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秒でフラれた俺と実は俺にだけ甘い幼馴染の話  作者: 北条S


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第15話【放課後○○○】

 生まれて初めて告白を受け入れてもらえた。


 昨日の夜はその事実に心が落ち着かず、なかなか眠りにつくことが出来なかった。

 おかげで朝からずっと眠かったのに、今日に限って帰りのHRがいつも以上に長くて、眠気がピークに達していた。


「……ねみー」

「今日はずっとあくびしてるね。大丈夫?」


 放課後、教室まで俺を迎えに来た怜央が、不思議そうに首を傾げた。

 それに対し「大丈夫だ」と返しながら、ふと考える。


 鈴音とのこと、怜央には言っておくべきだろうか。

 鈴音からの告白については言わない方がいいと思ったが、付き合いが始まったとなるとまた話は変わってくる。


「おい柊、ちょっと外見てみろよ」


 ふと、先ほどから窓際で何かを見ていた吉田に声をかけられた。

 ちょうど帰り支度も終わったところだったので、リュックを背負いつつ怜央と共にそちらに近付く。


「どうしたんだ」

「ほら、あそこ。校門のところ」

「……え」


 思わず声が漏れたのは、遠目からでも分かる見覚えのある制服姿の女子――というかまあ、鈴音なんだが――が見知らぬ男子生徒数人と話しているのが見えたからだ。


「あれ、鈴音? なんで高校に……」

「悪い怜央、先行ってる!」

「え、ちょっと啓太」


 返事も聞かず、俺は教室を飛び出した。

 柄にもなく廊下を走る。放課後で人の数が少ないとはいえ、こんな風に堂々と校則違反するのは随分久しぶりだ。


 二段飛ばしで階段を下って昇降口へ。靴に履き替えてからは全速力で校門へ向かった。

 その間、徐々に聞こえてくる会話。


「ごめんね、ビビらせる気はなかったんだけど。可愛い子がいたからつい」

「俺ら今から女子も含めたメンバーで遊びに行くんだけど、よかったら一緒に行かない?」


 俺がこんなに急がなくたって、きっと鈴音は冷静に対応出来る。

 そう分かってはいたけど、足は止まらなかった。


「いえ、人を待ってるので」


 予想通りの落ち着いた回答が聞こえた頃、ようやく俺は鈴音の元に辿り着いた。

 走ったせいで乱れまくった呼吸を、気合いで素早く整えて、さも何も知らないという風に声をかける。


「悪い、待たせた」


 途端、そこにいる全員の目が俺に向いて、居心地の悪さが半端ない。けど、逃げ出すわけにもいかない。


「あー……なんだ、彼氏待ちだったんだ」

「悪いな、声かけちゃって」

「あ、いや」


 言葉に詰まったのは、彼氏というワードに動揺してしまったからである。

 俺が上手く返せないまま突っ立っている間に、男子生徒たちは立ち去って行った。


 ……もしかしなくても、これはかなりダサいんじゃないだろうか。

 声だけかけて、その後はフリーズって。何しに来たんだお前状態だ。


「啓太」


 名前を呼ばれて、沈んでいた気持ちを引っ張り上げると、気が付けば鈴音が目の前に立っていた。


「連絡なく来ちゃってごめん」

「いや。えっと……怜央に何か用だったのか?」


 くいっと制服の裾を引っ張られた。

 それから、どこか拗ねたような表情で見上げられる。


「お兄ちゃんに会いにわざわざここまで来ると思う?」

「なら俺に? 美咲はよかったのか? いつも一緒に帰ってるんだろ」

「実は私たちが付き合ったこと、美咲に言っちゃったんだ」


 一瞬驚いたが、よく考えたらあいつには色々察せられていたし、言わなくてもその内バレていただろう。


 こうなってくると、俺も怜央に言った方がいいのかもしれない。幼馴染の中で怜央だけ知らないというのも変な話だし。


「それで美咲が、せっかく付き合ったんだから一緒に帰ったらって提案してくれたの」

「変なところで気を使うんだな……」

「優しいから」


 あいつが優しい……俺にはあまり想像できないけど。鈴音に対してはそうなのかもしれない。


「どこか寄って帰ろうよ」

「寄り道は校則で……」


 以前と同じことを言いかけたが、一度破っているんだから今更固いことを言っても仕方ないと思い直した。

 何より、こちらを見る瞳に期待の色のようなものが込められている気がして、無下には出来なかった。


「なら……って、今日は怜央と帰るんだった」


 というか、あいつは一体いつになったら来るんだ。

 てっきり俺の後を追いかけて来ていると思っていた。


 周囲をキョロキョロ見回していると、スマホを取り出した鈴音が、その画面を見せてきた。


「お兄ちゃんからメッセージ来てる。用事が出来たから先に帰っててって」

「……なるほど」


 これは明らかに気を使われている……もしかしたら俺から告げるより先に、鈴音との関係もバレたかもしれない。


 心の中で怜央に謝っていると、鈴音が隣に移動して来た。


「啓太は行きたいとこある?」

「行きたいところ……」


 ふと思い出したのは、先日美咲に教えてもらったこと。

 俺の好きなアイドルの曲を聞いたり、漫画を読んだりして、好きなものを共有出来るのが嬉しいと言っていたらしい鈴音。


 その話を聞いて、俺も彼女の好きなものをより詳しく知りたいと思った。


「鈴音が行きたいところがいい」

