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秒でフラれた俺と実は俺にだけ甘い幼馴染の話  作者: 北条S


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第31話【推し仲間】

 交際を始めて気が付いたことがある。


「金が……足りない」


 鈴音は奢られることを嫌がるのでデートは毎回割り勘なんだが、それでも足りない。


 鈴音たちの両親は共働きで基本家にいない影響か、子供の頃から二人の小遣いは俺たちよりも多い。

 だから向こうはそんなに困ってなさそうだが、俺は困っている。

 まあデート代だけじゃなく、Melty☆MilkのCDやグッズを買ってる影響もあるのだが……。


「よし、バイトするか!」


 どのみち鈴音は受験勉強で忙しいからしょっちゅう会えるわけじゃない。

 だったらその間にバイトして金を貯めて、プレゼントを贈ったりしたら喜んでくれるんじゃないだろうか。


 そんな気持ちで面接を受けたのは、家から少し離れた場所にあるコンビニ。

 あまり近所だと知り合いに会いそうで恥ずかしいし、遠すぎると通うのが大変だからという理由で決めた。



「で、無事受かったと。おめでとう」


 放課後、うちに遊びに来た怜央にバイトのことを報告すると、パチパチと拍手してくれた。


「ありがとう……とはいえ、バリバリ人手不足って言われたから、誰だろうと受かりそうな雰囲気だったけどな」

「冬休みまでの短期なんだっけ。週どれくらい働くの?」

「四。金曜日以外の平日の放課後」

「なるほどね……金曜日と土日は鈴音のために空けてるんだ」

「……そういう風にからかうのやめてくれ」


 まあ、事実だけど。

 だってデート資金のためにバイトするのに、それで鈴音に会えなくなったら元も子もない。


「バイトか……啓太も大人になったね」

「同い年に言われる台詞じゃないだろ……せっかくだし怜央も一緒にやらないか?」

「やめておくよ。ご飯も作らないといけないし」


 そういえば怜央たちのところは、怜央と鈴音で交代して夕飯を作っているんだった。

 それに怜央の帰りが遅くなったら、自然と鈴音が家に一人(しょっちゅう美咲が遊びに行っているが)になるわけで……無神経な提案をしてしまった。


「その代わり、啓太の働いてる姿を拝みに行くよ」

「恥ずかしいから絶対来ないでくれ」


 俺の願いに対し、怜央は曖昧に微笑むだけだったので妙に不安になった。


「お兄ちゃーん、消しゴム貸して」


 相変わらずノック無しで入って来る美咲を睨みつけたら、隣にいる鈴音と目が合ってしまった。


「ほら」

「うわっ……もー、投げて渡さないでよ」

「お前もノックせずに入って来るなよ。大事な話してたらどうするんだ」

「もしそうだったらごめんね、怜央君」

「俺にも謝れよ!」


 べーっと舌を出して、そのまま部屋を出て行く美咲。あいつの反抗期は一体いつまで続くんだろうか。

 美咲の後に続こうとして、鈴音は思い出したように振り向いた。


「バイト明日からでしょ? 頑張ってね」

「ああ、ありがとう」


 部屋を出た鈴音が扉を閉めたのを見てから、怜央が言った。


「ちなみに鈴音は啓太がバイトする理由知ってるの?」

「いや。気を使わせそうだから、普通に社会経験のためって言っといた」

「確かに自分のためって言われたらちょっと嫌かもだしね。まあ、無理しない程度に頑張ってよ」


 そういえば俺にとって初バイトなわけだ。面接の感じでは店長さんは気さくな感じだったけど、他の人はどうなんだろう。

 怖い人がいないといいんだが……。


◆ ◆


 そんな心配は幸いにも杞憂だった。

 初日に仕事を教えてくれた女性は母さんくらいの年齢の人で親しみやすかったし、その後シフトが被った人たちもみんな親切にしてくれた。


 思ったよりもたくさんある仕事を何とか覚えてきた頃、怜央が何食わぬ顔で来店して来た。


「やあ。思ったより様になってるね」

「……いらっしゃいませ」


 レジに商品を置かれた以上は「帰れ」とも言えず、出かかった文句をこらえてレジ打ちをする。

 会計が終わった後、怜央は他のお客さんが誰もいないのを確認してから、俺に飴を差し出してきた。


「くれるのか?」

「僕からじゃなくて鈴音からだけどね。頑張ってって伝言付き」

「ありがとな」


 爽やかに立ち去っていく怜央に手を振ってから、貰った飴はポケットに入れておく。

 本当にただ見に来ただけだったな……。


