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秒でフラれた俺と実は俺にだけ甘い幼馴染の話  作者: 北条S


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第23話【海へ行こう-2】

 昼食を終えた後、片付けをしていると、ゴミをまとめた袋を持って立ち上がる鈴音。


「捨ててくる」


 言いながら、バッチリ俺の方を見てきた。

 その視線で、先ほどの言葉を思い出す。


 あまりに分かりやすい合図、助かる……とか思いつつ、口を開いた。


「俺も行くよ」


 残りの袋を手に立ち上がり、何か言いたげな怜央と美咲の視線を振り切って二人で歩き出した。


 幸い母さんたちは何も感じていないらしく、のんきにジュースを飲みながら「ありがとー」と、手をヒラヒラさせている。



 設置されているゴミ箱にゴミを捨てた後、俺は無駄に周囲を見回してから、みんながいる方向とは逆の方向を指差した。


「向こうに寄ってから帰ろうぜ」


 頷いた鈴音と共に、人で賑わう砂浜を歩きつつ、適当な話をする。


 今日の天気のこととか、さっき食べた焼きそばのこととか。

 本当に他愛もない話だが、妙に楽しく感じるのは、こうしてゆっくり話すのが久しぶりだからかもしれない。

 最近はお互い試験勉強に集中していて、会った時も勉強の話ばかりだったし。


「……さっきさ、実は啓太たちがかき氷食べてたの見てたんだ。焼きそばとか買ってる最中に」

「そうなのか。声かけてくれたらよかったのに」

「お姉さんたちと仲睦まじそうにしてたから、やめちゃった」


 その表現に、思わずずっこけそうになってしまった。


「どこがだよ……むしろ俺は邪険にされてたって」

「会話は聞こえなかったんだけど、何話してたの?」


 問いかけられたので、言いたくなかったけど、仕方なく事情を説明した。

 聞き終えた鈴音は、なんとも言えない表情になってしまった。


「えっと……災難だったね。……ごめん、てっきり二人が声かけられたのかと思ってた……」


 まあ、俺はさておき、怜央なら逆ナンみたいなことは起こるのかもしれない。


 実際、さっき焼きそば片手にみんなの元に戻る際も声をかけられていたし。軽くかわしてたから、相当慣れてるんだと思う。


「もしくはナンパしてるのかと」

「いやいや……家族で来てるんだから、女の子に声はかけないだろ」


 言い終えてから、今のはちょっと違うかもしれないと自分で思い直す。


「……というより、どんな場合だって声はかけない。付き合ってるんだし」

「真面目だね」

「普通だと思うが……鈴音だって同じだろ」

「私はそうだけど……、男子はそういう相手がいても可愛い子にはデレデレする生き物だって」

「どこ情報だよ……」

「クラスの子」


 言ってから、鈴音は考えるように上を見た。


「でもよく考えたら人それぞれだよね。……なんか色々考え過ぎてたかも」

「色々って?」

「ちょっとこっち来て」


 手を引かれ、少し歩くことになった。

 近くで聞こえていた子供たちのはしゃぐ声が遠くなり、周囲にパラソルがあまり見えなくなった辺りで立ち止まる。


「……ここなら、みんなから見えないよね?」

「ああ、流石にな」


 振り返ってみても、怜央たちの姿はハッキリと認識出来ないくらいの距離にある。


「どうしたんだ?」

「……あの、これは客観的な事実であり、別に自虐ではないんだけど」


 なんだこの前置き……と思っていると、鈴音がパーカーのジッパーを下ろし始めたので、ギョッとした。


「な、何だよ急に」

「水着……せっかく買ったのに、見せずに終わるのも悔しいなって思って」

「そんなところに悔しさを感じなくても……というか、事情があって隠してたんじゃないのか?」

「……さっきの続きだけど、これは自虐じゃなくて単なる事実として……私、平均より胸が小さいの」

「!?」


 な、なにをいきなり言ってるんだ……。

 胸?

