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秒でフラれた俺と実は俺にだけ甘い幼馴染の話  作者: 北条S


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第20話【気まずい人間関係】

 放課後、怜央とドーナツのチェーン店に寄って帰ることにした。

 イートインスペースのある二階に移動して、手前の席に腰を下ろす。

 ジュースを一口飲んだところで、


「そんなこと言わなくてもいいじゃん!」


 後ろから甲高い女子の声が聞こえてきた。

 すごい通る声だなと思っていたら、俺の向かいに座っていた怜央が、後ろを見て驚いたような顔をしていた。


「……どうした?」

「後ろ、鈴音がいる」

「え」


 思わず振り向くと、確かに鈴音の後ろ姿が見えた。

 その周りには見知らぬ女子三人――その内の一人が、先ほどの甲高い声の主らしかった。


「美咲ちゃんとは一緒じゃないみたいだね」

「別々に帰ってるのか」


 鈴音が美咲抜きで友達と寄り道なんて珍しい……と思ったが、どうもあまり穏やかな雰囲気ではなさそうだ。


「別にそんな無理なこと頼んでなくない?」


 先ほどの女子が言葉を続ける。


 ……それにしても、店内はそこそこ騒がしいはずで、鈴音たちの席とは距離もあるのにハッキリ会話が聞こえてきてしまう。

 盗み聞きしているようで、何だか居心地が悪くなってきた。


「香奈が里中のこと好きだからちょっと協力してほしいってだけじゃん!」

「だからって、なんでトリプルデートなの」


 ヒートアップしているらしい女子の声とは対照的に、やたら冷静な鈴音の声が聞こえてくる。


「だーかーら、里中が近藤と田村と一緒じゃないと遊びたくないって言ってんだって。近藤が篠塚さんのこと気にしてるのは分かってるでしょ? だから篠塚さんから誘って欲しいの」


