで慰めてあげるんだー」

「お前ら毎週遊んでるな」

「そりゃー仲良しだもん。……あ、でも明日は珍しく鈴音が行きたいとこ指定してきたんだよね」


 美咲が、じとりと目を細めて俺を見てきた。


「今日鈴音に変なこと言ってないよね?」

「別に……言ってないと思う」

「あっそ。……鈴音に変なことしたら許さないからね」

「し、しねえよ」



続く

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