「私の? そんなのでいいの?」

「ああ」


 俺が頷いたのを見て、鈴音は考えるように上を見上げた。


「……じゃぁ、付き合ってくれる?」

「もちろん」




 というわけで連れて来られたのは、見覚えのある本屋。

 聞き慣れた音楽が流れる店内をゆったり歩いて回る。平日だからか、他のお客さんの姿はほぼなかった。


「この間来たばかりなのに、ここでよかったのか?」

「色々考えたけど、結局ここが一番好きなものがいっぱいある空間だし」

「それもそうか……」


 それに鈴音が本を好きなことは知っているが、具体的にどのジャンルが好きかまでは知らないので、ここでも新しい発見を得られるかもしれない。


「……あと、最後の思い出が嫌な感情になっちゃってるから、塗りつぶしときたい」


 最後というと、高岡先輩に会った時のことだろうか……。

 あまり思い出したくなかったので、首を横に振って思考を追い払った。


「鈴音はどういうのが好きなんだ?」

「これといったジャンルはないけど」

「おススメは?」

「……もしかして買おうとしてる? 普通に貸すよ」


 そういえば前に漫画を貸す話をしてたし、交換し合うのもアリか。


「というか、今日はやたらこっちに寄り添ってくるね」

「あー……実は美咲に教えてもらったんだ。鈴音が俺の好きなものとかチェックしてくれてるって……」

「なるほどね。でも私は好きでやってるんだから、合わせてくれなくてもいいよ」


 合わせる、という言葉に妙に引っかかった。

 確かに鈴音の行動がキッカケになっているのは間違いないんだが……、言語化が難しい。


「単に俺も鈴音のことをもっと知りたいんだよ」


 だからストレートにそう言うしかなくて、少し恥ずかしくなって視線を逸らした。


「……そうなんだ」


 明らかに小声な返事に、つい隣を見ると、俺の比じゃないくらい赤くなっている横顔が見えた。

 不思議と、自分よりも照れている人を見ると落ち着いてくるものらしい。


「だから、今度漫画貸す代わりにおススメの小説貸してくれ」

「うん……、えっと、せっかく来たんだし、本買って行ってもいい?」

「ああ。俺もなんか漫画でも買おうかな」


 というわけで、お互い好きな本を選ぶことにした。



 お気に入りの漫画の新刊を片手に、家へと並んで歩く。

 夕焼けに染まる空を眺めながら、何を話すべきか考えた。


 漫画、アニメ、勉強、猫、食べ物。どれもいつも通り過ぎて間違っている気がするが、こんな話題しか浮かんでこない。


 世の中の付き合ってる人間たちは、みんなどんな話をしているんだ……?

 そもそも付き合った前後で会話内容は変えるものなのか?

 普通に話してもいいんじゃないだろうか。


「えっと、クロは元気か?」

「うん。というか、この間来た時に会わなかった?」

「そういや会ったな」

「うん」


 ……ヤバい、会話が終わってしまった。


 必死に脳内にある会話の引き出しを引っ張り出していると、横からクスクスと笑い声が聞こえてきた。


「何で笑うんだよ」

「だってすごい百面相してるなーって思ったら、いきなり真面目な顔でクロの話するから」

「悪かったな……場を盛り上げる話題とか思いつかないんだ」

「別に盛り上げようとしてくれなくていいよ、いつも通りで。関係性が増えたからって、何か大きく変わるわけじゃないんだから」


 そんなものなんだろうか……経験が無さ過ぎて分からない。けど、多分それは鈴音も同じはず。

 それなのに俺ばかりテンパって、諭されて、何だか情けない気持ちになってくる。


「……それにさ、あんまり気負い過ぎて啓太が疲れちゃう方が嫌だし」

「いや、気負ってはいるが、疲れてはいない。……あ、でも頭を使って疲れてはいるのか……?」


 自分のことなのに分からなくて、つい疑問形になってしまった。


「仮に疲れてたとしても、嫌な疲れ方じゃない。……ただカッコつけたかっただけだから、気にしないでくれ」

「……啓太でもそういうこと考えるんだね」

「そりゃ俺だって男だし……バリバリ考えてるさ。ダサい姿とか見せたくないし」


 なんて言ってる今この瞬間がまさにダサい姿な気がしてならないが。


「ただ……確かに一緒に帰るくらいでこんな気負ってたら、後々大変だよな。デートじゃあるまいし、もっと普通にするよ」

「え」

「え?」


 何故か驚いた声をあげた鈴音に、俺も驚いてしまった。


「…………世の中には、下校デートって言葉があると思うんだけど」

「な……なるほど」


 そうか、これ、デートだったのか……。

 あまりにいつも通りの流れだったから、普通に本屋に寄って帰っただけの認識だった……。


「すごく緊張してるから、てっきり啓太もそのつもりかと思ってた」

「悪い……ただ緊張してただけだ」


 己の不甲斐なさに肩を落としていると、左手にこつりと何かが当たる感覚がした。

 視線を落として見えたのは、触れた瞬間すぐに引っ込められた鈴音の手。


「悪いと思うなら、改めて誘ってね、デート」

「ぜ、善処致します」

「なんでそんな会社員みたいな返事なの」


 なんだか今日は笑われてばかりな気がする……いや、割といつもそうか。


 そんな自分を情けなく思いつつも、おかしそうに笑う鈴音を見ていると、これもいいかと思えてくるから不思議だった。



続く

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