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秒でフラれた俺と実は俺にだけ甘い幼馴染の話  作者: 北条S


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第16話【報告と変化】

「怜央、大事な話がある」

「なに? そんな畏まられると怖いんだけど」


 正座する俺を見て、怜央は苦い笑いを浮かべた。

 友達に対して正座なんて初めてしたかもしれない。が、これは俺なりのケジメである。


「鈴音と付き合うことになったんだ」

「あ、そうなんだ」

「!? ……それだけか!?」

「確かにちょっとドライかな。よし……おめでとう、啓太!」


 パチパチパチと拍手が送られる。

 想定していたのとは随分違う反応に、俺は思わず正座を崩しそうになったが、その姿勢のまま話を続けた。


「ありがとう。……あの、怒ったりとかはしないのか?」

「怒る? どうして?」

「いや、だって友達が自分の妹ととって……嫌かなと」

「やだな、そんなの気にしないよ。まあ、啓太が鈴音に対して酷いことをしたら流石に怒るけどね」


 怜央は笑いながら、俺が用意した菓子をつまんだ。

 酷いことなんてしない、という意を込めて頷いておく。


「それにしても律儀だね。別に黙っててもよかったのに」

「いや……まあ、恥ずかしいけどさ。美咲にもバレてるみたいだし、怜央だけ知らないのもなって思って」


 とはいえ、怜央は言わなくても察してそうではあるんだが……改まって言うことが誠意かなと思った。


「でも鈴音は年上じゃないけどいいの?」

「……自分の主義を曲げた俺をダサいと笑ってくれ」

「そんなことしないよ」


 菓子を食べる手を止め、少し真剣な顔をしてこちらに向き直る怜央。


「むしろ、好みっていうのは分かるけど、年齢が選ぶ基準の全てって考え方はどうかと思ってたし」


 全てってわけでもないんだが……大半を占めていたのは間違いなので頷く。


「それに妹の長年の片思いが報われたんだから、万々歳だよ」

「そうだな……って、え? 長年って……前から知ってたのか?」

「もちろん。だから啓太が失恋する度に教えて、鈴音に発破かけてたんだよ」


 そんな意味があったなんて……。

 前に鈴音が”自分の好意は分かりやすかったと思う”的なことを言っていたが、本当に分かりやすかったのかもしれない。もしくは怜央が敏いのか。


「まあ、鈴音の相手は大変かもしれないけど、頑張って」

「大変と感じたことはあまりないが……」


 むしろこっちの方が不甲斐なくて、いつ愛想を尽かされてもおかしくない。

 俺を見て、怜央は何か言いたげに首を傾げた。


「そっか……じゃあ、これから色々あるかもしれないけど、大目に見てあげてね」

「ああ……」


 色々って……鈴音が将来的に、俺に大変な思いをさせるってことか?