 意識して見たことなかったけど……確かに大きいとは言えない、のか……そもそも平均が分からない。


「啓太は大きいのが好きだから、見せないままの方がいいかなって思ってたんだけど、なんか色々悩んでるのがバカらしくなってきて」

「ちょっと待て! ごく自然に俺が巨乳好きな前提で話を進めるな!」

「え、違うの? 年上好きの人はみんな大きいのが好きだって美咲が言ってたけど……」


 あいつ、とんでもない偏見を吹き込みやがって……というか、二人してどんな会話してるんだ。


 ジッパーが下がりきって、パーカーの下に隠れていたものが見えそうになったので、反射的に後ろを向いた。


「……なんでそっち向くの。こっち見てよ」


 不満げな声音にドキリとするが、顔をそちらに向け直す勇気はなかった。


「いや……その……」

「……やっぱり私の水着とか興味ないよね」

「なっ、ないわけないだろ!!」


 とんでもない誤解を招きそうだったので、思わず勢いよく振り向いた。


 ――視界に飛び込んできたのは、黒を基調にした、シンプルなのにどこか目を引く水着。

 胸元の布がふわりと揺れて、直線的なラインをやわらかく見せている。

 派手じゃないのに、やけに目に焼き付いた。


 というか、あんな話をされた後だと、胸とか、その下の露出してるお腹辺りに視線が勝手に固定されてしまって、


「……っ」


 言葉が詰まる。

 視線を逸らそうとして、でも一度見てしまったせいなのか、何故か離せなくなる。


 そのまま固まっている間も、鈴音はじっとこちらを見ていた。


「あの……どう?」


 不安げな表情でそんなことを問われたら、恥ずかしくて誤魔化すなんてことは出来ない。


「に、似合ってると、思います」

「なんで敬語?」

「いや、まあ……何となく」


 上手く言葉に出来なかったので、結局また視線を逸らした。

 けど、さっきの光景が頭に焼き付いて離れない。


 あー……人の体をまじまじと見た挙句クッキリ覚えてるとかキモいだろ……何とか忘れないと。


 記憶を吹き飛ばしたくて頭を振っていると、腕をつつかれ、ビクっと肩が跳ねた。


「もしかして照れてる?」

「……もしかしなくても普通に照れてるよ」

「啓太もこういうので照れるんだね」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ……?」


 彼女の水着をこういう形で見て平静を保てる男がいるのだろうか……少なくとも俺には無理だ。


「……付き合ってちょっと経つけど、啓太ってあんまり変わらないでしょ。だからそういうことに興味ないのかもだけど」


 そこで言葉を区切った鈴音は、自分の腕を掴み、ソワソワとした感じで視線を泳がせた。


「…………私は、本当はもっと啓太に触りたいし、触って欲しい」

「っ……」


 小さな声で告げられた言葉に、頬が熱くなった。

 口の中が乾いて、上手く話せず、思わず無言になってしまう。


「……ごめん。こういうのって、女の方から言われたら引くよね」


 俺が何も言わないせいで、あらぬ誤解を与えてしまったらしい。

 それを払拭したくて、思わず鈴音の手を握った。


「引くわけないって! むしろ嬉しい!」

「……嬉しいは嘘でしょ」

「好きな相手がそう思ってくれることが嬉しくないわけないだろ」

「……」


 キョトンとした顔で見上げられた。

 それから少しの間があいて、


「……啓太から好きって言われるの嬉しい」


 へにゃりと、破顔しながらそんなことを言われたものだから、胸が締め付けられるような感覚になった。

 俺は照れてばかりで、あまり上手く気持ちを伝えられない。

 どうすれば鈴音に相応しい男になれるかなんて考えるよりも、自分の気持ちを伝えることの方がよほど大事なのに。


「ごめん……」

「なんで謝るの。嬉しいのに」


 俺の手を握り返した鈴音は、微笑みながらそう言ってくれた。


「鈴音は色々頑張ってくれてるのに、俺は全然返せてな――ひ」


 ぐにっと片頬をつままれて、「い」が「ひ」になってしまった。