「今のお客さん、柊君の知り合い?」

「あ、幼馴染です」

「へー、いいなぁ幼馴染。私の周りは近い年頃の子がいなかったから憧れちゃう!」


 言いながら俺の肩をペシペシ叩いたのは、古谷さんだ。

 水曜と木曜に同じシフトに入ってる大学生で、働き始めの頃はよく俺のフォローに入ってくれた良い人である。


「でもそれならもうちょい話さなくてよかったの? 今ちょうど暇だったのに」

「買い物が終わったのに長居しても迷惑になりますから」

「真面目だねー。おばちゃんたちですら、常連さんと話し込んだりする人も多いのに」

「それは、まあ……あ、俺、フェイスアップしてきます」


 暇な時はレジに立っているよりも棚に並べてある商品を整えろ、というのが初日に店長に教わったことだ。


 それにならい、ごちゃついていたお菓子コーナーを整えていると、古谷さんもレジから棚の方へ移動して来た。


「お客さんいないし、私も一緒にやるよ」

「はい」


 お菓子のパッケージを並べ直していると、ふと麩菓子が目に入って、鈴音のことを思い出した。


 今は自分の家で夕飯を食べている頃だろうか。最近より一層勉強が大変そうだが、悲しいことに俺は結構馬鹿なので、受験生に教えてやれるだけの頭はない。


「そういえばずっと気になってたんだけどさ……柊君のボディバッグあるじゃん」

「はい……あ、だ、ダサいですか!?」

「いやいや、そうじゃなくて……あのバッグについてる缶バッジって……」

「Melty☆Milkのヒカルさんです」

「やっぱり!?」


 ぱぁーっと顔と声が明るくなる古谷さん。

 この反応はもしかして……。


「古谷さんも好きなんですか?」

「そうなの! もうずっとファンで! あ、でも私はリョウちゃん推しなんだけど」


 リョウさんはヒカルさんより二歳年下の、クールな性格をした女の子だ。

 見た目が中性的で女性ファンが多いらしいと吉田が言っていたが、あながち間違っていないのかもしれない。


「私の周り、あんまりアイドルに興味のある子いなくて。こんなとこでめるみるのファンに会えるなんて感激……!」

「俺もです! あ、俺の場合はクラスに推し友達がいるんですけど」

「それめっちゃ羨ましい! 私も推し語りしたいんよね~」

「俺でよければ聞きますよ。代わりに俺もヒカルさんについて語り返しますけど」

「じゃぁさ、この間のライブ見た?」

「もちろん!」


 元気よく頷いたところで、自動扉が開いてお客さんが入ってきた。

 二人同時に「いらっしゃいませ」と声かけし、古谷さんは俺に目配せしながらレジの方へと歩いて行く。


「やっぱりMelty☆Milkは同性すらも魅了するんだな……!」


 推し仲間が増えたことが嬉しくて、俺は鼻歌を歌いながらフェイスアップを続けた。


◆ ◆


 金曜日、鈴音と帰っている最中、ふと思い出したように問われた。


「そういえばバイトどう?」

「結構順調だよ。クレームにはまだ慣れないけど……それ以外は割とこなせるようになってきた」

「いいね。私も早く高校生になってバイトやりたい」


 お金に困ってるわけでもないのにバイトをやりたいだなんて、殊勝と言うべきか物好きと言うべきか。


「俺がお世話になってるコンビニおススメだぞ。良い人しかいないし。それにMelty☆Milkのファンもいる!」

「最後のは別に……。そういえば啓太って、めるみるのライブに行ったりはしないの?」

「金銭的に全通は無理だから、行ける時に行ってるくらいだな。クラスメイトに同じヒカルさん推しがいるから、そいつと一緒に」


 鈴音はキョトンとした顔になった後、少しだけ頬を膨らませた。

 拗ねてる……ように見えるけど、何故だ。


「どうした?」

「いや……私もめるみるの曲ちゃんと聞いてるのに、連れて行ってくれないんだなって」

「連れて行かないというか、俺の趣味に付き合わせるのは流石に気が引けると思って……」

「私だって好きな曲もいっぱい出来たし、ライブ行きたいんだけど」


 ライブは結構なお金もかかるし、体力的にもしんどいかもしれないし、誘うのを躊躇していたが、ここまで言われたら誘わない方が逆に機嫌を損ねてしまいそうだ。


「じゃ、今度一緒に行こう」

「うん。……ちなみに、その一緒にライブに行ってるクラスメイトっていうのは……男の人?」

「ああ、そうだけど……」

「そっか」


 明らかに声が弾んだ気がする。

 ……なんて分かりやすい反応なんだと、ちょっと照れくさくなった。



続く

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