 全く想像出来なかったけど、もしそうなったとしたら、年上として俺がしっかり対応しないと。

 ……なんて、気が付くと年齢のことばかり考えてる自分が少し情けなかった。


「お兄ちゃん」


 相変わらずノックもなく唐突に開かれる扉と、冷たい声。


 うんざりした顔でそちらを見ると、美咲の後ろに鈴音の姿もあって、何故か背筋を正してしまった。


「あ、怜央君も来てたんだ!」

「……お前、怜央と俺に対する態度露骨に変えるのやめろよ」

「え、むしろなんで怜央君と一緒にしてもらえると思ってるの?」


 なんだこいつ……怜央贔屓過ぎる。


「今お母さんから連絡来たんだけど、スーパーで揚げ物の特売やってるから大量に買って帰るんだって」


 ちなみに母さんはスーパーで働いている。

 特売の品を買って帰るのも珍しいことじゃないが、何故わざわざ伝えに来たのかと思えば、美咲はニコニコした顔で怜央に話しかけた。


「だから怜央君も夕飯一緒にどう? 鈴音も食べるって」

「そういうことなら遠慮なく頂こうかな」

「やったー! じゃ、また後でねー」


 相変わらず鈴音と怜央がいると元気が良い奴だなと思っていたら、鈴音と目が合った。


「ん」

「え? ……ああ、ありがとう」


 一口チョコを手渡された。

 鈴音からは本当によく菓子を貰う気がする。


「僕にはないの?」

「……」


 からかうような口調で求めた怜央に冷たい目を向けつつ、チョコを投げ渡す鈴音。

 それを怜央がキャッチしたのを確認した後、鈴音も部屋を出て行った。


 怜央は自分の手元のチョコを見た後、苦笑していた。


「これ、鈴音が一番苦手な味なんだよね。まとめ買いした時、いつも押し付けられるんだ」

「そうなのか」


 そういえば前に似たようなことを言いながらイチゴ味を押し付けられたことがあったな……まあ、あれは嘘だったけど。


「鈴音って人に菓子渡すの好きなんだな」

「そんなことないと思うけど……啓太に対しては、餌付け感覚なんじゃない?」

「俺は雛か何かだと思われているのか……?」

「必死なんだよ、色々と」


 言いながら、チョコを開封して食べる怜央。

 一体何に必死になっているというんだろうか、と思いながら俺もチョコを口に放り込むと、甘酸っぱい味が広がった。


◆ ◆


 パートから帰ってきた母さんは、本当に大量の揚げ物を持って帰った。

 父さんは遅くなるということで、五人で囲む食卓の中央には、アジフライや唐揚げ、トンカツやコロッケの山。ちょっとしたパーティーのようになっていた。


「いくらなんでも買い過ぎだろ……」

「だって安かったのよ! 若いんだからどれだけ食べたって大丈夫よ、ほら、食べて食べて」


 母さんが勝手に俺の取り皿に唐揚げを大量に乗せてきやがった。


「こんなに食えないって……」

「ま、情けない! 昔は唐揚げを食べすぎてお腹壊すくらいだったのに」


 一体いつの話をしているんだ……幼稚園くらいだろ、それ。

 呆れていると、向かいの席に座っていた美咲が明るい声を上げた。


「あ、この海老カツ美味しいよ! 鈴音、ほら、食べて食べて」


 さっきの母さんと全く一緒の言い方をしつつ、一口サイズのカツを鈴音の口元まで運んでいる美咲。

 それを抵抗なく食べる姿を見て、女子って未知の生き物だなと感じた。

 わざわざ食べさせなくてもいいだろうに、仲が良いことだ。


「うん、美味しい」

「でしょー?」

「ふふ。こうしてると鈴音ちゃんと美咲が姉妹になったみたいで、おばさん嬉しくなっちゃうわ」

「姉妹ねー……」


 美咲が含みのある顔を向けてきたので、視線を逸らしておく。


「というわけで、怜央君……うちの美咲、どう?」


 母さんは昔からこの話が好きだ。

 何とか怜央たちと本当の意味で家族になりたいらしく、ちょくちょく美咲を怜央に勧めている。


 鈴音に対してはやらないのは、よそ様の女の子だから母さんなりに気を使っているんだと思う、多分。

 もしくは俺には勧めるほどの魅力がないと思われているか。


「僕には勿体ないですよ」


 いつも通り爽やかな笑顔でかわす怜央の隣で、大量に盛られた唐揚げを片付けた。

 こんなに食べられるかと思ったけど、美味かったから意外とアッサリいけた。


「啓太は相変わらず唐揚げが好きだね」

「ああ。サクサクで美味いぞ、これ。作り方知りたいくらいだ」

「じゃ、僕も頂こうかな」


 怜央が取り皿に唐揚げを移している最中、美咲がニヤニヤとこちらを見てきていることに気が付いた。


「……何だよ?」

「お兄ちゃんが昔、料理上手だからお母さんと結婚するーって言ってたの思い出して、心の中で嘲笑ってた」

「めっちゃ子供の頃の話じゃねーか」


 俺の中ではほぼ黒歴史である……というか、美咲だって父さんに似たようなこと言ってたくせに。


「思い出すわぁ。ほんと、あの頃の啓太は可愛かったわ」

「どうせ今は可愛くねーよ……」


 というか、母さんも鈴音たちの前で気持ち悪いこと言わないでほしい。


「気にすることないよ。僕も親に似たようなこと言ったことあるし」


 うちの女たちに比べて、怜央はなんて良い奴なんだろうかと感動しつつ、唐揚げをもう一個食べる。

 咀嚼している最中に、斜め向かいに座っていた鈴音に見られていることに気が付き、つい咽かけてしまった。


「……」


 何か言うわけでもなく、視線を逸らして食べるのを再開する鈴音。

 こうしてみんなで食卓を囲む時、彼女の口数が少ないのはいつものことなので、気にしないことにした。




(……デートをしたい)