「考えすぎ。私が好きでしてるんだから、返してほしいとか思ってないし」


 俺の頬を解放した鈴音は、握った手をふらふらと揺らした。


「啓太らしくが一番だよ」


 真っ直ぐこっちを見る目が、優しく細められた。


 その瞬間、なんかゴチャゴチャだった思考が一気に真っ白になったような感覚がして、気が付いたら手が動いていた。


「……え」


 小さな声が漏れる。

 自分でも驚くくらい自然に、鈴音の肩を引き寄せていた。

 そのまま抱きしめる形になる。華奢な体はあっさりとこちらに傾き、触れ合った場所が熱くなった。


 やってから、一瞬で後悔が押し寄せてきた。


「わ、悪い……その、これは……」


 言い訳を探そうとしたが、言葉が続かない。

 けど、鈴音は特に抵抗することなく、俺の腕の中に収まっていた。


「……なんか今日は積極的だね」


 少しだけ間を置いて、鈴音が言う。

 その時、強張っていた体から力が抜けたのが分かった。


「それは……あの、海だから」

「関係ある?」

「ある、と思う。開放感的な」


 恐る恐る腕に力を込めると、柔らかい感触がして、逆に俺の体が強張った気がした。


「水着、似合ってる。見れてよかった――って、この言い方だとなんか変態みたいだな」

「……ん、うん。ありがとう」


 答える声が若干掠れている気がして、不思議に思って体を離した。

 真正面から見た鈴音は、顔を俯かせていたけど、赤くなっているのが分かった。


「……こっち見ないでよ……」

「さっきは見ろって言ってたのに……」

「もう……なんか、やだ。啓太に優位に立たれると腹立つ」


 なんてこと言うんだ、と思いつつも、明らかな強がりが微笑ましく感じた。


「鈴音も押されると弱いんだな」

「…………うるさい」


 げしっと脛を蹴られた俺は、その痛みに悶絶した。


◆ ◆


「んにゃ……もう食べれない……」


 一日中はしゃぎ回って疲れたのか、美咲は帰りの車内で爆睡していた。

 前に座る母さんたちも多分寝ているようで、複数の寝息が聞こえてくる。


 助手席の父さんが、運転してくれてるおじさんに話しかけてる声を聞きながら、俺は窓の外を眺めていた。


「啓太は寝なくていいの? 肩貸すよ?」

「気持ち悪いこと言うなよ……そっちこそ、俺に遠慮なく寝ていいんだぞ」


 後半美咲に付き合いっぱなしだった怜央は、多分俺より遥かに疲れている。


「じゃ、遠慮なく。鈴音、啓太の話し相手になってあげて」

「やだ」

「おやすみ」


 自分の妹の否定を完全無視して眠りにつく怜央。

 腕を組みながら、どこに寄りかかることもなく綺麗な姿勢で寝ている姿は、妙に絵になる。


「……お兄ちゃん寝ちゃった?」


 しばらくして、前から声がかかった。


「ああ、器用に真っ直ぐの姿勢で寝てる」


 家まではまだしばらくかかるし、鈴音も俺もそのうち眠ってしまいそうだ。


「今年はお母さんたちの仕事が休みで遊びに行く予定立ててるし、私が受験だから夏休みはあんまり会えないかも」

「そうか」

「……なんかあっさりだね」

「ここで文句言われても困るだろ」

「んー」


 間延びした返事をされた。もしかして文句を言って欲しいんだろうか。


「私は結構寂しいけど」


 …………なるほど。

 こういう言い方なら、言われて悪い気はしないな。


「……黙られると恥ずかしいんだけど」

「あ、悪い。えっと……メッセージ送る」

「うん」

「電話も、美咲にバレない範囲でする」

「うん」


 窓から見える外は、時間帯の割には随分明るい。日が長くなったことで、夏が来たことを実感する。


 小学生の頃は毎日のように四人で遊んでいた夏休みも、年齢が上がるにつれ、怜央や他の友達と過ごす時間の方が長くなった。


 今年は鈴音との関係が変わったとはいえ、受験のこともあるし、例年通りダラダラとした夏休みを送ることになりそうだ。


 それはそれで楽しいだろうなと思っている間に、俺もいつの間にか眠りに落ちていた。



続く

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