 最近の中学生は随分と進んでるんだな、なんてのんきな感想を抱いている場合じゃない。


 なんだよトリプルデートって。

 しかも鈴音から誘ったりなんかしたら、まるで鈴音がその男子たちと遊びたいみたいになっちまうじゃんか。


「私は近藤たちに興味ないから嫌」


 あまりにバッサリと切り捨てられ、他の女子たちが絶句していた。


「わ、分かった。じゃぁ誘うのは私たちがして、篠塚さんはついてきてくれるだけでいいから……ね? お願い」

「ごめん、それも出来ない。私、付き合ってる人がいるから」

「いいじゃん別に。黙ってればバレないって」

「バレなきゃいいって話じゃないでしょ」

「ゆ、唯……もういいよ。篠塚さんに悪いから」


 恐らく香奈と呼ばれていた子であろう女子が、遠慮がちに会話に割り込んだ。


「ほら、篠塚さんが意地悪言うから香奈が遠慮しちゃったじゃん!」

「別に意地悪のつもりないけど……」

「自分がちょっと男子に人気があるからっていつも上からだしさ……そういうのよくないよ」

「……」

「一年の時だって、そんなだからハブられてたんでしょ」


 俺の位置から鈴音の顔は見えない。

 けど、その背中がいつもより少し小さく見えた気がして。

 何か思う間もなく立ち上がり、彼女たちの方に移動してしまっていた。


 中学生同士のいざこざに高校生が口を挟むのはどうなんだということに気が付いた時には、既に遅く。

 女子三人の視線が俺に突き刺さる。


「……よ。ちょうど俺たちもここで食べようとしてて、見つけたから声かけちまった」


 あくまで話は聞いていない風を装って声をかけると、鈴音が顔を上げた。

 その表情は、なんだか泣き出しそうな子供のように見えたが、それは一瞬だった。


「奇遇だね」


 短い返答をよこした時には、鈴音は既にいつも通りの表情になっていた。


「……篠塚さんの知り合い?」

「お隣さん」

「へえ……」


 明らかに気まずそうな顔をする三人。

 それには気付かないフリをして、俺はニッコリと笑いかけた。


「せっかく会ったことだし、向こうで一緒に食べないか? 友達も一緒に」

「あー……いや、私たちはいいです。もう話も終わったし……みんな、行こ」


 一人が立ち上がったのを見て、他の二人もトレイを手に席を立つ。

 それから俺に頭を下げ、早足で一階へと降りていった。


「……悪い。でしゃばった」

「ううん……ありがとう」

「えっと……大変なんだな、色々」


 俺って奴は、なんでこう上手いこと言えないんだろうか……。


「……私、感じ悪かったよね」

「いや……別に、そうは思わなかったけど」

「でも他人の色恋に巻き込まれるの鬱陶しいって思っちゃったし……」

「そりゃ思うだろ」

「え?」


 何故か驚いたような顔で見上げられた。


「誰だってあんな頼まれごとしたら面倒だと思うが」

「……そうなんだ」


 どこかボンヤリとした顔で呟く鈴音。

 それを不思議に思っていると、後ろから怜央がやって来た。


「鈴音は考え過ぎなんだよ。嫌な時は嫌でいいと思うよ」

「……女子の中でそんな調子だと浮きまくるし」


 先日鈴音から聞いた話を思い出し、なんとも言えない気持ちになった。

 女子って大変なんだな……。


「気を遣ってでも友達がほしいの?」

「別に……。でも、誰かと揉めたことが美咲にバレるとうるさいから嫌なの」

「あー……美咲ちゃんも鈴音を心配してるんだよ」

「だから人間関係円滑にしようとしてるけど……何言っても嫌味っぽくなってヤバい」


 口調こそ軽いが、割と本気で悩んでいるらしい鈴音は項垂れてしまった。


 俺からしたら、鈴音のそっけない言葉は割といつも通りなんだが、他の人からするとそうでもないのだろう。


「啓太、ここで何か一言」

「俺!?」


 とんでもない無茶振りをされて、つい声を張り上げてしまった。

 周囲に頭を下げて謝りつつ、何とか言葉を絞り出す。


「甘いもの食べて、とりあえずパーッとしよう!」

「「……」」


 二人そろって黙り込むのはやめて欲しい。


 俺だってもっとマトモなこと言いたかったけど、上手いアドバイスなんて出来ないし……かといって十分頑張ってるであろう鈴音に「頑張れ」とか言うのも違う気がした。


「色んな意味で啓太らしいね」

「褒めてないよなそれ……というか、変な無茶振りするなよ」

「ごめんごめん。暗い雰囲気だったからつい」

「だからってな……」


 怜央に文句を言おうとした時、下からクスクスと笑い声が聞こえてきた。

 見ると、テーブルの上に置かれていたコーヒーに触れながら、こちらを見上げてくる鈴音。


「確かにこういう時こそ甘いものかも。コーヒーしか買ってなかったし、私もドーナツ買って来る」

「俺が言い出したことだから、奢るよ」

「……じゃぁ、お言葉に甘えようかな」


 自分で言っておいてなんだが、すんなりと受け入れられたことに少し驚いた。


 立ち上がった鈴音は「いこ」と短く言って、階段の方へと歩いて行く。


 ……もしかしたら、俺が思っている以上に鈴音は今のやりとりに思うところがあったのかもしれない。


◆ ◆


 あの後、三人でドーナツを食べて店を出た直後、寄りたいところがあると言って怜央はどこかへ行ってしまった。

 明らかに気を使われている気がしたが、今は厚意に甘えることにした。


 二人で帰る途中、公園に寄って行こうと提案すると、鈴音は素直についてきてくれた。


 近所の公園には相変わらずたくさんの子供たちが遊んでいて、ベンチに座ってその光景をぼんやりと眺める。


「前に、美咲が滅茶苦茶ブランコに乗りたがってたことあったよな」

「いつも乗りたがってるから、どの時かよく分からない……」

「ほら、上級生に邪魔されそうになった時のこと」


 そこまで言って鈴音はようやく思い出したらしく「ああ」と短く答えた。


 確か小一くらいの頃、ブランコの列に順番待ちしていた美咲が、いざ自分の番という時に見知らぬ男子に横から割り込まれたのだ。

 多分相手は四年生くらいで、少し大柄で、あの時の俺たちにとっては恐いくらい大きく見えた。


「あの時、鈴音がそいつに注意した時、超カッコいいと思ったんだ」

「普通のことじゃん」

「鈴音のそういう……なんて言うか、誰に対してもハッキリしてるところがカッコよく見えるんだよ」


 誰かに対して意見する時もそうだけど、褒める時もストレートで、時々こっちが恥ずかしくなるようなことも言ってくるけど、そこが鈴音の良いところだと思っている。


「……ハッキリし過ぎてるところが嫌味に聞こえちゃう原因だと思うけどね」

「でも俺は鈴音のそういうところをずっと尊敬してた」


 鈴音の方を見ると、彼女もブランコの方に向けていた視線をこちらに移した。


「だから他の誰かに何言われても気にするな……って言われても無理か。……とにかく、感じ悪いとか嫌味とか、俺は全然思わないから」


 正直、女子の集団で過ごす難しさは、俺にはよく分からない。


 だからこれも大した励ましにはならないんだろうなと思っていたら、不意に手を握られて、驚いて声が出かけた。


「そうだね。誰に嫌われたって、私は啓太と美咲がいたらそれでいいし」

「……怜央は?」

「まあ、いたらいたでお得かな」


 物みたいな言われように少し笑ってしまったが、鈴音の表情が少し明るくなった気がしてホッとした。


「今日はなんかカッコ悪いとこ見せちゃったね」

「カッコ悪いとか思わねえよ。ただ……女子って大変なんだなって」

「まあね。啓太も女の子だったらよかったのに」

「なんで俺が……、鈴音が男だったら、とかじゃないのか」

「男の私なんてキモそう」


 そうだろうか。怜央みたいなイケメンが出来上が――らないか、全然性格違うし。


「でもそれを言うなら、女の俺の方がキモいだろ」

「そう? 啓太が女の子でも、私は好きになってたと思うけど」

「それは喜んでいいのか……?」


 微妙な気持ちになっていると、鈴音がリュックの中から取り出した麩菓子を差し出してきた。


「……ドーナツの後に麩菓子か」

「甘い×甘いは最高でしょ」


 そう言って嬉しそうに麩菓子を食べ始める鈴音を見て、女の子だなぁとつくづく思った。



続く

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