 鈴音と怜央が帰った後、自分の部屋で考える。


 改めて誘ってね、と言われたからには、遠慮なく誘っていいってことなんだと思う。

 とはいえ、どこに行くのが正解なのか。


 スマホで『初デート 場所』で検索したページを上から眺めつつ、頭の中でシミュレーションしてみた。


(何度考えても、デートと友達としての遊びの違いが分からない……)


 友達だった期間の長い俺たちが二人で遊園地に行ったとして、果たしてデートになるものなんだろうか。


「そもそも恋人と友達の違いって何なんだ……って、わっ!?」


 検索結果をタップしようとした瞬間、突然画面が切り替わり、着信画面になった。

 いきなりのことに指を止める間もなく、通話ボタンを押してしまう。


『あ、ごめん、何かしてた?』


 慌ててスマホを耳元にやると、聞こえてきたのは鈴音の声。


「いや、ただいじってただけだから大丈夫。どうかしたか?」

『どうかしたってわけじゃないんだけど……普通に電話したかっただけ』

「……」

『……無反応やめてよ』

「あ、ああ、悪い」


 なんて言ったらいいか分からなくなってしまった。

 こういう時に「嬉しい」と素直に言える男がモテるのかもしれない。


「……なんか慣れないな。鈴音と電話で話すの」

『確かになかなか電話ってしないもんね。美咲とはしょっちゅうするけど』

「え、あれだけいつも一緒にいるのに、電話もしてるのか?」

『暇さえあればって感じ。通話繋げて作業したり、勉強したり』


 仲良すぎるだろ……女子ってこういうものなのか?


『……ところで、これはただの世間話なんだけど。マフィンとチョコケーキなら、どっちの方が好き?』


 随分不自然な前置きをして、そんなことを聞かれた。


「どっちも普通に好きだが……強いて選ぶならチョコかな」

『そっか』


 もしかしてこれは、そのうちチョコケーキでもご馳走してくれるんだろうか。……怜央曰く、俺を餌付けしてるみたいだし。


 何はともあれ、この流れは俺にとってチャンスだ。


「俺も聞きたいんだけどさ、鈴音って美咲と一緒に遊びに行く時、どういうところが楽しいと思う?」


 この答えによってデートの行き先を決めれば、間違いないはず。


『美咲と一緒ならどこでも楽しいよ』


 友達として百点満点な答えを出されてしまい、項垂れた。


「な、なら、他の友達とは?」

『美咲以外…………なら、映画館とかかな』


 映画好きな鈴音にはピッタリな場所だ。

 初デートにもおすすめだって、さっき調べたところにも書いてあったし、ちょうどいいかもしれない。


『啓太は友達とどういうところで遊ぶの?』

「あんまり特定の場所とかないけど……ゲーセンとか、町ブラブラしたりとか」


 その後、何度かやりとりを繰り返していると、部屋の扉がノックされた。

 これは母さんによる「さっさと風呂に入れ」の合図である。


「悪い、そろそろ風呂入る時間だから」

『ううん。じゃ、またね』

「ああ」


 そのまま黙って鈴音が通話を切るのを待ったけど、なかなか切られる気配がなかった。


「切らないのか?」

『……なんか私から切るのはやだ』

「なら俺から……」

『あ、ちょっと待って。えっと……おやすみ』

「ああ、おやすみ。……」


 確かに何となく切り辛い雰囲気だったけど、思い切って通話を終わりにした。


 「……おやすみなんて、久しぶりに言ったな」


 家族にわざわざ言うような年齢でもないし、何だか変な感じだ。


 こういう風に、特に用もないのに電話をするのも、変化の一つなんだろうか。

 だとしたら、俺の方もきちんと行動で応えなくてはならない。鈴音にばかり踏み出させるのは不平等だ。


(まずはデートに誘うところから……!)


 気合いを入れてグッと拳を握り締めた時、部屋の扉がさっきよりも激しくノックされた。

 これは「早く風呂に入らなきゃ怒る」という合図なので、俺は慌てて部屋を飛び出した。



続く

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